2022年5月10日火曜日

ボストンでの国際心肺移植学会に参加して

大変ご無沙汰です. 2月に今年の第一報を書いて以来3ヶ月も経ってしまった. Covid-19の第6波が襲っていて未だ先が見えないなかで話題も限られてきたこともあって筆が鈍っている. とはいえ,昨年末に少し紹介した先月のボストンでの国際心肺移植学会(ISHLT)には何とか参加できたのでその報告をさせてもいたい. 

会期は427日から30日まで米国ボストンで予定通りin-person(現地開催)で行われました. 現地参加できない方はあらかじめ録画を送っておいての発表だが,この場合は討論には参加できないという方式. 日本からのいくつかの演題もほとんどが事前録画であった. 日本からは循環器内科と呼吸器外科の方が来られていたかも知れないが顔見知りの方はおられず,私が話出来たのはT大心臓外科O教授だけで,日本からはまだまだ制限があるように感じた. この学会は3年ぶりの現地開催で米国はもとより欧州からも多数の参加者がありいつもと変わらぬ賑やかさで,現地参加は2700人ということであった. 

ボストンは晴天続きであったがこの時期結構寒く,朝は5℃前後で昼も15℃くらいで加えて結構北風が強く,ホテルから会場まで1.5キロを風にあおられながらの歩きの毎日を楽しんだ. 会場のHynes Convention Centerはボストンマラソンの最終地点となる大きな広場の近くで,古い教会などと一緒に超高層ビル(Prudential Tower)が集まったBack Bay地区になる. ボストンマラソン終点の広場の写真を紹介する. 

私がCo-Chair(座長は2人制で相方はテキサスの循環器内科医)を務める成人先天性心疾患(ACHD)のセッション(移植からMCS)は最終日土曜の午前中で,多くが帰りつつある中で30人ほどが会場に来られていた. 発表演者は全て招請講演で,一人が欠席で残る4人はしっかりした内容で議論が白熱した. 特に機械的補助循環(MCS)の話題では英国Newcastle Upon Tyne, Freeman Hospitalの心臓外科医 Dr.Fabio De Ritaの発表がありFontan 術後の右心補助でユニークな発想でデバイスの開発を行っている.  Fontan手術後の移植についての発表が多く,私が長らく関心を持っているFontan associated liver disease FALD)についても心肝同時移植か心移植単独か,肝機能が戻るのか,などの議論が行われた. そもそもfailed Fontanへの心臓移植もなかなか実現が難しく,加えて心肝同時移植は全く見えないわが国から見て,いつになったらこのセッションに参加できるのか,自分がここにいるのは何のためか,個人的興味なのか,等考えさせられた. 

一方,この学会に来た大事な点は前回も紹介したDCD(心停止)ドナーからの心臓移植と肺移植がどう進んでいるか知りたいこともあった. 驚いたことにDCD関連のセッションがほぼ連日組まれていて,オランダやUKそしてオーストラリアからアップデイトな発表が続いた. なかでも米国からはNIH主導の体外灌流装置を併用した心臓移植のランダム臨床試験の結果も出ており,米国でもかなり積極的にDCDに取り組んでいることが分かった. これらの現状を帰国後に関係者にフィードバックできればと思う. 因みにAMEDの本年度からの臓器移植関連の公募研究に岡岡山大学と東京大学が連携するDCDドナーからの心臓移植の研究が採択されているので個人的には大変期待している. 

さて,もう一つ紹介したいのは特別招請講演である. これは医学界以外からの教育的講演と最後の締めに当たる学術的招請講演があり,前者はボストンマラソンについて,Boston Athletic AssociationPresident and CEOTom Grilk氏によるWhat is so specific about it? であった. 100年を超える歴史とボストン市民がこれまでいかにこの大会を支えてきたか,そしてさる悲劇の後Boston (is) Strongという掛け声で立ち直った話であった. 

一方の学術的な講演は,最先端技術であるRNA工学を用いたワクチンから治療薬開発の話であった. RNAに関する最近の進歩はなんと言ってもCovid-19へのmRNAワクチンの開発であり,その背景にあるRNAを操作して種々の蛋白を細胞に導入させる技術がものすごい勢いで進んでいて,わが国でも幾つかのベンチャーが立ち上がっていて,これからの心不全の再生医療を根底から変えるのではという期待がある. テキサスのHouston Medical Centerの中のHouston Academic Institute Houston Methodist’s RNA Therapeutics を立ち上げMRA技術開発をけん引しているDr.John Cookeの講演であった. 種々の蛋白質をmRNAに組み込んで,感染症のワクチンにと止まらずがん治療から臓器再生へと発展させている. 心筋細胞にペースメーカー機能を持たせることにも成功している. まさに次世代の医療技術の中心になるのではと思うが,現役諸氏には既に知られてことではあろうが紹介せずにはおらない. 

ボストンからの報告としては以上とするが,心臓と肺移植について世界をリードするこの学会に3年ぶりで関係者が集まるという節目に,Covid-19のせいとは言えわが国からの参加は数えるほどで,日本のこの分野がますます世界から取り残されていくという危機感を持っての帰国となった. Covid-19への対応はボストンとい途中寄ったカナダといい,街でマスクをしている人は殆どいない. 国間の移動もPCR検査を事前済ませることとワクチン接種証明でスムースに行動で来るが,日本では入国時の検疫は緩和どころか依然として全員にPCRを求めている. 帰国前72時間のPCRを強制させなら成田空港で再度唾液での検査をしないと空港から出られない. 実際,連休最後の日だったせいか検査の順番待ち人たちが延々と並んでいて,Fast Trackのアプリを用意しなかったこともあって検査受付まで2時間以上,検査結果出るまで又2時間と結局入国審査が済んだのが到着後4時間.新幹線の最終にも間に合わず成田で一泊する羽目になった. 海外がウイズコロナに移行している中で,そして大型連休では各地が人で溢れている状況で,この入国時全員PCRを続けていることにもうあきれる以外言葉もない. コロナ鎖国を目の前に見た感じである. 成田空港では多数の厚労省関係の職員と思われる方々がきびきびと働いておられるのには頭が下がるが,泊まったホテルでは本館という部分は厚労省が借り切っているとのこと. 対費用効果,感染制御効果,など適宜検証しながら臨機応変な対応が出来ないのか. 

ということで,最後の検疫での4時間でせっかくの国際学会参加も疲れだけが残った感じである. とはいえ落ちついたら学会での知見を国内へどうフィードバック出来るか考えよう. といっても年寄りの独り言になりそうである.

 前回言及した学術会議講演会の話は時機を逸っしたのご容赦を.