2014年10月17日金曜日

心不全学会から,その2


心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりで言うと心臓移植の現状の理解をもっと進めるべきことと共にドナー不足が深刻であること、そして一方では心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。
一つは心臓再同期療法、CRTという治療(ペースメーカーの一つ)のことです。 心筋梗塞などで一部の心筋が壊死になると心室の動きがおかしくなり、十分なポンプ作用(体に血液を送る)が出来なくなります。動きがぎこちなくなるのです。こうなると心臓の中の電気パルスが右室側と左室側で遅れが生じ、十分な働きが出来なくなります。左右の心室の間の壁(中隔)がうまく連動しなくなり、左右の心室の働きが合わずに心不全症状が出ます。この場合に心電図のQRSという心室内の伝達波形が間延びしてきます。脚ブロックとも言われますが、これをペースメーカーでタイミングを調整して,心室内の刺激伝達を左右の心室が協調できる様にするのが再同期療法CRTで、右室側と左室側にリードの先端を置く方法です。

CRTの適応は心不全がかなり進行したNYHAという心機能分類でクラス3度か4度(ともにかなり重症で4度は最も悪く救命処置や移植とか人工心臓が要ります)に限られていました。しかし、このCRT療法は確かに心不全症状が見事に改善する患者さんもあるのですが、一向に効かない患者さん(ノンリスポンダー non-responder)も少なくなく(3割とも言われています)、コストの高い治療ですから医療経済上も問題視されてきました。米国ではQRSの幅が狭いと効かない場合が多いから、QRS幅を従来の適応レベル120msc以上より150msc以上(かつ左脚ブロック)にすべきという警告が出たくらいです。日本でもこのノンリスポンダーが結構多いのでは、ということで学会が調査を始めた経緯があります。
今回の学会でも米国からの発表で、心臓の機能があまり悪いとこの治療も限界でクラス4度では効果が薄く(予後改善にならない)もっと軽い症状のうちから適応したほうが予後改善になるということです。そのため、米国は適応をこれまでの3度4度に限っていたものを2度(心疾患はあるがあまり症状がなく日常生活での制限はまだ軽い状態)にも広げたのです(下記のWeb参照)。そして日本でも近々同様に2度にも拡大することも知りました。外科医はあまり情報が来ませんが、日本では心電図のQRS幅を150msc以上(心電図では重症)に限ったようです。これは米国の研究者も評価していましたが、エビデンスに基づいた判断は納得できます。なお、米国はまだそこまできつくしていないとのことでした。

こういったデバイス治療の適応拡大(軽い人に拡大)は今後の成果が注目されますが、これまで新しい心不全デバイス治療は最重症例から始めることが過去にたくさんありました。大動脈バルーンポンプ、補助人工心臓、心臓移植(世界の黎明期)もそうでした。坂を転げ落ちだしてからでは臓器不全もあり心臓の回復力もなく、結果は期待に背くものでした。そういう歴史もあり、補助人工心臓でも、Intermacs Profile という分類でそのままでは数日しか持たないProfile-1(NYHA4度でも最重症)は除外するようになって来ています。今回のCRTNYHAクラス2度に広げるのはある意味理解できますただ症状の軽いひとで心電図の条件が合う人がどれだけいるのか気がかりですし、将来心不全の発症や悪化を防ぐために高額な人工物(デバイス)を植込むことの倫理的な問題もあると思います。そもそも高額医療でもあり注目していきましょう。

補足ですが、実際これまで心臓移植の適応となるような心筋症の方が、このCRTで経過をみているうちに(効果がないまま)年齢が進んでしまって移植適応にはならなくなった、ということも少なくないと思います。心不全への多職種チーム医療の重要性は指摘しましたが、循環器内科医と心臓外科医の協同がまずありきではないかということも、CRTの現状をみると感じられます。

https://www.carenet.com/news/journal/carenet/35987

Webや不整脈学会のHPからです。
下に心電図を示しますが、上段は正常で下段が波(QRS)が幅広くなっています。
右はCRTの説明(不整脈学会)。左右の心室の収縮が同期しています。






2014年10月15日水曜日

心不全学会で

先の日本心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりとも言えるものがいくつかありました。一つは心臓移植ですが、ドナー不足が深刻であることを社会がもっと知って欲しいことです。日本心臓移植研究会を並列で開催していましたが、発表も移植実施施設からが大半であり、移植への関心は専門家の間でもまだまだ限られているという印象でした。何とかしないと、ということで心臓移植研究会の活動をもっと活発にするための組織改革を進めることとしました。

