2020年9月16日水曜日

勤務病院が変わりました  高度医療から地域医療へ

  新型コロナと猛暑で落ち着く暇もなかった夏も終わり,もう9月も半ばに入ってようやく涼しさが感じられるようになりました. しかし,コロナはまだ収束の気配も少なく,ウイズコロナに移行するにはまだ時間がかかりそうです. 一方,政局は姦しく,安倍首相の突然の辞任で新体制,菅総理,に移行しますが,コロナ対応に新たな動きがあるのか気になるところです. 持続型の対策が必要で,保健所業務の整理と強化も今後待たれるところです.

さて,今日は私の近況報告です. 勤務先が変わりました. これまでの宝塚市内の循環器専門病院から, 一転して大阪市内の一般地域病院に移りました. 西成区(メトロの四つ橋線,花園町)で古くからあった救急病院が, 名前が変わって思温病院(しおん)となっています. 西成区は大阪市の南西部で,古い方々には名前的にあまり良いイメージが浮かばないのですが,私自身は中学から大学卒業まで少し南の玉出というところにおりましたので, 違和感はなく,古巣へ戻ったという感じです.

この病院は阪大第一外科の呼吸器外科グループにいた挟間研至君(ファルメデイコ株式会社の社長でもあり, 日本在宅薬学会の創始者,「外科医薬局に帰る」の本人)が5年ほど前に理事長・病院長で参加し,広い人脈の下で頑張っています. 常勤医師も少ないことと,循環器診療も手薄なので, 何か役に立てればと思って自ら飛び込んできました. 年齢的に考えて,体力的にはまだ大丈夫なことと(?), 頭を切り替えるには今しかないと思ったわけです. 将来的には地域医療の現場で心不全ケアのチーム作りが出来ればと考えています. この病院は地域密着型で地域包括ケアと慢性療養病床を持ちながら,これに急性期病棟があり,高齢者も多く,これまでの高度医療や先進医療とは別世界です. まずは循環器外来を始めますが, 一般外来も担当するのでcommon diseaseの対応から勉強し直しです. 浦島太郎かドンキホーテか, と自分でも頭の切り替えが出来ていないところもあります. 心機一転,医師としての出直しみたいなところもあり,毎日が楽しく感じられます. 学会が軒並みWeb開催なので, この仕事場の変化に対応するには時間的余裕ができたのも有難いです.

ということですが,この歳(来月になったら後1年で80の大台)でこんな変身をしたので多くの方々がびっくり,心配?されている状況です. それ見てみろ, と言われないように, 日々新たな気持ちで少しずつ進んでいければと思っています.

病院のHP:  http://www.shion-hp.or.jp/

病院内のポスターを載せます。





2020年8月7日金曜日

心不全療養指導士制度が始まります


コロナ騒動で明け暮れているうちに8月になってしまいました何か書こうと思ってもコロナコロナでは息が詰まりますし我が国の対応を見ていてもいっこうに新しい道を開けずに堂々巡りでほとほとあきれて何か言う気持にもなれませんということで今月が話題を変えてみます. Covid-19で学会が軒並み中止かあってもWeb開催です先般も3月から8月に延期された日本循環器学会総会では幾つか興味あるセッションを聞いた中で一つ紹介したものがありますそれは私が現在取り組もうとしている心不全地域連携であり心不全緩和ケアに関係するものです.

