2020年6月15日月曜日

 ポストコロナ(With Corona)時代に我が国の医療をどう変革できるか 発想の転換と働き方改革の見直しが必要                           


     

今年に入ってからの中国武漢から始まった新型コロナ感染(Covid-19)のパンデミックは,いまだ世界的には収束の気配もあまり感じられないなか外出禁止措置からの解除が広まってきています. 我が国ではようやく収まりつつあるようですが,クラスターの発生は止まっておらず,個人は感染防御の面でまだまだ注意深い対応が必要でしょう.
最近の新聞の論調ですが,国際経済学者は経済,生活を脅かしていた危機が終息したといえるには3年かかると述べています(毎日新聞520日朝刊).その間,必然的に世界は種々の場面で旧来の考えからの大きな転換が行われるであろうと推測されます.勿論,経済的回復が第一ですが,一方では医療崩壊が生じた医療についてはどうなるのかが我には大きな課題です.ワクチンの開発や感染防御体制の再構築,グルーバルな情報の把握と公開,国際間や種々の格差の問題もあります.わが国ではどうかというと,依然として続く縦割り制度(医療行政)の問題が今回も露呈しています.
さらに,今回の国の危機管理でその弱点が露呈した問題点の多くは既に分かっているにもかかわらず長年改革に手が付けられていなかった医療や医学分野の常識や慣習と思います. これらの検証なしには新たな発展は出てこないと思います. これからどうするか,生活様式をどう変えるか,という視点でいろいろな意見が出てきていますが,思うところを述べさせてもらいます.
なお,ポストコロナというよりウイズコロナ(With Corona)がより適切という風潮ですが,ここでは一応ポストコロナで書いてみます. 改革を実行に移すにはwithです.

病院の機能別に見た集約化
我が国でのCovid-19対応は,基幹病院や大学病院が個々では活躍していますが,一方では民間病院に無理なしわ寄せを強いています.危機発生で高度医療を迅速に集約化できる仕組み造りをどうするか,今回の経験をどう生かすかが問われるでしょう.根強い縦割り行政(厚労省,文科省,地方自治体)の弊害をどうか解消するか,従来から懸案の病院の集約化が改めて問われていると思います.

大学病院の役割
医師不足の中,その役割と効率化を考えた大学病院の在り方を検討する時期であることは明白です.わが国の大学病院の世界から見た多くの不思議の解消はできないでしょうか. 医療収入を上げないと倒れる自転車操業からどう脱皮するのは社会保険制度の問題ですが,中でも問題のある異常に多い外来患者数で. その対応に割かれる医師の負担を大学病院ならではの入院患者診療に向かわせることが今後の改革の出発点と考えます. そこには従来型の数に頼る外来診療は大学病院では不要という発想がまず必要であります.大学病院に若い医師が沢山集まる今の仕組みがいつまで続くのか考えないと進まない話でもあります.

コミュニケーションの効率化
Zoom
といったWebを通した会議が普通になる中で,今回の3密回避を今後も生かすには無駄なことを避ける勇気が必要であります.真っ先に挙げられるのが病棟回診,形式的なカンファではないかでしょうか. 対面での意見交換でしか得られないことをメディア使用カンファや回診にどう盛り込むかが問われます. ハイブリッド方式が進むでしょうが, その中でどう効率的な意見交換と情報共有が出来るか, 医療情報研究の新たな分野になるでしょうし, これから多職種連携をどう進めるかも改めて問われる課題のようです.

