今年の1月に投稿をしてからいつの間にか3月も終盤になってしまった. Covid-19の感染拡大が第3波から徐々に収まりつつあるなかで,感染者数は下げ止まり, 第4波の危惧, 変異株の登場, 非常事態宣言を止めるか続けるかの相変わらず焦点が絞れない議論が続いている. ワクチン接種が始まっても肝腎のワクチン自体の供給が予想以上に遅れているなどの現実を見ていると, コロナの話題をまた取りあげる気も薄れて, 投げやり的な気分になってしまっている自分が情けなく思う. とは言え思い直して最近感じたことを書くことにした.
先日, 読売新聞が感染症パンデミックへの提言を出している(3月21日朝刊、図参照). 感染症医療を「戦略的体制に」, ということで7つの項目を挙げている.
病床を「有事体制」に, そして「病院の役割分担を進め逼迫を防ぐ」, 「ワクチンの確保に国は全力を」, など国の役割や作戦についての提言を出している. 新興感染症への国家的取り組みの不備が露呈したなかで, これをどう改革していくかの提言である. やはりこのような世界を揺るがす感染症パンデミックに備えるには, これまでの一国立研究機関と都道府県の保健所では無理なことが実証されているわけで, 新興感染対策を包括する保健衛生上の危機管理組織の抜本的改革が欲しいところである. それぞれ重要なことであるが, ここでは提言の最後の, 「保健所の職員を増員せよ」, を取り上げてみる.
これはなんとも気の抜けた話で, 保健所自体がそもそもパンデミック対応を想定していないし, 人員も削減してきた背景を無視してただ増員というのはどうかと思う. 私も看護師や保健師の育成に関わった経験から, 看護学生の中で資格は取っても実際に保健師になろうとするものはごく少数であった. そもそも保健師の役割は多岐にわたっており, 今後はどういう方向でもって育成するのか, 保健師に加えて保健行政に携わる専門職種をどうするかの話しでもある. 以前は看護学生は卒業時に国家資格として看護師と保健師を取ってダブルライセンス取得者となる, という流れがあった. しかし, 保健師資格をとっても実際は看護師としてのみ働くものが殆どであったことから, ここ10年ほどで保健師育成制度は二つに分けられた. 一つは, 従来型ではあるが学部教育過程に保健師コースを併設し, かつその定員を各大学10名程度に制限した. もう一つは看護師資格取得後に1年の保健師受験資格を取る専門コースの設置である. 共に, 保健師の役割を明確にし, 保健所や行政への入職者の確保に繋げようとするものである.
しかし, 受け皿は古いままであり処遇もあまり改善していない現状もある. 数年前の調査で, 全国の約8,000人の保健師のなかで保健所勤務者は15%程度に留まり, 半数は自治体の保健センター勤務である. 今回のコロナ禍で保健所の保健師が現場でのキーパーソンであると共に, 何でも屋的な仕事となってきている. 一方では看護師と共に過酷な働く環境が示されているわけで, 保健師希望者が今後増えるのかは疑問である. 当然ながら人員増では限界があり, 感染制御に特化した新たな国家資格を作ることも考えないと, 何時までも保健師に頼っていては現状と変わりないであろう. 心不全領域では特別法が出来て心不全療養指導士制度が発足したが, 日本循環器学会の会員資格を必要とし, 学会認定としたことは大いに問題であることは既に述べたたが, これとは別次元で考えないといけないであろう.
繰り返しになるが, 現在の保健師の役割から言うと, 国家的な感染予防対応には荷が重い. 勿論, 組織の中のメンバーではあるが, 責任と多くの現場での仕事を担当している. 保健師や看護師が急遽かり出されて, それ頑張ってくれ, というのは姑息的に見えてくる. 当座は致し方ないが, これからの話しでは, 増員ありきでは心許ない. やれ人を増やせ, 家庭にいる保健師資格を持った看護師を現場へ, といった付焼刃的な対応しかできない現状があり, 10年後を見据えて保健行政の仕組みから, 新興感染症対応の新たな分野を作り, そこで必要とする新たな人材の資格制度が必要であろう.新興感染症対応を行う組織を支える人材育成が重要であることは論を待たない. まず医師については感染症専門医の絶対数の不足が指摘されている. 現状で感染症専門医が全国で約1600人であるが、働く領域では公衆衛生や、基礎研究分野もあり、感染症の医療に医師として携わっている数は限られることになる. わが国では専門医制度設計が新たに段階に入っているが, 感染症専門医をどういう枠組みにするのか, この期に及んでも見えてこない. 枠組み作りでいえば基本領域の整備に何年も要していて, 感染症専門医を基本領域の上におくのか(2階, 3階), 横断的専門医とするか議論が纏まってもいない. そもそも基幹病院の現場で不可欠なサブスペシャル領域専門医の整備が遅れている. 私見であるが, その背景には今回の新たな専門医制度において, 厚労省が強引に入ってきて制度作りと運用において法律を作り主な決定事項は医道審議会マターとしてしまった付けが来ていると思っている. 感染症専門医にせよ, 急場で出来るものではなく, 信頼される専門になるには10年はかかる現実があることを真剣に考える必要がある. ここは何時ながらの私の専門医制度への意見である。
看護師についても, 感染管理認定看護師は全国で約3,000人と、各種の認定看護師制度の中では数としては最も多くなっている。確かに多くの病院で活躍してはいるが、病院がやたらと多いわが国では各施設で認定者を充足することは困難である。また認定看護師制度も日本看護協会が舵を切って特定研修をその修練要件に加えている. これでは質の向上があっても入り口は厳しくなり, 必要とする数の人材を育てるにどう働くか懸念される. 質も大事であるが, スケールメリットを持たせないと十分な力が発揮できない. このことは, 昨年の第17回日本循環器看護学会の特別講演で話をし, 論文を学会誌に載せてもらえることになっている. 認定看護師, 特に感染専門の認定看護師にはより横断的なかつ柔軟性をも持った仕組みが大事である. このCovid-19パンデミックにおいて, 日本看護協会も特例措置で感染管理での認定者がいない病院での新規申請者には補助金を出すところまで来ているが倍増計画はまだ見えてこない. しかし、認定看護師を増やしても新興感染症対応が出来るかというとそうではない。例えば保健師資格を持ちながら感染制御を専門とする、といった新たな制度もこの際考えるべきであろう。
さて読売新聞の提言への専門家のコメントもいくつか紹介されていたが, お一人が, コロナ対応の病院として国立病院の役割を指摘している. 私が新聞等で見てきた限り国立病院をコロナ専門病院へという意見は初めてである. やっと, しかも緊急事態宣言が解除されるといった時期にでてくるという何とも不思議な話である. 国立病院という言葉をCovid-19対応で使うことが憚れる背景があるのではと勘繰りたくもなる. Covid-19における保健行政の役割は危機管理の根幹であるが, それえを支える医療職者の制度はどうなっているのかを, 読売新聞の提言の一部を取り上げてご批判覚悟で私見を述べさせてもらった.
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