今回紹介したいのは日本循環器学会が中心となって立ち上げようとしている心不全療養指導士制度です一昨年でしたか循環器疾患(脳卒中を含む)対策特別法が成立した後の関係学会としての対応の一つです病院地域在宅における慢性心不全患者への支援をサポートする学会認定制度で多職種連携に加わる新たな資格制度です心不全パンデミック時代において心不全チーム医療を支え増悪と再入院を少なくしQOLの改善を目指すものです. 2021年度から開始するので今年に最初の試験を行うのですがCovid-19の影響でオンラインになったようです.
具体的なことでは医師以外の医療専門職が各々の専門職が持つ専門知識と技術を活用しながら心不全患者への適切な療養指導を行うと謳われています受験資格は看護師保健師理学療法士作業療法士薬剤師管理栄養士臨床工学技士社会福祉士公認心理師歯科衛生士の国家資格を有するというのが資格の基本ですそしてその他の条件には日本循環器学会会員(正会員準会員)で年会費を納めていること現在心不全療養指導に携わっていることなどです. E-Learningでの研修も必要とのことです来年度からどういう方々が資格を取って心不全チーム医療に参加するのか楽しみです.
ということで心不全特に慢性心不全で在宅管理が必要な場面での活躍が期待されると思いますしかしこの玉虫色の制度も実際に根付くにはかなり年月が必要でしょうこれだけ多彩な専門職の参加で一体チームはどうなるのかやはり次はこれらの方々からコーデイネ-ター役が出るのでしょうかまた既に看護師には心不全認定看護師があります心不全ケア領域で看護師に二つの認定資格が混在することになりどう棲み分けるのでしょうかまたこの資格を持った人がチームに加わると診療報酬加算が付くのかも大事なことです心不全ケアチームへの参加する医療職者が増えチーム医療が発展していくでしょうがこのように沢山の課題も見えてきます資格筆記試験を通って認定された方が新たにチームに加わるには時間がかるでしょうし医師側がどれほどその役割を理解し育てていくかが問われます当面は現在動いている心不全ケアチームのなかの専門職者がこの資格を取ることで在宅管理を含め円滑な包括的なケアへと進むステップにはなることが期待されます.
私はこの制度の発展に期待する一人ですが一方で些かあるいは大いに失望したことがありますそれは受験条件のなかにある日本循環器学会会員資格です医師の専門医制度でも学会資格を強要するのは時代遅れであるという指摘が長らくあるなかで実際は学会認定制度が続いています更新要件でもしかりです学会は専門医制度で経済的に潤い勢力を強める構造はポストコロナ時代でも続けるのでしょうかそういうなかで心不全療養指導士制度では真っ向から学会所属(会費納入)を基本条件にしています個人的には大変残に思わざるを得ません一歩下がってスタートは仕方ないとしても, 5年の経過措置とする位の度量はないのでしょうか. E-Learningや教育ツールの使用や試験には自己負担も必要でしょうがこの資格を取れば会費無しで学会に参加出来るようにするとか継続教育に参加出来るかとか天下の日本循環器学会においてこの英断が何故出来なかったのか一度幹部の方に聞いてみたいと思っています.

宝塚地区の心不全地域連携プロジェクトもCovid-19で立ち遅れていますがそろそろ動き出すようですしかし感染者がまだ増え続けている中でどういう動きをするかが現場に問われています停滞をコロナのせいにしてはいけないと思います逆にこの時こそWith Coronaでもって前に進むことが必要と感じています.

2020年6月15日月曜日

 ポストコロナ(With Corona)時代に我が国の医療をどう変革できるか 発想の転換と働き方改革の見直しが必要                           


     

今年に入ってからの中国武漢から始まった新型コロナ感染(Covid-19)のパンデミックは,いまだ世界的には収束の気配もあまり感じられないなか外出禁止措置からの解除が広まってきています. 我が国ではようやく収まりつつあるようですが,クラスターの発生は止まっておらず,個人は感染防御の面でまだまだ注意深い対応が必要でしょう.
最近の新聞の論調ですが,国際経済学者は経済,生活を脅かしていた危機が終息したといえるには3年かかると述べています(毎日新聞520日朝刊).その間,必然的に世界は種々の場面で旧来の考えからの大きな転換が行われるであろうと推測されます.勿論,経済的回復が第一ですが,一方では医療崩壊が生じた医療についてはどうなるのかが我には大きな課題です.ワクチンの開発や感染防御体制の再構築,グルーバルな情報の把握と公開,国際間や種々の格差の問題もあります.わが国ではどうかというと,依然として続く縦割り制度(医療行政)の問題が今回も露呈しています.
さらに,今回の国の危機管理でその弱点が露呈した問題点の多くは既に分かっているにもかかわらず長年改革に手が付けられていなかった医療や医学分野の常識や慣習と思います. これらの検証なしには新たな発展は出てこないと思います. これからどうするか,生活様式をどう変えるか,という視点でいろいろな意見が出てきていますが,思うところを述べさせてもらいます.
なお,ポストコロナというよりウイズコロナ(With Corona)がより適切という風潮ですが,ここでは一応ポストコロナで書いてみます. 改革を実行に移すにはwithです.