その他、心不全治療での社会へのアプローチということでは心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。そのかなで市民公開講座では突然死がテーマでした。これも大事なことです。元気と思っていた人が急に心臓発作で亡くなるのは悲しいことであり、何が予防になるのかの啓発が大事です。


もう一つ紹介したいのは先の慢性心不全で紹介しましたBNPです。心不全の進行を判定する上で血中BNPは有用なことを一般の方にもっとアッピールしようという活動です。日本心不全学会では既に学会ステートメントを出して心不全の予防にもこれを活用しようとしています。心臓病の方はこの検査を受けて自分の心臓の状態を知ろう、BNPを心不全の早期診断に生かすという趣旨です。今回、一般向けのパンフレットが出来たので、ここでも紹介しておきます。

 

2014年10月14日火曜日

心不全と多職種連携によるチーム医療

 台風19号が日本列島を直撃しています。関西は明け方までに通り過ぎましたが、東北・北海道はまだ気が抜けない状況のようです。何とか落ち着いて美しい秋を迎えたいのです。さて、少しご無沙汰しましたし、生涯教育と旗を上げながら第二弾が出せなく申し訳なく思っています。
今回は看護師の生涯教育の話しをと思っていろいろ考えていたのですが、先週末に大阪で日本心不全学会というのがあり、そこでの話しにしたいと思います。この学会は第13回ですが初めは参加者も少なく演題も基礎的なものが多かったのですが、約10年前になりますがそれまで日本心臓移植研究会を2月前後の外科系の学会に併せて行っていたのを、循環器内科の方々にも心臓移植に関心を持ってもらいたい,と言うことからこの心不全学会との同時開催にしました。心臓移植研究会は今年でもう第33(年1回開催)になりますが、今回も心不全学会との同時開催しました。
日本心不全学会の創生期のことを考えますと隔世の感があるほど大変盛況になっていました。心不全への関心が高まっている証拠にコメディカルの方の参加が大変増えていました。その背景には、植込み型補助人工心臓の登場もありますが、心不全,特に慢性心不全の治療やケアにもチーム医療が必要,という現場の大きな流れが始まっていることです。心不全へのチーム医療、ということで今回の心不全学会では朝から一つの会場をそれにあて、プログラムには赤いハートマークを付けていました。そこには教育セッションもあり、口頭発表もありで,会場は満席で廊下や他の部屋で発表を流していました。チーム医療セッションでの主な参加は看護師ですが、学会の方に聞くと薬剤師やリハビリテーション(理学療法士)関係の方も多かったとのことです。
医療での多職種協同ということが広く浸透してきて、高齢者、在宅医療、終末期医療、などのキーワードと共に盛んに見受けるようになりました。慢性心不全治療やケア(終末期も含むのですが)でもその必要性が求められています。これからは医師(循環器専門医や心臓血管外科専門医)だけではなく、他職種のスペシャリストも加えた心不全チームが必要であると言うことです。勿論,心不全といっても大人から小児、急性から慢性、移植や人工臓器、緩和医療、など多彩な分野であり、それぞれに特化したチームも必要になってきています。
そう考えると各専門職は生涯教育のなかで、どうチームを作るのか、その中で自己の役割分担は何なのか、もしっかり自覚することも大事になってきます。以前、コアコンピテンシーということを紹介しました。医師の初期教育の目標に、医学知識も大事ですがコミュニケーション能力、自己研鑽の上での医療への参加、そしてプロフェッショナルの理解、と言うのがありました。このことは、どの職種(特に国家資格を付与された専門職)にも共通することと思います。そういう役割が出来る専門職資格(認定制度など)者を医療現場がどう支えるのか。職場での相互理解を支えるシステム作り、そして資格取得者への待遇面での支援、が今後求められるでしょう。 心不全という領域では,看護の認定看護師制度では、慢性心不全看護分野の認定制度があり、本年10月現在184名が認定されています。また、その8割が病棟勤務であることが特徴でしょう。看護師以外にも、薬剤師、理学療法士もこの分野で認定制度が動き出していることから、今後の活躍が期待されます。

ということで、心不全領域でもチーム医療が求められ、それを支える具体的な多職種連携が始まってきていることと、それを支えるのは各分野の生涯教育・認定制度の充実でしょう。今後の動きや発展が注目されます。

