2023年11月29日水曜日

 その後:ドナー不足対策と医師の働き方改革

  ブログ終了と言いながら往生際の悪いことです。ここ数日のメディアにこれまでの課題事項について大事な記事や放送がありましたので要点だけ述べます。

1)ドナー不足について。読売新聞が取り上げていた海外の臓器斡旋について、このほど当該者に8か月の実刑判決が出ました。被告は控訴するということで、当分結論はつかないでしょうが、この問題を契機にドナー不足へ社会の目(メディアの目といった方がいいでしょう)が向いてきたことは歓迎されます。同時に、読売新聞によると(令和5年11月29日夕刊)厚労省がやっとドナー不足対応の実際の施策を打ち出したということです。拠点病院と地域の病院の連携を進めて脳死ドナーの掘り起こしをするということで来年度に進めるようです。これはこれで結構ですが、どうして臓器斡旋の法的不備が突かれるまで行政は動かなかったのか、という疑問は残ります。今回の動きは国会議員(議連)の働きかけによるということですが、どうして臓器移植関係のアカデミアが今回も黙っているのでしょうか。当事者責任を問いたいです。

2)医師の働き方改革。NHKのクローズアップ現代(11月29日放送)でこのテーマが取り上げられ、現場の医師(特に若手)の負担が大きいことが紹介されていました。これは改めて報道する話でもないのですが。大学病院の対応が紹介されていました。大学病院が医師の勤務を働き方改革にわせると、それまで出来ていた地域の病院に医師の派遣が出来なくなる、医局に戻す医師が増える、という話です。かっての初期臨床研修制度導入の時を思い出させる話です。これは本末転倒と言われても仕方のない対応で、働き方改革と病院病院経営を如何に両立させるかが、文科省、厚労省、公立病院に問われていると言えます。

 一方、新潟市民病院では外来体制を見直して、外来患者を地域に戻す、逆紹介を進めて効果を上げているということです。我が国の大学病院の外来については私も予てより問題提起(資源の無駄使い)をしており、国立大学の外来診療は抜本的に見直すべきで、働き方改革に合わて実行に移すべきチャンスであると発信してきました。新潟市民病院の対応に拍手を送ったわけです。直近でも身近の大学病院の院長先生に、大学病院では「従来の外来診療は止めます宣言」を出してくださいと具申しているところです。

 といったところで追加発言は一先ず終わりです。

      






2023年11月19日日曜日

 脳死臓器提供が1000件に

 

日本臓器職ネットワークはこの1026日において脳死での臓器提供が1000件になったと発表した。法律ができて最初の脳死での腎臓を含む臓器提供が19992月に高知赤十字病院でスタートでした。大阪大学で心臓移植、信州大学で肝臓移植が行われてすでに四半世紀にならんとしている。1110日には1005件となり、その内訳では、心臓移植は800、肺は847,新肺同時3,肝臓834,肝腎同時53,肝小腸同時2、膵臓75,膵腎同時443,腎臓1280小腸30,である。1000人のドナーのおかげで、4377人の方が移植を受け、命を長らえていることになる。お一人にドナーの方から平均で4.3の臓器が移植されたことになる。素晴らしいことである。我が国では提供された臓器を最大限移植できるよう臓器提供施設でのきめ細かい医学的ケアが進んだお陰である。因みに心臓では提供に至った比率は80%であり、諸外国に比し格段に高い。改めてこれまで提供されたご本人やご最大の敬意を表するところである。

1997年の臓器移植法ができた時は、その厳しい条件から移植禁止法とまで言われ、提供が100件になるのに何年かかるのか懸念されたが、法改正でもってその危惧は軽減され今日に至った。とは言え、2010年からこれまで12年ほどかかっており1000件ではまだまだ厳しいドナー不足状態は続いている。この勢いで年間300件の時代が這う悪来ることを願っている。また、昨今では海外での臓器売買が我が国の負の面が社会を賑わしているが、この1000件達成でもって社会の理解が進むと共に、ドナー不足の対策にも新たな展開が出てくることを祈念するものである。

