2016年1月28日木曜日

症例カンファレンス

 私の現在の楽しみは病院での症例カンファレンスといっても良いでしょう。カンファレンスには、外科系では大きく分けて、術前と術後カンファレンスになります。術前はその週の予定手術の症例についての検討で、病歴から始まって診断、そして計画している手術術式が主治医から提示される。それに対して、診断が適切か、糖尿病や脳血管障害や肝腎機能異常などの副病変はないか、あればどういう影響があるか、そして計画された術式の妥当性が議論される。手術危険率の把握、術中と術後の課題と作戦など他職種を交えてまとめていく。本人の背景や家族支援、麻酔医からのコメントも大事である。また認知症気味とか、自力で歩けるか、など普段の生活様式の把握も重要である。リハビリテーションスタッフや看護部からの意見も大事であり、高齢者が多くなると医学的なことだけでは決められない。緊急手術は予定のカンファレンスには出す余裕がなく、循環器内科との連携もとりながら心臓外科責任医師の判断決められる。
一方術後カンファレンスは心臓外科医にとってより重みがある。診断に問題がなく、予定の手術が出来たのか、手術の工夫は、時間などスムースに進んだのか、出血は、術後の心機能は、意識は順調に覚めたのか、合併症は起こらなかったのか、などが検討事項になる。一例ごとに全て事細かくはやらないで要点を絞って議論が進む。外科医と麻酔科医、MEグループ、ICUスタッフ、そしてリハビリの意見も出てくるようにしている。放射線部門は画像診断の画像を適切に提示してくれる空大変ありがたい。弁形成では心臓超音波診断についても議論が出る。術後では、手術の細かいところはビデオがあればいいが、大学病院と違うのでシェーマでの検討となる。多くは定型的な手術であり、主に術後経過が主になる。合併症がなくICUを出たなら、当然ではあるがほっとする時でもある。たまに新しい試みもあり、そういうときは文献の一つも紹介してもらって、学会発表にしようと言うことになれば上出来である。術後検討は心臓外科に限らず、外科医にとって個人の修練と共に組織としての医療の質の担保のうえでないがしろには出来ない。これらをいい加減に済ましている所は問題である。 新たな専門医制度の施設認定やサイトビジットで調査の対象となる。合併症に限ると、MMカンファというものがあり、月一くらいに行われるが、合併症(morbidity)と死亡例(mortality)の検討であり、病院の質の担保のためには不可欠のものであるが、我が国ではあまり定着していない。ただこれも型どおりではなく、問題症例は個別に行われるべきである。
私の立場は、術前では手術術式の選択においてどういう理論武装が出来ているか、第二選択は何か、過度の侵襲にならないか、脳梗塞などの合併症を如何にして防ぐか、などで気のついた所を選んで議論のきっかけを作っている。何故その手術が最優先か、危険率の把握は適切か、コメディカルの意見は、といった風にモデレーター役を買って出ている。いろんな意見を他職種から引き出そうと、色々振ってみることも大事である。何か次の臨床で役立つことや改善点がないか、皆で考えよう、という所である。
術後検討ではその症例の中に何か今後の参考になる、あるいは新たな展開になるものが含まれていないか、という視点で見るようにしている。外科領域では、普段の臨床現場に研究のきっかっけになる沢山の卵が隠れていてそれを探し出すことに面白みがある。大学でも症例検討は医局の大事な行事で、若い医師のみならず中堅医師の修練の場でもある。教授以外の上級医師からの意見も活発であり、受け持ちは数日前から準備しているが、いい加減では済まされない。一般病院でも症例カンファレンスは外科の臨床現場では大変重要な役割がある。大学病院時代を思い出しながら若手の指導をしているつもりではあるが、診断や治療法の選択では時代が変わっていることもあり、一人芝居になってしまうこともある。ほどほどにと思いながら自分自身の頭のトレーニングもかねて、若干嫌がられ(?)ながらも続けている。

研修医や若手の外科医に症例カンファの要点として伝えたいことを挙げてみる。
  症例発表は一回きりでやり無しが効かない真剣勝負である。準備が大事。
  問題点を見逃さず、重要なものから整理して議論の対象とする。
  手術術式は自分なりにその意義と問題点を理解し、第二選択にも意見が出来るようにする。出来れば最近の文献も読んで臨む。
  定型的な症例や手術でも何か面白い所はないか、何か工夫は出来ないか、という視点を習慣付ける。
  コメディカルは大事な仲間であり、分かり易い提示をして意見が出やすいようにする。
  珍しい症例は、文献的な考察を手術前に済ませ、症例報告は術後すぐに書けるように準備して手術に臨む(手術後にゆっくり調べて、は遅い)

