2014年4月28日月曜日

 ドナー不足対策

 ISHLT国際心肺移植学会報告からもう2週間近くになり、4月も終わろうとしています。もう連休も一部始まっていますが、皆様如何お過ごしですか。
 さて、前回の続きとして、臓器移植でのドナー不足対策について海外の状況を紹介したいと思います。米国では年間死体(殆どが脳死)からの臓器提供(組織提供も含む)は約8,000例もありますが、心臓移植は約2,300例になります。これは、心機能が悪かったり高齢であったり、種々の理由で心臓移植には提供されなかった心臓が7割近くあることになります。我が国では脳死での提供数は昨年で47件になり、8割近くで心臓の提供(37件)が実現しています。その理由は脳死判定が限定されていることや、脳死まで、あるいは脳死になってからの管理がしっかりしていることによります。海外に目を向けますと、臓器提供数は何とか維持されていますが、待機患者は増え続けていて、待期期間も長くなり、移植至らずなくなっていく患者さんは増えて行っている状況です。
脳死ドナーからの臓器提供率が低い肺や心臓(腎臓や肝臓は78割)にどう対応するかが欧米での大きな課題です。そこで登場しているのが体外での臓器保存装置です。一つの装置はポータブルで飛行機に乗せて遠方まで心臓や肺を運ぶもので(写真)、もう一つはポータブルでない体外での灌流装置ExVivo Perfusion)です。後者は、移植病院まで肺を従来通りのクーラーボックスで搬送し、移植病院で肺の灌流を行って機能を調べてから移植の判断をするものもあります。ポータブルのものは、小型人工肺と血液ポンプを組み込んだ回路をドナーの血液で満たし、心臓や肺を無菌のままで潅流させるものです。肺では人工肺ではなく人工呼吸器でその肺に呼吸をさせます。心臓はこの装置に着けて温度を戻していくと拍動を始めます。空打ち状態です。肺や心臓ではその機能を具体的にモニターすることができるのが特徴で、言い換えれば移植に耐えるかどうかを移植病院で判定できるわけです。また遠方への搬送も可能となってきます。今回の学会でも、この体外灌流装置を使った肺移植は欧州やカナダから臨床例での報告があり、成績も普通の脳死からの移植と遜色ないものでした。このポータブルの肺の保存装置については岡山大学で試験的に使用が始まっています。
今の話は脳死で臓器摘出されるケースですが、もう一つの使い方は心臓死(脳死判定が出来ないケース、心臓死)での活用です。我が国でも以前から腎移植で行われています。心停止前に腎臓の潅流用カテーテルを体内に入れておいて、心停止(死亡診断)の後に体内で低温の保存液で潅流した後に摘出して、移植をするというものです。体内灌流です。体外灌流装置では、心臓死で臓器を摘出させてもらい、その後で酸素を加えた血液で潅流させ、肺や心臓を蘇えさせるものであります。肺は血液が回ってこなくても期間内チューブで人工呼吸させることで、肺の虚血の進行を遅くすることが分かっていて、心停止後での移植が可能となるのです。しかし、心臓についてはまだまだ実験段階です。それは心臓の酸素不足での障害が進んでいて機能回復は十分ではないかもしれないことと、そういう不安な心臓を受けるレシピエントが納得するかどうか、などの倫理的な問題が出てくるからです。また、心停止で死亡判定がされたのに、心臓は生き返っている,という何か不思議なことになります。このことは、ドナー家族への十分な説明と、オーソライズされたガイドラインに則って行われないといけないでしょう。因みに、英国の心停止ドナーからの移植のガイドラインが出ています(写真)。それによると、肺では脳死移植と同等に扱っていて、リスクの高いマージナルドナー扱いではないのが興味を引きます。心停止ドナーからの心臓移植はオーストラリアから大型犬を使った実験結果が発表されていましたが、結構きついコメントがされていました。
こういう装置が出てきている背景に深刻なドナー不足があるわけですが、ドナー不足対策として臓器提供へのキャンペーンが徹底して行われている国と違って我が国では提供そのものが極端に少ない中でこういう装置の応用をどう考えるか、悩ましいところです。やはり、まずは脳死での提供を少なくとも今の2倍、心臓では年間100例の移植達成が求められます。
先日も10歳の小児が米国に心臓移植のために出発しました。米国は、臓器のドーネーションキャンペーンが積極的に行われています。また今回紹介したように、何とか善意の臓器提供を活かそうと、科学技術の進歩も目覚ましいものです。この国際学会でも知りましたが、日本の若手や中堅(外科)医師が海外の移植医療の現場で素晴らしい活躍をしています。日本ではその活躍の場があまりないのが現実です。今回の国際学会に出席して、何故我が国では臓器移植が定着しないのか、改めて考えてしまいます。文化が違う,で良いのでしょうか。



