2016年2月26日金曜日

小児からの臓器提供

昨日から6歳未満の子供さんの脳死での臓器提供が報じられています。6歳未満では5例目ということですが、インフルエンザ脳症から脳死になった子供さんでした。今大流行しているインフルエンザでもあり、この病気からの臓器提供は初めてということでニュースになっています。大事なのは、ご両親が娘さんの脳死を受け入れ臓器提供に至った心の悩みというか苦しみの言葉を公表されたことです。そこには子供さんに話しかけるというスタイルで書かれていて読む人の心を打ちます。6歳未満の最初の提供の富山地方のご両親の方もその気持ちを公表されていますが、こういうご家族の臓器提供にかけたお気持ちは社会が理解し共有して欲しいしと思いますし、今回のようにメディアが取り上げる姿勢も大事でしょう。また、その陰には臓器移植ネットワークの方々の苦労と配慮があったことも知るべきでしょう。そしてこういう臓器移植での現場からの貴重なメセージをひと時のニュースや移植領域で紹介するだけでなく、広く社会が共有していくために、小学校や中学校の教科書に是非掲載して欲しいと思います。
今回、心臓は医学的理由で提供されませんでしたが、肝臓と肺は子供さんに移植されました。その子供さんのご家族もそうですが提供のご家族の許可も出れば、移植を受けられた子供さんが退院するときは、病院のチームの顔だけではなく、是非とも元気になった子供さんの姿を、後ろ姿ではなく、見せて頂きたく思います。このテーマは以前にも書かせてもらっていましたが、双方のご家族の意思が尊重され優先されることであります。この前のように行政側がとやかく言うことはないようにして頂きたいと思います。また、提供のご家族の気持ちを大事にし、そして移植を受けた子供さんを温かく見守る、というスタンスを社会もメディア側もとって欲しいと思います。基本は、そっとしておいて下さい、という富山でのご両親のお気持ちが全てですが、元気になった子供さんの姿を社会が知ることで臓器提供が広まれば、皆さんが納得する話しではないでしょうか。
以下、新聞等で紹介されている文章を紹介します。

Aちゃんが体調を崩してからお父さんとお母さん辛くてね。毎日毎日神様にお願いしました。目に見える物全てに、お山に行ってお願いして、川が見えればお願いして、海に向かっても…いろいろ神社なんかも夜中に行ってお願いしました。最後には落ちている石ころさんたちにもお願いしたんだよ。でもね、どうしてもAちゃんとお父さんを入れ替えることはできないんだって。もう目を覚ますことはできないんだって。もう長くは一緒にいられないんだって。お父さんとお母さんは辛くて辛くて、寂しくて寂しくて泣いてばかりいたけれど、そんな時に先生からの説明でAちゃんが今のお父さんやお母さんみたいに涙にくれて生きる希望を失っている人の、臓器提供を受けなければ生きていけない人の希望になれることを知りました。
  どうだろう?Aちゃんはどう思う?いやかな?お父さんやお母さんは悩んだ末、Aちゃんの臓器を困っている人に提供することを決めました。もしいやだったらゴメンね。お父さんもお母さんも臓器を必要としている人がたくさんいて、その人を見守る人たちがどんなにか辛く苦しい思いをしているか知っています。もしその人たちにAちゃんが役に立てるなら、それは素晴らしいことだと思ったんだよ。一人でも人の命を救う。心を救う。ってすごく難しいことでお父さんもできるかわからない。だけど、とても素晴らしく、尊いことなんだよ。もしAちゃんが人を救うことができたり、その周りの皆さんの希望になれるとしたら、そんなにも素晴らしいことはないと思ったの。こんなにも誇らしいことはないと思ったの。Aちゃんが生きた証じゃないかって思ったの。今のお父さん、お母さんみたいに苦しんでいる人が一人でも笑顔になってくれればどんなに素晴らしいだろうと思ったの。そして、その笑顔はお父さんやお母さんの生きる勇気にもなるんだよ。
   いつも周りのみんなを笑顔にしてくれたAちゃんだから、きっとまた世界の笑顔を増やしてくれるよね?命は繋ぐもの。お父さんとお母さんがAちゃんに繋いだようにAちゃんも困っている人に命をつないでくれるかな?願わくば、お父さんとお母さんがAちゃんにそうしたように、AちゃんもAちゃんが繋いだその命にありったけの愛を天国から注いでくれると嬉しいな。                    お父さんより

