2015年10月7日水曜日

ノーベル賞


 熊本の移植学会報告の第二弾を書こうと思っていたら日本人二人のノーベル賞受賞の大ニュースが飛び込んできた。医学・生理学賞では大村智北里大学特別栄誉教授が、そして翌日には物理学賞で梶田隆章東京大宇宙線研究所長が受賞された。お二人の業績は素晴らしいし、また我が国の科学研究者の仕事のレベルの高さも凄いと感銘を受けた。

私としては大村先生のお仕事をあまり知らなかったことを恥じているが、それは数年前まで薬学の学生や先生方と同じキャンパスで仕事をし、講義もしていながら、ということでもある。新しい薬に開発は大変な労力とお金が要る仕事で、個人で出来ることは限られているが、大村先生はその壁を信念とたゆまぬ努力で克服されたことが素晴らしい。ゴルフ場の土から見つけた新しい放線菌が出す物質が寄生虫の特効薬となって何千万というアフリカの人々を失明や病気から解放させた。感動の物語である。北里柴三郎博士が第1回のノーベル医学生理学賞の受賞にならなかった無念さを100年後にその後継者の一人が受賞したことにも拍手を送りたい。野口英世博士の分も一緒に取られたとも言える。

さて、土壌から新しい菌を探して新薬を開発することでは沢山の話があるが、ここで紹介したいのは免疫抑制剤のことである。1980年代になって臓器移植の成績が飛躍的に向上したのはシクロスポリンという免疫抑制剤の登場による。シクロスポリンは1970年にスイスの製薬会社サンド社(現在のノヴァルティスファーマ)の社員が休暇中にノルウェイから持ち帰った土にあった真菌の出す物質が、同社の研究員ボレル博士により特異的な免疫抑制作用をもつことが分かり、サイクロスポリンAとして移植患者に投与された。その結果、拒絶反応が抑制され世界に広まった。そういう意味では、これまで45万人(想定)の患者さんを救ったことになる。

一方、同じ免疫抑制剤として我が国から出たものがある。藤沢薬品工業(現在アステラス製薬)のプログラフである。これもやはり土壌菌の出す物質である。1984年、筑波山の土壌から見つかった菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス)が出す物質で、FK506として開発され、プログラフとして今やシクロスポリンにとって代わる代表的な免疫抑制剤となった。さらに、関節リューマチ、重症筋無力症、アトピー性皮膚炎にも効果があることが分かってきた。

これらの免疫抑制剤の開発については今の所ノーベル賞受賞にはなっていない。個人ではなく企業の開発、という背景もあるのかもしれない。大村先生は薬学部出身ではないが、薬学部教授もされておられたので、これをきっかけに薬学部への関心が高まって薬学部の受験生が増えるのでは思う。近く兵庫医療大学同窓会があり、薬学部の方々と会えるので、学生がどういう反応をしているのか聞いてみたい。

梶田先生のニュートリノのことは門外漢でよく分からないので、大村先生の話になってしまいましたが、改めてお二人のノーベル賞受賞に拍手を送ります。

 追記:大村先生はスキーでも国体選手であったとのこと。種目はノルディックの中のクロスカントリーである。雪の原をひたすら前を向いて20キロ30キロと走る過酷でストイックな競技である。ノーベル賞受賞と何か相通じるものがあるようです。因みに私はクロスカントリーは苦手でした。

2015年10月2日金曜日

熊本で移植学会


       早くも10月に入りました。やっと秋らしい気候になるかと思ったらまたまた台風並みの強風が日本列島、特に東日本から北海道の海岸は大変のようで、まだまだ落ち着かない気候が続くようです。

        さて、昨日(101日、学会前日)から熊本で第51回日本移植学会が行われている。熊本大学の小児生体肝移植で頑張っておられる小児外科・移植外科猪俣教授が会長である。第1日(10月2日)は、午後の特別企画のビデオセッションの座長の前に大事なテーマのセッションがあったので、幾つかピックアップして紹介したい。

