2021年12月25日土曜日

今年も新型コロナと臓器移植で締め括り

 

早いもので今年(2021年、令和3)も残すところ後1週間となった。今年は新型コロナの第5波で日本中が翻弄された後、このまま収束か思いきやオミクロン株の登場で再び先行きが見えなくなっている。この一両日には市中感染も出てきて正月休みにも影響が出てきそうである。私の勤務先の病院も小規模ながら行政の要望に応える形でコロナ対応病床を作って軽症と中等症の患者さんを引き受けてきた。高齢や合併症がある方が多く、1週間以上の隔離管理で肺炎が治っても体が弱ってしまって元に戻れない、という現実を見てきた。

保健医療の国難的危機では、何度も書かせてもらったように公的ないし急性期センター的な病院に大胆な機能集約をすることが必要である。今また医療崩壊の予防線を、一般病院を巻き込んで体制を組み立てようとしているが、3-5波の時に学んだのは何だったのか。とにかく施設を増やすという姑息的な手法がまたぞろ始まろうとしている。保健所機能は限界があるなかで、成田空港管轄の保健所が濃厚接触者対応で右往左往している。フロントラインを保健所に任せることに限界があることは分かっているし、クルー船以来2年にならんとしているのに、である。

 さて、随分空いてしまったこのブログへの投稿も今回が5本目で隔月にも足らなくなった。風前の灯火か。締めにするテーマはサブタイトルに従って、また昨年同様、臓器移植としたのでお付き合い願いたい。前回も報告したが、外部活動として大きかったのは9月の日本移植学会の公募シンポジウムに応募したことである。臓器横断的なテーマのなかのCovid-19後の臓器提供というシンポに以下の発表が採用されたことを再度紹介させてもらう。タイトルは:Controlled DCD(心停止ドナー)に我々はどう向き合うか:心臓移植の立場から、である。

要旨:わが国の臓器移植は法改正後も深刻なドナー不足が続いているなかで、海外でのドナープール拡大への動き、特に心停止ドナー(donation after circulatory death, DCD)中でも生命維持装置を中止するcontrolled DCDが欧州を中心に腎臓だけでなく肝臓, 肺へと応用が進み、ここ56年で心臓移植でも始まっている。わが国では従前の死体腎移植でのun-controlled-CDCが行われていてその復興を移植学会が進めようとしている。

  一方、心臓移植ではcDCDでないと移植が成り立たない。しかし、学会のDCDの議論に心臓は加えてもらっていない。何故除け者にするのですか、ということである。終末期医療での生命維持装置の中止は法律では禁止されていないが現実には広く行われるものではなく、まして臓器提供はとんでもない、という意見が多い。まず、心臓も加えて臓器横断的にドナープール拡大のためのDCD導入を検討して欲しいという訴えである。しかし移植学会は腎臓と肝臓の専門家の意見が主流のようで、私の発表への反応は、ごく一部の提供側の先生以外は今一つである。問題は肝心の心臓移植担当者がこれに及び腰であることである。胸部外科という南江堂が発行している専門誌の2022年度第1巻で「心臓移植の今」という特集の企画があり、いい機会と思って投稿した。阪大第一外科教室では曲直部先生や川島先生の教授時代からDCDの心臓移植の動物実験が行われており、私も盟友の白倉良太先生と共にこの研究を引き継いできたので、3名の連名で投稿した。心停止ドナー(DCD)からの心臓移植を我々はどう考えるか、で1月には発行される。

 さらに、ごく最近の国際心肺移植学会誌(HoffmanJHLT.202140;1408)に心臓移植DCDでの新たな取り組みの論文が米国Vanderbilt大学から出た。そこで、年末の仕事として、この論文の紹介をしながら移植学会の発表内容を同学会の機関誌「移植」に投稿すべ準備中である。完成に近いが、学会誌のどのカテゴリ―がいいのか迷うところもあり、原稿を送って検討を依頼したところである。新春はこれを受け付けてくれるかの返事待ちとなる。

 わが国の心臓を含めた臓器移植の発展を願って、こんなリタイア―者が細々と活動を続けているが、現状を見ると、そう簡単に止めることは出来ない。最後に紹介したいのは、成人先天性心疾患(ACHD)の心臓移植で、日本成人先天性心疾患学会での活動を続けている。その延長でもあるが、来年4月末にBostonで開催予定の国際心肺移植学会(ISHLT)事務局から、ACHDのシンポの座長をしないかというお誘いがあった。喜んで引き受けたが、4月に海外渡航が解禁になっているか、オミクロンが広がっているなかで懸念される。Webより現地での参加をしたいが、どうなることか。

ということで、今年の締めとさせて頂く。

皆様良いお年をお迎え下さい。 

PS:年末には北海道はニセコでの初滑りも出来たので少しは気分が晴れた年末となった。