2014年11月25日火曜日

 小児からの臓器提供:6歳未満第2例目


     昨日、6歳未満の子どもさんの脳死からの臓器提供が順天堂大学病院で行われました。6歳未満の提供の第一例からしばらく後が続かなくて心配していましたが、これで移植待機中の子どもさんやご家族の方々にはすこし前が見えてきたのではと思います。提供されたご家族にはその勇気ある決断に頭が下がります。ご自分の子どもさんをまだ小さい時に亡くすという大変つらい状況のなかで、命のリレーという選択肢を選ばれたわけです。新聞記事によるコメントも心に響くものでした。今回も脳死という状況に至ってから提供に至るまで、病院や移植ネットワークの多くの方々が、子供さんやご家族とともに厳しい時間を乗り切って、そしてご家族の意思を生かせられたことに敬意を表します。
心臓移植は阪大病院で無事済んだようですが、小児用の補助人工心臓からの移植は国内では初めてではないかと思います。小児では補助人工心臓の装着自体が大きな侵襲であり、血栓塞栓症や感染などが起こりやすいのですが、比較的短い待期期間で移植が出来たことも良かったのではと思われます。
今回、小児からの臓器提供が決まった後のTVニュースを見ていて思ったことを紹介しておきます。臓器提供について(ドナー側)は(公社)日本臓器移植ネットワークが国の認めた唯一の臓器斡旋機関であり、社会的関心が高いときには筆頭理事(医療本部長)が記者会見をするのが決まりです。今回のニュースを見ていると、ネットワークの芦刈氏の横で厚労省のお役人が座っておられました。厚労省は脳死からの臓器移植については法律が出来た当時からその健全な発展に責任を持っていて、脳死判定や臓器配分に一点の曇りもないように、と見張っているわけです。その窓口は臓器移植対策室というところです。一方、ネットワークは公益社団法人で独立しています。しかし、ネットワークは厚労省の予算で動いていることもあって、法律のもとでの臓器提供でもあり厚労省が後ろにいるという構図です。こういうことから臓器提供の記者会見で厚労省のお役人が横に座っていてもおかしくないと思われますが、今回特に問題が生じたわけでもないので、厚労省の陪席に私は少し違和感を持ったわけです。少し前の記事にも書きましたが、臓器移植の実施体制もお役所が監督していた時代から、移植の現場(実施施設)に任すように変わってきているのですが、臓器提供となるとまだそうではないのか、ということです。国がバックアップしている、ということを伝えたいのかもしれませんが、臓器移植ネットワークはもっと独立性を示していい時期と思っていることから、こんな斜め目線の話になってしまいました(どこかで怒られそうですが)。
とはいえ、今回の脳死の子供さんからの臓器提供を社会が温かく見守り、ご家族に敬意を表し、そして子供さんの心臓移植を海外に頼らなくていい日が早く来ること願って締めとします。
 
 
 
 

2014年11月17日月曜日

シミュレーターを用いた看護研修


 随分寒くなりましたが、皆様お変わり御座いませんか。

さて、医療専門職者の生涯教育のフォローが遅れています。気になっていたのですが、最近注目されているシミュレーター看護教育の紹介で続編の一つといたします。
その前に私が昨年より理事長をしております公益財団法人神戸国際医療交流財団について紹介しないといけません。この財団は肝移植の田中紘一先生が我が国の進んだ医療や医療機器の国際展開を図る目的で設立され、そのかなで医療に関わる人材育成が大事な仕事となっています。補助金を頂いて活動するもので、東南アジアなどから医療技術習得で来られる方の支援を進めてきました。理事長職を私が引き継いでからは、ポートアイランドで新築された伊藤忠メデイカルプラザを新たな活動拠点にし、この10月から事業展開を図っています。そのなかの医療人育成事業として、患者シミュレーターを導入しました。米国製の高機能患者シミュレーターで、バイタルサインがチェックでき、いろいろなシナリオで操作ができます。臨床現場を想定して実践能力を高めるために、患者さんで訓練するのではなく、こういったシミュレーターを用いた教育(シミュレーション研修)が盛んになってきています。医学部、看護学部、薬学部などでは学生教育に必須となっていますが、一方では資格を取った後の継続教育、生涯教育、のツールとしても重要視され、欧米では医療専門職教育の中で確固たる位置を築きつつあります。