       まず今回のハイライトはiPS細胞の山中伸弥教授の特別講演であった。神戸大医学部時代はラグビー部だったので、今の最大の関心はラグビーワールドカップで明日のサモア戦、ということから講演が始まった。これまでの苦労話が紹介された後は最近の研究の成果、特に臨床応用とiPS細胞ストック事業、そして難治疾患の治療薬開発への応用であった。臨床については、明日の特別講演の演者でもある理研の高橋政代先生の加齢黄斑変性症患者へのiPS網膜細胞シート移植に次いで、今後の計画ではパーキンソン病の治療が控えている。また血液疾患関連では血小板や赤血球のiPS細胞からの大量生成、が控えていることのことであった。京都の研究所(CiRA)の話であったのか心臓については触れられなかった。薬剤開発では、軟骨無形成症の候補薬としてスタチンが発見されている。しかし患者さんの数が極めて少ない病気が相手では臨床応用に進めるに多額に費用が掛かるとのことが障害であるとのこと。文科省から多額の研究費を貰っているがほとんどが競争的資金であって決まった運営交付金はわずかなため、トップはファンド集めが大事な仕事となっている。その為にご自身が幾つかのマラソン大会に参加している。ただ、マラソンを走るのも限度がある、と会場の笑いを誘っておられた。

        さて、臓器移植の現実的な話題では、「臓器提供推進に今、なすべきこと」、というシンポジウムがあった(写真)。演者には医師で衆議院議員の富岡勉先生が登場した。先生は臓器法改正に尽力され、今は現状の提供数の低迷を何とか打破しようと国会議員の中に勉強会(臓器移植停滞に関する解決策を見出す勉強会)を作って活動されている。強調されたのは、提供側の負担軽減が大事で、その為に既に幾つかの国が決めたガイドラインの修正や選択肢提示対応の予算附けが紹介された。心停止ドナーを含めて減少傾向にある臓器提供数をここ数年でV時回復させる、という発言は頼もしかった。また、行政がらみでは、先に紹介した日本臓器移植ネットワークの改革について、法律で決められた臓器あっせん業務と地域での臓器提供推進活動拠点強化(organ procurement center)を分けるというお考えであった。問題点をよく理解され、課題解決へ向けての力強い発言であった。100%賛同である。後に登場した厚労省の臓器移植対策推進室の新しい室長もこれに沿ったお話をされていたと思う。

     このシンポでは二人の脳神経外科医が登場した。元々脳神経外科医は臓器移植、特に脳死での移植には反対という専門集団であるが、お二人は全く違って、移植医療をそれぞれ別の道でサポートされておられる。お一人は、飯塚病院脳神経外科の名取良弘先生で、所謂オプション提示(命がもう助ける見込みがなくなった状況で、死後に臓器提供という選択肢がありますが、と医療側が家族に話すこと)についての飯塚方式を紹介された。演題には、オプション提示の提示を「ていじ」、とひらかなになっている。それは、提示は相手に理解させるという意味が含まれ、現場に負担が掛かって尻込みするのを、呈示と考えて、行政の出した臓器提供の説明書示すのみ、にしている。この結果、105カ月で112例にパンフレットを渡し、17例の臓器提供希望があったとのことである。これは現場で何が問題かを、提示か呈示、ということで一つの解決策を見出されている。この飯塚方式が成功している陰には、単に言葉の扱いではなく、普段からの医療者側の患者とのコミュニケーションや病院側が一人一人の医療に最善を尽くしていることが背景にあることを気が付かねばならないであろう。

