2017年3月28日火曜日

金沢レポート、その2

日本循環器学会のトピックス、第二報です。
3月も終わりになってもまだ寒波が来ていて、昨日は栃木県で高校山岳部の訓練中に雪崩事故がありで沢山の若い命が失われている。ファミリースキー場(名称)のちょっと奥の山の斜面で起こっているから痛ましい。最近のバックカントリースキーでの遭難は自己責任の問題ですが、今回の高校生の雪崩遭遇は沢山の高校山岳部やワンゲル部を集めた公的な訓練であり、指導者の責任問題になるのではと思われる。とは言えスキー場は雪山と隣り合っていることを改めて知らされたということで、スキー関係者としても肝に銘じるべきことある。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
金沢の追伸は、再生医療、医療事故調査、そして心不全緩和医療。心不全への再生医療最先端的とした国際セッションでは、英国からの招請講演者からは心筋障害発生と予防に関連する新しく発見された蛋白についての紹介であった。マウスの虚血・再灌流障害の防止に関する実験で、詳細はついていけない基礎的な話であったが、私が現役時代に取り組んだことでもあり、これは永遠のテーマだなという感じであった。心筋梗塞の早い時期に血流再開だけでなく薬剤の介入で障害が減らされるわけで、臨床応用が期待される。遺伝子治療やiPS等と違ったやや古典的であるが、原点の研究スタンスである。阪大からはお得意のiPS細胞での心筋再生治療の話しで、主体は癌化しない細胞をどうして作るか、危ない細胞をどう見分けるかの話しであった。熱演だったが内容が盛りだくさんで時間オーバー、座長から時間ないので討論は無し、次の演題、となった。制限時間を守ることがいい発表の基本ということを忘れてはいけない。
教育セッションの一つのテーマが医療事故調査制度であった。この問題は長らく自身も関与してきたものでこのブログでも何度も紹介しているが、制度が始まっても実際なかなか進展が見られない現状がある。今回は、九州大学法医学の池田教授が演者で、診療関連死届け出についての講演であった。そもそも診療関連死については明治時代の医師法21条が問題の根幹でもあるが、それに加えて診療関連死について日本法医学会がこれを「予期せぬ死亡」、という定義をかなり前に発表したことも混乱の背景にある。日本外科学会で医療事故調査モデル事業を始めたときも、法医学会と議論した経緯がある。池田教授は、この問題では心臓外科医とやりあった、と紹介していたが、今回の医療事故調については法医学会として国や日本医師会と医師法21条を外すことで合意していたのに、蓋を開けたらそうではなかった。日本法医学会はこの制度に反対である、など日本法医学会理事長としては過激な発言もあった。結局、医療事故調の現状の解説ではなく、背景にある問題の解説と私的苦言であった。ではどうしたらいいか、については大学の法医学教室に相談しろ、病理解剖やCTで対応する、ということであった。講演はどうも非現実的な話で個人的な経験話が多く、教育講演としては些か疑問の残るものであった。質問する機会を逸したのでフロアーで質問したが、問題点は共有できたが、前向きな話にはならなかった。聴衆はどう捉えたのか、混乱させた方が大きかったのではないか。ただ、日本では医療事故でも法律上業務上過失傷害罪該当するが欧米法では医療ではこれが当てはまらない、という紹介もあった。欧米では、医療、医師、が社会から信頼され、また医療が不確定なものである、ということを長年の歴史で社会が知っているということであろう。法医学者はこの違いを紹介するだけでなく、我が国で改革は出来ないのか、質問したかったことである。
心不全の緩和医療のセッションもあった。緩和医療は癌の話しだけでなく、心不全でも現実となって来ている。循環器医療でも対象が高齢化し、新しい薬やデバイス治療も進み、医療・ケアがどんどん先に進むが、その後の到達点のことは無関心であった。今や心不全でも緩和医療が必要となってきている。先駆的な試みをしている東京のクリニックの話しはこれからの心不全の緩和医療のモデルとなるであろう。また、ここでもハートチーム(チーム医療)の必要性が問われる。見かけだけでなく、科学的根拠の上に心の入った、患者目線、家族目線、での緩和ケアが今後の課題である。補助人工心臓での緩和ケアの話もあるが、一般の心不全では心臓が弱ってくるが補助人工心臓では心臓は弱らない。別の倫理と法的な課題が残っている。
ということで足早に参加したセッションの紹介をした。その日(日曜日)の午後は参加者が一斉に帰るのでJRの指定は軒並み満席である。帰りのサンダーバードの指定を取っていなかったので、夕方の心臓移植のまとめのシンポジウムは欠席して、何とか指定が取れたつるぎ号で米原経由で帰ることができた。

