2013年11月8日金曜日

 米国医療保険制度改革  オバマケアと患者第一

今日は再び抄読会で、米国の医療保険事情です。読んだものは New England Journal of Medicine の直近号、11月7日号にあった、Perspective (展望)コーナーのもの。ウエブで送られてくる最新版を表紙を見ていて目に留まったものです。これは最近始まったオバマ大統領の医療保険改革政策についての二人の意見です。原著論文というより寄稿と言ったほうが良いでしょう。拾い読み見たいですが、面白かったので紹介します。

     ご承知のように米国では政府管掌の医療保険として、高齢者(65歳以上)対象のMedicareメディケア、と低所得者対象のMedicaidメディケイド、の二つがあり、それ以外は全て個人や雇用者が加入する私的保険であります。米国は国民皆保険ではなく、自由意思でどれかに加入するのですが、公的な二つも自己負担があり、全てが入れるわけではなく、まして一般保険は高額の保険料がかります。ということで、低所得者の多く、5,000万人(最近は8,000万人を超えている)が何ら医療保険を持っていないという、長らく米国の深刻な社会的問題であるわけです。また65歳以下でみると保険未加入者は低所得者の40%を超えるという状況だそうです。

  一方、医療費高騰で州や国の財政状況も悪化し、このままでは公的保険はそのうち崩壊するであろうと危惧されるなかで、オバマ大統領は国民皆保険目指す新たな法律を作ったのです。ヘルスケア改革法(オバマケア法)と言われるものです。実際は二つのパートからなり、その一つが、Affordable Care Actと言われるものです。何のことかと言いますと、医療を受けられ易くする、というもので、手ごろな価格の医療保険を提供する、という趣旨の様です。面白い表現の法律ですが、問題点の解決を端的に表していると感心します。その具体的な方法は、Medicaidのカバーする範囲を拡大するというものであり、同時にエクスチェンジという州単位での医療保険取引制度ができています。これは分かり難いのですが、公的及び私的保険を含め何らかの保険に入れるよう斡旋する機関ではないかと思います。こういう施策でもって、州でかなり違うようですが、例えばMedicaid対象者を増やそう、医療保険拡張、をスローガンとしています。 その法律は来年から実行されるのですが、既にMedicaidカバーは7,300万人(国民の五分の一)に達し、新法によってさらに何百万人が増加すると見込まれています。そうなると、これまで私的保険患者しか見ていなかった開業医は、Medicaidの患者さんもある程度診なくてはならなくなるようです。しかし、支払いの制約があるMedicaidでは十分な医療が出来ないケースも出てくるし、最善の治療を提供すれば赤字診療になる、ということのようです。こういうことは日本から見ると信じられないような、差別医療が存在するということです。

     このようななかで、Ayanian 博士はミシガン州方式を解説し、もう一つのCasalino 博士はMedicaid患者さんへの開業医のジレンマをプロフェッショナルとしてどう対応するか、を述べています。後者論文についてもう少し紹介しますと、何と開業医の30%は新たなMedicaid患者は受けつけないと言っています。専門分野別での非受け入れ医師の率は、整形外科40%、総合内科で44%、皮膚科45%、そして精神科56%となっているとのことです。また、高収入の医師は受け入れをしたくない傾向にあるということです。しかし一方では、受け入れるとしても何とかその数を減らそうと、予約してから診察までが長くするようなことも考えられているようです。要するに、かかる患者を新たに受け入れれば、保険点数が低くコストが見合わないとか、十分な医療が提供できないとか、IT面での煩雑さや費用負担、などが挙げられています。一方、このような患者さんは病気自体が複雑で手間も費用もかかるという背景もあり、新たなMedicaid 診療に参加しない医師が多いようです。再度、日本では考えられない状況です。

    投稿のタイトルがプロフェッショナリズム、であります。医師は学生の時から医師のあるべき倫理指針(かってはヒポクラテス、今はWHOのジュネーブ宣言)を教えられ、患者の経済的背景や疾病やもろもろの背景で診療を差別しない、病める人を平等に診療する、というのが基本であるプロフェッションとしての基本倫理はどうなるのか、という問いかけでもあります。そして、その対応策の一つとして、5%コミットメントキャンペーンが紹介されています。タイトルにもありますが、これは各開業医は自分の診療活動(患者さんの数)の少なくとも5%はMedicaid患者に充てようではないか、というものです。実際5%というと、せいぜい一日一人という予想であるとのことです。一日20人程度を見ている勘定になります。日本と違って一人の診察時間は長く、密度の濃い診療なのでしょうか。 この投稿者の言いたいことは、医師のプロフェッションとしての対応をこの際にしっかり考えるべきではないか、経済的な市場支配的な医療を行うのは本来の姿ではない、という風に捉えられます。

   そして最後に、Patients First、 患者が第一、ということばで締めくくられています。米国でもやっとこういう言葉が出てくること、しかも世界をリードするトップジャーナルであることに驚きを覚えてしましました。補足ですが、この米国の医療保険制度改革は州単位で違うというか、州に任されていて、その対応にはかなりの温度差があるようです。もう一つのミシガン州の取り組み紹介は、我々の参考にして下さい、という趣旨ですが、詳細は複雑なのでタイトルだけの紹介にさせて貰いました。

   読み終わって、日本の健康保険制度も経済的に破綻しつつありますが、国民皆保険という点では素晴らしいことを改めて実感しました。そして、米国の医療が経済優先で患者は後回しになっていたことがオバマ大統領の新法でどう変わるか、対岸の火事(?)ではなく、わが身と思って参考にすべきと思います。最後までお付き合い下さり有難うございました。 なお、私の誤解や認識不足もあると思いますが、ご容赦下されば有難いです。
  11月に入り、関西も大分寒くなって来ました。今度の日曜から一泊で札幌行です。スキーではないですが雪見になりそうです。

  JZ Ayanian. Michigan’s Approach to Medicaid Expansion and Reform. NEJM 2013: 369; 19 ( November 7), 1773-5
    LP Casalino. Professionalism and Care for Medicaid patients – The 5% Commitment? NEJM 2013: 369; 19 (November 7,) 1775—7
    参考資料:日本貿易振興機構(ジェトロ)。 医療保険制度(ヘルスケア)改革法が産業界に与える影響 (2011年10月)

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