2015年4月25日土曜日

大阪で日本循環器学会開催


 

   しばらくご無沙汰しておりました。桜も大方ちってしまい、ツツジがきれいに咲き始めています(もう散り始めてました)。このブログについては、学会シーズンで忙しかったなことや、神戸の財団の近くで直接関係はないのですが生体肝移植手術のことで騒々しくなっていたこともあり、投稿が遅れてしまっていました。


  さて、学会としては日本環器学会総会が大阪で開催されていて、初日の朝からの会長特別企画に参加してきました。「日本における心臓移植の歴史と今後の課題」、というセッションで、国立循環器病研究センターの川島、北村両名誉総長の司会という豪華版でした。5人の現役の方々の発表の後、私は日本心臓移植研究会の立場で、そしてもう一方は小柳仁東京女子大名誉教授で、二人に5分ずつの特別発言の機会が与えられていました。

  心臓移植が再開されてもう16年になり、法改正がされて5年ほどです。最近は心臓移植も年間30例を超えてきましたがまだまだ目標の年間200例には程遠く、小児は特に厳しく海外へ送らざるを得ない状況です。一方で、補助人工心臓の発展は目覚ましく、重症心不全の治療体系も大きく変わってきました。とはいえ、末期的心不全の最後の砦の心臓移植への社会の理解がまだ十分ではないというところもあります。とはいえ、心不全を扱う大元の循環器学会がここ何年か心臓移植の啓発にかなり力を入れていて、今回の企画もその一端です。

  さて、以下に私の発表のスライドを紹介し、今回の投稿とします。歴史を振り返るではなく、これからどうしたいいかへの私なりのメッセージです。まさに論点整理から課題解決へで、これを関係者が如何に実践するかです。全体が終わった後、座長の川島先生から、いい発表だったと褒めて頂きました。

 
 
 





2015年4月8日水曜日

岡山大学病院でのハイブリッド肺移植

 脳死片肺と生体片肺を合わせた両肺移植(ハイブリッド移植)

  先日4月4日、岡山大学病院で表記のハイブリッド肺移植が行われた。世界初の手術と言うことで大きなニュースになっていた。岡山大学は前任の伊達先生(現京都大学教授)から生体肺移植の世界のリーダーで、今は大藤剛宏先生が後を継いで素晴らしい業績を上げておられる。大藤先生はこれまでもユニークな移植手術方法を開発して小児の肺移植の新たな道を開拓している。今回も、脳死ドナーが少ない状況での生体移植と合わせたユニークなハイブリッド肺移植はそれなりに評価されるであろう。生体移植も出来ず、また年齢から脳死での両肺移植にも出来ず、今回の脳死片肺移植のチャンスを生体肺移植と合わせないとこの患者さんは救命できなかったと思われます。肺機能の良い大きなサイズの脳死ドナーの片肺が回ってくるには数年もかかる訳で、それまで待てない状況であったわけですから、この方法は十分評価されるでしょう。
脳死ドナーからの肺移植は片側だけの片肺移植と両側の同時移植があります。一人のドナーから前者では左右の肺を別々に二人の患者さんへ、後者は一人だけに移植されます。生体肺移植では原則家族の二人から片側ずつ肺の一部が移植されます。患者さんの体が大きいと生体より脳死ドナーの方が安全に行われます。
さて今回行われた肺移植は、特発性間質性肺炎で肺移植でないと助からないと診断された北海道の59歳の男性患者に、脳死ドナーからの左肺移植と息子さんからの右肺の一部(肺葉)を使った生体肺移植を併せた両側肺移植(肺すべてが置き換わる)です。背景には、55歳を超えると脳死ドナーからの移植では片肺しかもらえない制限があること、生体肺移植は成人の場合で血液型の合った二人の親族ドナーがいること、呼吸不全が増悪しても肺では人工心臓の様な長期に使用できる補助手段がないこと、などが挙げられます。因みに、このドナーからは心臓、肝臓、膵臓、腎臓が5人の方に移植されています(日本臓器移植ネットワークからの情報)。

世界初の意義は別として、この肺移植が移植医療に投げかけた意義について考察してみたいと思います。以下に、医学的な視点から論点を整理します。
    このドナーのもう片方の肺はどうなったのか 使えなかったのか別の方に移植されたのか そして、この脳死ドナーからの片肺は、他に希望者がなかったのか
    生体肺移植と脳死肺移植のハイブリッドを始めから準備していたのか
片肺移植で始めようとしたが、機能が悪そうなので、急遽生体も加えたのか
    脳死ドナーから右肺の提供しかなかったらどうしていたか
    条件の悪いドナー肺としたら、これから十分機能するのか
    55歳という縛りがなければ両肺移植が可能であったのか
等です。
さて、それぞれについて得られた情報から私なりに推察すると、①については対側の肺は機能が悪く移植には適さなかったのではないか。また、移植待機順番が上の希望者はあったであろうが、機能が悪い肺なので辞退した、②については左の脳死片肺移植で待機してそのドナーが現れたら生体も行うことで家族に説明し(倫理委員会の承認も)、スタンバイしていたのでは、③については息子さんの左肺葉移植も準備されていたのでは、④はこれまでの経験から岡山では大丈夫と判断した(記者会見では機能は良好)、⑤難しい設問ですが、年齢制限がなければ両側肺移植で待機したであろうが、それでは間に合わないし、今回は他の施設も条件が悪く両側肺移植は行わなかったであろう、ということになると思われます。
即ち、条件が悪い肺なので普通であれば移植に使用しなかったが、生体と合わせたら乗り切れると判断して、それを活用し見事成功した、ということになる。限られたドナーからの提供で、しかも条件の悪い臓器(マージナルドナー)を最大現に活用する、日本ならでの離れ業といえる。臓器提供に同意されたご家族も満足されているのではと推測されます。

