ゴールデンウイークは皆様いかがお過ごしでしたか。今年は前後に分かれていて、あまり長くは休めなかったのでは思います。私は米国胸部外科学会(AATSと訳しています)の出席のため、30日から米国に飛びました。学会はミネソタ州ミネアポリスで4日からなのですが、その前の2日ほどはサンフランシスコでゆっくりしました。大学のクラブの後輩夫妻が長くベイエリアに住んでいて、学会の行き帰りに時々遊びに寄るのですが、今回も2日ほどお世話になりました。ワイナリーとヨセミテ、そしてモントレー、とカリフォルニアの素晴らしい自然を満喫しました。素晴らしい天気、何時もそうらしいですが、気温も30℃としっかり日焼けしてから学会に向かいました。ミネアポリスまで飛行機はまた3時間ほどかかり、着いたら雨で気温は3℃でさっきまで雪が降っていたそうで、夏から冬へ逆戻りでした。
さて、AATSというのは米国の心臓外科、呼吸器外科、それに食道外科の専門家が集まる学会ですが、世界で最もプレステージが高く、かつ卒後教育の企画も充実していて、世界中から医師や企業関係者が集まってきます。企業展示はその規模に圧倒されます。日本からも教授の方が7-8人、若い方が20人位でしょうか来られていました。日本からの採用演題は2つだけで寂しかったですが、全体でも80ほどですから、厳しい採用率です。
興味ある発表や企画が幾つかありました。その中で一つをまず紹介します。それは胸部外科医のトレーニング(レジデント+フェロー)の話です。米国では一般外科の修練後に心臓・肺・食道外科の胸部外科のコースがあり、厳しいながらきちんと教育体制がとられていて、世界の標準にもなっています。日本もそれにならって一般外科の修練の後で心臓とか呼吸器の外科に行きますが、制度的には甘く、社会的評価も高くありません。米国のレジデントの給与は保険機構から出ていて、その枠も決まっていて、アプライが無ければ病院の若手の働き手がなくなります。いいプログラムを提示しないと若い医師は来てくれません。
その素晴らしい米国のレジデント制ですが、外科系は世界共通で希望者が減っていて、レジデント枠が埋まらないプログラムが増えてきていることは知られていましたが、今回の学会ではその関連の発表がありました。それは応募が少ないだけでなく、専門医資格試験の合格率が65%(年平均で受験者は最近は130人位)に落ちてしまっている、ということです。それは臨床経験に関する口頭試問の成績が悪く、それは2006年ごろに米国の専門医教育関連機構がレジデントは週80時間以上働いてはいけないという事を決めたためということです。外科では手術と術後管理、週何回かの当直、当直明けの手術、という当たり前の勤務(教育)があったのですが、レジデントの働く環境を良くして、例えば医療事故を減らそう、ということから週80時間以上は働かせられなくなっているという事が原因と言っていました。少ない時間でより臨床能力を上げるにはどうしたらいいか、という話であったと思います。年に200人近くは胸部外科医資格を取ってくれないと困るのに、7-80名の合格では心臓外科や呼吸器外科の臨床活動に無理が出てくるでしょう。また、カナダの先生は、自国では医学部卒業生の60%(そう聞いたと思います)が女性なので、外科系は本当に深刻であるが米国はどうするのか、という質問もありました。また、一般外科に行かないで直接心臓外科や呼吸器外科に行って、胸部外科専門医の資格だけをとるストレートコース選択もありとなっています。これは要注目でしょう。
さて、我が国では専門制度の改革を進めようとしていますが、お手本となる米国のレジデント制が外科系で破綻している状況をよく理解し、今でも少ない日本の外科入門者をさらに減らさないよう、逆にどうしたら増えるか、具体的に考える大事な時期になっていることを強く感じた次第です。
もう一つの話題はチェイニー元米国副大統領の心臓移植の話ですが、次回にします。