2014年12月31日水曜日

今年も大晦日になりました:2014年のまとめ


今年はこのブログとしては2年目でしたが、何とか頑張ってこれを含めで総数50  件の投稿が出来ました。気が乗らなかった時は月に2-3件でしたが、何かのきっかけがあると10月のように8件と忙しい月もありました。何しろ対外的な仕事が減ってきているので、話題も限られてくるという少し寂しい感も出てきました。その結果、しっかりと軸として何かのメッセージをというものではなく、場当たり的なところが多いのはやむを得ないというかこういったブログの姿かと思います。とは言え、やはり臓器移植関係が多くなっているのは仕方ないかと思います。
 
今年の医学関係での話題はSTAP細胞騒動で始まりました。しかし、先般の調査委員会の報告で、細胞(現象)の実態はES細胞であったのでは、という科学的な面での結末が付いたようです。何ともやりきれない結末でした。国中が大騒ぎになりましたが、研究者の態度ひとつでマスコミをはじめ社会の反応は恐ろしいことになる、という教訓を教えてもらったのではと思います。A First とういう話題も科学の先陣争い(いい意味での競争として)の在り方に関係するものでした。
 
一方ではiPS細胞の臨床例がやはり神戸で高橋政代チームによって実現したことは素晴らしかったです。まさに世界初として我が国が誇れる成果でありました。今年はそんなことで再生医療について幾つかコメントを書きました。社会的関心が非常に高く、マスコミに煽られて科学的なところから飛び出してしまうリスクが今の再生医療にあるように感じていますので、その辺りを書いてみました。再生医療とは内在する自己再生能力を活用する医療で、その手段として細胞、特に幹細胞や細胞ではない足場を用いた培養組織・臓器で機能不全に陥った組織や臓器を再生させようとするものです。直接に細胞や組織を移植する方法と自己修復機能を呼び戻す方法の二つがあります。一方、従来の臓器移植や骨髄移植は他人から頂いたものを移植するので、ドナーの方からの提供と拒絶反応が課題であり、ここで再生医療が注目されているわけです。しかし、心臓の再生医療が実用化するまでのこれからの10年間に、心不全で亡くなる人は何万人もおられるわけで、少ないとはいえ年間数百人でも心臓移植で救える、ということも社会は認識して欲しいし、マスコミも再生医療のスクープ合戦に固執せずに地道に臓器提供について紙面を割いてほしいですね。心臓外科では心臓弁の話しも取り上げました。ドナーからの摘出し保存している心臓弁、ホモグラフト、の紹介でした。海外では日常で使えるものが我が国ではせっかく高度の技術をもった心臓外科医がいるのに使えない現実です。これも医療技術ラグ、でしょう。一方では、普段感じている高齢者医療や終末期医療についても書きました。
心臓移植では1月の初めに北海道大学で行われていますが、和田移植以来半世紀近くなっての北海道での再開でありました。今年最初の記事で紹介しましたが、その後5月にも2例目が北海道大学行われています。また、6歳未満のドナーからの2例目になる提供も実現しています。ま臓器移植への国(お役所)の関与の在り方も変わってきたこと、そして最後は12月になって脳死での臓器提供が法制定後300例になったことで締めくくりました。
学会関係では、岡山での成人先天性心疾患学会に始まり、春は東京での循環器学会と京都での外科学会、5月はサンディエゴでの国際心肺移植学会、夏の大阪での在宅薬学会、秋の心不全学会と心臓移植研究会など幾つかの学会や研究会の紹介もさせてもらいました。
休暇や研究会がらみの遠出も幾つか話題にしました。ツアーとして、志賀高原、北海道、北陸、などでした。北陸ツアーでは戦国時代と日本の近代化の中での興味ある歴史を振り返りました。最後は蔵王の樹氷になりましたが、今年もスキーとロードバイクを続けられたのは良かったです。
スキー関係ではソチの冬季オリンピックもありました。メダルが獲得での悲喜こもごもの物語もありましたが、余談としては私の拘りの一つである“章旗への寄せ書き”も再登場でした。フィギャースケートでは羽生結弦選手への熱狂的な応援でも相変わらずです。東京オリンピックではきれいな書き込みのない日に丸での応援に期待していますが、まず無理でしょうか。
医療人の生涯教育は今も関心事です。これまで関わってきた専門医制度では新制度への準備段階で役割を終えましたが、まだ関心を持って成り行きに注目しています。第三者機関としては専門医以外では医療事故調も取り上げました。また、慢性心不全では多職種によるチーム医療が進んできていることも紹介しました。一方、看護師や若手心臓外科医のシミュレーターを用いた研修も始めました。しかし、医師以外の生涯教育についてのレビューは出来ないままに年を越すことになりました。ただ、12月になって災害医療での医療人育成についての国際シンポジウムに参加できたことで少し気が楽になりました。
さて今年の最大の話題は何といっても青色LED発明へのノーベル物理学賞でした。日本人3人が揃って受賞という快挙で、大いに沸きあがりました。ブログでは簡単な紹介でしかできませんでしたが、正に、多弁を要しない、に尽きる出来ごとでした。そして、これほど世界の社会生活に貢献した発明はまさにノーベル賞の心髄であるという、ストックホルムの対応も嬉しい限りでした。人類の普段の生活に直結し、世界が抱える課題にも光を当てる発明は何十年に一度でしょうが、多くの子供さんが夢を持って科学に取り組むきっかけになるでしょう。
 