さて、先日は看護のシミュレーション研修の第一回目を行いました。チーム医療のための看護実践スキルアップ研修というもので、中堅病棟看護師さんが病棟で患者さんの様態がおかしくなったときにどう対応するか、というシナリオでした。異常サインに気づき、観察とアセスメント、そしてナースコール、初期対応、そしてドクターコール、的確な報告という一連の流れを想定したものです。私はシミュレーターのシナリオの移行を備え付けのパソコンから捜査する役です。5-6名の少人数で行い、消化管出血を想定したシナリオです。患者さんから息苦しいというナースコールがあって、個室の病室(ICUではない)に訪問し、異変についてどう把握し、次に進めるかを一人一人がまず実演します。ほかの参加者は観察者ともなり、それぞれの看護師さん役の対応について議論(振り返り、デブリーフィング)していきます。初期設定の場面で一回りし、次に出血性ショックが進行しドクターコールで終了する二回目を行い、最終的にまとめの総合討論、めとめ、を行います。結構議論する時間がとってあり、参加者は自由に意見を言うことが大事で、ファシリテーター(企画から実施まで、急性・重症患者看護の専門看護師と認定看護師の方にお願いしました)がまとめていきます。個人の対応の悪いところを指摘するのではなく、どう気づいて行ったかのプロセスを大事にし、最終的には出血性ショックに限らず、病室で急変した患者さんへの対応に自信を持って帰ってもらうのが趣旨です。何でもナースコールを押して先輩看護師に応援を求めるだけでなく、状態の把握に基づいて行うことで、遅れないで適切な時期に応援を呼べるようになる、というのが目標です。自信を付けてもらうのが目的です。

夜間や休日では詰所への応援コールやドクターコールは容易ではない環境が新人や中堅看護師にあります。何でこんなことで呼んだのかとか、自分でしっかり対応してから呼びなさい、と言われることも少なくありません。一方、何でもっと早く呼ばなかったのか、という先輩や担当医師の叱責も出てくるので、現場の看護師さん(新人看護師や研修医もそうです)には大変悩ましいことです。基本は遅きに失する状況を絶対回避しないといけないのですが、今回の看護シミュレーション研修は最初の観察で急変であるということをいかに早く把握するかのレーニングでもあります。急変の把握の仕方も最初に講義し、途中の振り返り時にもう一度確認するということをしていきます。何でもいいから早く応援を呼ぶのも困るのですが、かといって大事になる前に呼んでほしいわけです。大事なのは呼ばれた方も一緒になって状況の把握をして、適切な対応に繋げて欲しいわけです。そして応援を呼びながら状況の把握と初期対応が求められます。

この研修はチーム医療のための、と銘打っているところが大事です。師長さんや医師の側も、不要な未熟な報告をただ非難するのではなく、ともにスキルアップを図って的確な対応(看護師の応援からドクターコールまで)が出来る環境を作っていく上でこのような研修が役立つものと思います。臨床現場で多職種が連携してチームのレベルアップを図ることが大事であり、そういう意味では先輩看護師や医師の対応ひとつでネガテイブにもなりポジテイブにもなるわけです。上級医師と研修医の関係も同じであると思います。チーム医療というコンセプがなかった時代の昔の自分を振り返りながら、感慨深くこの研修を眺めていました。

臨床での生涯教育を進める上で、このようなシミュレーション研修はこれから大事になってくるものと思います。看護研修はこれからの2回目、3回目と続きますが、我々もスキルアップして進めていきたいと考えています。


当財団は、既に心臓血管外科の若手相手に冠動脈バイパス手術のトレーニング(BEATというシミュレーション機器)を別に始めています。これらの企画などは財団のHPをご覧ください。http://www.kobeima.org/  今週は摂食嚥下サポート相談室と冠動脈バイパスの2回目(2回で1コース)が行われます。

