ISHLT国際心肺移植学会報告からもう2週間近くになり、4月も終わろうとしています。もう連休も一部始まっていますが、皆様如何お過ごしですか。
さて、前回の続きとして、臓器移植でのドナー不足対策について海外の状況を紹介したいと思います。米国では年間死体(殆どが脳死)からの臓器提供(組織提供も含む)は約8,000例もありますが、心臓移植は約2,300例になります。これは、心機能が悪かったり高齢であったり、種々の理由で心臓移植には提供されなかった心臓が7割近くあることになります。我が国では脳死での提供数は昨年で47件になり、8割近くで心臓の提供(37件)が実現しています。その理由は脳死判定が限定されていることや、脳死まで、あるいは脳死になってからの管理がしっかりしていることによります。海外に目を向けますと、臓器提供数は何とか維持されていますが、待機患者は増え続けていて、待期期間も長くなり、移植至らずなくなっていく患者さんは増えて行っている状況です。
脳死ドナーからの臓器提供率が低い肺や心臓(腎臓や肝臓は7-8割)にどう対応するかが欧米での大きな課題です。そこで登場しているのが体外での臓器保存装置です。一つの装置はポータブルで飛行機に乗せて遠方まで心臓や肺を運ぶもので(写真)、もう一つはポータブルでない体外での灌流装置ExVivo Perfusion)です。後者は、移植病院まで肺を従来通りのクーラーボックスで搬送し、移植病院で肺の灌流を行って機能を調べてから移植の判断をするものもあります。ポータブルのものは、小型人工肺と血液ポンプを組み込んだ回路をドナーの血液で満たし、心臓や肺を無菌のままで潅流させるものです。肺では人工肺ではなく人工呼吸器でその肺に呼吸をさせます。心臓はこの装置に着けて温度を戻していくと拍動を始めます。空打ち状態です。肺や心臓ではその機能を具体的にモニターすることができるのが特徴で、言い換えれば移植に耐えるかどうかを移植病院で判定できるわけです。また遠方への搬送も可能となってきます。今回の学会でも、この体外灌流装置を使った肺移植は欧州やカナダから臨床例での報告があり、成績も普通の脳死からの移植と遜色ないものでした。このポータブルの肺の保存装置については岡山大学で試験的に使用が始まっています。
今の話は脳死で臓器摘出されるケースですが、もう一つの使い方は心臓死(脳死判定が出来ないケース、心臓死)での活用です。我が国でも以前から腎移植で行われています。心停止前に腎臓の潅流用カテーテルを体内に入れておいて、心停止(死亡診断)の後に体内で低温の保存液で潅流した後に摘出して、移植をするというものです。体内灌流です。体外灌流装置では、心臓死で臓器を摘出させてもらい、その後で酸素を加えた血液で潅流させ、肺や心臓を蘇えさせるものであります。肺は血液が回ってこなくても期間内チューブで人工呼吸させることで、肺の虚血の進行を遅くすることが分かっていて、心停止後での移植が可能となるのです。しかし、心臓についてはまだまだ実験段階です。それは心臓の酸素不足での障害が進んでいて機能回復は十分ではないかもしれないことと、そういう不安な心臓を受けるレシピエントが納得するかどうか、などの倫理的な問題が出てくるからです。また、心停止で死亡判定がされたのに、心臓は生き返っている,という何か不思議なことになります。このことは、ドナー家族への十分な説明と、オーソライズされたガイドラインに則って行われないといけないでしょう。因みに、英国の心停止ドナーからの移植のガイドラインが出ています(写真)。それによると、肺では脳死移植と同等に扱っていて、リスクの高いマージナルドナー扱いではないのが興味を引きます。心停止ドナーからの心臓移植はオーストラリアから大型犬を使った実験結果が発表されていましたが、結構きついコメントがされていました。
こういう装置が出てきている背景に深刻なドナー不足があるわけですが、ドナー不足対策として臓器提供へのキャンペーンが徹底して行われている国と違って我が国では提供そのものが極端に少ない中でこういう装置の応用をどう考えるか、悩ましいところです。やはり、まずは脳死での提供を少なくとも今の2倍、心臓では年間100例の移植達成が求められます。
先日も10歳の小児が米国に心臓移植のために出発しました。米国は、臓器のドーネーションキャンペーンが積極的に行われています。また今回紹介したように、何とか善意の臓器提供を活かそうと、科学技術の進歩も目覚ましいものです。この国際学会でも知りましたが、日本の若手や中堅(外科)医師が海外の移植医療の現場で素晴らしい活躍をしています。日本ではその活躍の場があまりないのが現実です。今回の国際学会に出席して、何故我が国では臓器移植が定着しないのか、改めて考えてしまいます。文化が違う,で良いのでしょうか。