心臓弁手術のことを触れたついでに紹介しておきたいことがあります。なお、先の内容と重複するところが多いですが、後で調べて分かったこともあり、補足することにしました。一度で済ませられなく、要領が悪くてすいません。
心室の出口の大動脈弁と肺動脈弁では修復が難しく、取り替える手術(置換)がどうしても必要になります。そこで登場するのが人工弁です。これには機械弁と生体弁があり、前者はパイロライトカーボン(炭素樹脂)という素材で出来たもので、ワーファリンによる抗凝固治療が必須です。生体弁はブタやウシの大動脈弁や心膜を処理したもので、抗凝固治療は必ずしも必要ではありません。前者は耐久に優れていますがワーファリンが要りますし、出血傾向も出ますからQOLでは劣ります。生体弁ではワーファリンは必須ではなくその点ではQOLはいいのですが長期的には石灰化が起こって再手術が必要になります。とはいえ最近は優れた生体弁が出てきて、高齢者の大動脈弁置換ではよく使われます。年齢的に10年持ったらいいという場合は生体弁が有利です。
心室の出口の大動脈弁と肺動脈弁では修復が難しく、取り替える手術(置換)がどうしても必要になります。そこで登場するのが人工弁です。これには機械弁と生体弁があり、前者はパイロライトカーボン(炭素樹脂)という素材で出来たもので、ワーファリンによる抗凝固治療が必須です。生体弁はブタやウシの大動脈弁や心膜を処理したもので、抗凝固治療は必ずしも必要ではありません。前者は耐久に優れていますがワーファリンが要りますし、出血傾向も出ますからQOLでは劣ります。生体弁ではワーファリンは必須ではなくその点ではQOLはいいのですが長期的には石灰化が起こって再手術が必要になります。とはいえ最近は優れた生体弁が出てきて、高齢者の大動脈弁置換ではよく使われます。年齢的に10年持ったらいいという場合は生体弁が有利です。
さて生体弁というと海外では亡くなった人(ドナー)から頂いた同種弁(ホモグラフト)が普及しています。1960年代に英国で始まって、その後長らく重要性が認識され使用されてきました。肺動脈弁と大動脈弁があり、ともに血管付です。ホモグラフトは欧州とニュージーランド、そして豪州で先駆的に始まりましたが、当時は凍結ではなく特殊な保存液で処理していました。先天性の複雑な手術ではホモグラフト(血管も使います)の使用が大変有用なのですが、我が国ではこの入手が殆どなく外科医や患者さんには大ハンデイでした。
ホモグラフトの処理としては現在は液体窒素での特殊な凍結保存です。特に薬物での処理はしませんので組織が壊れずに保存され、また免疫反応も少ないのが特徴です。またしなやかで操作性が高く、人工物がなくて感染に強いという利点があります。また小児のドナーからのものは先天性心臓病の小さな子供さんで大動脈や肺動脈の再建をするときに有用です。しかし、ドナーの細胞が残っているので耐久性では限界があるのも事実です。その後ですが、米国の会社(CryoLife社)がホモグラフとを商品化していて我が国でも輸入すれば使えますが大変高価で実用性は残念ながら低いのが現状です。
さてホモグラフトの入手ですが、脳死と心臓死のドナーの方からの提供です。死亡後に心臓を頂き、弁を提出し、バンクで凍結保存します。我が国では既に日本組織移植学会や日本組織バンクがその普及に尽力し、現在は当初の東京大学と国立循環器病研究センターに加えて全国で6つの認定バンクがあり、また心臓弁と血管の臨床応用は先進医療制度(一部患者さん負担)として2006年からも上記の二施設で適応されています。ただ、提供が脳死と同様に少なく、その数は大変限られています。昨年度では血管も含めると年間40件(心臓弁手術数は不明)の先進医療が行われていますが、施設が限られ、またドナー数は年間10にも届いていません(東京大学病院HPから)。
こういう中で、生体弁の新たな開発に鎬を削っています。免疫反応の回避と長期の構造維持です。その中で、生体弁の脱細胞処理と人工的に作った足場(スキャアホールド)に自己の細胞を生やす二つの方向があります。後者は日本でも研究が盛んで、東京女子医科大学で臨床試験も行われていると思いますが、今日は前者に限ります。先の米国の会社はホモグラフトの脱細胞処理法で特許を取っていますし、その会社の製品は既に臨床で大動脈弁置換に試験的に使用されています(2003年報告)。一方ドイツでも別の方法がハノーファー大学で開発され、臨床応用のためのベンチャー企業が出来ているようです。そこで処理された肺動脈弁が今度阪大で使われたとものと理解されます。この脱細胞弁ですが,使うのは基本的にはヒトの弁であります。従って海外では如何にしてドナーを増やすか国(ネットワーク)や学会挙げて取り組んでいます。これは心臓移植を増やすことにも繋がり、移植に適しない場合は弁と血管の提供となります。日本でも関係者の努力で徐々に進んでいますが、何しろ亡くなった方からの臓器や組織の提供は本当に限られているのです。事態は深刻です。
振り返って見ると、ホモグラフトがあると日本の心臓外科のレベルはもっと高くなり、多くの患者さんが恩恵を受けることが出来るのです。私もかってホモグラフトがあればもっと良い手術が出来たのに、と思ったことも何度かありました。しかし今、世界はもう次の時代に入っていて、そのキーが脱細胞によるtissue engineering(組織工学)弁です。阪大病院の澤教授のグループはドイツと連携して我が国での先鞭をつけたといえるでしょう。一方、日本で進めるにはドナーが今のようではこの技術は進まないという現実も理解しないといけないと思います。ここで強調したいのは、脱細胞弁も元はヒトのホモグラフトであり、臓器提供が初めにあることを多くの方に知っていただくことが大事と思って追加の投稿としました。ホモグラフトについては、東京大学病院と国立循環器病研究センターのHPで紹介されていますし、組織移植学会でも啓発に努めています。また、日本臓器移植ネットワークも支援しています。こういう臓器提供もあることをもっと知ってもらえればいいと思います。