先日紹介した医療機器の産業化促進プラットフォームのキックオフセミナーは500人もの参加があって盛会でした。神戸での医療機器開発に期待をかける人たちが多いのにびっくりしながら、いいスタートが切れたかと思います。といっても全てこれからです。事務局の黒木さんがコーデイネーターをやってくれるのですが、どういう情報や相談があるか、楽しみです。私も臨床現場でのニーズ掘り起こしをやらないといけません。やはり、すべてはベッドサイドから、という原点に帰ることから始まります。
さて、先日から冠動脈外科学会、小児循環器学会と続いていますが、話題としては前者ではハートチーム、後者では小児の心臓移植、です。
今日は後者の話です。今年の日本小児循環器学会はもう49回目で東京女子医大の中西教授が会長。私もかって会長をしたことがある子供さんの心臓病を扱う学会ですが、今回の学会では公開講座として「我が国の小児心臓移植はどうなるか」がありました。法律が改正されて15歳未満の方からの脳死での臓器提供が法的に可能となったものの、10歳以下の子供さんからの臓器提供はこれまでお一人だけに留まっています。小児の補助心臓も登場しつつありますが、国内での移植は難しく、依然として海外、米国ですが、に頼っています。そういったことから、会長が何とか改善しないかと企画されました。小児循環器学会がこれまでこれほど心臓移植を前面に出したことは無かったと思います。東京女子医大は成人の心臓移植は行っていますが、小児の認可はまだであり、小児心臓移植施設への仲間入りを願う中西教授の意気込みが感じられました。
公開講座は、司会には川島康生先生も加わり、特別発言には中山太郎前衆議院議員、海外から3人、と豪華な顔ぶれでした。厚労省、産経新聞の後援にもなっていました。阪大の福島先生が先ず我が国の小児の心臓移植が海外での移植に頼っている現状を紹介し加えて外国の方のドナーに依存していることへの社会の認識の在り方、募金で済ませられる問題ではないことを強調していました。特に、米国では海外からの患者を受け入れていますが、数年前ですが海外からの小児の心臓移植はその年7例で全例日本人であった、という事です。これではいけないですよね。
海外からの発表のなかで注目されたのはドイツのケルン大学のブロックマイヤー先生の話でした。まず、欧州は多数の国が集まって一つの合同臓器提供システム(ユーロトランスプラント)を構築していて、全体の人口が1億3千万人と日本を少し上まわるのですが、年間の脳死での提供数は約600ということでした。日本の20倍近い数です。小児は約10%ですが、もう外国(日本などEU以外)人への提供は出来ないと言われていました。
一方、米国の移植コーデイネーターのロドリゲスさんは、米国全体の話の中で、これまで海外からの患者さんへの提供は5%ルール(その地区や施設での年間総数の5%までは国外の方に回してもいい)のもとで行われていましたが、昨年それが撤回されたそうです。この意味するところは複雑で、米国には多くの多国籍の方がおられることが背景のようですが、日本側から見て歓迎などとは言えない状況であることは間違いないでしょう。
日本側からは米国のUCLAで移植を受けた子供さんのお母さんが登場し、心不全の発病、移植適応と言われ、募金、海外へ、そして9か月の米国での待機後、無事移植が出来、帰国して小学生で野球少年になっている、という涙の物語を聞かせてもらいました。印象的だったのは、米国で待機中にコーディネーターの方がお母さんに、「今貴方はどういう気持ちでここにいるのか、そしてドナーが出てくれることを願ってもそれは何の役に立たない、ただすることは子供さんが助かるよう祈る(?)ことです」と言われ、落ち着いて待機できた、という所でした。ドナー家族からは元気にしているか、一度会いたい、といった連絡があるそうです。
医学的、社会的に貴重な発表は、富山大学での6歳未満の初めての臓器提供に関わった聖隷三方原病院救急救命センターの岡田眞人先生のお話でした。先生は小児救急医のベテランで小児の脳死判定基準作成やマニュアル作りにご尽力された方で、富山大学での脳死判定や提供に関わられました。その経験や経緯から、我が国の小児からの脳死からの臓器提供での課題を的確に纏められました。富山では、ご家族が率先して臓器提供を希望されたので実現したとうことですが、虐待の可能性を除外するため児童相談所とのやりとりで1日、警察との検死でのやり取りで1日、と何日も手続の時間が経つ中で家族はじっとこらえて待っていたとのこと。善意の提供が規則というか法律のもとでということで、家族も主治医も、そして病院も大きな負担があり、後に続く人や病院があるのか心配になります。
岡田先生発表には現状の小児に限らず脳死からに臓器移植が進まない背景のまとめがありました。その中で、1)医師の中で脳死は人の死ではないという人がいる、2)脳死は臓器移植でしか法律で死と定義していない、3)家族(遺族)の子供さんの死を決めるという大きな精神的負担、などが指摘されました。以下は私見ですが1)はまさに我が国の医学教育で欠落しているところであり、病理、法医、脳神経、小児科、といった多くの専門分野の医師が、別々のことを言う。脳死は治療の敗北という人がいますが、何故敗北なのか。医学的科学的事象と個人の感情が混在していると思います。岡田先生は小児救急でドクターヘリを導入した先駆者ですが、経験を基にしたメッセージ(一部しか紹介できていませんが)は重く響きました。
中山太郎先生は、我が国の国会という法を作る所で、医師を始め科学者が少なく、科学的発展を支援する法律つくりが難しいことをご自身の経験から述べられました。
この公開講座はまた何らかの恰好で公表されるでしょうが、社会は小児の心臓臓器移植の現状を正しく理解し、どうしたらいいか、考えて欲しいと思います。
最後に、海外で移植を受けた子供さんが登場し元気になりましたという話の後、皆さんの前でサッカー選手が良くやる宙返りをみせてくれました。