病院の機能別に見た集約化
我が国でのCovid-19対応は,基幹病院や大学病院が個々では活躍していますが,一方では民間病院に無理なしわ寄せを強いています.危機発生で高度医療を迅速に集約化できる仕組み造りをどうするか,今回の経験をどう生かすかが問われるでしょう.根強い縦割り行政(厚労省,文科省,地方自治体)の弊害をどうか解消するか,従来から懸案の病院の集約化が改めて問われていると思います.

大学病院の役割
医師不足の中,その役割と効率化を考えた大学病院の在り方を検討する時期であることは明白です.わが国の大学病院の世界から見た多くの不思議の解消はできないでしょうか. 医療収入を上げないと倒れる自転車操業からどう脱皮するのは社会保険制度の問題ですが,中でも問題のある異常に多い外来患者数で. その対応に割かれる医師の負担を大学病院ならではの入院患者診療に向かわせることが今後の改革の出発点と考えます. そこには従来型の数に頼る外来診療は大学病院では不要という発想がまず必要であります.大学病院に若い医師が沢山集まる今の仕組みがいつまで続くのか考えないと進まない話でもあります.

コミュニケーションの効率化
Zoom
といったWebを通した会議が普通になる中で,今回の3密回避を今後も生かすには無駄なことを避ける勇気が必要であります.真っ先に挙げられるのが病棟回診,形式的なカンファではないかでしょうか. 対面での意見交換でしか得られないことをメディア使用カンファや回診にどう盛り込むかが問われます. ハイブリッド方式が進むでしょうが, その中でどう効率的な意見交換と情報共有が出来るか, 医療情報研究の新たな分野になるでしょうし, これから多職種連携をどう進めるかも改めて問われる課題のようです.

資格更新制度をWeb
  この際重要なことは,我々医療従事者が資格(専門医,認定看護師,その他の多くの認定制度)取得における学会やセミナー参加のクレジット制度です. ある学会の年一度の総会には専門医を継続する殆どの会員(多くは勤務医)が強制的に集められます. 2-3時間のセッションの受講証明,学会の参加証明(参加証)が必要だからです. この間,ある特定の専門医(集団)が医療現場からいなくなる社会問題です. この際,この制度こそ改定しないと,というか改定せざるを得ないと思います. 看護の認定看護師制度での6ヵ月の教育施設での研修(座学がメイン)がこれからどうなるか,非常に興味あるところです. 本職の施設から半年間の休職(以前は退職)をもらって,東京等に出かける制度です. これを如何にオンライン化することが関係者の責任でしょう. 米国の認定制度(特に更新)は広き国ですから当然オンラインです. 日本でもそうすることで病院を一斉に休むこともなく休職しないで済むのでは思います. 大きな発想の転換がいるでしょう. リーダーは英断をして欲しいと思います. 学会等の資金集めについてもポストコロナをどうするか,先駆的な取り組みをする学会が現れることを願っています. これまで当然と持っていたいろいろな無駄なことを,この際省こうではないですか.