その他、Let it goやベルリンの壁崩壊25年、医療安全管理ではMMカンファ、等も楽しく書かせてもらいました。皆様、今年もお付き合いくださり有難う御座いました。来年も宜しくお願いします。良いお年をお迎え下さい。
 

2014年12月29日月曜日

蔵王温泉



   今年もあと数日で終わりますが、最終稿のまえに一息です。昨年の最後の投稿を振り返って見ると、1年の出来事のまとめと共に大山でのスキーを紹介していました。今年は山形県の蔵王温泉で初滑りです。少し早目に休暇に入って仙台経由で蔵王入りました。この冬、東北地方は早くからかなりの雪が降ったようで、雪は十分です。幸い天気も大寒波の後で落ち着いていて、3日目には12月ではとても望めない好天に恵まれ、雲一つない青空のもとロープウエイの地蔵岳山頂まで上がって大パノラマを満喫できました。名物の樹氷もかなり出来ていて、その自然の美しさと不思議さに感動でした。 

蔵王の樹氷のもとになるアオモリトドマツが、ガの一種「トウヒツヅリヒメハマキ」の幼虫による被害を受けていることがNHKで放映されていましたが、そんな心配は微塵も見受けられず、これからさらに成長するでしょう。写真を掲載しますので、雰囲気を味わってください。肝心なスキーは地元や(元?)競技スキーの仲間に特訓を受け、少し進歩もあったのではと自己満足です。脚は自転車で頑張ったせいか、何とか持ってくれました、ご安心を。
 
 
 
 

 
 

2014年12月25日木曜日

 脳死移植300例


 今朝の新聞をみると小さい記事ですが表記の見出しが目に留まりました。1997年2月以来の臓器移植法に基づく法的脳死判定で臓器提供になった数が昨日で300例に達したということです。16年近く前の第1例のことが思い出されますが、長く掛かったとは言え脳死移植もやっと社会のシステムが機動しつつあるのか、という思いです。この間の関係者の努力と社会の理解に敬意を表したいと思わずにはいられません。

法改正前は86例の提供が、201010月の改正後は214例になり、ここ4年程で急増していることは明らかです。心臓移植は昨日(阪大病院で実施)221例になっています。当初の約12年で69例と低迷していた心臓移植もこの4年ほどで150例を越えています。しかし、年間の全体の臓器提供数はまだ50例にいたっていませんし(昨日で49例)、心臓移植も年間40例弱です(今年は36例で昨年は37)です。すごい数と言えばそうでしょうが、一方では心臓移植の登録患者さんも急増し、そのペースは移植数を越えていることから、待機期間も長くなり、まだまだ移植到達は狭き門であるわけです。