2014年11月9日日曜日

ベルリンの壁崩壊から25年



 今年は世界の歴史から見て幾つかの節目の年です。第一次世界大戦勃発から100年、第二次世界大戦が始まって75年(太平洋戦争勃発はその2年後で私が生まれた年)、東京オリンピックから50年、そして天安門事件やベルリンの壁崩壊から25年、といったところです。特に今日、11月9日、はベルリンの壁が崩された記念すべき日でもあります。こういう機会に世界史を勉強し直すのもいいかと思います。といっても本を見なくてネットで事が済むのも寂しいですが。

      世界に冠たる自転車競技のツールドフランスも昨年が100回記念でしたが、今年はというと第一次世界大戦開戦100周年記念大会となっていました。ヘリコプターからのフランス各地の映像を見るだけでも楽しいのですが、今年は戦争の記念となる土地やモニュメントに加えて、26万人が戦死した激戦地跡も紹介されていました。例えば毒ガス(マスタードガス)が戦争で初めて使われた戦線である北フランスのイープルもコースに入っていたり、戦死者の広大な墓地のそばを走ったり、フランスは100年前の戦争の苦い経験を忘れない、という大会主催者の気持ちが入った大会でした。因みにマスタードガスは別名をイペリットと言いますが、これは地名から出てきたということです。

      表題のベルリンの壁ですが、25年前の11月9日に東ドイツはベルリンの壁の開放を宣言し、東西を遮っていた壁のゲートが開けられたわけです。これに至る数か月(数年?)の東西ドイツやソ連、そして東欧諸国の目まぐるしい動きに今となっては歴史の面白さを感じます。さて、この解放によって東ドイツから自由に西側にはいれるようになったのですが、実際に構造物としての壁が崩され始めたのは数日後のようです。このテーマでは崩壊後20年の時(2009年)にこのブログの前身の学長ブログで紹介しています。その内容は、まず1989年のベルリン訪問です。丁度壁崩壊の数週間後でして、まさに壁が壊されていく場面に遭遇したわけですが、その20年後にベルリンを再訪しています。  (http://www.huhs.ac.jp/president/index.php?page=23)。

      さてこの歴史を紐解くと、このベルリンの壁崩壊は突発的なことではなく、その数年前からの東欧の国で広まっていった社会主義独裁への反動がピークに達した結果が東西冷戦の象徴であったベルリンの壁の崩壊に繋がったわけです。その年の12月に行われた米国(ブッシュ)とソ連(ゴルバチョフ)の両首脳がマルタ島で会談し、冷戦終結宣言が出されたわけです。近大世界史上の大きな出来事をこんな風に端折って書くのは気が引けますが、それは許してもらうとして、同じ年に(壁崩壊の前ですが)北京で天安門事件が起っています。しかし、その後の結果は全く逆であったことは、欧州ではその後の東西ドイツ統合やEU誕生、等が続いていったことと比べてしまいます。

   ベルリンの壁崩壊は長く続いた東西冷戦の終焉をもたらし、東西の対決は戦争ではなく対話への時代に入っていたのですが、残念ながら今年はクリミヤ半島で始まったウクライナへのロシアの介入が起こり、再び東西冷戦が始まったかのようでもあります。壁崩壊25年と言っても、中東も含め各地でまだまだ諍いが続いているのを見て、「歴史は繰り返す」という言葉が重く降りかかってきます。振り返って我が国を見ると、近隣国との関係はいまだに不安定でありますが、我が国はこれからも良い歴史を作って行って欲しいと感じます。

2014年10月30日木曜日

我が国の心臓弁手術で遅れていること


 心臓弁手術のことを触れたついでに紹介しておきたいことがあります。なお、先の内容と重複するところが多いですが、後で調べて分かったこともあり、補足することにしました。一度で済ませられなく、要領が悪くてすいません。

  心室の出口の大動脈弁と肺動脈弁では修復が難しく、取り替える手術(置換)がどうしても必要になります。そこで登場するのが人工弁です。これには機械弁と生体弁があり、前者はパイロライトカーボン(炭素樹脂)という素材で出来たもので、ワーファリンによる抗凝固治療が必須です。生体弁はブタやウシの大動脈弁や心膜を処理したもので、抗凝固治療は必ずしも必要ではありません。前者は耐久に優れていますがワーファリンが要りますし、出血傾向も出ますからQOLでは劣ります。生体弁ではワーファリンは必須ではなくその点ではQOLはいいのですが長期的には石灰化が起こって再手術が必要になります。とはいえ最近は優れた生体弁が出てきて、高齢者の大動脈弁置換ではよく使われます。年齢的に10年持ったらいいという場合は生体弁が有利です。

