日本循環器学会のトピックス、第二報です。
3月も終わりになってもまだ寒波が来ていて、昨日は栃木県で高校山岳部の訓練中に雪崩事故がありで沢山の若い命が失われている。ファミリースキー場(名称)のちょっと奥の山の斜面で起こっているから痛ましい。最近のバックカントリースキーでの遭難は自己責任の問題ですが、今回の高校生の雪崩遭遇は沢山の高校山岳部やワンゲル部を集めた公的な訓練であり、指導者の責任問題になるのではと思われる。とは言えスキー場は雪山と隣り合っていることを改めて知らされたということで、スキー関係者としても肝に銘じるべきことある。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
金沢の追伸は、再生医療、医療事故調査、そして心不全緩和医療。心不全への再生医療最先端的とした国際セッションでは、英国からの招請講演者からは心筋障害発生と予防に関連する新しく発見された蛋白についての紹介であった。マウスの虚血・再灌流障害の防止に関する実験で、詳細はついていけない基礎的な話であったが、私が現役時代に取り組んだことでもあり、これは永遠のテーマだなという感じであった。心筋梗塞の早い時期に血流再開だけでなく薬剤の介入で障害が減らされるわけで、臨床応用が期待される。遺伝子治療やiPS等と違ったやや古典的であるが、原点の研究スタンスである。阪大からはお得意のiPS細胞での心筋再生治療の話しで、主体は癌化しない細胞をどうして作るか、危ない細胞をどう見分けるかの話しであった。熱演だったが内容が盛りだくさんで時間オーバー、座長から時間ないので討論は無し、次の演題、となった。制限時間を守ることがいい発表の基本ということを忘れてはいけない。
教育セッションの一つのテーマが医療事故調査制度であった。この問題は長らく自身も関与してきたものでこのブログでも何度も紹介しているが、制度が始まっても実際なかなか進展が見られない現状がある。今回は、九州大学法医学の池田教授が演者で、診療関連死届け出についての講演であった。そもそも診療関連死については明治時代の医師法21条が問題の根幹でもあるが、それに加えて診療関連死について日本法医学会がこれを「予期せぬ死亡」、という定義をかなり前に発表したことも混乱の背景にある。日本外科学会で医療事故調査モデル事業を始めたときも、法医学会と議論した経緯がある。池田教授は、この問題では心臓外科医とやりあった、と紹介していたが、今回の医療事故調については法医学会として国や日本医師会と医師法21条を外すことで合意していたのに、蓋を開けたらそうではなかった。日本法医学会はこの制度に反対である、など日本法医学会理事長としては過激な発言もあった。結局、医療事故調の現状の解説ではなく、背景にある問題の解説と私的苦言であった。ではどうしたらいいか、については大学の法医学教室に相談しろ、病理解剖やCTで対応する、ということであった。講演はどうも非現実的な話で個人的な経験話が多く、教育講演としては些か疑問の残るものであった。質問する機会を逸したのでフロアーで質問したが、問題点は共有できたが、前向きな話にはならなかった。聴衆はどう捉えたのか、混乱させた方が大きかったのではないか。ただ、日本では医療事故でも法律上業務上過失傷害罪該当するが欧米法では医療ではこれが当てはまらない、という紹介もあった。欧米では、医療、医師、が社会から信頼され、また医療が不確定なものである、ということを長年の歴史で社会が知っているということであろう。法医学者はこの違いを紹介するだけでなく、我が国で改革は出来ないのか、質問したかったことである。
心不全の緩和医療のセッションもあった。緩和医療は癌の話しだけでなく、心不全でも現実となって来ている。循環器医療でも対象が高齢化し、新しい薬やデバイス治療も進み、医療・ケアがどんどん先に進むが、その後の到達点のことは無関心であった。今や心不全でも緩和医療が必要となってきている。先駆的な試みをしている東京のクリニックの話しはこれからの心不全の緩和医療のモデルとなるであろう。また、ここでもハートチーム(チーム医療)の必要性が問われる。見かけだけでなく、科学的根拠の上に心の入った、患者目線、家族目線、での緩和ケアが今後の課題である。補助人工心臓での緩和ケアの話もあるが、一般の心不全では心臓が弱ってくるが補助人工心臓では心臓は弱らない。別の倫理と法的な課題が残っている。
ということで足早に参加したセッションの紹介をした。その日(日曜日)の午後は参加者が一斉に帰るのでJRの指定は軒並み満席である。帰りのサンダーバードの指定を取っていなかったので、夕方の心臓移植のまとめのシンポジウムは欠席して、何とか指定が取れたつるぎ号で米原経由で帰ることができた。
この原稿を纏めてから朝刊を読むと、医療事故調査制度での報告数が昨年三千八百例に増えたとの記事が目に付いた。それまでに比べて倍増しているが、簡単な事故的なものが多いらしいく、大学病院や基幹が協力した結果、とある。数だけ何とか増やせばいいというものではないであろうが、一般市中病院は置き去りにされている。