この原稿を纏めてから朝刊を読むと、医療事故調査制度での報告数が昨年三千八百例に増えたとの記事が目に付いた。それまでに比べて倍増しているが、簡単な事故的なものが多いらしいく、大学病院や基幹が協力した結果、とある。数だけ何とか増やせばいいというものではないであろうが、一般市中病院は置き去りにされている。

2017年3月23日木曜日

金沢市で日本循環器学会開催


 先週の週末は金沢市で日本循環器学会が開催され参加してきた。第81回という伝統ある学会で、循環器内科、心臓血管外科、放射線診断科、小児循環器、リハビリテーション医学、循環器看護、さらに成人先天性疾患も加えた我が国で心臓血管疾患の最大の学会である。会長は金沢大学循環器内科の山岸正和教授で、山岸教授は大阪(阪大、警察病院、国循)で長らく仕事をされ、仲間のような先生でもある。会場は金沢駅前のホテルと公会堂などで集約され、駅前地下広場は受付やクロークなどに当てられ、駅から直行で手続きが出来るという便利さも有り難かった。私は前日に東京で用事があり、朝一の新幹線、かがやきで金沢には9時前に到着し、聞きたかった心臓移植のセッションに間に合った。関東からは北陸新幹線開通で金沢は本当に近くなったのが実感できた。因みに、その前の週は役員をしている全関西学生スキー選手権大会が妙高高原であり、北陸新幹線、サンダーバードには何度もお世話になっている。
学会参加者は総数で13000人と発表されたが、実際はこれ以上の人が集まっている。金沢は新幹線も開通し駅前はホテルが集中しているが、学会参加で満員御礼、宿が取れなかった多くの人が近くの温泉から電車で金沢まで来ているという。地元新聞も大きく取り上げて、金沢及び近郊の経済効果は30億円という。これも新幹線効果か。
さて、3日間で沢山の会場似分けて多くの領域のセッションがあり、重点的に聞きに行き、発言もしてきたが、幾つか拾って紹介する。ただ、心臓血管外科のセッションは少なく201つ位かもっと少ないもので、外科医の参加者も年配者ばかりで若いのはあまり見られない。とはいえ、学会参加と共に教育セッションとか医療安全講習とか専門医の更新に必要なポイント確保が参加者にとって大事で、私もその一人。確かに専門医制度で学会が潤っている、という面も否定できない。
まず、先に述べた移植関係は、ガイドライン解説講演の1つで、「心臓移植に関する提言」、であった。この提言は今回公表されるもので、磯部光章教授心臓移植委員会委員長としての作成の意義と今後については聞きそびれたが、その後の臓器移植ネットワーク、適応判定委員会、補助人工心臓によるブリッジ、移植後管理、そして小児心臓移植と心肺同時移植では、それぞれの分野のリーダーが現状を述べた。私には提言としての位置づけははっきりせず、現状報告の感じであった。最後にフロアーから質問させてもらったが、心臓移植待機患者や移植後患者の登録データーベースがどう活用されているのか、これを科学的に分析して移植優先順位の改正をすべきではないかということであった。優先順位基準が国際的に見て旧態依然としている。待機中の無駄な死亡を減らすべく、ドナー不足ということで切り捨てるのではなく学会としてしっかり進めて欲しい、というお願いをした。磯部委員長からこれは大事なことで現在鋭意取り組み中である、と言うことであった。例えば、ステータス2という低い優先順位は現在ではまず移植に届かないが、2年後くらいから結構死亡される方が増えてくることもあり、改正の必要性が共同の認識であると思われたのは収穫であった。
その後、教育セッションを聞きに行ったことで、同時開催の「韓国と日本の合同セッションとして心不全の外科治療」は聞けなかった、プログラムでは、韓国2カ所の代表的施設からこれまでの一施設で600例といった大きな心臓移植の成績の発表があり、我が国からは澤教授が日本の話しをされた。韓国が年間心臓移植を日本の4倍の数を行っていること、我が国で20年を要した数が韓国では2年程度でこなしているということを我が国のマスメデイアは伝えてない。さて、教育セッションは心臓リハビリと血管疾患の血管内治療、であった。心臓リハは心不全や心筋梗塞後の管理では非常に重要な分野で、私自身も兵庫医療大学でリハビリ分野の方々と交流が始まり、自身の病院でも盛んに行われていて関心が高い分野である。テーマは、運動療法の主体は有酸素持久運動か筋力トレーニングか、であった。それぞれ心臓リハビリで有効性が示されているが、筋トレと言ってもアスレティックジムでボデイービルをするようなものではなく、レジスタンス負荷といって一定の負荷に対して筋力を回復させるものである。長期臥床で下肢筋力が落ちて歩けなくなった場合などにベッド上でも行われ、これは下肢だけでなく心臓にも効果があり、2つはそれぞれ役割分担があることも分かった。血管外科について省略する。
次いで紹介するのは、埋込型補助人工心臓(VAD)関連したものである。この領域は複数のセッションがあり、外科系や移植関連学会ではよく見られるが、循環器学会、内科系学会)、では異例のことで、時代が変わったという感じである。中でもVADの永久使用Destination TherapyDT) についてはホットな議論あった。推進派というべき移植医や心臓外科医がその必要性と治験の妥当性を述べたが、東京医科歯科大学の磯部教授が問題発言があった。教授はDTについて、私はDTを終末期医療と考えているので良く準備して勧めるべきであるという慎重論であった。このDT=終末期医療には他の演者から異論が出た。確かに最終的には終末期医療ではあるが、基本は前向きの医療であって、誤解を招くということであった。私としては、DTありきで進んでいる現状への警鐘として一部納得できることであった。現在、DTの治験が進んでいるが、それが終了した後の種々の議論の前倒し的でもあった。
もう一つDTについてはその後に研究会があった。その中で感心した発表は、東北大学の看護師さん(移植コーデイネーター)のものであった。現在心臓移植適応年齢が60歳から65歳に引き上げられているが、DTはこの年齢を超える患者さんが当面対象になると予想される。しかし、65歳以上の移植適応となるような患者さんの実態調査が全くなされていない現実がある。そこを考慮して、東北大学ではVADを移植ブリッジとして60歳以上(65歳未満)4症例に植込みを行っている。報告はその詳細であったが、年齢が高いことで体力の低下や長期心不全治療で抵抗力も低下し、管理に難渋することもあるという内容で、発表者はしっかり現実を見極めて、何が問題かを提示していたので素晴らしい発表であった。こういうことをしっかり議論しないでDTありきで進めるのはどうかと思う私の持論と共鳴するものであった。