働き方改革
このテーマが最も大事であり,上記の問題の根底にあると言ってもいいでしょう. 医師で言うと勤務時間の縛りでもってこれを進めるというこれまでのやり方はポストコロナでは通用しないということをまず理解すべきです. 早急な見直しが必要です. 勤務時間を設定することは大事ですが,その目標を達成するためにいかに専門職者の技能を最大限に活用するかが問われています. 産業界ではロボットの参入が出来ますが, 医療界でも当然その道も探るべきです. 今回の対コロナ対応で医療従事者の活動でどういう無駄があったのか,改善できるとことは何か,まずここの整理が不可欠です. そしてそのためにはどうする,ロボット技術は当然ですが,IT技術を更に活用して,医療者の現場での対面的ケアを効率化するか,これまでの研究や技術開発をさらに発展させる時期と思います. 国の研究費補助もこのテーマをしっかり取り入れて欲しいと思います.
この問題は今回の医療危機管理で明らかなように,医師だけでなく殆どの医療従事者に及ぶ問題で,人材不足や機器不足,社会の理解,医療保険制度など,多岐にわたる課題が浮き彫りになっています. 医療者の働き改革はポストコロナの最重要課題ではないでしょうか. ここにはかなりの経済的支援がないと進まないでしょうが,今回の緊急補正予算でどうなっているか,先進的医療機器だけではなく介護まで含めた現場での検証が必要です.

医療とレジリエンス
最近レジリエンスという言葉が注目されていて,特に経済活動を含めた世界的な議論の中で用いられています. 復元力とも言われていますが,NHKでも紹介されています. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200605/k10012457941000.html
この言葉は医療現場の危機管理において言及されるようになっています. 今医療者は,この復元力を平時から如何に維持させるか,またまだ混乱が続く現場での目の前の対応において共通言語的な意味で浸透していくのでは思います. ただ,言葉だけがひとり歩きしては意味が無いので,そこには何が込められているか個々,あるいはグループ,が判断する必要があると思います.
大阪大学附属病院の中島和江教授の言葉で置き換えると, 危機管理において「システム思考で洞察する」「必要な時に境界を越えて協同する」「新たなつながりや価値を創る」「つながりを科学する」という4つのキーワードが提唱されています。ポストコロナでの医療者が持つべき指針であって, 医療システム改革におけるキーワードでもあるでしょう.

以上,ポストコロナ時代において生活様式改革だけでなく,医療の分野での旧態依然とした制度や考え方から脱皮する道を探る絶好の機会ではないでしょうか. まずは新型コロナ危機が過ぎても医療危機(崩壊)は残った,とならないように願いっています.

With Corona時代を乗り切るには,まずは発想の転換とそれを実行に移す復元力の維持が大事と思います. 危機をチャンス, です. この絶好の時期を逃さない, がポストコロナの合い言葉では.
 (注:この原稿の一部は同門の外科学講座の年報にも書いています.

追加:ポストコロナ時代の働き改革については、東邦大名誉教授 小山 信彌教授の記事を紹介します.


2020年5月14日木曜日

新型コロナ感染も収まってきましたが。感染蔓延時の心肺蘇生について


我が国での新型コロナウイルス(Covid-19)感染者数のカーブも漸く下り坂になってきて、今日明日にも非常事態宣言の緩和ないし解除が行われようとしています。感染危機管理でいろいろな課題を抱えたまま収束に向かっていますが、のど元過ぎれば、ではないですが今後の対応が一層注目されます。何が問題であったのか分析と次への対策構想に今から取り組んで欲しいと思います。国家的危機が生じても、一旦収まると関心も薄れ、大事な制度改革を先延ばしにしてしまう国ですから。
PCR検査数も問題ではありますが、検査の少ないことを議論するのはもういいとして、今大事なのはこの目に見えないウイルス感染への国民の正しい理解を求めることだと思います。それが充分でなければ、いくら規制を設けても、自粛という個人の判断に頼るやり方では限界があります。私は大丈夫、世間は怖がりすぎ、自分も家族も関係ない、と言う意見が多い状況では、危機管理に限界があるのは当然で、国民のウイルス感染への啓発が今更ながら重要と思います。どうするかは難しいですが、メディアも政府批判や実況中継的な報道から、ウイルス感染について分かりやすく繰り返し説明することに集中して欲しいと思います。視聴率のことがあるので民放は無理としたら、NHKに頼ることになりますが、一方で医学会や医師会がその啓発にもっと力を入れて欲しいと思います。ウイルス感染症という病気への理解が薄ければ、再燃も充分あり得るでしょう。