      もう一方は、やはり北九州地区の脳神経外科医で、新小倉病院脳神経外科部長の吉開俊一先生である。先生は医学生への人の死について講義をされていて、幾つかの医学部でこれまで17回、脳外科医の立場で臓器移植における臓器提供の問題を講義されている。我が国の医学教育では、人の死についての講義は殆どないことや、脳死が人の死である、という講義をだれもしない、ということは私も問題であると思っていたが、先生は患者の死の奥にある臓器提供を医師が意識するには学生時代に教えておくべきと言われている。また予備校とかの医学部受験準備に、脳死は人の死ではない、といった誤った刷り込みが行われている、というびっくりする現実も紹介された。先生は、単に上から目線の講義ではなく、学生に考えさせることから始められている。沢山の所から講義依頼があるそうで、忙しい臨床のなかでこういう努力をされている先生に報いるためにも、移植側の努力が一層必要である。因みに、学会会場で先生の書かれた本、移植医療、臓器提供の真実(文芸社)を見つけてその場で購入、帰りの新幹線で読ませてもらった。タイトルからは臓器提供の負の面を強調するかのようであるが、全く違っている。先生が臓器移植に否定的な脳外科医から支援派に変わっていく件や、実際のオプション提示の現場の再現も詳細に語られている。臓器移植の基礎知識も得られるので素晴らしい。先生は兵庫県の移植関連の会にも講演に来られているが、この本の存在を知らなかったことを大いに反省している。

以上、紹介に止まったが、私自身が今からでも出来ることではないか、と思ってしまうほどの力強いメッセージでもあった。

     もう一つ紹介したいセッションは小児の臓器移植ですが、それは後に書かせてもらうことにしてここで熊本報告は一旦終わります。なお、会長の肝いりで、熊本城が夜間グリーン色(臓器移植シンボルカラー)にライトアップされていました。残念ながら自身で確認できずに帰っきましたが。
 

 

2015年9月29日火曜日

シルバーウイーク


ご無沙汰しています。大型連休(シルバーウイーク,SW))も終わり、皆様は働きモードに切り替えられているでしょうか。私はSWの余韻が残っていてまだ休みムードです。といっても海外旅行ではなく、能登半島でのサイクリングでした。
今年のロードバイクでのロングライド、100キロメーター以上のコースをのんびり走るイベントですが、参加としは4つめでした。これまでは5月6月は丹後半島と奈良盆地周囲、9月は城崎温泉から但馬地区を回る山岳(?)コースで、実は丹後半島以外は途中棄権に終わっています。今回の能登で何とか完走率5割に戻したいところでした。
ツール・ド・のと400は能登半島を3日かけて400キロメーターを走破するもので、もう27回目で、今年は北陸新幹線金沢開業記念ということで21,22,23日に開催されました。金沢大学の先生や関西の心臓外科の自転車野郎が10人程集まっての参加で、3日間ではなく中日(22日)だけ参加出来る1日コースでした。それも160キロもある長丁場で、輪島から北側の岬を越えて東海岸を下り、桜峠というきつい登りを終えて、空港の横から穴吹におりてきて、最後は能登島の公園がゴールです。途中に休憩所と昼食がもらえるところもありますが、3箇所のチェックポイントは時間制限があり、8時前に出て18時にはゴールしないといけません。落後したら自衛隊の黒い装甲車みたいなものに積まれて帰るというものです。
前夜は和倉温泉で軽く宴会、早朝に輪島までバスで自転車とともに運んでもらっての8時前のスタート。坂はとにかくゆっくりゆっくりと登って、景色も少しは楽しみながら何とか時間ぎりぎりでゴール。完走率5部に戻しました。天気が素晴らしく、風もなく、最高のサイクリング日和でした。途中の景色もあまり余裕はなかったですが、要所はチェック。これまで淡路島の一周イベントも参加していますが、それより10何キロも長く、坂も結構あって、最後の15キロほどはアップダウンもあって、ほんときつかったです。でも完走できて、帰る前に温泉に入って満足、というところです。
3日間コースの参加が300人位で、一日コースは150人弱でした。こちらは1日コース(一番長くて坂もきついのです)で顎が上がっているのに、皆さん3日間、400キロもよくやる、と関心です。能登半島は、NHKの朝ドラ、まれ、の終盤ということで盛り上がっていました。主題歌がスタートとゴールで鳴っていました。高速道路も整備され、街もきれいで、快晴に恵まれたこともあって、すっかり能登が好きになりました。といっても来年400キロを走る積もりはないです。後は、10月の淡路島が今年の最終です。






