2015年6月18日木曜日

小児用補助人工心臓


先般、かねて懸案であった小児用補助人工心臓、ベルリンハート社のExcor、の使用が国から認可されました。医師主導の臨床試験が4例で行われ、予定の植込みが終わった後、使用が出来なことで旧式の機種で脳梗塞から脳死となった心筋症の子供さんが出ました。移植を待っていた子供さんが脳死となってしまい御両親が臓器提供に同意されたことが話題になりました。御両親が手記で小児用機種の承認手続きの緩和を訴えていたものです。このブログでも取り上げていましたが、関連する学会協議会で先般、使用できる施設認定基準などをまとめ、厚労省に提出し専門部会で承認となったわけです。これで小児心臓移植への道が少し開けてきたという所でしょう。

さて、この話題では幾つか論点があります。①使用できる、安全に補助できる期間はどのくらいか、②その先のゴールである心臓移植は現実的にどれだけ近づいているのか、③どういう施設で実施できるのか、などと思います。

この人工心臓は一時的に使う体外設置式で、小児でもあり自宅管理は難しく、感染症や血栓塞栓症が起こる頻度も少なくなく、大人の植込み型のように数年の待機、というわけにはいきません。東京大学での1例は1年近く合併症もなく管理がされていることが報告されていますが、基本的には半年から1年が限界でしょう。従ってその間に移植が実現しないと治療のゴールに到達できないことになります。

一方、小児の脳死での臓器提供はいまだに限られ、6歳未満での臓器提供はこれまで2例に留まっています。また、10歳未満で国内での心臓移植に至った症例は2例です。ここ間、海外での移植のための渡航が続いていますし、最近は返って増えていて、募金活動している子供さんがいつも誰かいる、という状況です。この小児用人工心臓の装着が増えて行くと、その先はどうなるのか。渡航移植の募金活動が一層増えてしまう結果になるのか、大変危惧されるわけです。この機会に、小児の臓器提供について改めて対策を講じないと学会や行政もその姿勢が問われる事態になりかねません。

どこで使用可能かですが、植込み型では当初は心臓移植実施認定施設に限っていたものが、今は全国で30施設以上が認可されていますし、申請準備中の施設が続々と増えています。これは移植に限らず、重症心不全治療をしっかりやろうとすれば自施設で植込み型が使用できるようにしたい、と多くの施設が考えるようになってきました。小児ではどうかということで、今回の認定基準でもって小児心臓病を扱う全国の小児病院や小児センターにも多く参加してもらえるようにすることも大事な目標でした。これは小児の心臓移植への取り組みや、ひいては臓器提供に繋がることも期待されるからです。昨年の日本心臓移植研究会学術集会で小児循環器学会の会員へのExcorについてのアンケートの報告がありました。東京女子医大の清水美妃子先生からの発表でしたが、導入を希望している施設は20と多く、またその他の補助循環の使用経験も結構持っておられる17施設は新たな認定基準に合うのでは思われます。大学病院以外の小児専門病院でどれだけの施設が参加するか興味があります。5年間で3例の補助循環経験、という定番の数の縛りの影響がどうでるかも興味があります。

ということで、小児用補助循環装置の導入問題は一応の区切りが出来たわけです。さて、臓器提供されたご両親もほっとされていることと思います。一方、かかる先進医療器具の使用認可ですが、健康保険での対象にすることで多くのバリアーがあります。国民の皆様の保険料や税金で賄うことから、しっかりした審査が必要なことは言うまでもありません。一方では、海外で数百例、千例、といった実績があるものを、我が国で改めて患者さんで治験(試験)することの意義です。それも4例とか6例の数はどういう意味があるのかです。治験実施とその審査で少なくとも3年はかかります。多額の費用も掛かります。海外で実績があり、高い評価を得ていて、我が国もそれを行う体制があれば、この少数治験をスキップするというまさにデバイスラグの解消に繋がる英断は出ないのでしょうか。

「「関係学会(アカデミア)と行政・PMDAとのさらなる規制改革議論が求められます。医療費の問題でいうと、多くの無駄な医療費を削減したら、少数の小児心不全治療への新たなデバイス導入は小さなものでしょう。デバイスラグはまだまだ残っています。

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