2014年10月8日水曜日

 青色LEDノーベル物理学賞受賞の快挙

  いや、素晴らしいですね、3人とも日本人。日本の科学研究の凄さを世界に発信です。受賞発表での担当者のコメントも面白かったし、まさに世の中を明るく照らす発明です。米国にいる中村教授も溜飲が下がった、というところでしょう。久しぶりに科学技術の素晴らしさや、一流、あるいは超一流、の研究者の努力とは何かも思い知らされ、興奮しました。

2014年10月4日土曜日

 医療人の生涯教育について  その1 専門医制度


    福岡での日本胸部外科学会が終わりましたが、表記について考える機会にもなりました。これまで医師の専門医制度や看護師や薬剤師の生涯教育など何回か取り上げたテーマですが、最近少し考えることもあり、取り上げてみます。このテーマは医療の質の担保や安全管理、そして何よりも医療にかかわる社会的資産(リソース)の有効活用に対する社会の関心や期待にも関わることです。ということですが、まずは医師の専門医制度から入ります。ポイントに絞って書くようにします。
医療専門職に限らず弁護士でもそうですが、国家資格を取ったとたんに生涯教育が始まります。医療専門職では臨床現場で患者さんの診断治療やケアをしながら先輩から教えてもらうオンジョブトレーニングが基本になっています。徒弟制度的なところもある中での自己研鑚です。しかし、基本は出来てある程度任されるようになっても、ある一定レベル以上の専門分野を任せられる能力や資質を育てるには限界があります。そこで、第三者が関わる認定制度といったものが必要になっているわけです。専門医やその他の職種でもそうですが、我が国では認定制度で括られています。しかし、米国や欧州ではそのバックに生涯教育、継続教育、という名称がしっかり出てきています。その視点が我が国では薄いと言わざるを得ません。
まず医師についての専門医制度改革です。ここ数年で認証(認定)制度が変わろうとしていますが、後に悔いを残しかねない大事な節目になっています。今回の改定の主旨はまず学会や医師会を中心としたギルド意識からの脱皮です。そして論点としては、①自分たちの領域の発展を専門医制度を通して考えるという視野でなく、医師初期臨床研修後に長く続く連続(生涯)教育の制度を作るという大きな目標が基盤にあるのか、②資格をとれば何らかの処遇改善や健康保険制度でのメリットが付くことを将来的に約束できるのか(インセンティブ)、③基本となる専門領域(内科外科では2階も含みます)では地域医療の充実にも貢献する視点を持っているのか(国主導の医師の地域配分へ反発して自分たちの都合で地域医療の問題を返って悪くしないか)、④国際的標準(グローバル)を考慮するのか、そして最後に⑤プロフェショナルオートノミー(学会の見識)を名前だけでなく自己評価を含めて適切に発揮できるのか、といったことかと思います。
すべてなおざりには出来ないことなのですが、ここまで目標を掲げるには今となっては議論や準備不足で、先に新制度開始年度が決まり本質的な議論や学会側のコンセンサス作りが出来ないままに進んでいるのが現状と思います。とはいえ、新たな制度作りに個人的に関わったことですが、トレーニング(後期研修)を指導責任者が病院群を作って計画的かつ実のある内容にする、所謂プログラム制、が曲がりなりにも始まることは大きな進歩と思います。このプログラム制を形だけにしないよう、特に最初の教育部分(認定プログラム)を充実させながら、それに外れた施設は更新制度(まさに継続教育です)で分担してもらう、など病院の役割分担(棲み分け)も必要でしょう。更新制度の柔軟な扱いや充実が専門医が臨床現場で信頼される道と思います。
身近なところでは心臓血管外科専門医や呼吸器外科専門医のことが今回の福岡の学会で議論されました。といっても自身はあまり参加する時間がなく、いろんな大学の先生とのお話で得たのがきっかけです。 新たなプログラム制はいわば旧来の大学医局制度の刷り直しでもあります。初期臨床研修制度で医師の配分制度が半ば崩壊し、地域医療にも影響が出ているのは明らかです。学生教育は文科省、医師になれば厚労省が、というふうに臨床研修制度を使って継続性のない医師育成制度にしたことの功罪が議論されてきました。医師を育て医学の発展に絶対的な役割を果たして来た、また果たすべき大学医学部や附属病院の役割が弱体化し、若手医師に人気がなくなり、ひいては必要悪?(私自身も関わってきた責任がありますが)でもあった医局制度(関連病院への人事権)がかなり崩壊したわけです。このままでは医療は崩壊する、という危惧もあり、新制度でのプログラム制はある意味、大学医学部講座(あえて医局とは言いませんが)の頑張りを期待(復権)してのことであると私は大きな声では言えませんが思っています。
ただ、ここでまたぞろ旧態依然とした医局体制が復活してはいけなのです。プログラム制認定基準の基本は示されていますが、各制度はこれをどう組み込むかが注目されます。外科系では研修医(レジデント、卒後3年以降)にしっかり手術経験をさせるために、一つのプログラム(病院群)で必要な手術総数があり(指導者数も大事です)大凡の受入数が決まってきます。これがある意味外科系のプログラムの基本になります。しかし、この数に捉われて、無理に病院を集める(まとめる)という、あるいは巨大なプログラムを作ってしまっては、悪い意味での古い医局制度を復活させてしまう危険があります。
医学部の外科系教授はこれから大変苦労すると思いますが、いくら風呂敷を広げても全国で来る人数(心臓外科ではせいぜい200人位)は大体決まっています。3-5年後に検証が始まったときに、その内容が問われることのないように、具体性のある計画がいります。こういう苦労を積み重ねて行くことで外科系志望者が増え、地方にも若い外科医が行くようになっていくことを願うわけです。そういう意味からも、第三者機関や各制度のプログラム認定委員会の役割は大きいと思います。現状の医療を混乱させないことも大事ですが、それがために何も変わらなかったではそれこそこの制度改革は失敗します。