毎回ではなくても臨機応変に対応して続けて欲しい。


等、大学時代を思い出しながらカンファレンスを楽しんでいます。

2016年1月23日土曜日

大寒波

年が明けても本州は暖冬が続いてスキー場はどこも雪不足が続いていましたが、やっと寒波が訪れて各地のスキー場はこの週末は賑わいを見せるのではないでしょうか。とはいえ、先週来の大雪や強風で関東地方は大変で、首都圏での交通マヒのニュースは驚きでもありました。センター試験も先般済みましたが、この時期はいつも寒波襲来で受験生も実施側も気を遣います。センター入試に関わらなくなってもう3年目ですが、相変わらず小さなミス(受験生にとっては小さくないのですが)とか器具の不具合とか細かく報道しています。こういうニュース配信の心は何なのか、メデイアの理解できない一面です。また、センター試験のリスニングほど意味の分からない、時代錯誤の試験もないとかねて思っていますが、試験のやり方もそろそろ変わるようです。
関東の大雪による交通マヒでは、首都圏で朝から電車待ちの長い行列ができ、駅のプラットフォームは人で溢れて事故寸前という感じでした。将棋倒しになったり、人が押されて線路に落ちる、といったことがよく起こらなかったと不思議なくらいです。前日から大雪で荒れ、交通にも支障が出るという注意予報がなされているのに、皆さんはとにかく会社に行くのです。行けるかどうかわからなくても、まずは家を出るのです。自宅待機が出来ない我が国の面白い状況です。海外から見たら日本人はなんて勤勉で真面目なのかと、皮肉交じりで言われていると思います。企業の方からは、そんな甘い考えでは競争に負ける、という声が聞こえて来そうですが。どこから思い切って声を上げないと進まないのかも知れません。大企業はゆとりがあるから出来るが、中小企業や役所は無理です、ということなのでしょう。
新聞で面白い記事がありました。国会の話ですが、この大雪の日に参考人として出席しなければならなかったどこかの官僚の方が数人、委員会に遅刻したそうです。それを、上司は監督不行き届きで注意、また本人たちにもお叱り、のご沙汰があったそうです。前の日から泊まっておけ、ということなのでしょうか。国政を預かる人たちには当然の義務かも知れませんが、こうなったら官僚の方々は国会周辺に皆さん住んでもらわないといけなくなりませんか。文化庁が京都に移転する話がありますが、国会での迅速な対応、委員会などの答弁や議員からの急な注文などへの心配があって完全移転は出来ないといことうらしいです。首都機能を仙台に移す案は、冬は雪が降るのでだめという話を聞いたことがあります。文化庁だけでなく、国政機能機関をもっと関西に持って来たら、一極集中や大災害対策などのいろんな課題が解決するのではと、関西人として思ってしまいます。南海トラフ地震があるからダメですかね。
さて阪神淡路大震災から21年も経ちました。医学部6年生の卒業口頭試問の日で、私は吹田まで行かれなく、その年は筆記試験で済ませたのを思いだします。前にも書いたかもしれませんが、神戸では未曾有の災害で町がまだ火に包まれている時期に、東京の国会議員の先生方は、関西で少し強い地震位に思っていたようで、いまでは信じられないお粗末な情報伝達機能と国の危機管理体制が露呈されました。私も翌日、兵庫県の家から何とか車で吹田の大学に向ったのですが、道路は大混乱でした。しかし大阪府側に入ると街の様子は一転して普段と変わらないのです。お店もスーパーも、10キロほど西では大変になっているに、静かで落ち着いた普段の町なのです。阪大病院はかなり揺れたので、混乱はあったようですが普段の診療が続けられていました。輸血用の血液が足りなくなるのではと心臓外科手術は少し延期しました。しかし、そんなことを言うのは我々だけで、他の科は予定手術をこなすのが使命と、いうわけです。市立芦屋病院からの急性腎不全患者の受け入れを頼まれたのですが、阪大病院としては対応するマニュアルもなく、支援体制も作られていない状況でした。止む無く私たちの病棟に搬送しましたが、その時に他の病棟の婦長さん方は、知らん顔でした。何で私の病棟を使うのか、といった声が聞こえて来るのです。ボランティアーも組織だった取り組みもなく、学生だけが自主的に動いていました。
阪神淡路大震災後21年が過ぎ、何故大災害になったのが報道されています。地震後の大火災は都市ガスが原因かと思っていたら、電気らしいのです。地震で送電が止まった後に復旧するのですが、電源を入れたままの電気ストーブなどからの発火が大きいと言うことです。今では地震の揺れで落ちるブレーカーが開発されています。それこそ、全国にこれを徹底して備えるというのが、得られた教訓ではないでしょうか。色々その使い方が議論されている予算を、この耐震ブレーカーの普及に使ったらどうですか。
今頃、何故こういう話をするかというと、先の首都機能のことです。震災の数日後に厚生省の管轄する研究費事業の発表会が東京でありました。私は一つのテーマを貰っていて、報告会に出ないと評価が下がります。しかし、この大災害の時に発表会をするのかと聞くと、当たり前のように、「予定通りです」、という返事です。欠席でも良かったのですが、行けるなら出席しようと、私は何とかと前日に東京に入りました。ホテルのTVでは神戸はまだまだ火災の勢いは収まらない、広がっている映像でした。翌日の発表会では震災のことは皆さん他人事で、粛々と済まされていました。私は報告を済ませて早々に帰りましたが、地震のメンタルなトラウマがあったのか、何か気持ちが収まらないで帰って来たのを思いだします。大雪の交通マヒで遅れた官僚をしかりつける国の在り方と何か通じるものがあると感じます。
新春放談、といった所でした。 これから一段と厳しい寒波が来るようです。皆様、お気を付けてお過ごし下さい。