新聞記事ではドナー不足の背景について識者の意見が述べられているが、提供施設側への支援や仕組みの改革については藤田医科大学の剣持教授が指摘しているだけで、大方は総論的な話に留まっていたのは物足りない限りである。この2月の投稿にあるように、提供側の課題は概ね明らかであり、その改革計画のロードマップ作りが関係省庁やアカデミアに求められていることを最後に指摘したいと思います。


 

長らくお付き合いいただいたこのブログもここ数年は沈滞しており、年齢のこともありこの投稿でもって終わりとさせていただきます。長らくご支援いただき有難うございました。

2023年2月20日月曜日

臓器斡旋事件の背景には深刻なドナー不足 国の予算は

  いま移植関係では海外での臓器斡旋が事件になって、日本移植学会などの関係学会は臓器売買をやめるよう声明を出し、政府に働きかけています。厚労大臣も動きました。今日にニュースでは国会が動き出して法改正という言葉も出てきています。でもこれはこれとして重要で対応しないといけないとは言え、根本は臓器提供が少ない、深刻なドナー―不足があることに、メデイアも学会関係者も社会に訴えることを忘れているとしか思えません。関係学会が中心となってドナー不足解消に国は真剣に対応すべきであることを社会に働きかけるいいタイミングと思います。死の定義や臓器移植法の更なる改定(臓器斡旋関係以外)といった社会的混乱を生じる手法ではなく、国の予算が足らない、という単純かつ明快なキーワードを軸にし、提供側も交えて医学会がまとまって動く、そのきっかけを作って欲しいしと思います。

 こう言っても行政側はこれまで種々の施策でもって対応し、提供数は右肩上がりになっている、と言われます。それは認めますが、肝腎のアカデミアの動きはどうでしょうか。日本学術会議の臓器移植に関する提言は総花的に諸々のことを書いています。ここで私が指摘したいのは国が出す臓器移植関連のお金の話がないことです。国家予算として臓器移植、脳死臓器提供になりますが、そこの額が妥当なのか、国際比較するなどの検証がされていないと思います。現状から見て妥当である、と人は反論するかも知れませんが、年間の臓器提供数を倍増、いや5倍にする、人口100万人当たりの年間提供数を少なくとも5%(現在はやっと1%弱)にする、といた抜本的な対応にはどれだけ予算がいるかの試算が要るのです。わが国の行政の予算の仕組みは、全て実績主義で、目標に達しなければ削減ですから、臓器提供に当てもなく倍増なんて馬鹿が言うことだといわれるでしょう。そうでしょうか。臓器提供を確実に増やすには提供施設の5類型のなかでの提供できていない施設を減らすことが最重要という意見もあります。さらに現状で頑張っている施設にも手厚い支援が必要です。都道府県ドナーコーデイネーターを増やせば提供数は確実に増えるのでは明らかです。スペイン方式が世界のお手本です。こういった下支えをする現場への予算が根本的に少ないのではないですか。

臓器斡旋事件をそれだけで終わらせるのではなく、この際臓器提供対策の見直しも必要です。 そして国の予算からみた臓器提供の課題の分析が必要です。

2022年10月20日木曜日

 日本移植学会が名古屋でありました

  大変ご無沙汰です。その後元気にしておりますが、4月の国際心肺移植学会の報告以来で半年ほど経ちました。世の中は新型コロナの第7波もようやく収まってきて、社会活動も戻りつつあります。大阪の地域の病院のコロナ病床も閑散になってきてやっと本来の活動が出来る雰囲気になってきました。

  今回も臓器移植がらみですが、臓器移植法が制定されて25年目になるという節目の年になります。先般の10月14,15日と日本移植学会が名古屋であって出席してきたのでその報告です。1年前は自分でシンポジウムに応募して、心停止ドナー(DCD)の心臓移植について話をしてから早1年経ちました。其の発表の内容を学会誌、移植、に投稿したのですが、学会前にようやく公表されました。心臓と肺についての心停止ドナーからの移植について日本移植学会は臓器横断的に(心臓を除け者にしないで)対応して欲しいとの提言で、阪大に現役教授2人に共同著者に入ってもらっています。 

 松田 暉. 新谷 康. 宮川 繁. 心停止ドナーから見た心臓および肺移植の世界の現状とわが国の課題 ―臓器横断的取り組みでドナープール拡大を―. 移植. 2022. 57(2). 163-168.