長くなったので、第一弾はこれ位にします。





2017年3月7日火曜日

補助人工心臓とレギュラトリ―サイエンス、


 

 早くも3月に入ってしまいました。記事の更新も滞っていて、月2回の目標も崩れてきています。ここで気合を入れないとズルズルと後退して行きそうですが、そろそろ学会とか研究会も増えて来るので回復を目指します。

2月は日本心臓血管外科学会という我々の領域では最も大きなものが2月末に東京であったのですが、その最後の日に別のシンポジウムがあったので紹介します。

レギュラトリ―サイエンスに関するもので、早稲田大学の医療レギュラトリ―サイエンス研究所主催の「補助人工心臓の研究開発から学ぶ」、というものです。早稲田大学には医学部がないのですが、その代わりではないですが東京女子医科大学と連携して連携研究体制を作っています。新宿区河田町の女子医大キャンパスの一角にTWInsという両大学の合流した新しいユニークな研究所が出来ていて、その中には人工心臓の開発研究では日本を引っ張ってきた梅津光生教授がおられ、今は早稲田大学総合機械工学教授でこのレギュラトリ―サイエンス研究所の所長をされています。また、循環器内科分野でのレギュラトリ―サイエンスではやはりリーダーの笠貫宏先生が特任教授として参画されています。