2016年1月11日月曜日

iPS細胞治療


暖冬でスキー場は北海道以外どこも困っているようですが、私自身今年はまだ出かけていません。体があちこち傷んできているので、もう少し準備してからと思っています。

さて、新年の話題と言えば再生医療、特にiPS細胞の話題が目につきます。読売新聞の元旦の一面が阪大のiPS心筋細胞シート治療が17年度には臨床治験申請、という大きな見出しです。その後も、各紙で山中教授も登場してここ数年でのiPS細胞の臨床応用の計画が出ています。高橋政代先生の網膜への移植の次は何か、神経(脊髄)、心臓、パーキンソン病、肝臓病、などが順次臨床治験を目指しているようだ。このようにiPS細胞の研究が加速されているのは、国が再生医療の臨床治験承認審査の壁を低くしたことによる。ここで大事なのは、臨床試験ではなく臨床治験から始められるということである。治験から始めることで、早期の保健医療での普及が期待される。筋芽細胞シートによる心不全治療が期限付きではあるか既に保険治療として認められ、先鞭をつけている。

今日のNHK-BS放送(再放送)では山中教授が登場してiPS細胞の現状と展望についてである。これから始まるであろう臨床応用のなかの有力な3つの応用が具体的に紹介され、山中教授の大事なコメントも聞くことが出来た。取り上げられた病気は、パーキンソン病、心不全、そして難病、であった。まずは、パーキンソン病で、京都大学iPS細胞研究所高橋淳教授はiPS細胞由来神経幹細胞を作製し、これからドーパミン産生神経前駆細胞を作製する研究を進めていて、動物実験(ネズミや霊長類)ではパーキンソン病の改善効果が証明され、これから人への応用への準備を進め行くとのこと。パーキンソン病にはこれまでドーパミン産生細胞の人への移植は試みられている。それは人工中絶した胎児の中脳を沢山集め、それを患者さんの脳に移植するものが主であった。また胚性幹細胞ES細胞から産生した細胞の移植も可能性があるが、共に倫理的な問題もある。高橋教授のiPS細胞を使ったこの研究はパーキンソン病治療への大きなステップになるであろう。因みに、高橋淳教授は網膜で世界初のiPS細胞を移植した高橋政代先生のご主人ということでした。夫婦そろってiPSの臨床応用に取り組んでおられるわけです。山中教授のコメントは、大量の細胞が要ることでガン化のリスクが高まること、脳内に植え込むので技術的に難しいことが課題と言われていた。しかし、山中教授の期待度も高いようであった。

