2018年1月31日水曜日

専門医制度; 外科系では


今日で1月も終わります、早いです。この1週間は心臓血管外科ウインターセミナーで安比尾高原へ出かけ、つかの間のマイナス10度の中でのスキーを楽しみ、次は天気が良くなっているのを見ながら後ろ髪ひかれる思いで東京の成人先天性心疾患学会へ。ここで、成人先天性心疾患専門医制度の立ち上げの大事なステップを済ませ、一旦帰った後、とんぼ返りで東京。今度は外科学会の専門医制度の会議。ついでに近くにある日本臓器移植ネットワークに寄って日本循環器学会での成人先天性心疾患への心臓移植の発表データーの確認、といったことで慌しい月末でした。ということで、今月のもう一件は専門医制度なりました。
12月の投稿の続編です。

新しい専門医制度がいよいよこの4月から医学部卒後3年目の方々を対象に始まります。世間の、といっても一部の専門医制度反対(改革反対?)の方々ですが、内科希望者が減ったとか大都市集中に拍車をかけたとか、ネガティブキャンペーンを張っているようです。意見の背景を見てみると、総数8300人の中の内科(基本領域)登録者がこれまでのいくつかの調査(卒後3-5年)に比べ減っていることが指摘され、それを踏まえて地域医療に問題が生じるといったことのようです。これは専門医機構も言っているように、比較対象が明確でなく、また卒後3年のこの一回のデーターのみで結論を出す(制度が悪と)ことは当然無理なことであります。地域の医師不足の背景にはもっと大きな我が国特有の医療供給の課題があるわけで、専門医制度がそれを浮かび上がらせたと考えるべきでしょう。

内科の問題{は本来、日本内科学会がきちんとメッセージを出すべきであって、外野が根拠の乏しい議論をしてもあまり意味がないのではと思います。後の外科もそうでしょう。そもそも内科・外科と言ったメジャー領域には医学部卒業生の関心が薄れてきている現状があります。サブスペシャルへの人気が高まっている傾向そのものがいまの学生の傾向とすれば話しは別になるわけです。加えて地域医療のことは、今回始まる総合診療医のことでもっと注目されるべきで、例えば総合診療医への優遇策でもって地域医療を維持する、と言ったことは厚労省が考えるべきではないでしょうか。

さて、一方の大きな柱の外科ですが、会議に出た資料はまだ公表段階ではないのですが、全国の外科系の教授の方々に配布されていてそのうち公表されるでしょうから、概要をここで紹介させてもらいます。外科専門医新規登録は今回の集計(一次と二次)で約800人(全体が約8300人ですから1割が外科へ)が登録し、この数はこれまでの外科専門医制度での数からいうと減っているというより現状維持と思います。何とかしのいでいるようです。問題の大学病院偏重については、市中病院と応募率(定員柄枠に対する登録者)は共に約39%と変わりなかったようで、世間の非難は当たらないという雰囲気でした。ただ、募集定員枠は母数が違っていて、大学病院は約1600人、市中病院では500人弱、計約2000人です。この約4割が埋まったわけですが、別の見方をすれば外科専門医プログラムは大きく定員割れをしているということです。外科の担当者はこれについては無関心で、現状維持と大学偏重でなかったことで結果オーライ、としていますがそうでしょうか。また、1県1プログラム(大学病院だけ)が14地区もあるのですが、約200名枠に35%の応募でこれも他と差は何ということです。この読み方ですが、私は、これは問題と捉えないといけない数と思います。1県1プログラムでは7-8割は埋まらないと実際は困るのではないでしょうか。外科の地域医療に問題が生じる兆しではないでしょうか。全体(204)で44プログラムが応募ゼロでその中には大学病院も幾つかあります。きめ細かい分析、それもピアレビューに耐えるものが要ります。自己防衛ではない分析と対応が求められているということです

外科専門医と地域差のことは、実際どの地域で研修を始めるかを見ないと今の段階でものをいうのは早いのですが、問題点は結構明らかです。プログラムが多すぎる、募集枠を大きく広げている大都市大学講座がある、地域への対応が見た目には努力不足、が垣間見られます。そして執行部の方もおっしゃっていましたが、この中からサブスペシャルに分かれる中で外科の柱となる消化器外科が現実には大変厳しくなる、ということです。現時点ではこの先のことは議論されていませんが、本来サブサブスペシャルをまとめての議論が必要ですが、専門医機構はまだサブスペシャルには手が回らない状況ですので、困ったことです。