大学の指導者も、最初の論点の①をよく考えて欲しいし(これは国の問題ですが)、プログラム作りで大学間の無駄な軋轢を生まないよう、地方大学(こういう表現は使いたくないのですが)で外科医の育成に頑張っている教授やスタッフの意見をよく聞いて、都会主導ではない制度作りを是非して欲しと思います。現実離れしていると言われそうですが、敢えて老婆心としてのまとめとメッセージです。

2014年9月30日火曜日

心臓リハビリテーション


    福岡での日本胸部外科学会が終わりましたが、表記について考える機会にもなりました。これまで医師の専門医制度や看護師や薬剤師の生涯教育など何回か取り上げたテーマですが、最近少し考えることもあり、取り上げてみます。このテーマは医療の質の担保や安全管理、そして何よりも医療にかかわる社会的資産(リソース)の有効活用に対する社会の関心や期待にも関わることです。ということですが、まずは医師の専門医制度から入ります。ポイントに絞って書くようにします。
医療専門職に限らず弁護士でもそうですが、国家資格を取ったとたんに生涯教育が始まります。医療専門職では臨床現場で患者さんの診断治療やケアをしながら先輩から教えてもらうオンジョブトレーニングが基本になっています。徒弟制度的なところもある中での自己研鑚です。しかし、基本は出来てある程度任されるようになっても、ある一定レベル以上の専門分野を任せられる能力や資質を育てるには限界があります。そこで、第三者が関わる認定制度といったものが必要になっているわけです。専門医やその他の職種でもそうですが、我が国では認定制度で括られています。しかし、米国や欧州ではそのバックに生涯教育、継続教育、という名称がしっかり出てきています。その視点が我が国では薄いと言わざるを得ません。
まず医師についての専門医制度改革です。ここ数年で認証(認定)制度が変わろうとしていますが、後に悔いを残しかねない大事な節目になっています。今回の改定の主旨はまず学会や医師会を中心としたギルド意識からの脱皮です。そして論点としては、①自分たちの領域の発展を専門医制度を通して考えるという視野でなく、医師初期臨床研修後に長く続く連続(生涯)教育の制度を作るという大きな目標が基盤にあるのか、②資格をとれば何らかの処遇改善や健康保険制度でのメリットが付くことを将来的に約束できるのか(インセンティブ)、③基本となる専門領域(内科外科では2階も含みます)では地域医療の充実にも貢献する視点を持っているのか(国主導の医師の地域配分へ反発して自分たちの都合で地域医療の問題を返って悪くしないか)、④国際的標準(グローバル)を考慮するのか、そして最後に⑤プロフェショナルオートノミー(学会の見識)を名前だけでなく自己評価を含めて適切に発揮できるのか、といったことかと思います。
すべてなおざりには出来ないことなのですが、ここまで目標を掲げるには今となっては議論や準備不足で、先に新制度開始年度が決まり本質的な議論や学会側のコンセンサス作りが出来ないままに進んでいるのが現状と思います。とはいえ、新たな制度作りに個人的に関わったことですが、トレーニング(後期研修)を指導責任者が病院群を作って計画的かつ実のある内容にする、所謂プログラム制、が曲がりなりにも始まることは大きな進歩と思います。このプログラム制を形だけにしないよう、特に最初の教育部分(認定プログラム)を充実させながら、それに外れた施設は更新制度(まさに継続教育です)で分担してもらう、など病院の役割分担(棲み分け)も必要でしょう。更新制度の柔軟な扱いや充実が専門医が臨床現場で信頼される道と思います。
身近なところでは心臓血管外科専門医や呼吸器外科専門医のことが今回の福岡の学会で議論されました。といっても自身はあまり参加する時間がなく、いろんな大学の先生とのお話で得たのがきっかけです。 新たなプログラム制はいわば旧来の大学医局制度の刷り直しでもあります。初期臨床研修制度で医師の配分制度が半ば崩壊し、地域医療にも影響が出ているのは明らかです。学生教育は文科省、医師になれば厚労省が、というふうに臨床研修制度を使って継続性のない医師育成制度にしたことの功罪が議論されてきました。医師を育て医学の発展に絶対的な役割を果たして来た、また果たすべき大学医学部や附属病院の役割が弱体化し、若手医師に人気がなくなり、ひいては必要悪?(私自身も関わってきた責任がありますが)でもあった医局制度(関連病院への人事権)がかなり崩壊したわけです。このままでは医療は崩壊する、という危惧もあり、新制度でのプログラム制はある意味、大学医学部講座(あえて医局とは言いませんが)の頑張りを期待(復権)してのことであると私は大きな声では言えませんが思っています。
ただ、ここでまたぞろ旧態依然とした医局体制が復活してはいけなのです。プログラム制認定基準の基本は示されていますが、各制度はこれをどう組み込むかが注目されます。外科系では研修医(レジデント、卒後3年以降)にしっかり手術経験をさせるために、一つのプログラム(病院群)で必要な手術総数があり(指導者数も大事です)大凡の受入数が決まってきます。これがある意味外科系のプログラムの基本になります。しかし、この数に捉われて、無理に病院を集める(まとめる)という、あるいは巨大なプログラムを作ってしまっては、悪い意味での古い医局制度を復活させてしまう危険があります。
医学部の外科系教授はこれから大変苦労すると思いますが、いくら風呂敷を広げても全国で来る人数(心臓外科ではせいぜい200人位)は大体決まっています。3-5年後に検証が始まったときに、その内容が問われることのないように、具体性のある計画がいります。こういう苦労を積み重ねて行くことで外科系志望者が増え、地方にも若い外科医が行くようになっていくことを願うわけです。そういう意味からも、第三者機関や各制度のプログラム認定委員会の役割は大きいと思います。現状の医療を混乱させないことも大事ですが、それがために何も変わらなかったではそれこそこの制度改革は失敗します。