心臓は阪大の澤教授の心筋シートで、映像では研究の進捗状況を山中教授のところで発表するところが紹介された。澤教授は17年度に臨床治験を申請するとのことである。阪大からの発表の途中で山中教授が立ち上がって、培養細胞分析であろうか、一つのスライドについてがん化の危険があるのではという部分を指摘されておられた。澤教授のこのことは想定内で、さらに改良していくというようなコメントであった。心筋シートはとてつもなく大量のiPS細胞が必要であり、精度が落ちてがん細胞が含まれてくるリスクが生じる。ただ、山中教授の最後のコメントで、リスクとベネフィットも考えないと、ということもおっしゃった。ほかに治療のない重症心不全への治療効果が大きければごく少ないリスクが許容されるか、という命題にも対応しないといけない、という意味かもしれない。重要発言であった。このiPS心筋シートは数年先には実施されて心不全治療の一つになることを期待するが、一方では巨額のコストがかかり、多数の患者さんに自由に応用できるのか、産業化が出来るのか危惧されるところもある。移植にとって代わる医療になるのかも未知数であろう。しかし、これを契機により簡便でコストのかからない新たな心筋症への細胞治療やサイトカイン治療が芽生えて来るのではないか、そこに興味ある。補助人工心臓との併用療法もしかりである。また、体に残っている心筋や血管になる幹細胞を体内で増やして心臓に集める、といったことが出来てくるのではないか。

もう一つは、難病への応用で、まれな遺伝的疾患治療への研究も紹介されたが、肝不全への応用でも素晴らしい成果が出てきている。横浜市立大学臓器再生医学講座の谷口英樹教授の研究である。この話は、別に書かせてもらう。

もう一つ別の話であるが紹介したいのは、本日のやはり読売新聞第一面でのニュースである。iPSで白血病治療、と出ている。京都大学では白血病細胞(がん細胞)を攻撃する免疫細胞(キラーT細胞)をiPS細胞から大量に作って、白血病患者に投与する、免疫療法への応用を計画している。まだ動物実験レベルであるが、19年に治験開始と書かれている。iPS細胞は何でもあり、という感じである。ただ、がん化のリスクが残っている(可能性はゼロに近いであろうが)細胞を血液中に多量に投与することは、新たな医学倫理的な検証が要るのではないかと素人的に思ってしまう。

ということで、今年は再生医療の話題で賑やかになりそうです。

2016年1月3日日曜日

明けましておめでとう御座います


 
   明けましておめでとう御座います。今度の年末年始の休みは少なく、皆様あまりゆっくりと休まれなかったのではと思いますが、如何お過ごしでしたでしょうか。当方は、雪不足もあって遠出のない珍しい年末になりました。

さて外部での仕事が減るにつれこのブログも段々と話題不足になってきていましたが、12月は頑張っていろいろ書かせてもらいました。とはいえ、年末の締めがないまま年を越してしまいました。中途半端な年末になってしまいました。今年も頑張って何か話題を求めながら月に3-4件はアップしたいと思いますが、どうなりますか。

これまでは年頭に当たってその年々で何か目標があったのですが、今年は改まって何かがある、ということでもなくなり、若干物足りない気持ちです。まあ、そのうちに何かやることが出て来るのを期待していますが、どうでしょうか。神戸のポートアイランドでの仕事は、公益財団神戸国際医療交流財団の理事長は年末に引かせてもらって、顧問という格好で一歩下がってサポートすることになりました。ただ、神戸市が進めている医療機器事業化促進プラットフォームの委員長は続けますので、なにか面白い展開が出来ればと思います。外部での目標と言えばここがメインになりそうです。また心臓移植研究会の代表幹事も交代しましたので、移植関連での活動はかなり少なくなります。啓発活動を地道に進めて行くことになりそうです。

病院での仕事としては、やはり心不全チーム(ハートチーム)の構築であり、これによって植込み型補助人工心臓実施認定施設としての準備が進むことを期待しています。その一環として、218日に、病院主催で宝塚市医師会の後援も頂き、慢性心不全の最近の話題で講演会を宝塚ホテルで行う予定です。大阪大学循環器内科の坂田教授にハートチームについてご講演頂き、私が補助人工心臓の話題について話す予定です。時代遅れにならないように勉強しないといけません。

学会としては、1月16-17日に大阪で開かれる成人先天性心疾患学会が最初になります。また、話題が書ければと期待しています。

ということで、今年もお付き合い頂ければ幸いです。平穏で活気のある年になりますよう願っています。