年間の臓器提供数が100例を越え、そして心臓移植が年間100例になれば国際的にも肩を並べられる所に近づくのでは思いますが、あと何年掛かるのか。関係者の更なる努力、特に社会啓発がいっそう重要になります。

小児の提供についてはまだまだ限られていることは明らかで、小さな子供さんからの臓器提供について更なる議論が必要です。

心臓移植中心になりましたが、それは脳死での移植しか道はないからですが、一方では心停止後の腎臓提供がどんどん減少している現実にもしっかり目を向けないといけません。
マスメディアも300例という現実のみの、数の報道ではなく、この後しっかりと現状を分析し問題点を提示する姿勢が是非欲しいです。

以上が、今朝の新聞を見ての感想です。

2014年12月21日日曜日

MMカンファレンス



師走も押し迫ってきました。日本列島はここ何日か爆弾低気圧の襲来で冷え切っています。年内、頑張って数件の投稿をと思っていますが、あまり元気がありません。ということですが、今日の話題はMMカンファレンス、としました。
 
その前にSTAP細胞に関する検証実験の結果が出て、結局追試は不成功となったというニュースが大々的に報道されました。残念な結果ではありますが、マスコミのいう、正体は何か、については外部がどうこう言うものではないと思います。そういうレベルでは無くなったのですから。一方ではなぜこのように日本中で大騒ぎすることになったのか、そこの詰めが必要と感じます。論文を取り下げた段階で、論文不正の責任は別として、もう話は終わったはずが何故ここまで引きずったのか、未だに理解に苦しみます。
 
さて、本題に移ります。新聞等で報告されていますが、ある国立大学病院で高度の技術が必要な肝臓の内視鏡手術で死亡例が続いたにも関わらず死亡例の症例検討会が開催されていなかった、という報道がありました。死亡例の検討会はデスカンファ、とも言われ、これを随時行わないこと自体が理解できませんが、これに関してMMカンファレンス、というものがあるので紹介しておきます。米国の教育病院の外科では日常行われている仕組みですが、我が国では正直言ってあまり馴染みではないものです。

MMカンファレンスですが、臨床現場で行われるmortality-morbidity- conference (死亡および合併症検討会) のことです。大学病院や教育病院などの外科系部門(講座とか診療科)で、主に外科手術を行った後に死亡例や感染症などの合併症発生例について原因や対策を議論する検討会のことを言います。死亡例についての検討にはCPC( clinico-pathological conference 臨床病理検討会)がありますが、それはある症例について病理解剖結果が出たあとで病理医や関係部署が集まってその原因について議論を行う、不定期のものです。一方、このMMカンファは少し違います。それは、まず自分の部署で定期的に(月1回とか)行うもので、死亡例があればその報告と合併症(創部感染、術後出血、その他の臨床上のイベント)についてのまとめを病棟担当者が報告し、必要に応じ対策等を考える、というものです。

術後死亡例については別途CPCではなく死亡例検討会、として開かれることもありますが、MMカンファレンスは基本には定期的に行うものです。ですから、死亡例がなければ合併症のまとめに報告だけになります。私が以前米国の病院で臨床フェローとして働いたときに見てきたことですが、毎週月曜の外科系カンファレンスで、チーフレジデントが最後に死亡例と合併症(主に創部感染)をさらっと纏めていました。改めて別途行うのではなく通常の検討会の最後の5分を、今からはMMカンファレンスです、と言って行っていました。といっても外科の創部感染が続けばその対策の指示が責任者からでることになります。死亡例についても要点を突いた議論が行われれて、対策が提案されます。

