2020年12月4日金曜日

今年の振り返り:移植関係

      2020年も残すところ1月となりしたが、今年は新型コロナと共に始まり終息の気配も見えずに年を越しそうです。昨日は(12月3日)は大阪で赤信号が灯りました。現実になっている医療崩壊を社会が真剣に認識してもらう意味でも重要な決断です。 さて、8月でもって長らくなんとか続けていた心臓外科医に終わりを告げ、一般医療のある意味最前線ともいえる今の病院に変わりました。長い人生での一つの区切りでもあり、また真の終活への超えないといけないステップとも言えるかもしれません。余分に頂いた医師としての余生を、正に現在社会が抱えている問題が集積しているような医療現場で働かせてもらうことの有難さに感謝している日々であります。ということで、懸案というか関心事について今回と後幾つかで振り返ってみたいと思います。 Covid-19関係でまず気になるのは臓器移植領域で臓器提供がどうなったかです。救急現場がコロナ対応でそれこそ医療崩壊が危惧されてきたなかで、脳死ないしそれに近い状態で搬送されてきた患者さんや家族への対応など、ドナーコーデイネーターに聞きたいところです。現実として、今年の脳死下の臓器提供は11月まで66件、心臓移植は51例であることが日本臓器移植ネットワークJOTNのHPから見ることが出来ます。臓器提供が最近右肩上がりで年間の脳死での提供が100件に近くなり、心臓移植も80例に届くまでになっていた最近の傾向から見て、その勢いはやや減弱していると言わざるを得ないでしょう。しかし、難局の中でここまで維持されたことは、救急医療現場や移植関係の皆様の努力に、そしてドナーのご遺族に最大の敬意を表するものであります。  

    さて、この1年ほど学術的な活動、と言ってはおこがましいですが、少し振り返ってみます。論文投稿ではもう最後の最後でしょうが、二つありました。一つは昨年の今頃に日本移植学会学会誌に投稿したものです。* 心臓移植関係では臓器配分の基本ポリシー(Status-1,,2,3)が開始以来未だに改定されていない問題で、JOTNに依頼して待機中死亡についての分析をしたものです。待機中死亡を減らすにはまずは臓器提供を増やすことですが、それ以外に大事なことは待機中死亡の危険因子を分析し、臓器配分の仕組みを改定することです。このことは誰しも理解し、海外では実践されてきた歴史があります。私の論文はその背景を分析し、これからの道筋を書いたものですが、この問題提起が現場の関係者にしっかり伝わっていないというか、暖簾に腕押しなのか、期待する反応がないのが寂しい限りであります。難しい事項ばかり上げても前には進まないと思います.何か大きな壁があって(誰もわかっていること)を押し開けるエネルギーが欲しいというところでしょうか。 一方の米国では、UNOSが2018年に心臓の臓器配分で大きな改定を実施したわけですが、そのフォローアップ研究が最近の国際心肺移植学会雑誌に掲載されていました。** このUNOS-2018改定は、待機中死亡を減らすこと、地域格差(遠距離搬送を是正する)といった目的で、安定して待機している植込型補助人工心臓の優先度を下げ、短期使用の補助循環装置付きの患者(待機状態が安定していない)のを最優先にしたものです。新方式の妥当性を評価する報告がこの2020年に5つも出ていて、この論文ではそれらを全体で解析したものです。5つの報告はUNOSのデーターベースからとはいえそれぞれ異なった手法での分析ですが、旧方式と新方式を比較分析しています。結果は全体では新方式で一時的器械的補助手段が多く使われているのは当然ですが、早期死亡では3つの分析で新方式が劣っていたものの後の2つでは差がなく、一方で待機中死亡は減ったものが3であと2つは差がないといった結果でした。結論的にはこれからもUNOS-2018改定の現場に及ぼす結果の解析が必要としているが、そもそももう古い方式は採用されていないわけで、対照が後方視となるのは致しかたないでしょうが。 

      ここで言いたいのは新方式がどうのこうのということではなく、わが国では20年続いている制度の妥当性や問題分析を全国レベルで行っていないということです。背景にはJOTNのポリシー、個人情報の保護、にあるわけですが、担当学会や研究会の不作為の面があることは否めないと私は思っています。米国は年間心臓移植数が我が国の少なくとも50倍近くあることから、かかる分析もタイムリーにできる背景があるとはいえ、わが国ではどうにかならいかと思うわけです。待機中死亡のリスク分析は個々の施設では出てきているのですが、全国レベルでは出てきていません、AMEDの研究で動いているのかもしれませんが。 ということで、年末の反省会のような感じですが、その第一報にします。 

*:松田 暉. 心臓移植登録患者の待機中死亡に関する全国調査—臓器配分システム改定への考察—. 2019;54(6):291-298  

**:Varshney AS, et al. Outcomes in the 2018 UNOS donor heart allocation system: A perspective on disparate analyses. Journal of Heart and Lung Transplantation. 2020;39(11):1193-4.

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