話しがあまり複雑になってもいけないので要約すると、ドナー不足が厳しいなかで移植医療の現場は数少ないドナーとその家族の意志を最大限活用しようと本当に頑張っていることです。素晴らしいことです。そして、ドナー不足の状況では若い方への移植を優先させようということで、肺の場合は年齢の高い人は両肺(片肺では二人分)を使うのは遠慮してもらう、ということです。ドナーが十分出ればこの年齢の縛りも緩和されるかも知れません。心臓では65歳以上(登録時)は移植を受けられません。脳死移植を受けるためには、登録時ですが、年齢制限があることについて社会はどれだけ知っているのでしょうか。ドナーでは原則ですがはっきりとした年齢制限(上限)はおいていません。そして、最後に社会は脳死ドナーが少ないことをどれだけ分かってもらっているのでしょうか、この際ですから背景にあるドナー不足にも目を向けて欲しいと思います。岡山大学の素晴らしいお仕事に敬意を表して終わります。

2015年4月4日土曜日

小児用補助人工心臓、その後



この1月ですが、大阪大学で心臓移植希望の小さな子供さんが旧式の体外循環補助装置を使って脳死となり、御両親が子供さんの臓器提供に同意されました。その後、ご両親はこの小児用の補助人工心臓が何故我が国で自由に使えないのか、メディアを通じて問題提起をされました。国産の小児用はかってはあったのですが、長らく使用できるものがなく、小児の心臓移植を進める上で長期使用が可能なものが不可欠となってきました。そこで、海外でよく使われているドイツ製の小児用補助人工心臓(ベルリンハート)を我が国に導入すべく医師主導型の治験が一昨年から始まったわけです。

しかし、予定していた4例が昨年に済んだ後は、国が健康保険で使えるように承認する手続きが残っていて、今年の夏に最終承認がでるとの予想でした。その間は、使えたくても使えない、という歯がゆい状況があり、また治験の対象が心臓移植の適応判定が済んで臓器移植ネットワークに登録している、という条件がありました。こういう二つの壁があって、移植が必要な心筋症の子供さんも移植までの生命維持に必要な人工心臓の恩恵を受けられずに亡くなってしまうという、情けない事態が起こって来ているわけです。

薬の治験の場合、臨床での治験が終わり、正式な承認が得られるまでは、どうしても使いたいときは、医師の裁量で人道的使用という名目で使える仕組みがあります。しかし、このベルリンハートではそれをするにも使える予備の人工心臓もなくなっていた、という状況と思われます。予備の装置を置くのは治験予算の枠があり、高価なものでは特に難しくなります。企業治験では申請企業が何とかすることもありますが(我が国の心臓移植再開第一例での植込み型は治験後でしたが企業が提供してくれました)、このベルリンハートの医師主導治験は日本医師会が引き受けてくれて全部の費用を出してもらっているのですが、追加はそう簡単ではありません。

こういう中で、学会関係も政府に早期承認やその他の制限の緩和を要望してきました。厚労省もことの重大さを受けとめて、今回粋な計らいをしたようです。行ったことは、人道的使用の範囲を広げて治験要件の壁であった臓器移植ネットワークへの登録という条件を外した(医学的に同等と判断されるという担保はあるのでしょうが)ことと思われます。残る治験費用の獲得ですが、これは日本医師会が追加研究費を出したのかは私には分かりません。

ということで、急に阪大病院と国立循環器病研究センターで続いて2例の植込みが行われたことが報道されました。まずは急場を凌いだということですが、大事なことはこれからです。先のご両親も、小児の心臓移植が進まないと解決にはならない、といった内容のコメントをなさっていますが、まさにその通りです。人工心臓を付けても、行き先は米国、という構図は簡単には変わらないでしょう。

海外渡航移植にお金を出したり、機械の輸入やもの作りには我が国(社会)は積極的です。4月に入って国は新たな組織、国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」を立ち上げました。再生医療や先端的医療機器の開発には随分力を入れるようなるでしょう。しかし、臓器移植、命のリレー、という素晴らしい心の通った医療ではどうでしょうか。その推進の要であります日本臓器移植ネットワークの経費や都道府県のコーデイネーター雇用経費を見ると、厚労省と総務省ですが、本当に僅かの予算しか出ていません。国の新たな機構は沢山投資して事業を活性化させる方式ですが、臓器移植では出来高主義です。今年は何例の提供があったから、それに見合う予算を立てる、というのですから根本的なことで違います。社会実験でドナーコーデイネーターを5年間何倍かに増やし、その結果の臓器提供数の推移をみるという、世界で実証されているシステム改革に予算を付ける余裕もないわけです。これは学会関係がやることではないので、ここは行政の発想の転換が必要なのです。

今回のベルリンハートの問題は、単に人工心臓の問題でなく、医療機器の開発とともに移植医療について考え直す大事な機会と捉えるべきです。また、小児の脳死での臓器提供についても社会やマスコミはもっと関心を持ってほしいと思います。お金を揃えて外国で臓器を頂く、という今のやむを得ない構図が一刻も早く解決し、過去の話になって欲しいです。

先日とった、ポートアイランドでの桜です。

補足: 本年1月に阪大で脳死となった心筋症の子供さんからの肺移植が岡山大学で行われましたが、最近になってこの子供さんが無事元気に退院されたことが報じられています。移植を受けた子供さんのご両親も、提供の決意をされたご両親への感謝と敬意を表しておられるとのことです。良かったです。