さてこの学会の出来た背景には6年制薬学教育のスタートがあると理解している。また、チーム医療が推進される中で在宅医療における薬剤師の役割を考えると、医師の出した処方箋に従って薬を渡すだけの仕事から患者側に寄った薬の専門職としての貢献が必要になってきたということもある。そこで登場した、というか狭間博士が出してきたのが薬剤師によるバイタルサインのチェックである。薬剤師は患者の体に触れてはいけない、という固定観念からの脱皮を医師でもある狭間理事長が仕掛けた。狭間博士は医師であるから出来るとか、法律違反ではないかと危険視されたが、法律上も許容されることを周知させ、血圧測定や聴診器を使った呼吸状態のチェックを習熟する講習会が全国的に広まった。この行為は診断するのではなくあくまで薬の副作用がないか一般状態のチェックであって、薬物治療の安全性を高め、また処方の疑義紹介や主治医への連絡などに繋がるものである。医師の世界からはかなり否定的な反応であるが、薬物治療の補佐役としての薬剤師の役割を高めるものであると理解している。
さて、今回の学会で私なりに気の付いたことは、当然でもあるがこの薬剤師の役割の新たな展開についてまだまだ理解が得られていない現状があることである。特にシンポジウムで登場した日本医師会の方は法律の文言を提示しながら、薬剤師は薬剤師の仕事をしておきなさい、地域医療に貢献している病院グループでは薬剤師の今の動きなしでもうまくいっている、という発言であった。薬剤師は変わらなくてもいいという趣旨ともとれもので、多分日本医師会のスタンスを代弁したと思われるが、相変わらず医師会の頭の固さが感じられた。チーム医療や多職種協働ということを医師主導で考えている医療現場が依然として存在している。とはいえ、今回は日本医師会との共催のシンポジウムもあり、東京都医師会の近藤副会長も参加され、薬剤師にエールを送って頂いた。
さて、膨大な残薬(服用せずに家に残されている薬)については既にマスメディアでも紹介され、医療費高騰との関連で注目されている。在宅訪問での服薬指導に薬剤師が関わるようになってこの驚くべき実態が明らかになってきている。かといって一人の薬剤師がどうこう出来るものではなく問題提起の段階であるが、この問題には医師側の責任もあると言える。患者が多数の異なった医療機関を受診し、別々に投薬情報の把握なしに、多くは同じ処方の安易とも言える処方の継続、そして何か訴えがあればまず薬を出す、という外来医療の体質の問題でもある。招請講演者の厚労省の審議官のかたは、医療に限ったマイナンバー制度の導入でもしないとこの異状な状況の解決にはならないのではないかとの発言もあった。無駄な重複投薬、貰っても服薬しない、これを医師に言わない患者側の文化も背景にあるようだ。沢山の薬が出ているなかで種々の新たな症状がでるが、これがさらに投薬が増やす現実がある。ごくまれな事例かもしれないが、広く検証が必要であろう。10以上薬を全部止めたら症状が劇的?に改善されたという紹介もあった。ただ、これを多くの病院やクリニックの医師に伝えても、私はこの病気だけに責任をもつから、全体は診れない、という現実もあることは理解しないといけない。
この問題、医師はその専門性で診断して適切な処方をしているが、一人の患者を全体で見る仕組みが乏しい状況はそう簡単には改善しない。そこには複雑な医療の制度的、経済的な課題がある。看護師側からは訪問看護センターから見た病院側と在宅医療の連携プレーの難しさの指摘があった。患者主体、全人的医療目線でのチーム医療を進めようとして看護師や薬剤師がコーディネーター役を買って出ても、その頑張りの行動が病院側からは理解されず、医師の教えてやる、忙しいのに迷惑である、といったことが言われる現実もある。みんな大忙しの医療者はこれ以上の負担はやめて欲しいという現実の中で、調整役としての在宅関係の看護師や薬剤師の役割が今後どう理解されていくのか心配でもある。こういった専門職間の連携をなんとか円滑にして、患者主体の(在宅)医療を進めるには、医師や看護師、薬剤師がそれぞれの役割を理解する姿勢が必要であろう。そのためには、各専門職は継続教育でもって自己啓発と研鑚をしないと時代についていけない。そう考えるとチーム医療の現場で一番出遅れているともいえる薬剤師の奮起が待たれるし、この学会と理事長の狭間博士の役割はまだまだ続く。