   さて生体弁というと海外では亡くなった人(ドナー)から頂いた同種弁(ホモグラフト)が普及しています。1960年代に英国で始まって、その後長らく重要性が認識され使用されてきました。肺動脈弁と大動脈弁があり、ともに血管付です。ホモグラフトは欧州とニュージーランド、そして豪州で先駆的に始まりましたが、当時は凍結ではなく特殊な保存液で処理していました。先天性の複雑な手術ではホモグラフト(血管も使います)の使用が大変有用なのですが、我が国ではこの入手が殆どなく外科医や患者さんには大ハンデイでした。

  ホモグラフトの処理としては現在は液体窒素での特殊な凍結保存です。特に薬物での処理はしませんので組織が壊れずに保存され、また免疫反応も少ないのが特徴です。またしなやかで操作性が高く、人工物がなくて感染に強いという利点があります。また小児のドナーからのものは先天性心臓病の小さな子供さんで大動脈や肺動脈の再建をするときに有用です。しかし、ドナーの細胞が残っているので耐久性では限界があるのも事実です。その後ですが、米国の会社(CryoLife社)がホモグラフとを商品化していて我が国でも輸入すれば使えますが大変高価で実用性は残念ながら低いのが現状です。

   さてホモグラフトの入手ですが、脳死と心臓死のドナーの方からの提供です。死亡後に心臓を頂き、弁を提出し、バンクで凍結保存します。我が国では既に日本組織移植学会や日本組織バンクがその普及に尽力し、現在は当初の東京大学と国立循環器病研究センターに加えて全国で6つの認定バンクがあり、また心臓弁と血管の臨床応用は先進医療制度(一部患者さん負担)として2006年からも上記の二施設で適応されています。ただ、提供が脳死と同様に少なく、その数は大変限られています。昨年度では血管も含めると年間40件(心臓弁手術数は不明)の先進医療が行われていますが、施設が限られ、またドナー数は年間10にも届いていません(東京大学病院HPから)

   こういう中で、生体弁の新たな開発に鎬を削っています。免疫反応の回避と長期の構造維持です。その中で、生体弁の脱細胞処理と人工的に作った足場(スキャアホールド)に自己の細胞を生やす二つの方向があります。後者は日本でも研究が盛んで、東京女子医科大学で臨床試験も行われていると思いますが、今日は前者に限ります。先の米国の会社はホモグラフトの脱細胞処理法で特許を取っていますし、その会社の製品は既に臨床で大動脈弁置換に試験的に使用されています(2003年報告)。一方ドイツでも別の方法がハノーファー大学で開発され、臨床応用のためのベンチャー企業が出来ているようです。そこで処理された肺動脈弁が今度阪大で使われたとものと理解されます。この脱細胞弁ですが,使うのは基本的にはヒトの弁であります。従って海外では如何にしてドナーを増やすか国(ネットワーク)や学会挙げて取り組んでいます。これは心臓移植を増やすことにも繋がり、移植に適しない場合は弁と血管の提供となります。日本でも関係者の努力で徐々に進んでいますが、何しろ亡くなった方からの臓器や組織の提供は本当に限られているのです。事態は深刻です。

   振り返って見ると、ホモグラフトがあると日本の心臓外科のレベルはもっと高くなり、多くの患者さんが恩恵を受けることが出来るのです。私もかってホモグラフトがあればもっと良い手術が出来たのに、と思ったことも何度かありました。しかし今、世界はもう次の時代に入っていて、そのキーが脱細胞によるtissue  engineering(組織工学)弁です。阪大病院の澤教授のグループはドイツと連携して我が国での先鞭をつけたといえるでしょう。一方、日本で進めるにはドナーが今のようではこの技術は進まないという現実も理解しないといけないと思います。ここで強調したいのは、脱細胞弁も元はヒトのホモグラフトであり、臓器提供が初めにあることを多くの方に知っていただくことが大事と思って追加の投稿としました。ホモグラフトについては、東京大学病院と国立循環器病研究センターのHPで紹介されていますし、組織移植学会でも啓発に努めています。また、日本臓器移植ネットワークも支援しています。こういう臓器提供もあることをもっと知ってもらえればいいと思います。


