随分寒くなりましたが、皆様お変わり御座いませんか。
さて、医療専門職者の生涯教育のフォローが遅れています。気になっていたのですが、最近注目されているシミュレーター看護教育の紹介で続編の一つといたします。
その前に私が昨年より理事長をしております公益財団法人神戸国際医療交流財団について紹介しないといけません。この財団は肝移植の田中紘一先生が我が国の進んだ医療や医療機器の国際展開を図る目的で設立され、そのかなで医療に関わる人材育成が大事な仕事となっています。補助金を頂いて活動するもので、東南アジアなどから医療技術習得で来られる方の支援を進めてきました。理事長職を私が引き継いでからは、ポートアイランドで新築された伊藤忠メデイカルプラザを新たな活動拠点にし、この10月から事業展開を図っています。そのなかの医療人育成事業として、患者シミュレーターを導入しました。米国製の高機能患者シミュレーターで、バイタルサインがチェックでき、いろいろなシナリオで操作ができます。臨床現場を想定して実践能力を高めるために、患者さんで訓練するのではなく、こういったシミュレーターを用いた教育(シミュレーション研修)が盛んになってきています。医学部、看護学部、薬学部などでは学生教育に必須となっていますが、一方では資格を取った後の継続教育、生涯教育、のツールとしても重要視され、欧米では医療専門職教育の中で確固たる位置を築きつつあります。
さて、先日は看護のシミュレーション研修の第一回目を行いました。チーム医療のための看護実践スキルアップ研修というもので、中堅病棟看護師さんが病棟で患者さんの様態がおかしくなったときにどう対応するか、というシナリオでした。異常サインに気づき、観察とアセスメント、そしてナースコール、初期対応、そしてドクターコール、的確な報告という一連の流れを想定したものです。私はシミュレーターのシナリオの移行を備え付けのパソコンから捜査する役です。5-6名の少人数で行い、消化管出血を想定したシナリオです。患者さんから息苦しいというナースコールがあって、個室の病室(ICUではない)に訪問し、異変についてどう把握し、次に進めるかを一人一人がまず実演します。ほかの参加者は観察者ともなり、それぞれの看護師さん役の対応について議論(振り返り、デブリーフィング)していきます。初期設定の場面で一回りし、次に出血性ショックが進行しドクターコールで終了する二回目を行い、最終的にまとめの総合討論、めとめ、を行います。結構議論する時間がとってあり、参加者は自由に意見を言うことが大事で、ファシリテーター(企画から実施まで、急性・重症患者看護の専門看護師と認定看護師の方にお願いしました)がまとめていきます。個人の対応の悪いところを指摘するのではなく、どう気づいて行ったかのプロセスを大事にし、最終的には出血性ショックに限らず、病室で急変した患者さんへの対応に自信を持って帰ってもらうのが趣旨です。何でもナースコールを押して先輩看護師に応援を求めるだけでなく、状態の把握に基づいて行うことで、遅れないで適切な時期に応援を呼べるようになる、というのが目標です。自信を付けてもらうのが目的です。
夜間や休日では詰所への応援コールやドクターコールは容易ではない環境が新人や中堅看護師にあります。何でこんなことで呼んだのかとか、自分でしっかり対応してから呼びなさい、と言われることも少なくありません。一方、何でもっと早く呼ばなかったのか、という先輩や担当医師の叱責も出てくるので、現場の看護師さん(新人看護師や研修医もそうです)には大変悩ましいことです。基本は遅きに失する状況を絶対回避しないといけないのですが、今回の看護シミュレーション研修は最初の観察で急変であるということをいかに早く把握するかのレーニングでもあります。急変の把握の仕方も最初に講義し、途中の振り返り時にもう一度確認するということをしていきます。何でもいいから早く応援を呼ぶのも困るのですが、かといって大事になる前に呼んでほしいわけです。大事なのは呼ばれた方も一緒になって状況の把握をして、適切な対応に繋げて欲しいわけです。そして応援を呼びながら状況の把握と初期対応が求められます。
この研修はチーム医療のための、と銘打っているところが大事です。師長さんや医師の側も、不要な未熟な報告をただ非難するのではなく、ともにスキルアップを図って的確な対応(看護師の応援からドクターコールまで)が出来る環境を作っていく上でこのような研修が役立つものと思います。臨床現場で多職種が連携してチームのレベルアップを図ることが大事であり、そういう意味では先輩看護師や医師の対応ひとつでネガテイブにもなりポジテイブにもなるわけです。上級医師と研修医の関係も同じであると思います。チーム医療というコンセプがなかった時代の昔の自分を振り返りながら、感慨深くこの研修を眺めていました。
臨床での生涯教育を進める上で、このようなシミュレーション研修はこれから大事になってくるものと思います。看護研修はこれからの2回目、3回目と続きますが、我々もスキルアップして進めていきたいと考えています。
当財団は、既に心臓血管外科の若手相手に冠動脈バイパス手術のトレーニング(BEATというシミュレーション機器)を別に始めています。これらの企画などは財団のHPをご覧ください。http://www.kobeima.org/ 今週は摂食嚥下サポート相談室と冠動脈バイパスの2回目(2回で1コース)が行われます。