最後に、地域の医師確保については、専門医制度をうまく利用すべきですが、難しい背景には、大学医局の役割の二面性、専門分野の自由選択権、病院過多という我が国の医療の特徴、専門医制度の個人へのインセンティブ不足、等でしょう。大学医局は医師派遣で大きな役割を担っていてこの制度でもそこが期待されるわけですが、我が国では大学院教育{研究}という大きな役割を持っていて大学院生が来ないと運営交付金が減らされるし研究成果も出ないので、臨床医育成より研究が重きになります。これが引いては大きな大学{派遣病院が沢山ある}、研究面で魅力ある講座、都会志向、といったことで大学間の大きな較差が生じています。これが悪いとは言いませんが、地方への医師派遣、地域医療での若手医師の派遣、と研究活動維持、の両者をこなすことの難しさを乗り越えないといけないわけです。地方の大学が今回の新制度で更に医師不足{入局者}が減るようになればそれこそ医療{外科}崩壊に繋がりかねないわけです。これを横に置いて進めるのは問題でしょうし、ここでは地方の大学の声が聞きたいです。また、大学プログラムで大きな枠を設けている都市部の大学は{北海道とか東北は別です}、今回の応募率が50%前後ならそれに合わせた修正が求められるでしょう。

専門医制度をないがしろのにすれば医師の生涯教育のスタートが弱くなりますし、引いては将来に禍根を残しかねません。また、内科や外科と言っていますが、20年先にはこういった専門性は大きく変わるでしょうから、そういう視野で柔軟な対応もしないといけないでしょう。20年前の枠から出ていない現状も深刻な問題で、現実と将来のギャップも感じるわけです。敢えて言えば、サブスペシャル領域はそれこそ将来を見据えて柔軟に対応できる仕組みを今用意しないと現状の課題を後送りするだけで将来に禍根を残しかねません。

1月はこのようにばたばたしていましたが、2月以降は反動でのんびりできるでしょう。


2018年1月13日土曜日

阪大の入試判定ミスに思う

例年、センター入試になると寒波襲来がニュースになりますが、関西も本当に寒いです。ただ風は強くなく一見穏やかな気候ですが山間部は大変でしょう。センター入試、受ける方も実施するほうも大変でしょうが今日明日と無事済むことを願っています。
さて、大阪大学は昨年の入試判定ミスで世間を大変騒がせていて、同窓生としては心苦しいです。確かに事後処理では遅れを取ってしまい、危機管理としては低レベルであることは明白でしょう。今になって合格追加といっても当事者には複雑な問題をもたらしていると思われます。昼のTV報道番組では大相撲の次は阪大入試、といった感じで、女性キャスターが、18歳の若者の人生を狂わした、取り返せないのですよこの1年、と声を上げて阪大を非難しています。確かにそうかとは思いますが、一部のコメンテイターからは、本人は前向きに考えて欲しい、という声もありました。阪大の非は非で認めて責任を取ってほしいですが、当事者には自分の将来をよく考える試金石として捉えれる目向きの対応をして欲しいと思います、道が開いているのですから。
この入試判定ミスで思うのは、以前に学長ブログでも書いたと記憶していますが、大学にとっては、特に教員ですが、試験問題作成は大変な負担で、本来の仕事にかなり影響する行事といってもいいでしょう。毎年新しい問題を作ること自体も大変で、無理をすると正解が複数出たり誤った解答を作ったりする危険を孕んでいます。そのために、予備校に問題作成を依頼することも多いわけですが、経費の問題と大学自身の選抜試験への考え方、などから丸投げ一辺倒にはならないのが現状でしょう。今回の物理の問題作成でも研究者としてのスタンスと問題作成という雑用的なものとの棲み分けが曖昧であったのかもしれません。共通一次が種々の問題がある中でも定着していることから、大学独自の問題作成、試験の在り方はそろそろ考え方を変える時期かもしれないのではと思います。論文形式の問題を主体とすれば解答ミスは行らないでしょうし、学力に何かプラスするものを持った人を受け入れ、教育していく、ということも大事でしょう。こういった仕組みを取っている大学や学部はすでにあると思います。私の勉強不足ですが、私学系で進んでいるAO入試方式がそれにあたるのかとは思いますが、今後は国立大学での対応が注目されます。後述。