 
        お母さんをもう一度抱きしめてそして笑顔を見せて             お母さんより



2016年2月23日火曜日

脳死臓器移植の課題は何か

 2月も後半に入りましたが関西でもまだ寒い日が続いています。さて今月は投稿がまだ1件止まりですので、何とかしないといけません。今年に入って学会も幾つかありました。全国学会では、1月の成人先天性心疾患学会(大阪)、2月は日本心臓血管外科学会(名古屋)、がありましたが、何か話題性に乏しくてこのブログに挙げるまで至っていません。とはいえ、名古屋では海外招請講演の一つの、米国での心臓血管外科シミュレーショントレーニングについての講演の司会をさせてもらっています。この話は後日に回して、今日は臓器移植の話にします。またか、という方もおられるかもしれませんがお許しください。
脳死での臓器提供数は平成227月の法改正後、それまでの年10件程度からここ数年は50件近くまで増えていることはよく知られていると思います。昨年は58件とその前の51件より増えてきています。心臓移植もやっと年間40例を超えるようになりました。とはいえ、小児心臓移植では厳しいドナー不足が続き、渡航移植を目指した募金活動が今も行われ、ニュースでも紹介されています。脳死での臓器移植を我が国で定着させ医療として受け入れられるには少なくとも今の2倍(年間100件)は必要であり、望むべくは年間200件でしょう。心臓移植希望者は毎年新たに100人以上が登録され、現在400人以上が待機しています。年間40例では10年かかる計算です。植込み型補助人工心臓が登場して、年間の植込み数は昨年では140例とも言われています。このギャップはどうしたらいいか、明白でしょう。再生医療への期待もありますが、かといって脳死移植を過去のものにしていくほど現実的ではありません。
さて、脳死での臓器提供がどういう状況であるのかはなかなか情報がありません。日本臓器移植ネットワークのHPでは実数とともにかなりリアルタイムの提供例が公表されています。啓発活動も行われています。しかし、その陰と言いますか何が問題かは見えてきません。論点整理ということでは時々新聞等での調査記事があり、家族の同意が得にくい現状も指摘されていますが、継続的ではありません。そういう意味では行政の役割も大事です。厚労省には臓器移植対策室があって、法律が出来て以来、毎年現状の報告がなされ、また何年かに一度ですが詳しい分析も関連委員会で示されています。私もかってその委員会(臓器移植委員会)に参加していましたが、この委員会も現在は年1回開かれるかどうかという状況のようで、外に出される資料は限られています。
厚労省は年1回ですが国会の厚生労働委員会で臓器移植の実施状況等に関する報告が功労大臣により行われ、その報告者が厚労省のHPに出ています。ただ、これも型どおりの実施状況であり、表に出ている数であります。啓発活動にはこれだけ頑張っているということも記されていますが、分析的なことは何もありません。臓器提供の現実的な課題を審議する場は臓器移植では最も大事な委員会である健康局疾病対策課開催の厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会でしょう。私も長らく参加し、多難なスタートとその後の展開に向けて重要な議論と決定がなされて来ました。最近は年に1-2回程度しか開催されていないのですが、ここでの議論や提示資料をHPで見ることが出来ます。第42回の議事禄を含めこれまでの議事録や資料が閲覧できます。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=127745
ここ何回かの議論は、提供施設の負担軽減がメインのようです。これは大事なテーマであり、移植関係の学会等で要望していることであり少しずつ進展があり、その努力は評価されるでしょう。しかし、ドナーコーデイネ-ターの実情は触れられていません。言い換えれば、課題は何かという詳細な分析を示す資料は見えてきません。例えば、ネットワークにコーデイネーターの来院の依頼があったのが幾らあって、その転帰はどうなのか。提供に至らなかった理由は何か、等の改善すべき原点の課題の提示がありません。これは何処がやるのか、ネットワークなのか、対策室なのか、はっきりすべきではないでしょうか。
要は、臓器提供に関わる課題についての継続的な分析とそれに対する取り組み(啓発だけでなくです)が社会で共有できていないと思われます。関係者の努力が少ないとは決して言いませんが、焦点を絞って議論し、具体的改善策を出す、ということにもっと絞るべきではないでしょうか。その一つがドナーコーデイネ-ターの育成と充実です。増やそうにも人材が集まらないとすればその背景や理由は何かです。関係者はお分かりのことでしょうが、この課題は共有されているのでしょうか。提供に至った表の数ではなく、その基となるドーネーションの実態の詳しい分析を半年ごとでも公表すべきでしょう。

