心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりで言うと心臓移植の現状の理解をもっと進めるべきことと共にドナー不足が深刻であること、そして一方では心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。
一つは心臓再同期療法、CRTという治療(ペースメーカーの一つ)のことです。 心筋梗塞などで一部の心筋が壊死になると心室の動きがおかしくなり、十分なポンプ作用(体に血液を送る)が出来なくなります。動きがぎこちなくなるのです。こうなると心臓の中の電気パルスが右室側と左室側で遅れが生じ、十分な働きが出来なくなります。左右の心室の間の壁(中隔)がうまく連動しなくなり、左右の心室の働きが合わずに心不全症状が出ます。この場合に心電図のQRSという心室内の伝達波形が間延びしてきます。脚ブロックとも言われますが、これをペースメーカーでタイミングを調整して,心室内の刺激伝達を左右の心室が協調できる様にするのが再同期療法CRTで、右室側と左室側にリードの先端を置く方法です。
CRTの適応は心不全がかなり進行したNYHAという心機能分類でクラス3度か4度(ともにかなり重症で4度は最も悪く救命処置や移植とか人工心臓が要ります)に限られていました。しかし、このCRT療法は確かに心不全症状が見事に改善する患者さんもあるのですが、一向に効かない患者さん(ノンリスポンダー non-responder)も少なくなく(3割とも言われています)、コストの高い治療ですから医療経済上も問題視されてきました。米国ではQRSの幅が狭いと効かない場合が多いから、QRS幅を従来の適応レベル120msc以上より150msc以上(かつ左脚ブロック)にすべきという警告が出たくらいです。日本でもこのノンリスポンダーが結構多いのでは、ということで学会が調査を始めた経緯があります。
今回の学会でも米国からの発表で、心臓の機能があまり悪いとこの治療も限界でクラス4度では効果が薄く(予後改善にならない)もっと軽い症状のうちから適応したほうが予後改善になるということです。そのため、米国は適応をこれまでの3度4度に限っていたものを2度(心疾患はあるがあまり症状がなく日常生活での制限はまだ軽い状態)にも広げたのです(下記のWeb参照)。そして日本でも近々同様に2度にも拡大することも知りました。外科医はあまり情報が来ませんが、日本では心電図のQRS幅を150msc以上(心電図では重症)に限ったようです。これは米国の研究者も評価していましたが、エビデンスに基づいた判断は納得できます。なお、米国はまだそこまできつくしていないとのことでした。
こういったデバイス治療の適応拡大(軽い人に拡大)は今後の成果が注目されますが、これまで新しい心不全デバイス治療は最重症例から始めることが過去にたくさんありました。大動脈バルーンポンプ、補助人工心臓、心臓移植(世界の黎明期)もそうでした。坂を転げ落ちだしてからでは臓器不全もあり心臓の回復力もなく、結果は期待に背くものでした。そういう歴史もあり、補助人工心臓でも、Intermacs Profile という分類でそのままでは数日しか持たないProfile-1(NYHA4度でも最重症)は除外するようになって来ています。今回のCRTをNYHAクラス2度に広げるのはある意味理解できますただ症状の軽いひとで心電図の条件が合う人がどれだけいるのか気がかりですし、将来心不全の発症や悪化を防ぐために高額な人工物(デバイス)を植込むことの倫理的な問題もあると思います。そもそも高額医療でもあり注目していきましょう。
補足ですが、実際これまで心臓移植の適応となるような心筋症の方が、このCRTで経過をみているうちに(効果がないまま)年齢が進んでしまって移植適応にはならなくなった、ということも少なくないと思います。心不全への多職種チーム医療の重要性は指摘しましたが、循環器内科医と心臓外科医の協同がまずありきではないかということも、CRTの現状をみると感じられます。
https://www.carenet.com/news/journal/carenet/35987
Webや不整脈学会のHPからです。
下に心電図を示しますが、上段は正常で下段が波(QRS)が幅広くなっています。
右はCRTの説明(不整脈学会)。左右の心室の収縮が同期しています。
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