この点で言いますと、共通試験(センター試験)の在り方として、今のものから今後はいくつかに分化させたものを作ることも、国立大学や中でも医学部では考慮したらどうかと思います。単に試験判定ミスを防ぐのではなく、教員の負担を減らし、より高いレベルの(難易度だけではなく)選抜試験を作ることはどうなのかとも思います。わが国では大学入学選抜試験の背景には偏差値が大きく関与し、面接や論文での選考過程はあるにしろ、試験点数が絶対的であります。しかも、定員が決まっていて、入学させたら何としても進学、卒業させるのが役割となっています。医学部でいうと、面接はあっても形式的で、医師としての適応性は入ってから分かってきます。東大理3での医学部進学選抜は別の意味でのステップですが、学力の世界です。少し余裕をもって入学させ、専門課程に進む前に選抜するくらいの試みをやるところは出てこないのでしょうか。これも、教養課程がなくなり、専門教育が前倒しになっている現状では難しいでしょうか。途中での共用試験がありますが、それに不合格になってからの進路変更は遅すぎることもあります。今回の騒動でも、若い人に1年の意味に拘った報道がされていますが、何かわが国の教育制度には余裕がないのではと思ってしまいます。これでは社会人になっても余裕がない人が多く出てくるのではと思います。
今後、大学入試判定ミスが出てこないように願うばかりですが、今回のことから、大学を一方的に非難する以外に、背景の分析と問題点を出して、入試制度の改革作りの一歩になればいいと思いますし、大阪大学が後始末だけで終わらせず、入試にあり方そのものについて見識ある対応を取ってほしいと、同窓生の一人として感じた次第です。

もう一点加えるなら、阪大が大学評価でトップ2に水を空けられているなかで、これはかなりの痛手でしょう。危機管理としては最初の記者会見に総長が出ていなかったことは理解できませんし、ここから悪循環が始まります。病院での経験からの感想です。大学の高度の研究を進める研究者である教授の役割をよく考えないといけない面もあるはずです。阪大執行部体制や問題の教授の肩を持つつもりは毛頭ないですが、ここでさらに大学評価を下げるようなことにならないような根本的な問題の洗い出しと斬新的な対策が出てきてほしいですね。

新春放談のような無責任な話で恐縮です。

2018年1月9日火曜日

明けましておめでとうございます。


  皆様、新年明けましておめでとうございます。と言っても、もう松の内も過ぎていますので、何か正月ボケのような感じでしょうか。年末もきちんと締めの原稿も書けずに年が変わってしまい、何かだらしない年越しでした。特に話題もないなかで、今年の目標なるものを掲げることも大事かと思うのですが、年末の締めも出来なかったように、もう何か惰性で生きていっているのかと思います。とはいえ、何か目標を立てることはこの歳でこそ必要なことかと考えるとことにします。

私のこの10年ほどの活動の軸でいいますと、臓器移植、新専門医制度、成人先天性心疾患、人工臓器・医療機器開発支援、そしてシミュレーション手術トレーニング、等になるかと思います。臓器移植は法整備20周年記念も終わり、イベント的なことから本来の地道な普及啓発と重点施策の推進が必要です。今年も都道府県コーデイネーター増員に向けて兵庫県で継続して動くつもりです。新専門医制度はいよいよ基本領域がスタートしますが、私の関心はサブスペシャル領域の動きで、専門医機構がここに入り込む余裕がないなかでどう独自路線を進めるか、正念場と思います。3階部分に当たる成人先天性心疾患専門医制度を立ち上げるべく準備中で、今月後半の同学会で概要を提示できるはずです。成人先天性心疾患は専門医制度とも絡みますが、この複雑な疾患群の診療のなかで最も遅れている心臓移植については、自分なりにまとめた現状分析を3月の日本循環器学会のシンポジウムで発表する予定です。因みに、昨年はこのテー、で英文とその和文版を学会に採用されました。

人工臓器関係では植込型補助人工心臓の永久使用が始まるかもしれませんが、どのようなスタートを切るのか注目されます。社会の理解と支援を如何に得ていくかがリーダーに課せられた課題でしょう。医療機器開発では、神戸市での現在の活動をさらに推し進めるにはどうすればいいか、正念場の年です。最後の手術シミュレーション(OFF-JOB)トレーニングは、福島(福島県)中心にいま進めているプロジェクトの拡充が課題ですが、これまでのまとめを5月のアジア心臓血管胸部外科学会(モスクワ開催)へ演題提出をしているので、採用になれば行くことになります。

以上が目標というか今年の予定であります。それぞれ少しでも進めていければいいのですが、その前向きな所とは反対に自分の出来る限界も知らされるという逆の面もあるので、沢山あると喜んではいられません。重点を置くことが大事のようです。
一方、余暇の使い方では、整形外科医からの許可が出るかどうか微妙ですが、この冬のスキー復活、そして春からの自転車、でしょうか。両方とも下手をすると寝たきりや車椅子になりかねないので、安全第一に心がけることをここで表明でもしないと許されないと思われます。しかし、この半年、自分なりにこれまでにないくらいしっかりとリハビリと筋トレで頑張ってきたので、それなりの主張は出来ると思っていますが過信は禁物ですね。


といったことで今年の第一報にします。段々密度が薄くなってきているので、いつ止めてもいいと思いますが、もう少し頑張ってみようと思います。実は、今世の中を賑わしている阪大入試ミスについて書こうかと思ったのです、初っ端にしては面白くないので次回にします。今年も宜しくお願い申し上げます。