資格更新制度をWeb
  この際重要なことは,我々医療従事者が資格(専門医,認定看護師,その他の多くの認定制度)取得における学会やセミナー参加のクレジット制度です. ある学会の年一度の総会には専門医を継続する殆どの会員(多くは勤務医)が強制的に集められます. 2-3時間のセッションの受講証明,学会の参加証明(参加証)が必要だからです. この間,ある特定の専門医(集団)が医療現場からいなくなる社会問題です. この際,この制度こそ改定しないと,というか改定せざるを得ないと思います. 看護の認定看護師制度での6ヵ月の教育施設での研修(座学がメイン)がこれからどうなるか,非常に興味あるところです. 本職の施設から半年間の休職(以前は退職)をもらって,東京等に出かける制度です. これを如何にオンライン化することが関係者の責任でしょう. 米国の認定制度(特に更新)は広き国ですから当然オンラインです. 日本でもそうすることで病院を一斉に休むこともなく休職しないで済むのでは思います. 大きな発想の転換がいるでしょう. リーダーは英断をして欲しいと思います. 学会等の資金集めについてもポストコロナをどうするか,先駆的な取り組みをする学会が現れることを願っています. これまで当然と持っていたいろいろな無駄なことを,この際省こうではないですか.

働き方改革
このテーマが最も大事であり,上記の問題の根底にあると言ってもいいでしょう. 医師で言うと勤務時間の縛りでもってこれを進めるというこれまでのやり方はポストコロナでは通用しないということをまず理解すべきです. 早急な見直しが必要です. 勤務時間を設定することは大事ですが,その目標を達成するためにいかに専門職者の技能を最大限に活用するかが問われています. 産業界ではロボットの参入が出来ますが, 医療界でも当然その道も探るべきです. 今回の対コロナ対応で医療従事者の活動でどういう無駄があったのか,改善できるとことは何か,まずここの整理が不可欠です. そしてそのためにはどうする,ロボット技術は当然ですが,IT技術を更に活用して,医療者の現場での対面的ケアを効率化するか,これまでの研究や技術開発をさらに発展させる時期と思います. 国の研究費補助もこのテーマをしっかり取り入れて欲しいと思います.
この問題は今回の医療危機管理で明らかなように,医師だけでなく殆どの医療従事者に及ぶ問題で,人材不足や機器不足,社会の理解,医療保険制度など,多岐にわたる課題が浮き彫りになっています. 医療者の働き改革はポストコロナの最重要課題ではないでしょうか. ここにはかなりの経済的支援がないと進まないでしょうが,今回の緊急補正予算でどうなっているか,先進的医療機器だけではなく介護まで含めた現場での検証が必要です.

医療とレジリエンス
最近レジリエンスという言葉が注目されていて,特に経済活動を含めた世界的な議論の中で用いられています. 復元力とも言われていますが,NHKでも紹介されています. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200605/k10012457941000.html
この言葉は医療現場の危機管理において言及されるようになっています. 今医療者は,この復元力を平時から如何に維持させるか,またまだ混乱が続く現場での目の前の対応において共通言語的な意味で浸透していくのでは思います. ただ,言葉だけがひとり歩きしては意味が無いので,そこには何が込められているか個々,あるいはグループ,が判断する必要があると思います.
大阪大学附属病院の中島和江教授の言葉で置き換えると, 危機管理において「システム思考で洞察する」「必要な時に境界を越えて協同する」「新たなつながりや価値を創る」「つながりを科学する」という4つのキーワードが提唱されています。ポストコロナでの医療者が持つべき指針であって, 医療システム改革におけるキーワードでもあるでしょう.

以上,ポストコロナ時代において生活様式改革だけでなく,医療の分野での旧態依然とした制度や考え方から脱皮する道を探る絶好の機会ではないでしょうか. まずは新型コロナ危機が過ぎても医療危機(崩壊)は残った,とならないように願いっています.

With Corona時代を乗り切るには,まずは発想の転換とそれを実行に移す復元力の維持が大事と思います. 危機をチャンス, です. この絶好の時期を逃さない, がポストコロナの合い言葉では.
 (注:この原稿の一部は同門の外科学講座の年報にも書いています.

追加:ポストコロナ時代の働き改革については、東邦大名誉教授 小山 信彌教授の記事を紹介します.