さて、New England Journal of Medicine という米国の医学雑誌のCovid-19関連の記事を紹介してきました。この雑誌では毎週Covid-19に関する発表を掲載していて、原文ですがフリーアクセスで見ることが出来ます。今回は、新型コロナパンデミックにおける心肺蘇生(CPR)についての倫理的背景から見た論文、
CPR in the Covid19 era—An Ethical Framework (by Kramer)です。
「新型コロナウイルス感染蔓延時期における心肺蘇生の在り方、倫理的にみた構図」、というものです。

我が国でも院外心停止例への救急隊の蘇生操作の施行(胸骨圧迫、人工呼吸、AEDなど)や救急外来での対応が問題になっています。Covid-19感染疑いがあったらどうするか、医療従事者への感染や院内感染にならないか、PCR検査はどうするか、など医療崩壊になる重要な問題です。実際、CPRで蘇生後に入院し手術や治療をした後に感染が判明した事例も生じています。特に個人防御装置(Personal Protective Equipment, PPT、マスク、手袋、ゴーグル、防御ガウンなど)が備わっていない状況でのCPRや緊急治療は大変悩ましい問題です。心臓外科や心臓カテーテル治療など、生命に関わる場合の緊急治療でも問題で、学会関係(海外からも)の指針も出ていますが、最終決断は現場に任されているのが現状です。以前、このブログで紹介したDNR、終末期医療、に関わる問題でもあり、倫理的な背景の理解が必要となります。
米国と我が国では倫理的な対応も違うので同じにはなりませんが、考え方としては参考になると思います。

さて以下要約です。
背景は米国でも同様で、CPRにまつわる問題は、救急医療の医療リソース(医療資源)不足である。即ち訓練された人材、装備、ICUベッド、などが限られている中で、さらにこの感染症の広がり(医療担当者と施設)を考えると、DNR(蘇生術を受けない)がなければCPRに最善を尽くすという従来の使命は必ずしも受け入れられなくなる。医療従事者の感染と院内感染、必要なICUベッドの確保、の観点から、危機管理における標準規定(crisis standard)が必要である。そしてCPRをしないとするには倫理的な基準が必要である。この論文では主に院内心肺停止例への対応が書かれている。
背景には、院内心肺停止例へのCPRの成果を見ると、約25%しか退院できていないという現実があるも考慮しないといけない。米国の科学・技術・医学に関するアカデミーの危機対応標準規定によると、最も救命の可能性の高い患者をまず助けることが基本とされている。命の選別が起こる。そこには基本的倫理として、公正であること、ケアの義務を尽くすこと、リソースを大事にする、意思決定における透明性の維持、一貫性、調和、そして説明責任、と書かれている。人種や性別、年齢、保険、経済力、などでの差別を避けるには透明性が家族野理解の上で重要である。
このような背景のもと、以下の3つの項目を危機管理におけるCPRの基準として推奨している。
1)  医療資源が逼迫していることを理解すること。そのためには、病院の受け時点でのDNRの確認と共に、CPRはしないという選択も提示するが、一方では科学的根拠に基づいて慎重な判断が必要である。
2)  CPRをしない選択には背景の疾患への考慮が必要であるが、Covid-19を特別な疾患とすることは今の科学的根拠からは推奨されない。しかし、医療資源の制限がある中で最大限の救命者を出すには、以下の場合には蘇生をしないという選択が許容される。それには、人工呼吸器がない、救急治療のベッドがない、また疾患の進行程度が決定的である、などであるが、不整脈のような電気ショックや胸骨圧迫で対応できる場合は除外されるべきである。 これらのことは、院内のcode-team(緊急対応チーム)にも当てはまることである。
3)  医療従事者の安全の確保のためへの配慮は危機管理での標準規定への科学的根拠になる。そのためには、訓練された人材によるPPE使用、経験充分な医療者による気管内挿管、機械的CPR装置の使用があればその使用、をガイドライン等に含める。

