2019年4月25日木曜日

専門医制度が大変なことに


新しい専門医制度が昨年から開始され、19の基本領域の研修が2年目に入る。懸案のサブスペシャル(以下、サブスぺ)領域は来年度から開始であるが、この時期になって混乱が生じている。サブスペは来年度から3ないし4年の研修期間で始まるが、基本領域(1階)の3年の修練中にサブスぺ(2階)の臨床経験となり得るものは前倒しでサブスぺの研修実績にカウントされることとなっていた。基本とサブの連動研修である。このことは専門医機構のもとで長年の議論の後、各専門医制度(主に内科専門医と外科専門医)で合意されていた。ところが、今大きな混乱が生じている。国がこの連動研修に待ったをかけたのである。昨年7月に発表された医師法改正で、初期臨床研修とともに専門(医)研修についても厚労省の権限が追加され、この4月から施行されることである。具体的には、従来は医師等の処罰に携わっていた医道審議会が専門医制度も扱うこととなったのである。新専門医制度において、国が研修の機会確保や地域医療の観点から、日本専門医機構に対して意見を述べる仕組みを法定したということである。

専門研修に厚労大臣・都道府県知事の意見を反映させ法律上の仕組みが無い。
医師法上、以下の仕組みを位置付ける。
国が認めた団体(専門医機構と基本領域学会)は、厚労大臣の意見を聴いたときは、医師の研修に関する計画の内容に当該意見を反映させるよう努めなければならない。

このようなことになった背景は、新専門医制度によって若手医師の都会への偏在が助長されるという地方の行政から反発であった。プログラム制が大学や大病院中心であることへの反発である。こういう中で、新たな専門医機構はガバナンスの低下からその自立性を失い、行政が乗り込んできたのである。医道審議会に、医師分科会の下に医師専門研修部会が出来、これまで何回かの審議が行われ、3月の部会で、基本領域の修練中にサブの修練を開始することに疑義が出され、従来の決め事(専門医機構と専門医制度を持つ学会等の団体)であった連動研修に待ったが掛かった。

日本専門医機構が新制度作りの過程で、私は前の認定機構までで役割を終えているが、基本領域研修の進め方そのものの整備に時間がかかり、また地方行政等から大学主体の制度では地域医療が崩壊するという意見から時の塩崎厚労大臣が新制度の立ち止まりを指示する談話を発表するに至っていた。その後、機構の体制も大きく変わり、執行部のガバナンスが問われる中で、医師法改正まで進んでしまったのである。学会のオートノミーは形骸化され、医師の生涯教育制度まで国が権限を持って仕切る事態に至った。結局、専門医制度にことかけて厚労省が医師の生涯教育制度を自分たちの支配下にしてしまったとも言える。

私が以前から危惧していたことが現実になったといえる。(このブログの20171119日の記事;医師偏在を法改正で、参照)。それは、新たにプログラム制を導入することで、学会や医師自身が自分たちのことばかり考えて専門医制度を進めると、医師の専門性と地域からみた偏在を助長させ、そのうち社会からバッシングが来て、行政が仕切ることになる危険があり、新制度作りにはそうならない配慮をすべきと言ってきたからである。現実にはこの意見は医師達や学会側から、自分たちの世界にお上主導を入れるとはとんでもない、と切り捨てられた。そして、プログラム制を大学講座主体にしてしまった結果、地域医療崩壊という声を出さてしまった。厚労大臣の鶴の一声でいったん立ち止まり、そして今の法律改正まで進んでしまった。悪い予測がその通りとなってしまった。

勿論、国の方針は医療環境の整備という点では至極正当性があり、国民目線でも妥当なことばかりである。私も、連動研修という前倒しは正直如何なものかと思っていて、もともと心臓血管外科のようなサブは脳外科と同じように1階に下がってもおかしくないと思っている。一方、自分たちのところが他より数年でも早く専門医資格が取れる、と言って各基本領域専門分野の教授が医学生を勧誘するのがまかり通っている。早くと資格が取れるはイコール未熟、となる。かといって何故内科と外科で連動研修が必要となっているか。1階の研修が疎かになるものではないと専門医機構はしっかり代弁してくれないといけないのでは。内科や外科の基本領域修練(研修)の役割と、他の基本領域とは異なった背景、即ちサブスペシャル領域との密接な連携があって成り立つの制度である(少なくとも外科は)と何故しっかり説明してくれないのか。

確かに新たに出来た専門医機構のガバナンスに問題があり、学会からもその指導性が問われる事態を作ってしまったことも今の混乱の原因でもある。しかし、法律が出来てしまったからといって流されるのではなく、聞くべきところは聞き、言うべきことは言う、というスタンスが大事ではないか。専門医制度の本質を忘れないように、学会の為ではなく、若い医師をどう育て、医療の質の担保とその発展のために関係者は制度作りを進めて欲しいと痛感する。

最後に、医道審議会の医師専門研修部会のメンバーをみると、県知事2名、日本医師会から2名、自治体の長2名、病院関係が数名、などであるが、文科省関係は岡山大学の地域医療人材育成講座の教授のみである。国立大学医学部長・病院長会議のメンバーはないし、専門医機構もオブザーバーのようである。若手医師の生涯教育をどうするかという視点での議論が今後どう進むのか、僭越ながら大変危惧される。

以下、厚労省が出している法改正のポイントを紹介する。