大学の指導者も、最初の論点の①をよく考えて欲しいし(これは国の問題ですが)、プログラム作りで大学間の無駄な軋轢を生まないよう、地方大学(こういう表現は使いたくないのですが)で外科医の育成に頑張っている教授やスタッフの意見をよく聞いて、都会主導ではない制度作りを是非して欲しと思います。現実離れしていると言われそうですが、敢えて老婆心としてのまとめとメッセージです。

2014年9月25日木曜日

慢性心不全の動向

 我々の体の中で生命維持はもととり普段の生活で大きな役割をしているのが心臓であります。何をするにも心臓がしっかり脈を刻んで血液を肺と体に途切れなく送ってもらわないといけません。この心臓の機能が落ちた状態で心拍出量(体に送られる血液量)が代償できていない状態を心不全と言いますが、階段や普段の歩行で息切れがする、尿が少なくなり体がむくむ(浮腫)、脈が速くなって苦しくなる(失神することがある)、ベッドに平らになって寝られない、などの症状が出た状態です。急性心不全は心筋梗塞や大動脈解離、弁膜症、などで起こってくる急に発症し迅速な対応が必要なもので、循環器分野や救急医療でよくお目にかかります。これに対して心臓機能低下が長期にかつ進行性になり、生活が制限され何らかの治療が必要になってくるのが慢性心不全です。
最近、この慢性心不全が循環器の分野で関心が高くなっています。慢性心不全の特徴は年齢が高くなると発症しやすくなることです。背景には、動脈硬化による冠動脈狭窄(虚血性心疾患)や高血圧、心臓移植で関心が高くなった心筋症、弁膜症(高齢者では大動脈弁狭窄が増える)、それに糖尿病などの生活習慣病があり、食事療法では対応できないので、どうしても利尿剤や種々の薬物が必要になり、調子が悪くなると一時的な入院が必要になってきます。急に動けなくなり呼吸困難になって入院したら心不全であった、ということがよくあるのですが、最初の検査や治療法の選択で症状は改善し、外科手術が必要な時もあれば薬物治療や生活指導、あるいはリハビリテーションで経過をみることになります。しかし、退院してもしばしば再入院が必要になります。この再入院が医療費はもとより生活の質を考えると問題で、これをどうして減らすかが医療現場での大きな課題です。
米国の心臓病協会(AHA)のHPEmory大学)では次にようになっています。
l  約500万人が慢性心不全をもって生活している。
l  約55万人が毎年新たに心不全と診断されている。
l  年齢が上がるについて頻度は高くなる(65歳以降では1%)。
l  慢性心不全は87万位人ほどの入院患者の診断名で第1位であり、65歳以上の入院患者での最も一般的な病気である。
l  慢性心不全を発症したら半数以上が5年以内に死亡する。
米国の背景には、慢性心不全治療で2兆円を超え、再入院や薬代で医療経済を圧迫していることが社会問題になっていますし、働き手が減るという視点もあります。慢性心不全をどう予防するかが学会の大きな目標になっていて、Heart Walk Superheroes、といったキャンペーンもみられます。禁煙とともに歩いたりする運動することを積極的に勧めています。