纏め的には、米国では一部の施設を除き、危機管理標準規定、を整備していないのが現状である。今後は、倫理的根拠に支えられた明確なcrisis standard が必要であり、そうすることでCPRの従来のプロトコールに準拠することがもはや適切では無くなる場合が出てくるであろう。

   倫理が絡む中々難しいテーマで、訳するのにも苦労したので正確性に欠けるかも知れないのですが、概要は伝えられたのではと思います。我が国では終末期医療のガイドラインも出てきていますが、APCもまだ広く理解されているとは言えない状況です。この感染パンデミックの機会に、心肺蘇生の在り方が更に議論されるのではと思います。標準防御が基本ではありますが、救急患者さんをすべて感染者と見なすには倫理的問題と共に実践するための障壁が高い状況です。それでも、大学病院では手術患者さんの術前検査にCovid-19PCR検査を進めていますが、外科関連学会の要望もあり保険適応も承認されたと聞いています。

最後に、感染症の疑いがある患者さんへのCPRをしないという決断においては、我が国では倫理的考察よりなんと言っても家族対応の難しい状況があります、例えDNRの存在下でも。
今日のNEJMの記事紹介は何かしっくりしない内容でした。
皆様、もう少し辛抱ですね。
 
我が国での新型コロナウイルス(Covid-19)感染者数のカーブも漸く下り坂になってきて、今日明日にも非常事態宣言の緩和ないし解除が行われようとしています。感染危機管理でいろいろな課題を抱えたまま収束に向かっていますが、のど元過ぎれば、ではないですが今後の対応が一層注目されます。何が問題であったのか分析と次への対策構想に今から取り組んで欲しいと思います。国家的危機が生じても、一旦収まると関心も薄れ、大事な制度改革を先延ばしにしてしまう国ですから。

PCR検査数も問題ではありますが、検査の少ないことを議論するのはもういいとして、今大事なのはこの目に見えないウイルス感染への国民の正しい理解を求めることだと思います。それが充分でなければ、いくら規制を設けても、自粛という個人の判断に頼るやり方では限界があります。私は大丈夫、世間は怖がりすぎ、自分も家族も関係ない、と言う意見が多い状況では、危機管理に限界があるのは当然で、国民のウイルス感染への啓発が今更ながら重要と思います。どうするかは難しいですが、メディアも政府批判や実況中継的な報道から、ウイルス感染について分かりやすく繰り返し説明することに集中して欲しいと思います。視聴率のことがあるので民放は無理としたら、NHKに頼ることになりますが、一方で医学会や医師会がその啓発にもっと力を入れて欲しいと思います。ウイルス感染症という病気への理解が薄ければ、再燃も充分あり得るでしょう。

さて、New England Journal of Medicine という米国の医学雑誌のCovid-19関連の記事を紹介してきました。この雑誌では毎週Covid-19に関する発表を掲載していて、原文ですがフリーアクセスで見ることが出来ます。今回は、新型コロナパンデミックにおける心肺蘇生(CPR)についての倫理的背景から見た論文、
CPR in the Covid19 era—An Ethical Framework (by Kramer)です。
「新型コロナウイルス感染蔓延時期における心肺蘇生の在り方、倫理的にみた構図」、というものです。

我が国でも院外心停止例への救急隊の蘇生操作の施行(胸骨圧迫、人工呼吸、AEDなど)や救急外来での対応が問題になっています。Covid-19感染疑いがあったらどうするか、医療従事者への感染や院内感染にならないか、PCR検査はどうするか、など医療崩壊になる重要な問題です。実際、CPRで蘇生後に入院し手術や治療をした後に感染が判明した事例も生じています。特に個人防御装置(Personal Protective Equipment, PPT、マスク、手袋、ゴーグル、防御ガウンなど)が備わっていない状況でのCPRや緊急治療は大変悩ましい問題です。心臓外科や心臓カテーテル治療など、生命に関わる場合の緊急治療でも問題で、学会関係(海外からも)の指針も出ていますが、最終決断は現場に任されているのが現状です。以前、このブログで紹介したDNR、終末期医療、に関わる問題でもあり、倫理的な背景の理解が必要となります。
米国と我が国では倫理的な対応も違うので同じにはなりませんが、考え方としては参考になると思います。