2015年9月14日月曜日

臓器移植関連学会協議会


 この夏からの異常気象、特に記録的な集中的豪雨は、先週とうとう甚大な水害を起こすに至った。茨城県常総市では津波のような洪水で、水害の恐ろしさを見せつけた。宮城県でも洪水が発生している。これを書いているなかで阿蘇山の噴火も起こっていて日本中で自然の脅威が続いている。水害被災地の一刻も早い復旧を願うものである。
さて、昨日は日曜日であったが東京で臓器移植関係の会議があった。臓器移植に関連する学会や研究会などが一堂に会して、臓器移植の円滑な推進を進めるための協議会で、始まってもう10年近くになる。厚労省の管轄する会ではなく、アカデミアが集まって現場の意見をまとめて国に提言する会である。東京女子医大小柳名誉教授が代表世話人である。私は日本心臓移植研究会として参加している。当初は移植に直接関連する学会と研究会であったが、今は外科系だけでなく内科系、そして提供に関わる救急医学や脳神経外科関係、透析医療や小児科関係、看護関係、臨床倫理学会、など総数40近くになっている。厚労省の臓器移植推進室から室長がオブザーバーで参加してもらっている。
日本臓器移植ネットワークの混乱もあるが、それは報告のみで、昨日はなかなか中身の濃い議論があった。その中の大事なことを紹介する。
一つ目は法的脳死判定の前に行ういわゆる臨床的脳死判定についてである。患者さんが脳死状態になった後に主治医が家族に臓器提供の選択(オプション)提示する際、何処まで厳密な脳死判定が要るのかについては議論があった。法的脳死判定に近いものが要求されると、提供の場合には脳死判定を3回も繰り返さないといけなくなり、患者さんにも現場にも大きな負担になる。このことについては、今回厚労省は、法的診断の前は「脳死とされうる状態」と定義して、各施設が普段の臨床での検査に準じて判断して良い、ということになった。さらに法的脳死判定ではその施設に2名の資格を有する医師が必要であったが、1名は外部の施設からの応援でも良いこととなった。がんじがらめの規制からようやく現場の意見が取り入れられ、緩和されたことは歓迎すべきである。
その他、提供施設の負担軽減策や心臓移植の18歳未満のレシピエント選択基準が少し変わったことなど紹介されたが、もう一点は、厚労省の関係委員会等で決めたことはないが、大事なことが議論された。小児の脳死での臓器提供では虐待がないかの判断が必要である。これが大変難しく、児童相談所や警察への問い合わせなど、その手続きが家族への負担となり、結果的に臓器提供に至らなくなった事例が少なくないことも指摘されている。このことは私自身、かねてより何とか現場に負担なくスムースの判断できるようにならないかと思っていたので、協議事項にはなかったが厚労省の室長に現状について、また今後の対応について質問させてもらった。以下その内容である。
ガイドラインには虐待について、虐待があったり、その疑いがあれば提供が出来ないとある。しかし、どういう場合に疑いとするのか、どこまで虐待の否定を徹底するのか、など現場では難しい判断が求められる。この問題については、特に新たに行政で何か決めたということではなかったが、厚労省は何とか円滑な手続きが出来るよう説明や配慮をしているとのことである。児童相談の協力もそこに含まれているようであった。厚労省の対応はさておき、参加学会で関係する所から実際の問題点や要望などが出され、結構盛り上がった。小児科や小児救急の先生方からの現場で苦労されていることと、具体的問題提起もなされた。要は、虐待の可能性のない、ということの証明をどうするのかについてもう少しはっきりさせて欲しい、ということであった。予定外の話しではあったが、有意義な議論がなされたと思っている。今後、行政とこの協議会がより詰めた協議をして欲しいと要望させてもらった。

ということで、臓器提供の仕組みもようやく角が取れてきた感じがするが、臓器提供を根本的に増やすことについては、まだまだである。しかし、国会議員の有志の集まりがあって(臓器移植停滞に関する解決策を見出す勉強会)、臓器提供でない場合の脳死判定料算定など検討されているようで、その動きにも期待したいところである。日曜の午後、2時間の会議であったが、何か少前進していることを感じながらの新幹線での日帰りとなった。