残念ながらこのMMカンファレンスは日本では馴染みではありません。以前所属していた大学病院でも、外科系の合同カンファレンスを始めた時にこの仕組みを入れようとしましたが、周囲の関心がなく立ち消えになりました。心臓血管外科は術後合併症が残念ながら少なくないし、命に係わりますからこの仕組みが必要ですが、他科ではそういう雰囲気にはなかったようです。多くの診療科ではあえてこういう形式での名前を付けなくても、同じようなことは普段やっているよ、ということであります。しかし危機管理や医療の質の担保、医師の教育、ということでこれを組織として組み入れる、名前を付けて定期的に行う、ことが大変大事なのです。件のニュースを見てこの仕組みが我が国でも定着して欲しいと思った訳です。

現在、日本では専門医制度を改める準備が進んでいます。新たな制度での修練病院ですが、外科系ではこのMMカンファレンスを定期的に開くことが施設の要件に入っていると思います。こういう自己点検ともいえる仕組みが当たり前に入っていることが、医療事故や医療過誤を未然防ぎ、再発防止に繋がると思います。外科系では創部感染(SSIといいますが)を最大限に減らさないといけません。体表面なら命に別状はないと言っても、入院期間が増えるし、医療費も増えます。MMカンファレンスのベースはSSIの発生状況報告から始まります。いやなことでもきっちり報告する、情報を共有する、という姿勢が求められます。外科系では毎週の術後検討会のうちの月1回でも最後の5分をこれに切り替える、ということで充分と思います。さらに大事なことは、記録に残すということです。

ということで、今回も堅い話ですいませんでした。

2014年12月8日月曜日

災害医療と人材養成、その2

      前回は災害医療への取り組みについてDMATを軸に米国と我が国を比較しながら紹介したが、肝心の人材養成(育成)はあまり触れられなかったので、その補足を今回させてもらいます。

まず、イタリアのコルテ(Corte)教授の講演でありますが、先生の根拠地である北イタリアのノバラでのおもに医学部や医療関係の大学生向けに行っている災害医療教育の紹介がありました。行っておられるのは、おもにコンピューターによるシミュレーション教育です。先生は欧州(地中海域)の救急医学カンファレンスの創始者でもあり、EUで様々な災害医療プロジェクトに関わり、大災害に対応できるプロの養成を精力的に行っておられる。コンピューターによるシミュレーションはいろいろな場面を想定したシナリオがあり、多職種や遠隔地の学生を交えて、実践的な対応の教育を進めている。大災害はそう滅多にある訳でもなく、想定訓練も何度もできるものではないの、こういったシミュレーション教育で下地を備えたり、学生の時から災害医療に興味を持たせたりする努力を続けておられる。

イタリアでも医学部教育で災害医療を基本カリキュラムへの取り組みは遅れていることもあり、また卒後教育にもつながることから、基本となる災害医療の知識と対応についてのモデル作りをされている。EUという環境ではまさに国際的な教育システムの構築も可能であるのかと思われる。楽しみながらシミュレーションに参加している学生の様子が紹介された。

質疑では、前回も書かせてもらったが、どういう専門職を相手にして教育するのかということで議論が盛り上がった。こと卒後教育となると、救急医学や感染症、外科、など多彩な分野の医師やヘルスケアーワーカー達が知識と対応方法を身に着け、いざという時に参加できることを第一とし、災害医療という枠にはめ込まないことが基本であることがよく理解できた。我が国の学部教育では救急医学の教授が講義や実習を担当するが、全体の中ではごく一部であり、国家試験対策が表に出るような所もある。まして大災害を想定した教育は座学でしか出来ないが、イタリア方式は今後我が国にも導入されるのであろうか、興味がある。我が国の医学教育は、最近でこそクラークシップも浸透してきたが、基本的には全ての領域での座学があって、臨床実習が海外に比べて少ないのは歴然としている。また、卒後の初期臨床研修(2年)もローテイト方式で、救急医療にはごくわずかで、少し様子を見る程度の経験しかできない。

災害医療は何時も行われているものではない。いざという時に総合的に医療部隊や行政が抜けのない対応ができるかは、システム作りと人材養成、そして普段の教育が必要であることを今回のシンポジウムに参加して痛感した。災害医療一つをとっても、わが国の医学教育,卒後教育、救急医療のリソース確保、など問題山積ではないか。都道府県の枠と言い、厚労省と文科省の連携のなさ、など行政の在り方も問われるのでは。