2014年4月14日月曜日

国際心肺移植学会 サンディエゴにて


今週は月曜から米国カリフォルニア州サンディエゴに来ています。国際心肺移植学会(ISHLT)への参加で、学会自体は11日の木曜からですが、その前の3日間は教育セッション(アカデミー)があり、今年は補助人工心臓に集約されていたので月曜から来ています。サンディエゴには成田から直行便があり、伊丹で最終地までのチェックインができるのでかなり楽に来れました。この学会は1981年に始まっている歴史の長い心臓・肺・心肺移植の最大の学会で、2000年には大阪で開催されています。開催地は米国とカナダで2年やって3年目はヨーロッパに行くというパターンです。現役時代は毎年という感じでしたが、今でも2-3年に一回は参加しています。サンディエゴは2011年にも開催されていて参加していますが、当時のことは兵庫医療大学長ブログで紹介したと思います。他の学会でもサンディエゴには何度か来ている所で、カリフォルニアの青空のもと今回も学会の合間にアウトドアーも楽しんでいます。

以下は途中までの印象です。参加者は年々多くなっていて今年は異常なくらいの数で2800人と紹介されています。演題も1500を超える応募があって76%の採択です。会場も6つに分かれ、ポスター演題も多く、幅広く聞くということが難しく、しかも補助人工心臓のオンパレードで何か人工臓器学会に来ている感じです。何故か? それはドナー不足が世界も深刻で、日本もそうですが補助人工心臓などの機械的補助がないと心不全患者が心臓移植に到達できないことや、もっと大きなことは心不全の最終治療は補助人工心臓で、という傾向が強くなっていることです。そこには沢山のデバイス企業が参入して小型で耐久性のある植込み型補助人工心臓を登場させています。かっては免疫抑制剤の製薬企業が幅を利かせていたのが、今は人工心臓関係の企業が大きな顔をしています。こういった企業の隆盛が学会を経済面で支えているという感じです。人工心臓だけでなく、肺移植では、脳死ないしは心停止後の肺を体外で灌流させて臓器を無駄にしない工夫が進んでいます。

ドナー不足と言いながら、世界では昨年度には心臓移植が3800肺移植が3500例も行われていて、米国では年間7000件近くの臓器提供が有り、心臓移植は2000例くらい、肺移植もほぼ1700例と大変な勢いです。かっては心臓移植での補助人工心臓のからのブリッジは20%程度だったと思いますが、今は40%を超えてきていることから、補助心臓のマーケットは拡大している訳です。日本では移植へのブリッジしか植込み型補助心臓は認可されていませんが、米国や欧州では(英国以外)永久使用(Destination Therapy, DT)が盛んで、5年を超えて移植なしで生存して社会復帰している方も多くなっています。今回の出席は、日本でのDTについての議論おすすめ方について、自分なりにまとめておくという目的がありました。ドイツからのDTの紹介では、80歳を超えた方が補助人工心臓のおかげで人生を満喫している姿の紹介がありました。日本ではまず心臓移植の適応年齢の上限を超える65歳以上が検討されるでしょうが、上限をどうするかは全く議論されていません。例えばここで70歳までするようなことがあれば、それは年齢差別age discriminationになる訳です。ドナーの臓器を頂くからには年齢制限があってもいいでしょうが(海外ではあまり厳しくはありません)、DTの場合は医学的なある程度の標準はあってもテクノロジーの進歩を享受できる権利で年齢制限を付けることはできないでしょう。健康保険の治療で年齢制限があるものはないはずですし。