  補足:
 改訂された大事なポイントを忘れていました。
 法律のもとでの脳死判定は2回行われ、死亡診断書が書かれるのですが、これまでレシピエント候補へのドナー情報の連絡(施設へ)は6時間間空けた2回目の判定が終わらないと出来なかったので、受ける側の判断の時間的余裕がなく、かなり慌ただしく患者さんへ説明等が必要でした。そうしているうちに時間がたってドナーの循環状態も悪化する心配が出てきます。これまで、1回目の判定で仮ではあるがレシピエントの選定を始めて、ネットワークから施設への連絡をして欲しいと長く要望していたことです。それがやっと可となったとの報告でした。これで少しは移植施設側も余裕ができるのではと思います。ただ、移植ネットワークにこれまで以上の複雑な対応が求められることのないようにしてほしいと思います。以上追加です。

2015年9月8日火曜日

骨格筋芽細胞シート厚労省薬食審部会で承認;再生医療等製品として初

阪大の澤教授はこの10年ほど心筋再生医療で非常に頑張っているのは皆さん良くご存じと思います。再生医療のトップランナーとして実績を上げながら製品の企業化でもリーダーシップを発揮し、新しい認可や製品化の仕組みを行政に作らせている。先日、テルモ社が表記のプレスリリースを行ったことが報じられている。再生医療製品として初として保険医療の元で臨床応用が始まるのは、骨格筋芽細胞シートと言われるもので、対象は虚血性心筋症である。私が阪大在任中に澤現教授グループが動物実験で検討を始めたもので、10年掛かったとはいえ保険医療で実施できるまでになったことは正直驚いているし、またその努力に敬意を表したい。
骨格筋組織の中にある筋細胞(筋繊維)になる幼若な細胞(筋芽細胞)を選び出してこれを増殖させ、東京女子医科大岡野光夫教授の開発した細胞シート作成技術を駆使してシート状に細胞を並べ、それを心臓の表面に貼り付ける、というものである。今回の承認の特徴は、まだ臨床試験で成果が確実でないが所が残る開発途上の治療について、ある意味で見切り発車の仕組みが認められたことが大きいと思う。従って期限付きの承認で、5(であったと思う)後に成果を検証して保険医療に適していれば本承認し、成果が出なければ承認は継続しない、というものである。この制度は補助人工心臓の開発製造承認ガイドライン作りでも提案したもので、欧米では良く行われていル仕組みである。少数の臨床例では効果が期待されるがまだ本格使用(保険医療)に課題があるものを、企業が販売しながら(ある意味保険医療)臨床治験を進めるものである。こうでもしないと開発企業が資金面で耐えられないからである。日本もやっとこの仕組みが始まったということでも大きなステップである。テルモ社も細胞シート作成技術を自社で確立し、臨床治験を済ませてここまできた努力は阪大と共に評価される。
そもそも心筋ではなく、人が運動や市姿勢を維持するときに使われ、働く仕組みが違う骨格筋の細胞を心臓になのか、ということから解説がいる。心筋も骨格筋も横紋筋(消化管や血管壁の筋は平滑筋で自律神経支配)であるが、骨格筋は随意筋で人の意志によって収縮するが、一方、心筋は横紋筋でも不随意筋と言われ人の意志に支配されないことや疲労しないといった特徴がある。性質的にも遺伝子的にも違うとはいえ骨格筋の基の細胞(いわゆる幹細胞ではないが)に心筋様の作用を期待する研究がヨーロッパで以前かなり進められた。
初めは背中の広背筋と言われる大きな筋肉を血管や神経の枝付きで背中からはがして肋骨の間から胸腔に持って行って心臓に貼り付ける、という方法が行われた。単に張るのではなく、この血管付き筋肉片を特殊なペースメーカーで刺激して疲労しない不随意筋様に変化させて心臓の補助をするものである。機械ではなく自分の筋肉で心臓を助けるというコンセプトであたった。日本では臨床応用寸前まで行ったが、結局はものにならなかった歴史がある。
その後、自分の筋芽細胞を心筋梗塞患者に注射器で直接注入する研究がヨーロッパで行われた。しかしはっきりした効果が見られず返って不整脈を起こす危険もあり臨床に広く使われるには至らなかった。阪大グループは注射ではなく細胞シートにしたことが成功した要因であるが、心臓の表面貼り付ければ心臓に同期して収縮してくれれば心機能の改善になる、という仮説の基で動物実験が進められた。しかし、面白いことに収縮作用(ポンプ補助作用)はないが何かしら心機能を改善させる効果があることが分かってきた。そこに目を付けたのが偉いが、研究成果でサイトカイン(一種のホルモン)という物質が出て心筋に染みこんでいって弱った心筋を助ける、という理論が実証された訳である。ここが新たな発見であった。虚血性心筋症では心筋への血流が傷害されていることやまだ生き残っている心筋細胞を元気付ける、ということで今回の対象は心筋梗塞後でバイパス手術に適しない患者さんである。ということで、5年でどういう結果が出るか期待したい。
補足であるが、テルモの発表の後で、また澤教授がこの治療法を拡張型心筋症に医師主導の臨床研究で進めるという。心筋細胞自体の病気である拡張型心筋症に効果があるのか。もし効果があるなら、虚血性も同じであるが、その細胞シーの本質的なメカニズムが解れば、薬での心不全の治療に還元されるという期待も大きい。そこまで来れば、正に再生医療となるであろうと想像する。というのは、シート治療は心筋細胞自体を再生さえる(心筋細胞が増えるなど)ものでは多分ないので、本当の意味での心筋再生は胚性幹細胞やiPS細胞の登場になるであろう。とは言え、小児の心筋症への細胞シート治療も早く実現させて欲しい。


