2017年9月11日月曜日

旭川にて

皆様、ご機嫌如何でしょうか。こちらは9月に入ってのんびりモードからギヤチェンジというところです。
9月に入ってからは先ず東京での日本人工臓器学会が例年の11月とは違って早く開催されました。法政大学の生命科学部山下明泰教授が会長で、飯田橋近くの法政大学キャンパスで開催され、一日だけ参加してきました。人工臓器学会は多くの体の臓器の代行をする人工的手法の学術を対象にしていて、当初は人工透析が対象の学会ですが、最近は人工心臓関係が幅を利かせているようです。会長が基礎系、理論系ですからいつもと違った雰囲気でしたが、結構盛り上がった学会でした。なかでも補助循環関係が多く、看護師、臨床工学技士の参加も多く、賑わっていました。こういう学会は臨床系だけでなく、機器開発や技術開発に関わる基礎系・技術系の研究者が大いに活躍してもらえる場でないと、国産の技術や機器が出てきません。海外の医療機器の使用経験の話では先が暗いです(自己反省しきりですが)。
補助人工心臓分野では、植込型が普及し心臓移植の34倍の患者さんがこの状態で移植待機中のなか、移植を目指さない永久使用(DT)が学会では最大の関心事です。この臨床治験も症例登録は済んで来年には保険適応にするかどうか検討されるようです。確しかに心臓移植は年間50例とすれば34倍の患者さんが待機するわけで、34年の待機期間は異常です。といって、永久使用(Destination Therapy)は建前上移植適応ではない患者さんが対象ですが、まだまだいろいろ課題はあります。米国ではものすごい勢いで普及していますが、心臓移植も年間2000例は行われるなかで、比較的高齢の方への適応が進んでいるようですが、移植待機とのミックスしたところもあります。柔軟に対応し、患者さんの意思の尊重が優先されます。日本ではどうなるのでしょうか。65歳以上で心臓移植対象外の心不全の方には確かに福音かもしれません。しかし、高齢者医療の社会的基盤や医療現場の理解はまだまだ不十分です。試験的に進めることはあっても健康保険で扱うかは大きな問題でしょう。
補助人工心臓は今の適応とされる移植待機患者さんとこの永久使用の対象患者さんの二つの大きく異なる対象者の間には、どちらとも決めかねる患者さんが結構多くいます。今、保険制度上はこの間にいる方は置きざれにされかねない状況ともいえます。この問題は関係の会議で訴えましたが、放置されています。新しい医療の導入もいいですが、対処患者の背景のしっかりした調査なしにどんどん進める傾向にあるのが問題と思っていますが、少数意見です。
高齢者の医療費が高騰し、しかも海外から医療機器に多額の税金が払われるのですから。まずは心臓移植年間200例を早急に実現することへ最大の努力を図るべきと思います。また植込型補助人工心臓では多くの海外の機器が参入してきていますが、国産の機器の開発への国のスタンスは信じられないくらい弱いのです。
植込型補助人工心臓の永久使用では、先に述べたように幾つかの課題が残ってます。大きなことは、終末期医療です。脳障害に陥った方で、緩和ケアになった時の対応、法整備が十分ではないこと、病院や医療従事者の対応が制度的に出来ていないこと、救急医療体制での対応、など心臓移植へのブリッジでの社会的基盤が未整備の状況をまず解決することが大事と感じた学会でした。先進的医療をすべて健康保険で対応するのは限界があります。再生医療もそうです。未だ効果がはっきりしない、特に費用対効果が悪いものへの早期保険適応には疑問があります。再生医療もそうで、エビデンスがまだ十分でないものは、健康保険とは別の基金のような財源でまず進める方策が必要と感じます。先進医療保険のようなものがどんどん進めといいのですが。先進医療や人工臓器治療で高額になる場合、医療者側にも何か歯止めをつける、DPCもそうですが、といった上限設定でも作らないと、そのうち高齢者の高額医療で社会保険制度は崩壊するのではと危惧します。日本の医療制度の、いつでもどこでも最新の医療が自由に受けられる、という仕組みはそろそろ限界ではないでしょうか。病院の集約化でもって医療費を安くしても乗り切れる仕組みが要ります。韓国、台湾も、病床数が2000を超える病院がどんどん出来ていることに、わが国も目を向けるべきでしょう。次の20年を見越した英断が必要です。
本題ですが、先週は旭川でした。日本移植学会で、旭川医科大外科の古川教授(肝移植)が会長でした。臓器移植法制定20周年にあたって、さらなる臓器提供の増加を目指すなかで、レジェンドに学んで継承する、というテーマでした。特に役割はなかったのですが、先日紹介した院内ドナーコーデイネーターについていろいろ意見交換が出来ました。かなり収穫です。というのは、今回の学会は移植側だけでなく、臓器提供側もたくさん参加され、ホットな議論が交わされました。今までにないことです。この学会に初めて参加したという脳神経外科医、集中治療医、救急センター医、が何人かおられ、臓器提供の現場の生の声を紹介しておられました。また、厚労省の臓器移植推進室の方も参加され、行政の考えも整理することが出来ました。
院内ドナーコーデイネーターの資格化はどう進めるのか、という質問を何度かさせてもらったのですが、現場の方からは、資格化はされても個人につくので病院としては必要ないという意見もありましたが、フロアーでの会話では資格制度は必要との意見も多かったようです。一方、移植学会と行政は臓器提供を終末期医療の中で考えて、総合的に対応できる資格制度を考えているとのことでした。個人的には臓器提供というある意味前向きの面があるものを、終末期というやや反するカテゴリーで括ってしまうのは如何がと感じます。厚労省の室長さんとの話しで、包括的な終末期対応の支援制度つくりといっても、やはりドナーコーデイネーターは少し別で、進めるにせよ今のコーデイネーター育成事業(都道府県)を取り込まないと、という意見には賛成のようでした。 尊厳死には法律がないなかで、終末期のコーデイネーターの役割はどうなるのか。脳死での臓器提供は法律があって行われているのですから、もっと専門化してもいいのではと思います。
それにしても、人口百万人当たりの年間の脳死での臓器提供数は、わが国はまだ1.0以下ですが、韓国はその16倍です。日本では心臓移植は年間50例に達し、これまでの総数は350例ほどです。成績も良好です。しかし、待機中の死亡は移植数とほとんど変わりないのです。3年以上の待機でチャンスは二人に一人、という事実を社会はもっと知ってほしいと思います。脳外科医の方が、心臓移植の素晴らしい成績の陰で多くの方が亡くなられ、また長期に待機を余儀なくされている、ということを脳外科医はほとんど知らない、もっと情報を出したら脳外科医の理解が得られる、という意見がありました。まさに時代が変わってきた、と感じたのは私だけではないでしょう。
そうです、移植医側は移植で元気になった方を、子供さんも、もっと社会に出てもらって、臓器移植が素晴らしい医療で、しかも命のリレーです、というアッピールをもっとすべきでしょう。肉親からの生体臓器移植も必要ですが、亡くなった方からの移植の役割の大きなことを社会はもっと知ってほしいと思います。あるいは、知られているが、仕組みがいけないのかもしれません。法制定20周年の節目に、こんな感想です。脳死で臓器提供が年々増え続けていて、潮目が変わった、もうすぐ100例ですよ、という話に安心せず、日ごろから社会啓発に努めることが大事と思います。

旭川での総会は日本移植学会としても節目であり、さらなる発展のスタートになるもので、参加者としても有意義な学会でした。

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