早くも10月に入りました。やっと秋らしい気候になるかと思ったらまたまた台風並みの強風が日本列島、特に東日本から北海道の海岸は大変のようで、まだまだ落ち着かない気候が続くようです。
さて、昨日(10月1日、学会前日)から熊本で第51回日本移植学会が行われている。熊本大学の小児生体肝移植で頑張っておられる小児外科・移植外科猪俣教授が会長である。第1日(10月2日)は、午後の特別企画のビデオセッションの座長の前に大事なテーマのセッションがあったので、幾つかピックアップして紹介したい。
まず今回のハイライトはiPS細胞の山中伸弥教授の特別講演であった。神戸大医学部時代はラグビー部だったので、今の最大の関心はラグビーワールドカップで明日のサモア戦、ということから講演が始まった。これまでの苦労話が紹介された後は最近の研究の成果、特に臨床応用とiPS細胞ストック事業、そして難治疾患の治療薬開発への応用であった。臨床については、明日の特別講演の演者でもある理研の高橋政代先生の加齢黄斑変性症患者へのiPS網膜細胞シート移植に次いで、今後の計画ではパーキンソン病の治療が控えている。また血液疾患関連では血小板や赤血球のiPS細胞からの大量生成、が控えていることのことであった。京都の研究所(CiRA)の話であったのか心臓については触れられなかった。薬剤開発では、軟骨無形成症の候補薬としてスタチンが発見されている。しかし患者さんの数が極めて少ない病気が相手では臨床応用に進めるに多額に費用が掛かるとのことが障害であるとのこと。文科省から多額の研究費を貰っているがほとんどが競争的資金であって決まった運営交付金はわずかなため、トップはファンド集めが大事な仕事となっている。その為にご自身が幾つかのマラソン大会に参加している。ただ、マラソンを走るのも限度がある、と会場の笑いを誘っておられた。
さて、臓器移植の現実的な話題では、「臓器提供推進に今、なすべきこと」、というシンポジウムがあった(写真)。演者には医師で衆議院議員の富岡勉先生が登場した。先生は臓器法改正に尽力され、今は現状の提供数の低迷を何とか打破しようと国会議員の中に勉強会(臓器移植停滞に関する解決策を見出す勉強会)を作って活動されている。強調されたのは、提供側の負担軽減が大事で、その為に既に幾つかの国が決めたガイドラインの修正や選択肢提示対応の予算附けが紹介された。心停止ドナーを含めて減少傾向にある臓器提供数をここ数年でV時回復させる、という発言は頼もしかった。また、行政がらみでは、先に紹介した日本臓器移植ネットワークの改革について、法律で決められた臓器あっせん業務と地域での臓器提供推進活動拠点強化(organ procurement center)を分けるというお考えであった。問題点をよく理解され、課題解決へ向けての力強い発言であった。100%賛同である。後に登場した厚労省の臓器移植対策推進室の新しい室長もこれに沿ったお話をされていたと思う。
このシンポでは二人の脳神経外科医が登場した。元々脳神経外科医は臓器移植、特に脳死での移植には反対という専門集団であるが、お二人は全く違って、移植医療をそれぞれ別の道でサポートされておられる。お一人は、飯塚病院脳神経外科の名取良弘先生で、所謂オプション提示(命がもう助ける見込みがなくなった状況で、死後に臓器提供という選択肢がありますが、と医療側が家族に話すこと)についての飯塚方式を紹介された。演題には、オプション提示の提示を「ていじ」、とひらかなになっている。それは、提示は相手に理解させるという意味が含まれ、現場に負担が掛かって尻込みするのを、呈示と考えて、行政の出した臓器提供の説明書示すのみ、にしている。この結果、105カ月で112例にパンフレットを渡し、17例の臓器提供希望があったとのことである。これは現場で何が問題かを、提示か呈示、ということで一つの解決策を見出されている。この飯塚方式が成功している陰には、単に言葉の扱いではなく、普段からの医療者側の患者とのコミュニケーションや病院側が一人一人の医療に最善を尽くしていることが背景にあることを気が付かねばならないであろう。
もう一方は、やはり北九州地区の脳神経外科医で、新小倉病院脳神経外科部長の吉開俊一先生である。先生は医学生への人の死について講義をされていて、幾つかの医学部でこれまで17回、脳外科医の立場で臓器移植における臓器提供の問題を講義されている。我が国の医学教育では、人の死についての講義は殆どないことや、脳死が人の死である、という講義をだれもしない、ということは私も問題であると思っていたが、先生は患者の死の奥にある臓器提供を医師が意識するには学生時代に教えておくべきと言われている。また予備校とかの医学部受験準備に、脳死は人の死ではない、といった誤った刷り込みが行われている、というびっくりする現実も紹介された。先生は、単に上から目線の講義ではなく、学生に考えさせることから始められている。沢山の所から講義依頼があるそうで、忙しい臨床のなかでこういう努力をされている先生に報いるためにも、移植側の努力が一層必要である。因みに、学会会場で先生の書かれた本、移植医療、臓器提供の真実(文芸社)を見つけてその場で購入、帰りの新幹線で読ませてもらった。タイトルからは臓器提供の負の面を強調するかのようであるが、全く違っている。先生が臓器移植に否定的な脳外科医から支援派に変わっていく件や、実際のオプション提示の現場の再現も詳細に語られている。臓器移植の基礎知識も得られるので素晴らしい。先生は兵庫県の移植関連の会にも講演に来られているが、この本の存在を知らなかったことを大いに反省している。
以上、紹介に止まったが、私自身が今からでも出来ることではないか、と思ってしまうほどの力強いメッセージでもあった。
もう一つ紹介したいセッションは小児の臓器移植ですが、それは後に書かせてもらうことにしてここで熊本報告は一旦終わります。なお、会長の肝いりで、熊本城が夜間グリーン色(臓器移植シンボルカラー)にライトアップされていました。残念ながら自身で確認できずに帰っきましたが。
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