2015年8月29日土曜日

8月も終わりです


  もう8月も終わりになってしまいました。夏休み気分で投稿もサボっていいて、月たった1件(最少記録)となるとぼちぼち引退の気配も感じられそうです。連日の暑さと特にイベントもなく、話題に乏しい月になりました。臓器移植ネットワークのその後はまだ進展が見えてきませんが、情報によると私が危惧した方向に行っているのでは思われます。となると次回の社員総会には再度挑戦ということになるかと思います。
小児の補助人工心臓(ベルリンハート)は先般正式に販売が承認され、今は施設認定を行っている段階です。実施施設はこれまでの阪大・東大・国循といった御三家や移植施設に限らず、各地にある中核小児専門病院も参加するようにという配慮をしたのですが、ふたを開けてみると意外な落とし穴がありました。それは、このタイプでは人工心臓を動かす駆動装置が別に要るのですが、それを各施設は購入しないといけないということです。人工心臓は健康保険対象ですがこの装置は別です。しかも価格が数千万円するというのです。当然予想はされたのですが、扱う企業も貸与ではやっていけないので購入が必須となるわけです。価格もびっくりするもので、しかもバックアップ用も要るので最低2台購入となるわけです。
これはいままでこの領域で実績のない、心臓移植と直接関係なかった施設では実際購入は難しく、結局新たに参加してもらいたかった施設には絵に描いた餅になろうとしているわけです。厚労省の高官は、それでは頑張った早期認可の趣旨に合わないので、何か別途補助金ででも対応しないといけないかな、という話もありました。しかし、関係学会は今のところそこまでやる気は無さそうです。どうしたらいいのでしょうか、暑い夏にまたまた悩ましい話です。それと小児の臓器提供がないと海外への移植渡航、募金、という道は一層多くなるのではと思います。
今日は神戸の財団で冠動脈バイパスのシミュレーション研修です。第二シリーズの二回目で、5人の受講生に3人のベテラン冠動脈外科医が付きっきりで指導しています。このシミュレーションは先般のニューヨークでの米国胸部外科学会のセミナーでも関心を集めたようです。さらなる進化を遂げないといけませんが、EBM社の朴博士のすごい牽引力で国際展開にも進んできています。頼もしいです。