心不全への医療費を減らすことが重要という視点ではと日本ではまだ甘いわけですが今後米国と同じ問題が生じてきます。それは人口の高齢化です。60歳を超えてくると心不全の発症が増えてきている、という大規調査の結果が出てきているからです。我が国では心臓病での死亡が悪性腫瘍に次いで第2位にあります。慢性心不全の統計は北海道大学循環器内科筒井教授らのグループの研究があります(JCARE-CARD)。約2600人の慢性心不全患者の登録調査では平均年齢が71歳、虚血性が32%、登録時の年齢は男性が7079歳がピーク、女性は8089歳がピークと、なっています。また、再入院率は最初の入院治療半年で27%、1年でみると35%と高くなっています。これが問題です。医療費削減、医療の社会資源の有効活用、そして患者さんのQOLを考えないといけません。我が国の事情では入院ベッドが多いこともありますが、今後は在宅の心不全管理が大事です。再入院を減らそうと薬剤師や看護師も交えたチーム医療の実践も進んできています。
最後になりましたが外科医の役割はどうかです。心筋症では心臓移植と補助人工心臓が施設や数は限られますがかなり現実的になってきています。また植込み型補助人工心臓の進歩が著しいですが、心臓移植への橋渡しのみが保険適応であり、慢性心不全患者への対応としては限界があります。心臓への再生医療はまだまだ先ですし、心臓移植登録(適応判定)が65歳以下という大きな縛りがあり、65歳や70歳を超えた慢性心不全には先進医療は現状では困難です。65歳を超えた心不全患者への植込み型補助人工心臓適応は海外ではDestination Therapyが進んでいますが、我が国ではどうするのか。近々開催される日本心不全学会や日本人工臓器学会での検討が待たれます。
最近の心臓外科の話題は虚血性心筋症による僧房弁閉鎖不全への取り組みがあります。心不全の原因が弁の逆流によるところが大きいからです。人工弁置換でなく自己弁を温存する弁形成もよく行われています。また、大きく膨れ上がった心臓壁の一部(瘢痕となったところ)を縫縮(縫い縮じめる)する左室形成術も行われます。かって話題になった心筋を切り取るバティスタ手術自体はあまり行われませんが、それから進歩した術式も出てきています。しかし、外科治療が進んでも、ある限界を超えるとその効果は限られます。腎臓が悪い、肝臓が悪い、あまり動けない、など悪すぎる状態にならないまでに治療が必要です。もう何も打つ手がないから外科へ、ではその効果も十分発揮できませんし、かえって予後が悪くなる危険があります。心筋梗塞や弁膜症で心不全になったら、早いうちに適切な治療法の選択がなされると予後も良くなります。薬物治療もずいぶん進むなかで、心臓リハビリも最近注目されています。適切な運動療法で心機能(運動耐用能)が改善することも明らかになってきているからです。


このように慢性心不全治療(予防)は、心不全への早期の適切な治療の導入とともに、循環器内科と心臓血管外科、加えて心臓リハビリ、薬剤師、看護師をも交えたチーム医療での対応が求められている、ということで終わりにします。長くなりましたが、最後まで読んで頂き感謝です。  写真は何か考えます。