 さて、今回の学会でDCD、特に生命維持装置を外すcontrolled DCDの議論が進展しているのか確かめることもあっての参加でした。学会企画には臓器横断的と名がついてものが多く、その最初のシンポが「臓器提供数増加のための方策」で、なかなか聞き答えのある内容でした。厚労省移植医療対策推進室の西嶋先生が行政の取り組みを紹介し、提供の拠点施設制度が進んでいるということでした。臓器移植ネットワークからはドナーコーデイネーター(Co)の現状紹介があり、中央のCoは何とか確保できているが都道府県Coは相変わらず寂しい限りでこの10年進歩どころか後退している部分もあり、今後提供が増えたらオーバーワークでパンクするのでは危惧されます。何故増えないのでしょうか、提供制度のコアですよ。脳神経外科医の小野元教授からは終末期医療では家族とのコミュニケーションが大事で、脳外科医も移植待ち患者を助ける努力をしているというお話でした。阪大の救急医学の織田順教授は、オプション提示の解釈において同意を取るのではなく道を示すことであり、さらに命のリレーという言葉は誤解を招くもので、間に人の死があることを考えるべきという、納得できる内容でした。移植医側の東大小野教授はMedcal Consutant制度のこれまでと今後について紹介し、従来の自己犠牲のやり方では今後続かないということでした。岡山大の救急医学の中尾篤憲教授は救急医療の現場で臓器提供に積極的にかかわる中での苦労を紹介し、医師がそもそもの提供の意思表示をしていない現状も述べられた。最後に小柳仁先生の特別発言があり、これまでの歴史を振り返っての移植医療の原点に触れる素晴らしいお話であった。全体としてDCDについての言及は限られていたが、臓器提供の本質と制度のギャップがあるなかでcDCDの議論も進むのではと感じた。

 後はワークショップの話ですが、心停止ドナーの課題が議論されました。従来型のDCDがコロナもあって減少が激しいなかで、消化器外科や膵臓移植医からの取り組みも紹介された。後者は学会長の剣持教授(藤田医科大学)からのAMEDで採用されたECMO使用の計画の紹介であった。代理の先生が来られていて、灌流によって肝臓と膵臓の摘出と腎機能の保護での進歩があることは分かった気がする。私の待機する関係者の負担軽減になるのかとの問いに、座長からは軽減になるとの説明があった。uncontrolled の提供であり関係者の負担軽減が減るのか個人的には今も疑問がある。cDCDは豪州のSt.Vincent 病院で移植に関わっておられた慶応大学の松本順彦先生からの紹介があった。本邦で進める上での倫理的な面での話もあり、cDCDについて学会員の理解が進めばと思った。

 心臓移植では長期待機の問題点のシンポもあった。何年にも及ぶ補助人工心臓下の待機の問題点が改めて浮き彫りになった。阪大小児科からは学童期に長期の待機による院内学校の苦労や家族内での問題も紹介された。私のコメントは、この待機児童を扱う方々の現状と家族の苦労を社会は知るべきであり、それは臓器提供への理解にもなることからメデイアへの働きをしてはという提案をさせてもらった。待機中死亡の話が多く、東京大学からしっかりした発表もあり、必然的に臓器配分システムの改定にも話が進んだが核心に届く議論はなく、今何をすべきかの基本的な話をさせてもらった。移植施設が自施設の枠内でリスク分析をするのでは限界があり、ナショナルチームとして科学的分析をするには日本臓器移植ネットワークのデーターを使う以外に方法ないと述べておいた。

 最後に、番外であるが岡山大学のDCDからの心臓移植についてAMED研究の班会議があり、オブザーバーとして加わった。まだ論点整理段階のところもあるが、3年後には関係学会からのガイドライン作りに持って行って欲しいとう思いで参加させてもらった。この後奈良で日本心臓移植研究会があるが、このAMED研究をどう扱うかが課題でもある。

 ということで、移植学会でのDCD関係の話題の紹介をさせもらった。もう自分で学会で発表したりペーパーを書くこともないと思いながらの学会出席であった。cDCD心臓移植への細い長い道が少し見えてきたようである。

2022年5月10日火曜日

ボストンでの国際心肺移植学会に参加して

大変ご無沙汰です. 2月に今年の第一報を書いて以来3ヶ月も経ってしまった. Covid-19の第6波が襲っていて未だ先が見えないなかで話題も限られてきたこともあって筆が鈍っている. とはいえ,昨年末に少し紹介した先月のボストンでの国際心肺移植学会(ISHLT)には何とか参加できたのでその報告をさせてもいたい. 