さて以下要約です。
背景は米国でも同様で、CPRにまつわる問題は、救急医療の医療リソース(医療資源)不足である。即ち訓練された人材、装備、ICUベッド、などが限られている中で、さらにこの感染症の広がり(医療担当者と施設)を考えると、DNR(蘇生術を受けない)がなければCPRに最善を尽くすという従来の使命は必ずしも受け入れられなくなる。医療従事者の感染と院内感染、必要なICUベッドの確保、の観点から、危機管理における標準規定(crisis standard)が必要である。そしてCPRをしないとするには倫理的な基準が必要である。この論文では主に院内心肺停止例への対応が書かれている。
背景には、院内心肺停止例へのCPRの成果を見ると、約25%しか退院できていないという現実があるも考慮しないといけない。米国の科学・技術・医学に関するアカデミーの危機対応標準規定によると、最も救命の可能性の高い患者をまず助けることが基本とされている。命の選別が起こる。そこには基本的倫理として、公正であること、ケアの義務を尽くすこと、リソースを大事にする、意思決定における透明性の維持、一貫性、調和、そして説明責任、と書かれている。人種や性別、年齢、保険、経済力、などでの差別を避けるには透明性が家族野理解の上で重要である。
このような背景のもと、以下の3つの項目を危機管理におけるCPRの基準として推奨している。
1)  医療資源が逼迫していることを理解すること。そのためには、病院の受け時点でのDNRの確認と共に、CPRはしないという選択も提示するが、一方では科学的根拠に基づいて慎重な判断が必要である。
2)  CPRをしない選択には背景の疾患への考慮が必要であるが、Covid-19を特別な疾患とすることは今の科学的根拠からは推奨されない。しかし、医療資源の制限がある中で最大限の救命者を出すには、以下の場合には蘇生をしないという選択が許容される。それには、人工呼吸器がない、救急治療のベッドがない、また疾患の進行程度が決定的である、などであるが、不整脈のような電気ショックや胸骨圧迫で対応できる場合は除外されるべきである。 これらのことは、院内のcode-team(緊急対応チーム)にも当てはまることである。
3)  医療従事者の安全の確保のためへの配慮は危機管理での標準規定への科学的根拠になる。そのためには、訓練された人材によるPPE使用、経験充分な医療者による気管内挿管、機械的CPR装置の使用があればその使用、をガイドライン等に含める。

纏め的には、米国では一部の施設を除き、危機管理標準規定、を整備していないのが現状である。今後は、倫理的根拠に支えられた明確なcrisis standard が必要であり、そうすることでCPRの従来のプロトコールに準拠することがもはや適切では無くなる場合が出てくるであろう。

   倫理が絡む中々難しいテーマで、訳するのにも苦労したので正確性に欠けるかも知れないのですが、概要は伝えられたのではと思います。我が国では終末期医療のガイドラインも出てきていますが、APCもまだ広く理解されているとは言えない状況です。この感染パンデミックの機会に、心肺蘇生の在り方が更に議論されるのではと思います。標準防御が基本ではありますが、救急患者さんをすべて感染者と見なすには倫理的問題と共に実践するための障壁が高い状況です。それでも、大学病院では手術患者さんの術前検査にCovid-19PCR検査を進めていますが、外科関連学会の要望もあり保険適応も承認されたと聞いています。

最後に、感染症の疑いがある患者さんへのCPRをしないという決断においては、我が国では倫理的考察よりなんと言っても家族対応の難しい状況があります、例えDNRの存在下でも。
今日のNEJMの記事紹介は何かしっくりしない内容でした。
皆様、もう少し辛抱ですね。

論文: