2020年4月15日水曜日

新型コロナウイルス感染患者のケアの課題 米国からの報告



コロナ感染の話が続きます。

医学系の超一流雑誌、New England Journalでは毎週Covid-19に関する貴重な報告が続いている。41日号ではEditorialですが、このパンデミックカーブを10週間で潰せ(平坦化ではなくクラッシュさせる)、というもので、そのための6つのことが提案されている。わが国の関係者に是非読んでほしい論文である。

 Ten Weeks to Crush the Curve. 
   Harvey V. Fineberg, M.D., Ph.D.

そのための6つのstepが書かれています。米国の話ですが日本も同じです。
  1)大統領を補佐する統合指揮官に最大の力を与えること。
  2)次の2週間で。100万件の検査ができるようにする。
3)医療従事者にPPE(個人用防御装置や器具)を充分支給する。
4)症状やリスク分析で5つの群分けをして対応する。
  5)国民とともに戦う(inspire and mobilize the public)
  6)実行しながらこのウイルス感染の基本となる研究を進める。


今回紹介したいのは下記の投稿です。

「一人だけで死なない  
Covid-19パンデミックにおける最新の心のこもったケア」

Not Dying alone, Modern Compassionate Care in the Covid-19 Pandemic
NEJM  2020. 414日号  By GK Wakamu, MD

米国デトロイトの市中病院の外科のレジデントから1例報告。
ICUの5時間勤務交代体制で受け持ったCovid-19感染患者が、人工呼吸器治療でもガス交換が悪く呼吸性アシドーシスと低酸素血症で末期的な状態となった。ECMOは適応外というか病院の使用は拒否され、もう後の治療はなく、死亡するのは時間の問題となっている。その患者の奥さんとは電話のみで状態を報告しているが、面会は病院の方針で出来ない。死期が近づいても面会は無理である。それはCovid-19患者を受けている病院の方針である。奥さんも感染の可能性もあることや、なくても病院に来ることで新たに感染するかもしれない。普段は死期が迫ったら、家族が来るまで何とか持たせて、お別れをさせてあげるのが役割であるが、今回の状況は深刻である。電話で幾ら説明しても、奥さんに面会できないことを理解してもらうことは困難で、最初は怒り、次は司法に訴える、そして歎願、最後は‘5分でいいから会わせて下さい、そしてすぐ去りますから“という交渉という悲嘆のサイクルが始まる。
PPE(個人防護装置)は医療者用でさえ不足しているから、面会家族に使うことは到底出来ない話である。何とか出来ないかと、スマフォを預かって写真を送ることも考えられるが、これも安全性や個人情報とか、誰がするかとかで許可されない。そうこうしているうちにCode-Blueで呼ばれ、患者は心停止。蘇生を90分続けた後(個人としては信じられない)でも心拍動はなく、重苦しい気分で死亡宣告をした。
この間、看護師の一人は病院の廊下で奥さん2説明していて、死亡したことも伝えた。そして、その看護師がスマフォのFaceTimeを使って旦那さんの写真を送ったが、苦しんでいた顔を見て返って悲しみ賀増して悲嘆の悲鳴を上げることになった。私は後をまかせて他の患者の治療のために部屋を後にした。
我々レジデントは市中病院のICU(ここは米国でのCovid-19発生、震源地、病院の一つ)での数週間の勤務で、皆がこのような同じ経験をしている。この3週間で見た死亡はこれまで研修期間で見た数を超えている。このことはますます多くなるであろうが、これまで診療指針等で示されていない、患者さんの心に寄り添い、患者中心の医療から離れた未知の分野である。
今回の感染蔓延では、家族が患者の手を握りハグすることは不可能である。しかし、我々は米国のヘルスケア制度が今後より良くなると信じている。テレヘルス、バーチャルミーティング、が普通になるのではないか。隔離された患者と家族が遠隔面会できる様になるのでは。例えばタブレットを使ってビデオチャットなどである。コミュニケーションツールの開発でこのような不本意な状態を改善し、患者やその家族の安全を担保しながら、何らかの方法で患者と家族の結び付きを可能にする新たな仕組みを作って行けるのではないか。