会期は427日から30日まで米国ボストンで予定通りin-person(現地開催)で行われました. 現地参加できない方はあらかじめ録画を送っておいての発表だが,この場合は討論には参加できないという方式. 日本からのいくつかの演題もほとんどが事前録画であった. 日本からは循環器内科と呼吸器外科の方が来られていたかも知れないが顔見知りの方はおられず,私が話出来たのはT大心臓外科O教授だけで,日本からはまだまだ制限があるように感じた. この学会は3年ぶりの現地開催で米国はもとより欧州からも多数の参加者がありいつもと変わらぬ賑やかさで,現地参加は2700人ということであった. 

ボストンは晴天続きであったがこの時期結構寒く,朝は5℃前後で昼も15℃くらいで加えて結構北風が強く,ホテルから会場まで1.5キロを風にあおられながらの歩きの毎日を楽しんだ. 会場のHynes Convention Centerはボストンマラソンの最終地点となる大きな広場の近くで,古い教会などと一緒に超高層ビル(Prudential Tower)が集まったBack Bay地区になる. ボストンマラソン終点の広場の写真を紹介する. 

私がCo-Chair(座長は2人制で相方はテキサスの循環器内科医)を務める成人先天性心疾患(ACHD)のセッション(移植からMCS)は最終日土曜の午前中で,多くが帰りつつある中で30人ほどが会場に来られていた. 発表演者は全て招請講演で,一人が欠席で残る4人はしっかりした内容で議論が白熱した. 特に機械的補助循環(MCS)の話題では英国Newcastle Upon Tyne, Freeman Hospitalの心臓外科医 Dr.Fabio De Ritaの発表がありFontan 術後の右心補助でユニークな発想でデバイスの開発を行っている.  Fontan手術後の移植についての発表が多く,私が長らく関心を持っているFontan associated liver disease FALD)についても心肝同時移植か心移植単独か,肝機能が戻るのか,などの議論が行われた. そもそもfailed Fontanへの心臓移植もなかなか実現が難しく,加えて心肝同時移植は全く見えないわが国から見て,いつになったらこのセッションに参加できるのか,自分がここにいるのは何のためか,個人的興味なのか,等考えさせられた. 

一方,この学会に来た大事な点は前回も紹介したDCD(心停止)ドナーからの心臓移植と肺移植がどう進んでいるか知りたいこともあった. 驚いたことにDCD関連のセッションがほぼ連日組まれていて,オランダやUKそしてオーストラリアからアップデイトな発表が続いた. なかでも米国からはNIH主導の体外灌流装置を併用した心臓移植のランダム臨床試験の結果も出ており,米国でもかなり積極的にDCDに取り組んでいることが分かった. これらの現状を帰国後に関係者にフィードバックできればと思う. 因みにAMEDの本年度からの臓器移植関連の公募研究に岡岡山大学と東京大学が連携するDCDドナーからの心臓移植の研究が採択されているので個人的には大変期待している. 

さて,もう一つ紹介したいのは特別招請講演である. これは医学界以外からの教育的講演と最後の締めに当たる学術的招請講演があり,前者はボストンマラソンについて,Boston Athletic AssociationPresident and CEOTom Grilk氏によるWhat is so specific about it? であった. 100年を超える歴史とボストン市民がこれまでいかにこの大会を支えてきたか,そしてさる悲劇の後Boston (is) Strongという掛け声で立ち直った話であった. 

一方の学術的な講演は,最先端技術であるRNA工学を用いたワクチンから治療薬開発の話であった. RNAに関する最近の進歩はなんと言ってもCovid-19へのmRNAワクチンの開発であり,その背景にあるRNAを操作して種々の蛋白を細胞に導入させる技術がものすごい勢いで進んでいて,わが国でも幾つかのベンチャーが立ち上がっていて,これからの心不全の再生医療を根底から変えるのではという期待がある. テキサスのHouston Medical Centerの中のHouston Academic Institute Houston Methodist’s RNA Therapeutics を立ち上げMRA技術開発をけん引しているDr.John Cookeの講演であった. 種々の蛋白質をmRNAに組み込んで,感染症のワクチンにと止まらずがん治療から臓器再生へと発展させている. 心筋細胞にペースメーカー機能を持たせることにも成功している. まさに次世代の医療技術の中心になるのではと思うが,現役諸氏には既に知られてことではあろうが紹介せずにはおらない. 

ボストンからの報告としては以上とするが,心臓と肺移植について世界をリードするこの学会に3年ぶりで関係者が集まるという節目に,Covid-19のせいとは言えわが国からの参加は数えるほどで,日本のこの分野がますます世界から取り残されていくという危機感を持っての帰国となった. Covid-19への対応はボストンとい途中寄ったカナダといい,街でマスクをしている人は殆どいない. 国間の移動もPCR検査を事前済ませることとワクチン接種証明でスムースに行動で来るが,日本では入国時の検疫は緩和どころか依然として全員にPCRを求めている. 帰国前72時間のPCRを強制させなら成田空港で再度唾液での検査をしないと空港から出られない. 実際,連休最後の日だったせいか検査の順番待ち人たちが延々と並んでいて,Fast Trackのアプリを用意しなかったこともあって検査受付まで2時間以上,検査結果出るまで又2時間と結局入国審査が済んだのが到着後4時間.新幹線の最終にも間に合わず成田で一泊する羽目になった. 海外がウイズコロナに移行している中で,そして大型連休では各地が人で溢れている状況で,この入国時全員PCRを続けていることにもうあきれる以外言葉もない. コロナ鎖国を目の前に見た感じである. 成田空港では多数の厚労省関係の職員と思われる方々がきびきびと働いておられるのには頭が下がるが,泊まったホテルでは本館という部分は厚労省が借り切っているとのこと. 対費用効果,感染制御効果,など適宜検証しながら臨機応変な対応が出来ないのか. 

ということで,最後の検疫での4時間でせっかくの国際学会参加も疲れだけが残った感じである. とはいえ落ちついたら学会での知見を国内へどうフィードバック出来るか考えよう. といっても年寄りの独り言になりそうである.

 前回言及した学術会議講演会の話は時機を逸っしたのご容赦を.

 


2022年2月15日火曜日

臓器提供の新聞記事

   2022, 令和4年の最初の投稿がですが, 遅れ遅れて2月の後半になってしまいました. 遅まきながら今年も宜しくお願い致します. とは言え, もうこのブログも風前の灯(昨年も言いました)かと思われますが, 何とか火を消さないようにしたいと思います. その力となるのは, 袋小路のコロナではなく, まだ未来がある, そして遣り残しがある, 臓器移植です.

  足元の病院での心不全ケアチーム作りも始めて1年半になっていますが, コロナ禍もあって中だるみの感もあり足踏み状態です. そういう中で昨年10月に, ある心不全新薬の発売記念セミナーを近隣の循環器内科の先生方と企画させてもらったのですが, opening remarksを使って我々のチームの紹介をさせてもらいました. これまでの30例ほどの症例の概要を報告をしたのですが, タイミングよく症例報告も出来ました. 約半年の入院治療の後に何とか在宅に移行できた60歳代の末期的虚血性心筋症の患者さんです. コロナもあってリハビリも思うように進まず, かえって廃用が進んでしまい, 緩和ケアも考えるようになりました. しかし, ご本人が自宅(独居です)に帰りたいという強い希望もあり, 自立が難しく移動は車椅子で何とか可能な中で退院にこぎつけたので, 紹介しました. 心不全ケアチームの思い入れの深い症例で, スタッフもこれがチーム医療だと頑張ってくれました. 退院後も在宅で落ち着いておられるので, 心臓関係の地域のニュースレター的なところに症例報告として投稿しようと準備しています. こういう経験がチームの結束を高め, 目標設定に向かって協力する機運が高まることを期待しています.

 さて, 臓器移植ですが, 紹介したいことが直近で二つありました. 一つは新聞記事でもう一つは日本学術会議の移植・再生医療に関する公開シンポジウムです. 今回は新聞記事だけにします.