ということで何かお茶を濁したようですが、御容赦を。ロードバイクは暑いので少し休憩中でしたが、9月10月は各回のロングライドイベントが待っています。ぼちぼち体も馴らさないといけません。

2015年8月9日日曜日

日本臓器移植ネットワークはどう変わるか

    
 先般ニュースにもなったが、公益財団法人日本臓器移植ネットワーク(以下ネットワーク)の臨時総会が8月4日東京で行われた。議事内容が今後のネットワークの進む方向や社会的役割に関わることでもあり、私は以前理事会メンバーであり今も個人正社員であることから出席してきた。議事内容というのは、既に報道されているが、本年3月3日付けで厚労大臣から指示書が出て、理事長など執行部の交代が行われるからである。即ち、次期体制についてまず役員候補者選考委員会の設置が審議された。OB的な私が敢えて出席したのは、今後のネットワークがどうなるかの重要な会議であると判断したからである。
事の起こりは、臓器あっせんに関わる業務の誤りが連続して生じたことである。誤りとは、平成26年11月と27年3月に、共に脳死での臓器提供に伴うレシピエント選択の手順、意思確認、でのミスから、本来移植(腎臓)を受ける権利(優先順位が上)があった待機者への意思確認がされず(1例では不適切な確認作業)、結果的に一人については優先順位が後の別の方に移植が行われてしまっていることである。詳細は省くが、ネットワークは移植待機者リストから法律(省令等)で決められた順番で移植を受けかどうかの意思確認を行い、臓器配分(あっせん業務)を公平かつ公正に行うという社会的使命(臓器のあっせんを国が決めた業として行う)に反することが続いて起こったのである。このことから、厚労大臣名でネットワーク野本亀久雄理事長あての法律による業務の指示書が出されたが、内容はあっせん業務の誤りについて再発防止策が実効をあげてこなかっことから、管理体制について徹底した検証と再発防止のための改革案を6月末にまとめ、その方針に従って改革をすることと、役員の厳正な処分などの適切な措置を講ずること、となっている。
これを受けて、再発防止に関する第三者委員会が設置され、6月10日に提言が出され、業務執行理事3名が辞任の意思表示をしている。我が国の法律のもとでの脳死臓器移植の歴史のなかで最大の不祥事ともいえるものである。かって理事の一員であったが、当時からネットワークの組織としての基盤の弱さや馴れ合い的な運営体制、ビジョンもなく広く意見を求めない体質などに危惧を持っていたものとして、この事態は失礼ながら遅きに失したものと思っている。理事長はネット―ワークの運営が危機状態にあり、脆弱な運営体制から脱却し、生まれ変わる為に再出発をすべく、社員総会で皆さんの意見を聞き、次期体制構築を進める、という社員総会招集の趣旨である。そうか、やっと改革へ向けた今後の議論が出来るのか、という期待を持って出席した。しかし、それはあっけなく消されてしまった。それを言いたいがための今回の投稿でもある。
肝心の提言は、北村聖東大教授が座長の下で出された第三者委員会から出されている。適切な検証作業を行い、大変内容の濃い、かつ的確な指摘と今後に向けた正に時機を得た提言である。将来的な課題のまとめの項では、法人の運営形態、移植医療に伴う知見の速やかな反映、そして最後はあっせん業務について国民の移植医療への信頼を損なわないよう万全を期すように、となっている。
前置きが長くなってしまったが、肝心なことは次期体制への準備(移行)のことである。社員総会では提言について北村聖座長から説明があり、少し議論がされただけでその後の審議(議決事項)に移り、議題は次期体制について、特に役員候補者選考員会の設置であった。理事長が議長である。私は今回の総会に出る上で考えていたことを書かせてもらう。そもそも提言をもとに執行部が辞表を出した(正確かどうか不明)状況でネットワーク運営を今後どうするか業務的には大事であるが、その前に、あるいは並列で、ネットワークそのものの今後の在り方や将来構想を議論すべきであり、執行役員の交代で済ますことはこの重大な時期における対応としては聊か問題でるという考えである。そこで、この具体的議事に入る前に発言をさせてもらった。しかしお二人の社員から反論があり、まず執行部を決めることが社員総会の責任である、として一蹴されてしまった。次期役員選考ありき、という雰囲気であった。とはいえ、私の発言の趣旨は次期執行部で考えてくれると期待したい。
