2013年12月5日木曜日

小児心臓移植の抱える問題


 先週の心臓移植研究会の最後は、特別セッションとして「明日へのメッセージ、小児の心臓辞職」があった。現在、小児(11歳以下)の実施認定施設は、阪大、国立循環器、そして東大であり、それぞれから重要な発表があった。その概要を紹介し、課題をまとめるが、同時に産経新聞が先月から連続して臓器移植の問題を取り上げていて、最後に示唆に富む内容があったので触れておきたい。

まず、国立循環器病研究センターの市川肇先生(私が阪大在職中の小児心臓外科手術のパートナー)は、当該施設が小児用人工心臓の治験参加施設であるが、その候補者の治療経験を述べた。即ち、補助人工心臓が要りそうでも内科治療をきちんとやってみるとでも結構効果があり、人工心臓装着を回避できる症例も少なくないとの意見であった。人工心臓をつけても国内での移植という行く先がない状況を考えて、保存的治療の最後の砦として頑張っている気概を感じた。それでも今後は人工心臓が必要となる症例も出てくるのではと思う。

東京大学心臓外科からは小野教授が最近導入されたドイツ製の小児体外式補助人工心臓(ベルリンハート)の成績が報告された。これまで4例が治験で治療を受けている。1例が米国で移植を受け、残3例が待機中とのことで、我が国でもやっと小児用の人工心臓が使えるようになった。とはいえ、その先の移植がむつかしい状況は変わりなく、海外に依存しているのは何とも歯がゆいことである。募金の額も上がっているようだ。

阪大病院の福島先生が小児の心臓移植に伴うあまり表に出ない課題と対策についての発表であった。それは、子供さんの移植は単にその子供さんが移植を受けるかどうかだけではなく、親はもちろんのこと兄弟へも配慮し、家族ぐるみのケアが必要であることである。そのため、移植外科医や小児循環器医だけではなく、心のケア(心理支援)が出来るスタッフが必要であるということであった。阪大病院小児病棟ではチャイルドライフスペシャリスト、child life specialist (CLS)  がおられて、医師や看護師、そして臨床心理士とともに大事な役割を果たしているということでした。米国の試験と小児病院での実地研修を終えてこの資格を取った方が日本でも働いていることで注目されているそうです。CSLは日本では20数名がおられ、大学病院小児科病棟や小児病院で頑張っているようです。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会のHP:http://childlifespecialist.jp/

恥ずかしながらそういう職種があることも知らなかったのですが、米国でその資格を取って日本で小児医療の中での心のケアや心理面でのサポートをしていることにも驚きました。看護師がなるというものでもないようです。移植や小児がんの患者さんを支援するこういう方がどんどん現れて、小児病院や移植病棟で活躍して欲しいと思います。海外に任せないで日本版CLS認定が欲しいです。

最後は東京女子医大東医療センター布田先生がこれまでの多数の海外での移植例を見た経験からの提言でした。即ち、小児心臓移植の定着;それは我が国の医療の試金石、というタイトルでした。小児の心臓移植が進まないのは大人も含め臓器提供全体が伸びないことの表れであり、臓器移植や臓器提供について原点に帰って関係者は社会啓発に努力しないといけないし、移植に限らない医療の本質の問題である、というメッセージでした。社会の関心が薄れているのが問題で、我々は機会あるごとにドナー不足と移植医療の素晴らしさを訴えて行かねばならないと感じました。ドナーが足らない、とばかり言うのも問題であることも理解し、社会に命のリレーをもっと知ってもらうため、どうするかが問われているようです。このシンポジウムのことが後日マスコミにどう出るのか、期待しています。

さて、産経新聞の記事を紹介します。それは、心臓病の子供を援助する「明美ちゃん基金」の話でした。この基金は昭和41年に出来たもので、心臓手術を受ける明美ちゃんを経済的に助けようと産経新聞が始めたものです。これまで心臓病の子供さんへの手術などへの経済的援助が行われてきましたが、今年になって初めて国内で心臓移植を受ける子供さんへの支援がされたということです。10歳代の子供さんへで、この8月に東京大学で2年以上の補助人工心臓をつけた後、無事に移植を終えています。心臓移植は保険適応になっていますが、ドナー病院への摘出チームの医師の派遣(交通費)、摘出された心臓を移植病院へ運ぶ費用(チャータージェット代)、そして移植を受けた子供さんの家族の滞在費、が保険外なので基金の対象としたということです。
この自費負担を支援するもので、金額は明らかにされていませんが、数百万では済まない額でしょう。何故そういう費用が要るのかですが、臓器の搬送やチームの交通費は保険対象外で、特に臓器の搬送費用は患者さん負担です。かって阪大でも経験したのですが、移植が決まって承諾書をもらうとき、搬送にかかる費用(チャータージェット機代で距離によっては100万近い)は自己負担であるということを病院長に認める書類に印鑑を押さなければ、日本臓器移植ネットワークはレシピエントの最終決定をしない、ということでした。払えるかどうかの話はしないで(事前には説明している)最終的には病院がかぶる覚悟で進めたとこを思い出します。この基金の支援の話が、小児心臓移植の発展につながればいいと思います。

この記事では患者さんや家族は匿名で、居住地も明記していません、と書かれています。写真は斜め後ろからのものでした。なぜ名前も出さないのか、という疑問に対しての説明でしょうが、臓器移植法のガイドラインのことが記されています。即ち、「臓器提供者の情報と移植患者の情報がお互いに伝わらないように細心の注意を払う」ことが求められている、という内容です。これはかって米国でもそうでしたが、お互いが分からにようにするのが原則でした。しかし、今はドナー家族とレシピエント(家族)が面会することも多くなっていますし、日本でもドナー家族の集まりも行われていいます。私は以前から、移植を受けた患者さんはもっと顔を見せて欲しい、それが社会への感謝であり、次に繋がることになる、と思っています。強制はできないのですが、そうして欲しいと思います。何も互いに面会するのではなく、移植を受けた方が顔を見せ、表に出るということが何故できないのか。それを妨げるのがこのガイドラインの趣旨という記事です。以前、日本臓器移植ネットワークの方に聞くと、それは強制する(患者情報を公表してはいけない)ものではなく、移植の現場の方々が決めていい、という話でした。ガイドラインの趣旨も変わりつつあると思うので、産経新聞の記者の方と一度話をしたいと思います。再開から15年近くなっているのですから。

ということで小児心臓移植の話題を紹介しましたが、小さな子供さんの脳死での臓器提供がどうしたら増えるのか、改めて考えたいと思います。同時に開いた、日本心臓移植研究会幹事会で、今後の学会の活動方針として小児心臓移植の推進を最重要課題としてみんなで努力をしようということになりました。

産経新聞から(11月30日朝刊から転用です)

 

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