 29日の毎日新聞の夕刊第一面に「悲嘆の家族救ったカード, 夫の死 臓器提供で心に光」, という大きな見だしが目に留まりました. 最近は臓器移植, なかでも臓器提供を扱う記事は殆どなく, 移植への社会の関心が薄れていく現実のなかでこういう記事を心待ちにしていました. 素晴らしいと思って読ませてもらいました. 一時代前の懐かしい黄色い意思表示カードの写真が出ていました. また, 死後に臓器提供されたご主人の在りし日を偲ぶ, 家族が寄り添っている素晴らし写真もありました. 柏崎市の当時63歳の男性が自宅で心臓発作を起こし, 救急病院で心肺蘇生が行われ, 心拍動が再開した後に専門病院に移送されました. 転送された時, 病院受付の事務の方から奥様が臓器提供の意思表示カードについて聞かれたので, ご主人が生前に意思表示カードの話をされていたので, 自宅にあったものを見つけて病院に持っていかれました. そのカードには脳死と心停止でのほぼ全ての臓器に丸が付けられていました. 搬送後も意識は戻らなく出来る限りの救命措置でも助からないという状態になったようです. コーデイネーターから臓器提供の話を聞き, 生前のご主人の意思を尊重し,ご家族が提供に同意された経緯が具体的に紹介されています. 結果として臓器提供は心停止後の腎臓と眼球でした. この話は2003年に遡るので, 今になってどうしてこういう記事が出たのか分からない所がありますが, 奥様が当時を振り返ってその気持ちを伝えたいというのが本当のところかと推察されます. 

  要点は, 搬送先の病院が臓器提供施設であったこと, 病院が意思表示カードの有無を聞いてくれたこと, そしてカードがあったことから家族全員が納得して提供に至ったこと, と纏められています. また, 子供さんお二人も学校の授業で臓器提供の話を聞いたことがあったということでした. この話は約20年前とは言え, 今も現実に起こる(起こっている)ことであり, 臓器提供の根幹に触れる貴重な記事であると思います. 救命センターといった先進医療施設以外で, 入院時に臓器提供の意思表示について確認することはまだなか出来ていない現実もあります. 意思表示は, 臓器移植ネットワークのカード以外に運転免許証と健康保険証の裏に印刷されていて, 提供しないという意思も含め自分の考えを知ってもらう機会は身の周りに探さなくてもあるわけです.

  私としてはいくつかの疑問もあり具体的なところは記者に直接聞きたいところでありますが, ここではポイントのみ書いてみます. それは, ①脳死と心停止両方での臓器提供に〇を付けておられたが, 提供は脳死ではなく心停止後の腎臓(と眼球)であったことと, ②記事のなかに脳死という言葉はカードの記載内容についての所だけそれ以外では触れられていないこと, です. ①についてはご遺族のご意思があったのかも知れませんが, 一般読者にはその理由をしっかり伝えることでこの記事の価値は上がったと思います. 美談だけではなく, 臓器提供の現実的な課題を伝えてほしかったと思います. このことは2022年の今も変わりないはずですから. また, 敢えて加えるなら, 2010年の臓器移植法の改正のことです. 本人の意思が不明の時は家族が判断できるということの紹介が欲しかったと思います.

  読者がこの記事にどういう反応をされるか大変興味あるところではありますが, 臓器提供が低迷しているなかでこのような明るい話(心に光)が出ることは大変重要なことなので紹介した次第です. もう一つの話題の公開シンポでも, 臓器移植のことや提供のことに対する社会の認識が薄いままであり, これをどうした良いか熱い議論になっていました.

 追伸:昨年の最後の投稿で紹介した心停止ドナーからの心臓移植の論文ですが, 掲載されましたので1ページ目を紹介します.