その後、役員選考委員会の設置に議論が進むが、ここで理事長は議長を交代したい、という発言があった。もう自分の役割は終わったから後に譲る、ということのようであった。議事の詳細は書かないが、議長提案の議長代行案については異論もあり、結局現理事長が私見は控えて議事進行のみを行うこととなった。ここでもう予定の2時間は迫ってきた。そして後は役員候補者選考員会運営規則の内容についての議論があったが、内容的には社員以外に第三者委員会から選任とあり、その数で紛糾した。そもそも次期役員の候補者選考まで第三者委員会のかたに入って貰う意味が私には分からない。そこまで第三者委員会(あるいは厚労省?)に配慮する必要があるのか、あるいは現在のネットワークが信用されていないのか、である。情けない話である。正直このネットワークの執行部は失礼ながら末期的状態にあると感じた。この期に及んでも社員総会議事運営自体まともに出来ないのである。
帰りの飛行機の時間があり、その後の具体的な審議には参加しないで退席したが、後で聞くと選考委員会の人選まで進んだそうである。そのたたき台も出たそうだが、誰かが作ったのか。現執行であろうが、社員総会に議事進行を見ても、大臣の指示書まで出たこの期に及んで、現執行部は最後のあがきをしているように思える。役員選考委員会は英断を持って改革を出来る人材を選んで欲しいし、臓器別の覇権争いもあってはならない。次期執行部はあっせん業務の見直しは当然であるが、同時に将来構想も含め検討し、1年を目途に論点整理と解決策を出すべきである。そうしないと改革にはならないのではないか。
さて、今回の問題の発端であるあっせん業務は専属コーデイネーターが関わっている。提言でも指摘されているが、法改正前は年間10例に届かなかったが、今は年間50件にも及び、かつ選択基準も臓器ごとに複雑化している。手作業で出来るものではなく、当然システムが完備していないといけない。コーデイネーターも増員がされているが教育が追い付いていないとの指摘もある。ここで知っておくべきことは、かかる業務経費や人件費は国の補助金で賄われている。当初は専属や都道府県コーデイネーター増員への先行投資は出来なかったが、今は補助金が余る状態にあるという。臓器移植(提供)のアクションプランでも周知であるが、移植(ドナー)コーデイネーターが要である(数と質)。この際、改革の大きな柱は、このコーデイネーターの充実であろう。
一方では、このネットワークの成り立ちの歴史を見ても、法律が出来て新たに国が予算化して立ち上げたのではなく、昭和48年に発足した「腎移植普及会」が母体で(提言に書かれている)、その後は社団法人化され、臓器移植法が実施されるに伴い今の名称に変更がされ、法律に基づくあっせん業の許可を国から唯一受けて今日に至っている。この際、あっせん業務は法律のもとで行われる国の事業であり、この部分を法人組織に認可という形でいいのかも議論されるべきである。何れにせよ、ここで社会は臓器配分のあっせん業務とともに移植コーデイネーターの現状を知ってもらう機会にすべきであろう。
最後に、法律が出来て20年近くにならんとしているこの時期、心臓移植では患者選択は国のしばり(省令など)から学会などのアカデミアに任せていく方向に動きだしているなかで、今回のことで臓器移植への国の関与(監視)がきつくなって行く気配が出てしまったことには違和感がある。このことも含め、ネットワークがどう再出発するのか注目されるし、雨降って地固まる、として欲しい。
猛暑が続く中で暑苦しい内容になってしまいました。もうお盆も近くなり、残暑の季節ですが、皆様健康にご注意を。自分自身のことでは熱中症にならないで夏を乗り切りたいです。