2013年10月3日木曜日

医療費の無駄と質

       昨日のNHKクローズアップ現代は、「ムダの見える化 医療の質を上げろ」で、岐阜大学医学部付属病院が取り組んでいるビッグデーター事業の紹介であった。医科歯科大の川渕孝一教授が開設で登場していた。詳細は他に譲るが、幾つか論点が浮かび上がってきたので書かせ頂く。

まず、冒頭に医療費が高騰して年間総医療費は37兆円に達していることが協調されている。10年位前は30兆円であったから、確かに急速な上昇ではある。そういう背景で、医療費の使い方にムダがあるはずで、ここを漠然とした考えでなく、データーで攻めて行こうというのが最近の世界の傾向で、岐阜大は率先してこの事業を専任の教授のもとで進めている。ここで、ムダという表現は単純に無駄なものとして切り捨てていいかはまず議論が要る。何の研究でも主たるテーマの定義がはっきりしないと結論は甘くなる。という事はさておいて、大学病院は多くの患者さんが来られ、多様な診療科があって高度医療も行われている。また、医師は自分の領域で専門性の高い先端的な医療を積極的に進めているが、診療科間の横の連絡は乏しい。従って、薬の過剰投与など、最適な治療が総合的に行われ難い状況がある。そこの調整役はいままで誰もしなかったし、しようと思っても適切な人材もそれを受け入れるポジションもなかった。そこ膨大な臨床データーを一括して管理し、そこから出てくる情報を使って医療の質の改善を目指しているのが、岐阜大である。

外科医については手術時間のことが紹介された。予定時間を延長した手術が多いのがまずやり玉に挙がってきた。そこには、手術が長くなると再手術が多いというデーターが出ていて、術前検査や手術計画をもっと適切にやったら改善する、という話であった。手術時間の延長は思ったより重症であったとうこともあるが、外科医側は手術を多くこなしたいので決められた時間枠の中に無理に予定を入れるという現実もあると思う。これは麻酔科の陣容や考え方に大きく左右される。

我が国では手術室の使用に時間当たりいくらかかっているかの基準が現実離れの安さで計算されているうえに、医師や患者さんもそうであるが、高額な医療資源(設備と人)を使って医療をしているという感覚に乏しい。ICUもしかりである。これまで医師側には周りはあまり意見がしにくかったが、データーを見せて納得させる、という方式になりつつある。

医療費の無駄と再手術については、結論の導き方に疑問がでる。とはいえ、この事業の結果、入院期間が減り、再手術率が少なくなり、手術件数も増えたのか、病院全体の利益が大幅に増加したという。素晴らしい、結果でありほかの大学病院への影響も大きいのではないか。今回の紹介は、医療費の無駄を少なくすると言う視点ではあるが、表題の質を上げる、とは直結しない危険もある。医療費削減、無駄を省け、というこことは以前から言われて実行していることであるが、返って質の低下やリスクを高める結果にもなる。そうしないためには、岐阜大のよう医療の適正化を病院全体で共有し、その基盤にビッグデーターを使うことも大事であるが、それを担当する責任ある人材の登用である。川渕教授も言われていたが、そういう人材が日本では育っていないし、一般病院では採用予算もない。診療報酬での対応も提案されていたが、大いに期待したいが、それを整備できる病院がどれだけあるのか、疑問である。また、データーベース至上主義になると種々の弊害も出てくる。管理医療、データー医療、電子カルテ医療、など患者さんの顔をも見ながらの丁寧な医療が損なわれないか。

最後ですが以下のコメントが大事です。医療費高騰と言う強力な出だしのメッセージは社会にどういう印象を与えるであろうかも考えるべきである。高騰している医療費は何処で増加しているのか、どこが無駄なのか、そこの分析を紹介しないで、一大学病院の事例から、医療費はムダが多いという印象を与えるのは本質を見損ねる恐れがある。医療不信にならないよう注意がいる。総医療費とGDP比率はどうなったのか、大学病院の医療費は全体のどの位を占めるのか、入院期間短縮は医療削減にはいいが患者さんには本当にいいのか、などなどで論点が多いテーマである。岐阜大学の外科の先生の意見を聞きたくなった。
補足:2011年のもこの番組は、「医療費のムダを減らせ、国民皆保険50年」を放送している。NHKの影響は大きいので要注意か。

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