  今月は随分頑張りました。いろいろ興味あるテーマがあったからでしょう。11月に入ると急速に寒くなっていきますが、皆様風邪など引かないよう,また秋の紅葉もお楽しみください。

写真は先日、神戸は新神戸駅の近くの布引の滝に行ったときの写真です。まだ紅葉は始まっていませんでした。

2014年10月29日水曜日

新しい心臓弁手術

先日は阪大病院で新しい心臓手術の発表がありました。自分がやってきた領域なので少し解説とコメントを書きます。
患者さんはファロー四徴症の根治術を2歳で受け、遠隔期に肺動脈弁が痛んできて再手術となった30歳の男性でした。根治術は私が在籍したときに行われていますが、顔を見ても思い出せませんし私が術者ではなかったと思います。この病気は先天性の心臓病で、大きな心室中隔欠損(孔が開いている)に加えて右室の出口の肺動脈弁が狭く(狭窄)なっていて黒い血液がそのまま体(大動脈)に流れてしまいチノーゼ(唇などが紫色になる)が出る病気です。解剖学的には四つの異常がありますが、根治手術は欠損孔の閉鎖と右室の出口の狭窄解除です。根治手術の成績も不良な時代がありましたが、1980年代には安定し,かつ遠隔期にも再手術や不整脈などの合併症が出ないような工夫がされた時代でした。それでも肺動脈弁の逆流とか狭窄の再発が起こります。そのための心不全や活動制限が出れば再手術で肺動脈弁の再建、あるいは置換、が要ります。この場合、人工弁(生体弁)であれば弁逆流や再狭窄が将来来るので、どういう材質で再手術するのが今でも懸案であります。

このような背景があるなかで、ドイツで加工した人の弁(肺動脈弁)を輸入して行ったということです。弁置換は理想的には人の弁がいいのですが、他人の弁では拒絶反応が起こり、それを防止する処理をすると石灰化が起こるという問題があります。よく使われる豚の弁では石灰化が起こります。これを解決する方法の一つがtissue engineering 組織工学技術です。免疫反応の元となる細胞をすべて取り除き細胞のない骨格状態(スキャホールド)にして移植すると、今度は患者さんの自分の細胞がそこに根付いて、暫く経つとまさに自分の弁になるというものです。再狭窄や弁の破壊などが起こり難いと考えられています。脱細胞ではなく骨格のみを人工的に作ってそれを移植手術の前に患者さんの皮下に植えて、細胞を生やしてから取り出して心臓に使うという方法もあります。
脱細胞技術は再生医療の研究分野で日本でもよく使われていますが、今回はドイツの企業がそのノウハウをもっていて、阪大とドイツのハノーファー医科大学との共同研究(研究に国費が使われている)の成果でしょう。ドイツではヒトや動物の脱細胞弁の基礎的実験が進んでいます。ヒトの大動脈脱細胞弁による大動脈弁置換はまだ実験段階のようですが、脱細胞技術は米国の会社が特許をもって商品化を目指しています。日本も技術があるのにどうして自前でできないのか、という気もします。
 注:上記の項、一部修正しました。アンダーライン
個人的には興味あることが2-3あります。まず、使った元の弁がどういう方から頂いたのかです。心臓移植を受けた方の摘出心臓からまだ使える弁を取り出す方法と、亡くなった方で心臓移植に使えない心臓から弁を頂く場合があります。後者は日本でも行われています。この辺りを報道することは臓器提供や心臓移植を進める上での社会的メッセージ性はあると思いますが、日本のマスコミはどう捉えるでしょうか。日本人の弁をドイツに運んで処理して日本の患者さんに戻す、というシナリオもあればいいと思います。将来は全部自前でやることが最終目標でしょうが。