下の図は昨年までの脳死での臓器提供と心臓移植の推移です。

 

2016年2月6日土曜日

再生医療と産業化


 もう今年も2月に入り、一昨日は立春、厳しい寒さもやや緩んできたようです。今回は読売新聞の131日付けで出された大阪本社からの提言に絡んで、表記の再生医療と産業化についてコメントしたいと思います。

タイトルは、「地方回帰へ文化力生かせ読売新聞大阪本社提言」で、人口減少、東京一極化、などのなかで関西の復権を何とかしようということで、有識者組織「関西よみうり懇話会」の「地方の未来を考える委員会」で交わされた議論を踏まえ、専門記者らによる研究会で地域再生方策を探ってきた、ということです(記事)。5つの柱があり、私が注目したのは「大学を活性化の拠点にせよ、1iPS細胞の産業化を急げ」である。説明では、産学連携で企業や研究機関の連携を強め、イノベーション(革新)を起こし、なかでもJR大阪駅北の再開発地域「うめきた」2期地区に産学の橋渡し機能を備えた公的機関を誘致し、研究成果の事業化を支える拠点を整えたい、とあります。

この背景には、京都大学の山中教授率いるiPS細胞研究所の存在が大きく、さらに再生医療への応用を進める神戸や大阪での活動もあり、関西の大学は学術のみでなく産業という面でも日本の牽引役を果たし、関西復権のキーになる、という筋書きである。iPS細胞の産業化に向けた研究開発が急がれるとし、起業家精神を養う教育プログラムを充実させて大学発ベンチャーを増やしていくほか、導入が進む「地域学」に地域支援活動を組み込み、地域の担い手を育てる役割も求められよう、と書かれている。

私の言いたいことは、提言で言う大学発べンチャーの育成や再生医療研究の産業化は、果たして大学の頑張りだけで出来るのか、ということである。確かに再生医療新法で臨床治験への道が近くなり、保険診療への取り入れによる研究成果の産業化が促進されようとしてきている。そういうなかで、大学も多額の国や他の競争的資金を集めて拠点化してきている。大学の活性化は地域振興に繋がる、ということから、大学にはっぱをかけている。

再生医療と産業化については先に豪州メルボルンでの展開について紹介しそこでも触れたことであるが、例えばiPS細胞の培養については幾つかのベンチャーが企業として参加し、国際的に活動している。その背景に、財政的優遇措置があることは先に指摘した。我が国は確かに先駆的研究推移には多額の研究費を投入してきているが、産業化については具体的にどういう課題があり、いかなる施策が求められるか、という視点での議論が少ないのではないか。

新聞社の提言も結構であるが、大学に頑張れというからにはそこに潜在する我が国特有の課題の分析や海外での実態のレビューが欲しい。それがないと、せっかくの提言が打ち上げ花火になるのではないか。海外での(特に豪州や東南アジア)ベンチャー企業への税制優遇措置はどうなのか、規制緩和策は、といったことである。かかることは、既に国が(経財産業省)が海外事情の調査をしているはずであり、知る人は知っていることである。そこを乗り越えて前に行くには、国や地方行政は何をすべきかの具体的提案が出てきてほしい、というのが私の感想である。新聞社の役割は提言までで、後は大学や行政がすることです、ということなのか。

先端的医学研究の産業化には、国の医療制度そのものも関係してくる。国民皆保険制度と先進医療の推移とは拮抗するところもある。革新的医療が産業化に結びつけられたら、最終的に病気が減り医療費が抑えられる、というシナリオがいつ実現するのか。

何れにせよ、再生医療の産業化はまさに今始まろうとしていて関西が牽引していることは素晴らしいことである。
 
 読売新聞の記事)(1月3日関西版朝刊1面)の一部を紹介します(勝手に使っていますが)