師走も押し迫ってきました。日本列島はここ何日か爆弾低気圧の襲来で冷え切っています。年内、頑張って数件の投稿をと思っていますが、あまり元気がありません。ということですが、今日の話題はMMカンファレンス、としました。
その前にSTAP細胞に関する検証実験の結果が出て、結局追試は不成功となったというニュースが大々的に報道されました。残念な結果ではありますが、マスコミのいう、正体は何か、については外部がどうこう言うものではないと思います。そういうレベルでは無くなったのですから。一方ではなぜこのように日本中で大騒ぎすることになったのか、そこの詰めが必要と感じます。論文を取り下げた段階で、論文不正の責任は別として、もう話は終わったはずが何故ここまで引きずったのか、未だに理解に苦しみます。
さて、本題に移ります。新聞等で報告されていますが、ある国立大学病院で高度の技術が必要な肝臓の内視鏡手術で死亡例が続いたにも関わらず死亡例の症例検討会が開催されていなかった、という報道がありました。死亡例の検討会はデスカンファ、とも言われ、これを随時行わないこと自体が理解できませんが、これに関してMMカンファレンス、というものがあるので紹介しておきます。米国の教育病院の外科では日常行われている仕組みですが、我が国では正直言ってあまり馴染みではないものです。
MMカンファレンスですが、臨床現場で行われるmortality-morbidity- conference (死亡および合併症検討会) のことです。大学病院や教育病院などの外科系部門(講座とか診療科)で、主に外科手術を行った後に死亡例や感染症などの合併症発生例について原因や対策を議論する検討会のことを言います。死亡例についての検討にはCPC(
clinico-pathological conference 臨床病理検討会)がありますが、それはある症例について病理解剖結果が出たあとで病理医や関係部署が集まってその原因について議論を行う、不定期のものです。一方、このMMカンファは少し違います。それは、まず自分の部署で定期的に(月1回とか)行うもので、死亡例があればその報告と合併症(創部感染、術後出血、その他の臨床上のイベント)についてのまとめを病棟担当者が報告し、必要に応じ対策等を考える、というものです。
術後死亡例については別途CPCではなく死亡例検討会、として開かれることもありますが、MMカンファレンスは基本には定期的に行うものです。ですから、死亡例がなければ合併症のまとめに報告だけになります。私が以前米国の病院で臨床フェローとして働いたときに見てきたことですが、毎週月曜の外科系カンファレンスで、チーフレジデントが最後に死亡例と合併症(主に創部感染)をさらっと纏めていました。改めて別途行うのではなく通常の検討会の最後の5分を、今からはMMカンファレンスです、と言って行っていました。といっても外科の創部感染が続けばその対策の指示が責任者からでることになります。死亡例についても要点を突いた議論が行われれて、対策が提案されます。
残念ながらこのMMカンファレンスは日本では馴染みではありません。以前所属していた大学病院でも、外科系の合同カンファレンスを始めた時にこの仕組みを入れようとしましたが、周囲の関心がなく立ち消えになりました。心臓血管外科は術後合併症が残念ながら少なくないし、命に係わりますからこの仕組みが必要ですが、他科ではそういう雰囲気にはなかったようです。多くの診療科ではあえてこういう形式での名前を付けなくても、同じようなことは普段やっているよ、ということであります。しかし危機管理や医療の質の担保、医師の教育、ということでこれを組織として組み入れる、名前を付けて定期的に行う、ことが大変大事なのです。件のニュースを見てこの仕組みが我が国でも定着して欲しいと思った訳です。
現在、日本では専門医制度を改める準備が進んでいます。新たな制度での修練病院ですが、外科系ではこのMMカンファレンスを定期的に開くことが施設の要件に入っていると思います。こういう自己点検ともいえる仕組みが当たり前に入っていることが、医療事故や医療過誤を未然防ぎ、再発防止に繋がると思います。外科系では創部感染(SSIといいますが)を最大限に減らさないといけません。体表面なら命に別状はないと言っても、入院期間が増えるし、医療費も増えます。MMカンファレンスのベースはSSIの発生状況報告から始まります。いやなことでもきっちり報告する、情報を共有する、という姿勢が求められます。外科系では毎週の術後検討会のうちの月1回でも最後の5分をこれに切り替える、ということで充分と思います。さらに大事なことは、記録に残すということです。
ということで、今回も堅い話ですいませんでした。
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