さて前置きとして紹介しておきますが、チェイニー氏は2001-2009年までGorge W.Bush大統領のVice Presidentを務め、イラク戦争や9-11テロ後の対応などで強硬派として実績を上げながら、米国ではあまり良い評価が得られていなかったとも伝えられています。同氏が71歳で心臓移植を受けたことで、医療界でかなりの議論が起こったようで、70歳を超えた高齢者がどうして心臓移植を受けられたか、政治的なことがなかったか、などなどであります。年齢については、70歳以上は受けられないという決まりはなく、カナダでは79歳で受けて90歳まで生きられた方や、テキサスでは75歳で受けてマラソンを楽しんでいる方いるとか、米国は年齢については自由度があり、その移植施設に任されているし、UNOS(全米ネットワーク)への登録も70歳未満であれば原則可能であると思います。心臓の場合の臓器配分は、日本のように全国統一ネットワークではなく(仕組みとして)、まずは地域の中で配分されるので、バージニア州がその点で良かったのかも知れません。
さて同氏はこれまでの自分の病気について詳しく話されました。その要約です。37歳の時に冠動脈の硬化で心臓発作(心筋梗塞)が始まり、副大統領時代に何度も心臓発作や心不全で入院しながら、任務を全うされています。不死身というか、すごいエネルギーを持った政治家です。任期後、2010年には心不全が悪化し、ICUで人工呼吸器をつけた治療が数か月ほど続いて(そう聞けました)、体力はかなり落ち込んだ、という話をされていました。そして、植込み型補助人工心臓の装着を受け、その後で移植登録をしたようです。約2年(20か月)の待機期間で移植に到達されています。20か月ですから、そう早く移植になったわけでもなく、何か優先されたようなことでもなかったと思われます。ということで、移植登録は69歳と推測されますが、移植を受けた後の経過は順調で、素晴らしい贈り物であった、とドナーに感謝の言葉を何度も言われていました。ドナーがどういう方かは知らされていないが、何かの機会に会うことがあれば、心より感謝の言葉を言いたい、とも言われていました。聞き手から、移植を受けられたことに政治的なことはなかった、という質問もありましたが、そういうものではないとのお答えだったようです。
また、頂いた心臓を、My Heart、と何度も言われていたのが印象的でした。何かアメリカ人らしい考えか、と思ったりしましたが、移植を受けたことを本当に感謝し、真摯に現代医学の進歩に敬意を表しておられました。詳しくは本を出す準備をしているので見て下さいということでした。学会自体が心臓移植や補助心臓の推進的なところですから批判的な雰囲気はなく、終わった後もしばらくスタンディングオベーシオンが続きました。
次の日の一般演題で補助人工心臓に永久使用(Destination Therapy)の発表があり、発表後の質問でも、チェイニー氏の話が引用されていました。それは、補助人工心臓の永久使用は年齢が高いなど、心臓移植を目指さない選択肢で始まったのですが、実際には植え込み後に患者さんの状態が良くなってやはり移植希望をするケースが出てきていて、チェイニー氏もそういう流れであった、ということで議論がされていました。
我が国では植え込み型補助心臓は移植へのブリッジ以外は適応(保険償還)にならないので、それを拡大すべく(永久使用というかどうかは議論中)議論が進んでいることを申し上げておきます。
河野前参議院議長が息子さんの太郎さんからの生体肝移植を受けられましたが、日本の政治家は原則的に病気を隠しますし、何度も入院すれば辞めさせられます。首相でも、自発できですが、辞めたことが記憶に新しいです。米国の大統領制が基盤にあるからチェイニー氏のような方でも要職に10年近く付いておられたのかもしれません。また、年齢差別を悪とする社会でもあります。日本の補助人工心臓の心臓移植待ち以外の適応や心臓移植そのものの適応年齢(やっと65歳まで引き上げられましたが)について、また私のような前期高齢者(?)への先進医療の適用、などについて考えさせられる内容でした。
写真は、学会のインタビューでのもので、学会場のモニターを写したものです。左が学会会長、右が主治医、真ん中がチェイニー氏です。
写真は、学会のインタビューでのもので、学会場のモニターを写したものです。左が学会会長、右が主治医、真ん中がチェイニー氏です。