今年から日本で採用になった小型の植込み型補助心臓のJarvik2000というユニークなデバイスがありますが、展示ブースに行くとジャービック先生(人工心臓のパイオニアー)がおられました。その横におられるのが何と7年でしたか長期に補助されているフランスの方でした。この機種は体外に出すケーブル(バッテリーとコントローラーに繋ぐ)をお腹ではなく耳の後ろの骨を通して出していて、普通にお風呂も入れるし、プールで泳ぐことも出来る素晴らしいものです。日本ではまだこの耳の後ろに出す方法は取られていませんが、今回は直接その患者さんとお会いして、まさに実物を拝見しました。写真はジャービック先生と時差ボケ顔の私の間におられるのがその方です。ベルトのところにバッテリーとコントロ-ラーが見えると思います。テクノロジーの進歩には圧倒されます。

ドナー不足の問題が深刻ななかでの人工心臓の役割はどんどん広がっていますが、といって海外では脳死からの移植が基本でありドナーを増やす努力が続けられています。今回は、従来の米国、カナダ、欧州以外に、中東、東欧州(ロシアも)、アジア(インド)などの国の成果も発表されていました。結構の数の臓器提供が進んでいて、日本が一層取り残されているという感じです。ロシアの発表を見に行ったのですが、ポスターは貼ってなく、誰もいませんでした。

植込み型は日本でもう4種類も認可され、また新しいものの治験が始まるようです。どういう補助人工心臓を使うのか、各施設は頭を悩ますのではと思われます。日本発のエヴァハートについて、まとまった発表がされてました。治験後はもう100例にも達していて、合併症も少なく、その利点を海外の方が再認識したようです。同じ日本人として誇りに思いました。

ということで、第一報にします。アウトドアーはバス釣りとサイクリンでした。






2014年4月4日金曜日

桜満開の京都で 


今週、京都は宝ヶ池の京都国際会議場で第114回に日本外科学会が開催されていて、初日の3日だけですが参加してきました。毎年6千人くらいの外科医が参加する日本では2番目に大きな学会(内科学会に次いで)で、一般外科から,消化器、心血管、呼吸器、乳腺内分泌、小児、移植、と多彩な分野の若手から私のようなシニア-まで集まるすごい学会です。今回は京都大学で肝臓や膵臓の外科を専門にしている上本教授が会長(正確には会頭)でした。因みに10年前の第104回は阪大の旧第一外科が担当で、私が会長でした。もう10年経ったのかと感慨深いものがあります。

学会での仕事としてはもう特にないのですが、開会前に急に会長から電話があって、米国からの招請演者が交代になって、心臓外科領域だから司会をしてくれないかと,と言うことでした。丁度都合が良く、引き受けた次第です。演者はBrown 大学のSellke教授で、内容は心筋の再生医療(細胞治療とか増殖因子の投与)は期待したほどの効果がなく、その背景には何があるのか,という内容でした。我々も阪大でやっていたことであり、また脚の血行障害への幹細胞治療が結構日本でも行われているので、面白い議論が出来たと思います。全体に少し悲観的なメッセージであったのですが、午前中の特別講演でノーベル賞受賞者の山中教授の講演があった後でしたので、大きな夢と小さな現実の両者が見えたという感じでした。

その山中教授の講演ですが、国際会議場のメイン会場は超満員でした。途中からしか聞けなかったのですが、米国留学から帰ったあと精神的にまいっていた時期があったそうで、PAD(post America disease)と言われていいました。別に言うと、うつ、ということだそうです。そして、もう基礎研究は止めて臨床に戻ろうとしていた時に、奈良先端科学技術大学院大学の研究ポストの公募あり、これでだめなら臨床へ、とまずダメだろと応募したら採用になってその後の人生が変わったそうです。そこで最初の院生募集作戦の話も大変面白かったです。

山中教授のお話をここで紹介するのはおこがましい限りですから、4つの掲げた目標を10年で達成すべく努力しているということでした。後6年、東京オリンピックの年がその年ということでした。大変大きな目標ですが、着々と研究や事業が進んでいて、後6年も掛らないで大半が達成されるのでは思います。緻密、かつ大胆、素晴らしい方でした。

せっかく桜がほぼ満開の京都に来ましたから、ホテルから会場までの途中の鴨川沿いの桜並木や夜のライトアップした花見小路は素晴らしかったです。さすが桜の京都と今さらながら感心し、桜に酔いながら?の学会でした。


南禅寺近く、蹴上げで。
医療大バスケットの応援に来て以来。

山中教授の講演。



桜小路?での桜のライトアップ。