さて、本題ですがレギュラトリ―サイエンス以下RSとしますが、これは医薬品や医療機器の国(行政)による許認可において、規制だけではなく如何に国民の福祉に貢献できるシステムを作るか、即ち規制を規制に止めずサイエンスでもって支援していく科学です。 これまでデバイスラグやドラッグラグが問題になっていましたが、ただ規制が悪い、迅速な承認、というだけでなく、そこにRSの概念や手法を取り入れることで、我が国の医療機器や薬品開発促進しよう、というものです。また国際標準に合うべく審査や承認の仕組みを変えていこう、という動きでもあります。医療費との関連、費用対効果、の話でもあります。沢山の活動や学会、研究組織もありますが、此の早稲田の研究所(MeRS)はユニークな存在です。

今回のテーマは、補助人工心臓関係なので、主催者側でもなく演者でもないのですが、旧知の梅津先生や補助人工心臓のデバイスラグでともに闘って来た順天堂大学の佐瀬一洋教授にも久しぶりに会いたくなって、急遽の参加でした。前置きが長くなるのは悪い癖ですが、要点を紹介します。なお、この分野では究極のターゲット?となるPMDA(医薬品医療機器総合機構、FDA日本版)の近藤達也理事長のお話は間に合わず聞けませんでした。

演者は心臓外科の仲間の話は省略し、行政やRSのアカデミアの話が面白かったので紹介します。行政からは現在PMDAにおられ、これまで長く厚労省におられた俵木登美子氏と、PMDAで補助人工心臓のレジストリー(J-Macs)を立ち上げてこられた石井健介氏が登場。これまでの私共の学会と連携して進めてきた補助人工心臓の認可におけるデバイスラグ解消やレジストリー構築までのステップの紹介があり、懐かし話や最近の展開も楽しく聞かせてもらいました。医療機器の開発支援や審査承認制度については人工心臓がいつも成功組として紹介されますが、このステップも考えてみれば10数年に及んでいる訳で、こんなに懸ったのか、これでいいのか、という感想もあります。

では、現状での課題は何かですが、話題はもっぱらレジストリーの在り方、活用の仕方でした。RSはまさにこの登録制度(レジストリー)で得られたデーターベを如何に活用するか、そして新たな仕組みをどう作って行くかが問われている、ということです。非臨床試験(基礎や動物実験)での評価法、レジストリーネットワーク、リスク・ベネフィット評価、というテーマでの議論でした。私も議論に参加させてもらい、心臓移植を例に出しての話ですが、我が国の臓器移植のデーターベース(レジストリー)では移植登録は日本臓器移植ネットワーク、適応判定は日本循環器学会、それぞれが管轄しているのですが、そのレジストリーデーターの活用が全くと言っていいほどなされていないのです。因みに米国のUNOSからは学術的な報告(解析)がどんどん出てきて、これが規制というかドナー選択システムを変えて行っているのです。我が国では全くなされていません。不作為と言っていいでしょう(自分にも責任がありますが)。元に戻って、医療機器や薬品では米国はFDAが仕切っている訳ですが、FDAからのデーターの分析やRS関係の論文がNew England Journal of Medicineという超一流雑誌にいくつも出るようになって来ているということです。世界が違うのです。10数年前に佐瀬先生たちとFDAを訪問し、Harmonization by doing (HBD)という切り口というか合言葉で規制改革を進め始めたのですが、このHBDの進捗はまだ道遠しです。

最近はビッグデーター、ということが良く言われますが、診療報酬制度のデーターは医療の正に根幹ですが、その他の多くの臨床データーを実臨床エビデンス(Real World Evidence)に繋げる科学(integrate,統合、する)もこれから必要という、これを実践している研究者、大津洋博士のお話も素晴らしかったです。佐瀬先生は医療戦略の本質はValue-based Medicineであるという米国クリーブランドクリニックの紹介も新鮮でした。これは先の記事で紹介した藤田浩之氏の講演にも関連するものではと思いました。

まとめですが、医療機器でいいますと補助人工心臓や新たなデバイスがツナミのように我が国に押し寄せていますが、国内企業や研究者を守りながら、そしてHBDの趣旨で非関税障壁を取り払いグローバルな視点で新たな医療機器を迅速に導入することが求められている。そしてそこにはRSに基づいた仕組み作りが大事であるということでした。規制改革やデバイスラグを叫ぶだけでなく、科学する姿勢で対応することが今後さらに求められ、そこにはデーターベースからのエビデンスを基盤にするという文化を根付かせる必要がある、ということでしょうか。しかし、これを進める上でのレジストリー事業には大変なお金と人が必要である、という現実が大きな障壁として残っていることも改めて認識したシンポジウムでした。