2019年3月31日日曜日

横浜から 日本循環器学会に参加



 平成時代の幕切れも近い中、今日は3月の最終日。先日より横浜での第83回日本循環器学会に参加している。1万人以上の参加がある巨大な学会で、ほとんどが循環器内科医で外科医の参加は少ない。近年、外科手術にとって替わるカテーテル治療がいくつか登場し、この学会でもホットな話題となっていて、こういう状況を見ると心臓血管外科医の将来はどうなるのか憂いたくなる。内科医の行う低侵襲手術(?)も時代の流れであり、innovativeな治療法の開発は大事である。しかし、低侵襲の名のもとで不完全な治療であれば長い目で見て問題がでてくる。心臓外科医として遺残病変の少ない手術を心掛けてきたが、今の弁膜症へのカテーテル治療はしっくり来ない。心臓への再生医療の話題も多く、この分野の著名な海外招請演者の講演もあるが、内外の研究成果を見ても総じて実臨床で成果が近く期待されるものは少ないのではないか。心筋細胞が新たに出来るなり誘導される、というエビデンスはまだまだ乏しい。細胞治療即ち再生医療、と定義づけしていることも一般の方々への誤解を生むのではと思う。
今回、横浜での学会で参加したセッションは、心不全治療としての再生医療、成人先天性心疾患の画像診断、経カテーテル大動脈弁留置(TAVI)時代の外科的弁置換の役割、心不全の在宅医療ネットワーク、左室補助装置、などあった。自分なりに知識のアップデートと課題の整理は出来たと思う。ただ、外科医として参加しているのは殆どがシニアークラスで、若手を見かけることは本当に少ない。若い人は時間的にも経済的にも苦しく、こういった内科系の学会参加は敬遠されているし、外科の枠もかなり限られているので仕方がない状況である。昨年は外科医が会長であったので、内外の外科医が結構集まり賑やかであったが、今年はまた元に戻ったのか。
さて、今回紹介したいのは学会中に行われた日本心臓移植会の幹事会である。そこでは、昨年の心臓移植の集計の紹介があった。近く、研究会のホームページで公表されるものである。心臓移植は総数428例になり、2016年以降やっと年間50例を超えたが、20172018年とも5655例と頭打ちである。脳死での臓器提供も2017年は75件であったものが昨年は66件と減少している。昨年の移植例の待機期間でみると、2015年までは3年以内が殆どであったが、昨年は4年以上が半数を占め、ついに5年以上の方が2例出てきた。大変なことである。この異常な待期期間は埋め込み型補助人工心臓の普及のお蔭ではあるが、一方では待機中に亡くなられる方も多いという実態があることを知らなければならない。毎年150人以上の新規登録患者さんが出てくるが、待機患者数が500人を超えていることは、臓器提供が年間50件であれば、新たに登録した患者さんが移植に到達するには10年かかる計算になる。しかし、その間沢山の方が亡くなっていく現実がある。やはり、脳死での臓器提供が年間200件超えるようになって欲しいと思わざるを得ない。何とかしないと。
一方、小児の臓器提供は18歳未満でみると昨年は7件と徐々に増えているが、6歳未満はこれまで4件、昨年は2件であった。移植数では、10歳未満は4例と過去最高となった。なお、渡航移植の数は含まれていない。子供さんからの臓器(心臓)は心臓移植待機中の子供さんに優先的に贈られるが、待期期間は最長で1,700日を超えている。補助人工心臓装着例でも平均約700日である。小児の待機患者の数は今回出ていないが、大人以上に長期の待機は小児には厳しい状況である。
さて、今回の集まりで一つの提案をさせてもらったことがある。それは、わが国の心臓移植は小児においてはいまだ多難の時代が続いているなかで、研究会として何かできないか、ということである。依然として巨額の募金のもとで渡航移植が行われ、その背景には言うまでもなく小児の脳死からの臓器提供が非常に少ないことにある。関係学会、行政等がこの問題について課題の分析、対応施策の提案等が進められているが、小さな子供さんからの臓器の提供には、成人ドナーの場合より一層の社会の理解と支援が必要であることは明白である。そのためには、小児の心臓移植を受けた子供さん達がどう発育し、学校に通い、家族と幸せに暮らしていることを社会に知ってもらうことが不可欠と思う。渡航移植の子供さんは表に出てきますが、国内で受けた子供さんたちはどうなのか。周囲に受け入れられ、普通に学校生活や発育をしているか、社会に知ってもらうことが大事です。それが小児心臓移植への理解を支援につながる第一歩となることから、研究会で小児心臓移植の社会的な面を中心に実態調査をするよう提案した。この秋には第一報が出ればと思っている。
ということで、今回も臓器移植がメインになってしまった。横浜では桜はもうすでに満開で、帰りは桜並木を通って帰ろうと思う。明日は新元号の発表、時代は変わっていく。