2021年12月25日土曜日

今年も新型コロナと臓器移植で締め括り

 

早いもので今年(2021年、令和3)も残すところ後1週間となった。今年は新型コロナの第5波で日本中が翻弄された後、このまま収束か思いきやオミクロン株の登場で再び先行きが見えなくなっている。この一両日には市中感染も出てきて正月休みにも影響が出てきそうである。私の勤務先の病院も小規模ながら行政の要望に応える形でコロナ対応病床を作って軽症と中等症の患者さんを引き受けてきた。高齢や合併症がある方が多く、1週間以上の隔離管理で肺炎が治っても体が弱ってしまって元に戻れない、という現実を見てきた。

保健医療の国難的危機では、何度も書かせてもらったように公的ないし急性期センター的な病院に大胆な機能集約をすることが必要である。今また医療崩壊の予防線を、一般病院を巻き込んで体制を組み立てようとしているが、3-5波の時に学んだのは何だったのか。とにかく施設を増やすという姑息的な手法がまたぞろ始まろうとしている。保健所機能は限界があるなかで、成田空港管轄の保健所が濃厚接触者対応で右往左往している。フロントラインを保健所に任せることに限界があることは分かっているし、クルー船以来2年にならんとしているのに、である。

 さて、随分空いてしまったこのブログへの投稿も今回が5本目で隔月にも足らなくなった。風前の灯火か。締めにするテーマはサブタイトルに従って、また昨年同様、臓器移植としたのでお付き合い願いたい。前回も報告したが、外部活動として大きかったのは9月の日本移植学会の公募シンポジウムに応募したことである。臓器横断的なテーマのなかのCovid-19後の臓器提供というシンポに以下の発表が採用されたことを再度紹介させてもらう。タイトルは:Controlled DCD(心停止ドナー)に我々はどう向き合うか:心臓移植の立場から、である。

要旨:わが国の臓器移植は法改正後も深刻なドナー不足が続いているなかで、海外でのドナープール拡大への動き、特に心停止ドナー(donation after circulatory death, DCD)中でも生命維持装置を中止するcontrolled DCDが欧州を中心に腎臓だけでなく肝臓, 肺へと応用が進み、ここ56年で心臓移植でも始まっている。わが国では従前の死体腎移植でのun-controlled-CDCが行われていてその復興を移植学会が進めようとしている。

  一方、心臓移植ではcDCDでないと移植が成り立たない。しかし、学会のDCDの議論に心臓は加えてもらっていない。何故除け者にするのですか、ということである。終末期医療での生命維持装置の中止は法律では禁止されていないが現実には広く行われるものではなく、まして臓器提供はとんでもない、という意見が多い。まず、心臓も加えて臓器横断的にドナープール拡大のためのDCD導入を検討して欲しいという訴えである。しかし移植学会は腎臓と肝臓の専門家の意見が主流のようで、私の発表への反応は、ごく一部の提供側の先生以外は今一つである。問題は肝心の心臓移植担当者がこれに及び腰であることである。胸部外科という南江堂が発行している専門誌の2022年度第1巻で「心臓移植の今」という特集の企画があり、いい機会と思って投稿した。阪大第一外科教室では曲直部先生や川島先生の教授時代からDCDの心臓移植の動物実験が行われており、私も盟友の白倉良太先生と共にこの研究を引き継いできたので、3名の連名で投稿した。心停止ドナー(DCD)からの心臓移植を我々はどう考えるか、で1月には発行される。

 さらに、ごく最近の国際心肺移植学会誌(HoffmanJHLT.202140;1408)に心臓移植DCDでの新たな取り組みの論文が米国Vanderbilt大学から出た。そこで、年末の仕事として、この論文の紹介をしながら移植学会の発表内容を同学会の機関誌「移植」に投稿すべ準備中である。完成に近いが、学会誌のどのカテゴリ―がいいのか迷うところもあり、原稿を送って検討を依頼したところである。新春はこれを受け付けてくれるかの返事待ちとなる。

 わが国の心臓を含めた臓器移植の発展を願って、こんなリタイア―者が細々と活動を続けているが、現状を見ると、そう簡単に止めることは出来ない。最後に紹介したいのは、成人先天性心疾患(ACHD)の心臓移植で、日本成人先天性心疾患学会での活動を続けている。その延長でもあるが、来年4月末にBostonで開催予定の国際心肺移植学会(ISHLT)事務局から、ACHDのシンポの座長をしないかというお誘いがあった。喜んで引き受けたが、4月に海外渡航が解禁になっているか、オミクロンが広がっているなかで懸念される。Webより現地での参加をしたいが、どうなることか。

ということで、今年の締めとさせて頂く。

皆様良いお年をお迎え下さい。 

PS:年末には北海道はニセコでの初滑りも出来たので少しは気分が晴れた年末となった。