災害医療にも関連するのですが、昨日NHKTVニュースでドクターヘリのことが取り上げられていました。我が国のドクターヘリは学会や国を上げてその普及に取り組んできて、平成11年から始まり、現在は36都道府県で43機のヘリが置かれているということです。また、その出動回数が急速に増えて昨年度では2万件を超え、一機当たりの出動は平均480回にも及んでいるように、我が国の救急医療での役割は大変重要になっていているということでした。ここで驚いたのは、ドクターヘリはいくつかの航空会社(民間)が担当し、運用は都道府県に任されていることでした。医療チームは大学病院や救命センターが担当するのですが、ヘリの管理や運用には多額の予算がいるわけで、出動が多くなると当然その費用は増えます。航空機の会社に付けが行くわけです。患者さんには請求は出来ません。そこで、国はドクターヘリ用の補助金制度を作っていて、一機当たり年間一億七千万円を基準として、国は半分、自治体が半分を出す仕組みです。出動回数が多いところは、飛行機会社の持ちだしになるそうです。要は、最近増額されたとはいえ、そもそも補助金運用されているということに門外漢として何かおかしいのではと思ってしまいます。これまでの関係者や行政、国会議員の方々の大変な努力でここまで普及したことは素晴らしいことです。ただ、このような国民の生命に関わること、広い意味での医療費(ここが論点でしょう)が行政の補助金で進めなければならないことが残念です。米国のように医療保険で出るわけではないので、何としないといけないのですが、ドクターヘリ出動が補助金予算で制限されかねない状況をNHKも問題としていました。仮に40数機で平均して一機で年間約1億円が必要としたら、総額年間約50億円です。これを日本の現在の総医療費33兆円のなかでどの位かというと約0.015%です。膨れ上がる医療費のごく一部を節約すれば出てくる額、ということです。乱暴な解釈ですが、補助金の額を出来高払いにすれば事が済むわけですが、そうはいかないのは国の予算の仕組みですから、どうしたいいのでしょうか。ドクターヘリを医療費で云々は別にして、災害医療も含め、大事な医療を支える社会の仕組みへの国家予算が潤沢になるのは何時なのでしょうか。

災害医療という所から幾分脱線しましたが、いろいろ考えさせられる話題でした。

2014年12月3日水曜日

災害医療と人材養成

早くも12月になってしまいましたが、皆様如何お過ごしですか。突然の衆議院総選挙が飛び込んできていっそう慌ただしい師走になりました。昨日より寒波も訪れて交通等大変でしょうが、北海道や東北のスキー場でも今週末にやっとオープン出来そうな気配です。さて、この月曜日(121)に国際救急災害シンポジウムというのが大阪梅田のグランフロントであったので参加してきました。近畿大学医学部救急医学講座の平出淳教授(附属病医院救急救命センター教授)の主催で、同教授が阪大救急部出身でもあり、またテーマが人材養成と言うこともあって、お誘いを受けての参加でした。いろいろ面白かったので少し紹介してみます。

このシムポジウムは文科省の課題解決型高度医療人材養成プログラムに採択されたもので、今年から5年間続きますが、大阪市立大学や旭川医大もメンバーです。参加したシンポジウムは災害医療における人材養成と言う副題で、米国のサンデイゴから災害医療での草分けでDMATDisaster Medical Assistant Team「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」構築でのリーダーでもあるIrving ‘Jake’ Jacoby(ジャコビー)名誉教授の基調講演と、もう一方はイタリアはミラノの近くのNovara(ノバラ)で災害医学教育のシステム作りをされているFrancesco Della Corte教授でした。