後は、今回は成人例でしたが、小児ではどうかでしょう。小児でそれこそ再手術が要らない脱細胞化弁が使用出来ればいいですが、弁のドナーのことと、脱細胞弁が成長するのか、ということへの回答が要ります。 もう一つは、人工弁ということでは大動脈弁置換が既に沢山行われ、術後に抗凝固療法が必要な方が多いのです。ここに脱細胞弁が大動脈弁置換の世界に登場すれば大きなメリットが出てきます。次のステップとして計画されているでしょう。ただ、弁にかかるストレス(圧)は大動脈弁で当然強く、肺動脈弁とは大きく違います。大動脈弁を使うにしろ、これに耐える脱細胞弁が出来るか、大変興味があります。多分、今回の処理方法で既に強度が保たれているのではと想像しますし、多くの患者さんが期待していると思います。今回の成果はその先がどうなるのかを考えて注目する必要があるようです。


iPS細胞から弁や血管を作ることも出来てくるでしょうが、人間が作った自然のものが身近に沢山あって、その活用も忘れてはいけないと思います。

2014年10月23日木曜日

iPS細胞で心筋再生治療、新たな展開

 今日のニュースですが、iPS細胞の研究でまた新たな展開です。京都大学の山下教授のグループがヒトiPS細胞から作った心筋組織シートをラットの心筋梗塞モデルに移植し心機能の回復が得られたと言うものです。心筋細胞だけでなく心筋組織のシートであり、これをヒトiPSから作ったこと、しかも動物で成果が出来たこと、ということが素晴らしいことです。世界初です。

これまで阪大では骨格筋芽細胞シートの臨床応用を進めていて、心筋症の患者さんの心機能が改善したことが報道されています。この筋芽細胞を用いたシートでは心機能の回復はサイトカイン効果という、植えた細胞から出てくる生理活性因子(蛋白)によることが明らかになっています。ということは、シートにした細胞自体が心筋と同じように,また残った心筋と繋がって、収縮したりするものではなく、いわば薬を放出する装置的な役割と考えられています。またこれまでのシート治療は使われる細胞に制限があり、真の心筋再生(新たに心筋細胞が出来る)とは言いがたいところがありました。そこで当然の流れとしてヒトiPS細胞からの心筋再生の研究が活発となり、阪大や慶応義塾大で精力的に進められているようです。そういうなかで、今回の京都大学の成果は大きなステップを刻んだわけです。なお、培養した細胞をシート状にする技術は東京医女子医大の岡野光夫教授の発明した温度応答性培養装置であり再生医療研究を大きく発展させています。

さて、これまでの心筋細胞シートでは心筋以外の血管や支持組織を組み込むことが出来ないという大きな課題がありました。細胞に酸素や栄養を送るライフラインが出来なかったということです。これに対し京都大の山下教授らは、ヒトの皮膚細胞から作ったiPS細胞(元の細胞)にこれまでと異なった刺激因子を加えることで、心筋細胞だけでなく血管となる細胞(内皮細胞と平滑筋細胞)も同時に出来ることを発見し,これらの細胞が混在したままでシートにする成功しました。心筋組織シートです。さらにラットでの実験でこのシートが4週間後にも生き残ってかつ血管も出来ている、というまさに心筋組織が生着していたという結果です。また心機能改善効果は2ヶ月後にも続いていました。
(この部分、一部修正しました)

今後は大動物での実験や、がん化しないか、どの位の大きさまで作れるのか、特発性心筋症ではどうなるのか、などなど課題は沢山あります。しかし、iPS細胞を使った再生医療が、眼科領域から心疾患にも確実の進んできています。他の大学の成果も併せて、日本版シート工学による心筋再生治療を実現していって欲しいと思います。

さて、またまた余分なコメントです。TVニュースでも心不全の究極の治療である心臓移植はドナーに依存するという限界があり、これに変わる再生医療といういつものフレーズが出てきます。米国では人口が約2倍でも心臓移植は毎年2400例ほど行われています。日本は年間50例にも届きません。人口比で24倍です。子供さんは相変わらず米国に行って移植を受けています。日本ではだから再生医療を、ではなく、心臓移植もしっかり普及した上で再生医療も、というべきです。今、心臓移植を待っている多くの患者さんは再生医療まで待てないのです。今、全ての臓器でドナー不足は深刻なのです。


