2019年12月31日火曜日

心臓移植の総数が500例を超えました


今年も大晦日となりました.  前回の投稿でもう終わるつもりがどうしても伝えたいことがありますので最終投稿#2です.

締めくくりは心臓移植となりますが, この12月で心臓移植を受けた患者さんの総数が500例を超えました. そしてそれを可能とした脳死での臓器提供はこれまでの総数で666例なります. 再開から20年もかかりましたが素晴らしい成果と思います. これは当然ですがドナーとそのご遺族の方々の尊いご意思があってのことで, 深い尊敬と感謝の気持ちを新たにしています. そして, 臓器提供に関わった提供施設関係の多くの方々とドナーコーデーネーターの献身的な働き, そして臓器移植ネットワークのご尽力のお陰でもあります.

2010年の法律の改正後, 毎年の脳死での提供数も着実に増加し, 今年は12月21日で96例の脳死での提供があり, 年末まででは100例に達するかも知れません. 心臓移植も84例とこれまでの年間数の最多です. 年間たった数例でもがいていた頃のことが嘘のようです. 時代も変わりましたが, この勢いで心臓移植が年間200例を超え, 待機期間がせめて2年程度で収まるように早くなることを祈念してこの投稿を終えます. 2020年は心臓移植の新たな時代の幕開けになりますよう祈念します. 皆様, 良いお年をお迎えください.

追伸;前回の人生会議の話ですが, そのなかで紹介した神戸市で行われた市民公開講座「もしものときのための人生会議」について神戸大学腎臓内科の吉川美喜子先生が神戸大学のHPに投稿しておられますので紹介しておきます.

http://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/index.html


2019年12月26日木曜日

人生会議


何となく過ごしている内に今年も後5日となりました. 12月の終わりなのに全国的にひどい雪不足で, 北海道以外のスキー場からの雪情報は殆どなく, 例年12月の終わりには長野に出かけているのに今年は何処にも出かけていません. 筋トレの成果を,と思っていますが空しく時は過ぎていきます. 1月末から2月に掛けての計画は大丈夫と思いますが, 何とも気の抜けた年末です.
今年の学術的な活動を振り返ると, かなり濃厚であったと思います. この年で何を今更という所でして, 最後のあがきかも知れません. 国際学会でいうと, 4月のトロントでの米国胸部外科学会と10月のイタリアでの補助循環系の学会で, 共に聞くだけの出席ですが, 現状と今後の展開への情報収集には十分価値がありました. 米国胸部外科学会では阪大の後輩の発表にも立ち会ったりして若手との交流もしっかり出来たようです. 国内では前回紹介した人工臓器学会での発表も今年の成果として十分だったと思います. また, その前に紹介した日本心臓移植学会での発表も記憶に残るものでしたが, その内容を論文にまとめて日本移植学会の機関誌「移植」に投稿し採用されています. 2019年度の最終号にon-lineで掲載されるということです. 論文書きもそろそろ終わりだとは思いますが, 自分としてはしっかり書けたと思っています. 英語版では, 先の国際人工臓器学会で学会機関誌の編集長から, 我が国の心臓移植と補助循環について歴史を含めたレビューを書くように頼まれていて, 今はまだ資料集めの段階です. 3月までには終えたいと思っていますが, ハードルは高く頑張れるかやや心配です.
論文ではないですが, 日本心臓財団と日本循環器学会が発行している循環器系の雑誌「心臓」に対談が掲載されました. Meet the Historyというのが年一度企画されているようですが, 今回は日本での心臓移植再開に巡り会った私と, 循環器学会の重鎮の北里大学名誉教授(循環器内科)の和泉徹先生との対談でした. 結構の時間を掛けての対談でしたので, 移植再開から現状の課題までしっかり議論した内容が詰まっていると思います. もう20年前のことなので, 皆さんの記憶が薄れていたり, 若い人は実情を知らなかったりするなかで, 我が国の心臓移植を振り返りながら現状を理解する上で役立つ読みもであると思います.
自分のことばかり並べて面白くないので, 本来の姿である医療事情関連の話しで今年も締めくくりたいと思います. そのテーマは「人生会議」です. 臓器移植関連で私が関わっているものに, 兵庫県臓器移植推進協議会があり, 2回市民公開講座をやっています. この秋のテーマが,人生会議, でした. 「もしものときのために, 人生会議」, 最後まで自分らしく生きるには?というものでした. 救命救急センターの先生と大学病院の緩和ケアを看護師さんのお二人の講演でした. 終末医療における自分の意思をどう前もって家族に伝えておくか,という話しで, アドバンスト・ケア・プラニング (advanced care planning, ACP)として医療者の間で広まっていて,特に緩和ケアで最近使われているものです. 一方, 突然の脳障害で訪れる終末期の選択肢として, 臓器提供があるわけで, 臓器提供が中々進まない我が国でこのACPを広めることで新たな展開が出来ないかという背景があります. このACPを一般に分かり易く広めようとして厚労省が作った名称が,人生会議, なのです. といわれても何かピンとこない言葉なのですが, 最近マスコミで大きく取り上げられました. ご承知のように, 普及のための厚労省が作ったPRポスターです. お笑い芸人の方が酸素吸入をして苦しい顔をしている写真を大きく載せているものです. これを世に出そうとしたとたん, がん患者さん団体が抗議して厚労省は引っ込めてしまうという事態になりました. 患者や遺族を苦しめるものである, という意見で賛同者も多くなったようです. がんの末期を想定したように取られ, がん=死, を連想させるというのが抗議の趣旨だそうです.
これには賛否両論があったということですが, 皮肉にもというか, このニュースのお陰でこの人生会議のことが世に知られるようになったことは逆に良かったのでは思います. さて, このがん患者さん団体からの抗議についてですが, 私はどう思うかを問われたら, それは表面的なことに拘っていて, また直感的に判断していて, メッセージの本質を理解していない,のではと、思っています. がん患者さんの気持ちを逆なでする気持は全くなく, がんになった時もこのACP(人生会議)は自分の生き方をどう考えるかの助けになる,というふうに理解してもらえないのかと思っています. ポスターの見た目だけで判断するのはどうかと思うのです. だれもがんの患者さんに苦しいときに人生会議をせよと言っているのではなく, 普段の生活の時に前もって(アドバンス)話しておくのが人生会議であることを誤解されていると思います. 次にどんなポスターが出るのか興味がありますが, これ以上のインパクトのあるものはないのではと思います. 一方, 臓器提供の意思についても人生会議の対象になることをどこかでもっとアッピールして欲しいです. そこには, 意思は後で何度も変えることができること, を十分周知することも大事です.
といったことで, 今年は締め括りたいと思います. 来年も宜しくお願いいたします. 皆様, 良いお年をお迎え下さい.