ジャコビー先生は、DMATの創生というお話しで、イントロは阪神淡路大震災の時の日本のTVニュース(日本テレビ、櫻井よしこキャスター)が出てきました。当時の米国の大災害の時の国を挙げての対応がDMATのみならずFEMAといったシステムで如何に迅速にかつ効果的に、そして被災した人を国がどう護るかのシステム作りと実践を当時第一線で活躍中のジャコビー教授の動きを紹介しながら、櫻井キャスターが日本との歴然とした差を指摘したものです。ジャコビー先生の講演は米国での大災害事例としてニューオーリンズを襲ったハリケーン(カタリーナ)での対応を紹介しながら、国が如何に省庁の壁を乗り越えて大災害対応を進め、またDMATのチーム作りと研修、訓練が機能し、その成果が出てきているかを、最近のテロ事件での対応を含め、紹介されました。ニューオーリンズでは、飛行場が拠点となり、被災者の収容、搬送、そして病院機能を各コンコースに振り分けているなど、さすが米国というところです。

米国では現在61DMATが作られ(カリフォルニアには6つ、人口は全米の約10%)、人口約500万人当たり1チームと言うことのようです。米国でのDMATチーム作りの資金は寄付であると言われていましたが、さすが米国、というところでしょうか。さらに国としては、1979年にジミーカーター大統領の時に始まったFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁Federal Emergency Management Agency)が省庁の壁を越えて指令系を一本化する仕組みがあることも大きなことであると言われていました。その中には公衆衛生も入っていることも強調されていました。そして、主題は大災害時の指令系統で、各区地区でIncidence Command Systemがあって、そのチーフが大事な役割を果たしているということです。指揮がばらばらでは有効な救助活動が出来ないと言うことで、よく分かります。FEMAといい、現場でのコマンドシステムが日本との違いではないかと思いました。興味があったのは、DMATに参加している医療者はそれぞれの病院や施設で働いているのですが、集合が掛かったときは、施設長は迅速に許可を与えなければならないという決まりがあり、帰ってきた時もきちんと休暇が取れるなど、支援をしないといけなくなっています。この辺りは日本でも大分出来るようになっているようですが、実際はどうなのでしょうか。ただ、先の東日本大震災の時に、当時おりました兵庫医科大のDMAT対応では組織として適切に対応されていたことを思い出します。

最近の我が国の続いて起こっている大災害(ディザスター)への対応を見ながら、20年経ってDMAT自体はよく組織され、迅速な活動が紹介されています。ただ、直接災害医療には関わっていないものがどうこう言う資格はないでしょうが、我が国が行政(省の壁を越えたもの)や医師や医療専門職のプロフェッション集団の取り組みとしてはどうなのか、と感じられずにはおられません。こういうと関係者からお叱りを受けるでしょうが、我が国では阪神淡路大震災以降、厚労省や学会関係者が組織作りを進め、独立行政法人国立病院機構に災害医療センターという中央組織を作って研修制度を進めています。ただDMATとしては、中央と各都道府県別の組織構成になっているようで、この辺りで都道府県という壁が出来ない仕組みが取られているとは思いますが、狭い日本での都道府県という枠組みはどうなのかと思ってしまいます。
 
人材養成ということではいろいろ勉強させてもらいました。最後に質問させてもらったのですが、いわゆる専門医制度との関連です。これは適切な質問だったのか、君は分かっていないな、となったのかもしれません。ですが、災害医療に参画するのは、例えば救急医といった何か直接関与する専門分野が主体ではなく、総合的な医療チームの構築が要であることを強調されていました。全くその通りだと思い、認識を新たにしました。人材養成は日本でもDMATというなかで研修制度が進められているようですが、さて医師(専門医を含め)の参画はどうなるのか。ここは平出教授のこれからの活動にも関係するのでしょう。これか始まる新たな専門医制度で災害対応の教育を何処で取り入れるのかの論はこれからと思います。ある特定の専門医制度に入れるのではなく、関連する広い分野がその研修カリキュラムに、{災害医療}、をどう取り組ませて行くのか注目されます。

2時間のシンポジウムでしたが、大変勉強になりました。医療人育成という私の神戸での仕事にも関係することから、今後も平出近畿大学教授の活動を見させてもらいたいと思います。なお、コルテ教授の話が紹介出来ませんでしたが、次の機会に考えます。