2014年10月17日金曜日

心不全学会から,その2


心不全学会で得られたいろいろなメッセージの中で、社会とのつながりで言うと心臓移植の現状の理解をもっと進めるべきことと共にドナー不足が深刻であること、そして一方では心不全が悪化しないうちに何か手立てを考えよう,という動きもありました。
一つは心臓再同期療法、CRTという治療(ペースメーカーの一つ)のことです。 心筋梗塞などで一部の心筋が壊死になると心室の動きがおかしくなり、十分なポンプ作用(体に血液を送る)が出来なくなります。動きがぎこちなくなるのです。こうなると心臓の中の電気パルスが右室側と左室側で遅れが生じ、十分な働きが出来なくなります。左右の心室の間の壁(中隔)がうまく連動しなくなり、左右の心室の働きが合わずに心不全症状が出ます。この場合に心電図のQRSという心室内の伝達波形が間延びしてきます。脚ブロックとも言われますが、これをペースメーカーでタイミングを調整して,心室内の刺激伝達を左右の心室が協調できる様にするのが再同期療法CRTで、右室側と左室側にリードの先端を置く方法です。

CRTの適応は心不全がかなり進行したNYHAという心機能分類でクラス3度か4度(ともにかなり重症で4度は最も悪く救命処置や移植とか人工心臓が要ります)に限られていました。しかし、このCRT療法は確かに心不全症状が見事に改善する患者さんもあるのですが、一向に効かない患者さん(ノンリスポンダー non-responder)も少なくなく(3割とも言われています)、コストの高い治療ですから医療経済上も問題視されてきました。米国ではQRSの幅が狭いと効かない場合が多いから、QRS幅を従来の適応レベル120msc以上より150msc以上(かつ左脚ブロック)にすべきという警告が出たくらいです。日本でもこのノンリスポンダーが結構多いのでは、ということで学会が調査を始めた経緯があります。
今回の学会でも米国からの発表で、心臓の機能があまり悪いとこの治療も限界でクラス4度では効果が薄く(予後改善にならない)もっと軽い症状のうちから適応したほうが予後改善になるということです。そのため、米国は適応をこれまでの3度4度に限っていたものを2度(心疾患はあるがあまり症状がなく日常生活での制限はまだ軽い状態)にも広げたのです(下記のWeb参照)。そして日本でも近々同様に2度にも拡大することも知りました。外科医はあまり情報が来ませんが、日本では心電図のQRS幅を150msc以上(心電図では重症)に限ったようです。これは米国の研究者も評価していましたが、エビデンスに基づいた判断は納得できます。なお、米国はまだそこまできつくしていないとのことでした。

こういったデバイス治療の適応拡大(軽い人に拡大)は今後の成果が注目されますが、これまで新しい心不全デバイス治療は最重症例から始めることが過去にたくさんありました。大動脈バルーンポンプ、補助人工心臓、心臓移植(世界の黎明期)もそうでした。坂を転げ落ちだしてからでは臓器不全もあり心臓の回復力もなく、結果は期待に背くものでした。そういう歴史もあり、補助人工心臓でも、Intermacs Profile という分類でそのままでは数日しか持たないProfile-1(NYHA4度でも最重症)は除外するようになって来ています。今回のCRTNYHAクラス2度に広げるのはある意味理解できますただ症状の軽いひとで心電図の条件が合う人がどれだけいるのか気がかりですし、将来心不全の発症や悪化を防ぐために高額な人工物(デバイス)を植込むことの倫理的な問題もあると思います。そもそも高額医療でもあり注目していきましょう。

補足ですが、実際これまで心臓移植の適応となるような心筋症の方が、このCRTで経過をみているうちに(効果がないまま)年齢が進んでしまって移植適応にはならなくなった、ということも少なくないと思います。心不全への多職種チーム医療の重要性は指摘しましたが、循環器内科医と心臓外科医の協同がまずありきではないかということも、CRTの現状をみると感じられます。

https://www.carenet.com/news/journal/carenet/35987

Webや不整脈学会のHPからです。
下に心電図を示しますが、上段は正常で下段が波(QRS)が幅広くなっています。
右はCRTの説明(不整脈学会)。左右の心室の収縮が同期しています。