わが国でもCovid-19で亡くなられた方の家族が遺体との面会も出ないことや、火葬も立ち会えない、ということが報じられています。
わが国でも亡くなられる患者さんが増えつつあります。ICUでは同じようなことが起こっているのでしょうか。このウイルス感染のもたらしていることの一端というより、本質を物語っているような報告と思って紹介しました。和訳には一部不正確なところがあることをお断りします。




2020年4月10日金曜日

新型コロナウイルスと臓器移植



 わが国のCOVID-19の感染拡大は止まることなく、都市部だけでなく地方でも患者数は急速に増加しています。7都道府県対象に非常事態宣言が昨日公示されました。これまでもそうですが、すべて遅くまた中途半端で、政府の無責任さには驚くほどです。国民の命と経済のどちらを大事にしているか、国のリーダーは何を考えているのか疑問に思わざるを得ません。兵庫県も日増しに感染者数が増えていっています。一般病院については、COVID-19対応は基幹病院にまかせて、置き去りにされる危険がある一般患者への対応を担うわけですが、一般患者や医療者で感染が出ると、まず感染者への接触医療者は2週間の自宅待機になり医療施設としての機能は大きく妨げられるのは明らかです。医療崩壊を防げと大きな声が上がっていますが、わが国では中小規模の病院が非常に多いという構造がこのような危機状態でその弱さが露呈しています。集約化が出来ていないから、医師も看護師も分散してしまい個々の現場で不足してしまうわけです。これは今言ってもどうしようもないわけですが、PCR検査体制を抜本的に強化することでこの問題は少し改善するのではと思います。PCRをやたら行うのは弊害が大きいとする意見はもう通じない状況といっていいでしょう。

さて、このCOVID-19の移植医療に及ぼす影響は深刻で、世界の臓器移植、幹細胞移植(骨髄移植)の学術団体は積極的にメッセージを出しています。それは、移植を受けた方は免疫抑制療法下であり感染リスクが高く肺炎になれば致命的であること、移植待機患者は臓器不全で抵抗力が落ちていてウイルス感染にかかると重篤になること、であります。さらに深刻なことは、臓器提供側にも影響が及ぶことです。即ち移植希望者への移植の機会が減ること、が危惧されます。このドナー側(提供側)の問題は二つあって、一つはドナーがCOVIDF-19に感染していないことを確認しないといけないこと、もう一つは臓器提供の主な役割を果たす救急医療施設がCOVID-19対応で忙殺されていて通常であれば行える臓器提供へのステップへの選択肢が下がること、であります。脳死での臓器提供の可能性があっても、このような普段とは異なる状況が生じることで、提供に至らないケースが増えるのではないかと危惧されます。

臓器または造血幹細胞の提供候補者へについてのCOVID-19感染について、厚労省から202035日付けで通知が出ています。もともと提供者についてはウイルス感染有無の検査が法律で義務付けられ、ウイルスによっては陽性ならば候補除外になっていますが、この度COVID-19も対象に加えられたということです。疑いがあれば情報収集(検査)を強化し、疑いとする要件に該当すれば移植に用いない、という通知です。先般、著名な芸能人がこの肺炎で死亡された時に、遺族が遺体に会えなかったことから、この状況の深刻さが窺われます。

実際、臓器提供がどうなっているかを日本臓器移植ネットワークのHPで調べますと、今年になってからの脳死での臓器提供数は、17件、29件と、昨年と同様に増えている状況が分かりますが、3月は4件、4月は現在まで1件と、まだ分かりませんが提供が減っているのでは思われます。移植待機中の患者さんにとって、ご自身が移植を受けられる猶予時間が刻々と短くなっているなかで、今の状況は本当に辛いと思います。何とか早く収束して、臓器移植がまた元の状態戻ってくれえることを切に願うばかりです。