2015年12月28日月曜日

小児心臓移植、米国の課題

心臓血管外科で世界をリードする米国胸部外科学会の雑誌に興味ある論文があったので紹介させてもらう。最近はじっくり目を通すことが少なくなっているが、やはり重要な論文が多いので目を離せない。今日は小児の心臓移植で米国の考え方を紹介する。
Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Volume 150, Number 6.

主たる論文(p.1455)はエモリー大学からの先天性心疾患患児の心臓移植の報告である。一施設の分析であって、1988年から2013年までに290例の小児心臓移植を行っている。因みに最近の統計では、小児の心臓移植は世界で年間約500例に行われている。エモリー大学での290例では心筋症が半数以上で、主題の先天性心疾患(先天性心奇形とも言われる)患児への移植が124例である。特徴はそのうち87%が先に心内手術や姑息手術などを受けている。心臓の修復的手術後や根治的手術が出来ないで一時しのぎの手術後であっても、遠隔期に心不全が進行し、移植でしか救命出来なくなった状況である。3分の2は心室が二つ(左と右)無い一心室疾患(単心室や三尖弁閉鎖)で、その多くはフォンターン手術やノルウッド手術(左室低形成)である。
移植時の年齢は平均で3.8歳で、30%は10歳以上である。待機期間は平均で39日と短かいのが特徴でもある。また、同じ時期に移植に辿り着かず無くなった患者は21%という。さて、生存率でみた成績であるが、全体では15年で41%である。拒絶反応や感染、心機能不全、その他の合併症で亡くなっている模様だ。遠隔成績に影響しているのは年齢で、1歳未満は早期成績が悪いが10年で見ると差はなくなっている。興味あるのは、人種の影響である。アフリカ系米国人と非アフリカ系米国人(白人)の組み合わせである。人種でのミスマッチ(そう記載されている)がある場合はそうでない組み合わせより劣っているのである。免疫的な問題が生じている可能性がある。
結論的には、先天性心疾患患児で移植に至ることは一心室病態で多くなり、遠隔成績も10年で半分が死亡しており、一般の成人の移植より劣っていることから、更なる検討が必要としている。また心筋症との比較では、1年の死亡率は11%対1%以下、15年生存率は57%と41%と先天性疾患群が不良である。言い換えれば心筋症での成績は大変良好であると言うことである。
この論文に対して、二つのコメント(論評)が掲載されている。最近のこの雑誌の特徴はこの論評の多さでもある。一つは、デユーク大学のジャキス先生のもので、成績はそう悪くないが、といって満足は出来ない、という趣旨でコメントしている。その中に、全体の成績で、前半の期間と後半で成績に差が出なかったことと補助人工心臓からのブリッジが1例もないことに触れている。一方、フォンターン手術後の移植では成績が向上していて勇気づけられるとしている。
もう一つの論評はシアトル小児病院のジョナサン・チェン先生(我が国でもよく知られた先生)の、小児心臓移植の危機もう迫っている、というものである。こちらが私として最も興味があったものである。国際心肺移植学会の集計では、小児心臓移植の成績は年年向上する中で、先天性心疾患群の成績もかっての悪いグループからの変化してきているという。また、補助人工心臓のブリッジも25%と増加している。しかし、ドナー不足によって恩恵を受けられない子供さんも多いのも現実である。フォンターン手術など小児手術成績は格段に改善したが、その将来には心不全が進行し移植適応となる患者も増えて、さらにドナー不足に拍車をかけるというジレンマが生じている。そういうなかで小児心臓移植は小児の心不全治療のゴールなのか、という疑問が出てくる。
チェン先生は、小児心臓移植は入り口は狭き門であるが、出口でも問題が多いと指摘している。出口としては長期生存が望ましいが、種々の理由で退席する患者も多い。小児でのこ問題は、ノンコンプライアンス、にもあるという。発達期の子供達が心臓移植という現実を精神的に受け入れ難くなり、免疫抑制剤の適切な服用がなされず、拒絶反応や感染で失う数は少なくない。このような問題を抱えた中で、臓器移植ネットワークは実施施設の成績によってドナー心臓の提供を止めるようなアクションもとられているという。貴重なドナー心を遠隔期まで大事にする仕組み作りがドーネーションの増加にも繋がるという趣旨のようだ。一方では小児用の長期使用可能な補助人工心臓の開発も待たれる。最後に、小児心不全へのベストの治療法である心臓移植を提供する上で、臓器提供を増やす施策が移植適応や移植後の改善への努力と共に必要であることが強調されている。

以上、専門的になったが、小児の心臓移植について米国でもドナー不足と戦いながら多方面の努力がなされているということがよく理解でき、我が国の今後の活動にも参考にしたい。

テルモ社、その後とまとめ


 テルモ社の補助人工心臓事業撤退というタイトルの前回の投稿は思いのほか多数の閲覧数で少々驚いている。撤退か、という新聞記事の見出しみたいな表現が影響したのか。会議で出されたプレスリリース用の内容としてはDuraHeartの生産終了、ということであり、このことは事業の撤退とは一致しないところもあり、このような疑問符付きとした。正確性に欠けていたとすれば謝りたいが、公的な会議での資料であり、翌日に会社に問い合わせて公表したという確認も取っての投稿であったことをお断りしておきたい。

さて、この補助人工心臓についての投稿は今年も多くなった。ここ数年の植込み型の実施は増え続き、年間100例を超えるようになった。この適応はすべて心臓移植への繋ぎ(bridge to transplant, BTT)であり、移植待機患者がさらに増えてきていることと移植までの待機期間がさらに長期になることは当然である。植込み型補助人工心臓の適応をBTT以外にDT(永久使用)が加わったとしても、65歳未満では両者にはっきり当てはめられない症例が少なくない。この中間の群(移植候補者への道とも言われている)を新たに加えると、その中の多くがBTTに移行するとすれば、移植待機患数はさらに増加し、異様な状態となる。待機期間が長くなると、感染や血栓塞栓症などの合併症も多くなり、移植に至らない長期入院患者が増えるという深刻な事態となる。ということで心臓移植関係の循環器医の方々中に適応拡大に慎重な意見が多い。ここで分かるは、植込み型の普及で移植待機期間が増えるか、という設問には心臓移植数が大きく関与してくる必然である。では今年の臓器提供はどうであったか。

昨日までの日本臓器移植ネットワーク発表によれば、脳死での臓器提供数は56例、心臓移植は42例である。臓器提供数は何とか年間50例を超えたが、昨年に比べたら数例の増加である。心臓移植も50例には届かなかった。こういうと臓器提供の現場の方々からは、人の苦労も知らないで、と言われるかもしれない。年間数例でも脳死での臓器提供が増えていく、ということにどれだけの多くの方々の努力があるかは、私は充分分かっているつもりである。まだこんな数字か、という積もりは全くない。

言いたいのはここからである。今、植込み型補助人工心臓は、BTTに限るとはいえ、実施施設は心臓移植認定施設以外に拡大され、全国で50施設にならんとしている。移植施設は9施設であるから、多くが心臓移植の実施という点では直接関与しない。しかし、適応症例はそれらの施設から出ていて、人工心臓の植込みや術後管理は行うことになる。この植込み型補助人工心臓実施認定施設の役割は、慢性心不全治療へのハートチームを構成しての参加であり、人工心臓治療を含めた包括的な心不全治療システム作りの普及に関わるという大事な役割がある。ここが大事である。

何を言いたいかというと、この植込み型実施認定施設は移植医療の啓発活動にも参加して欲しいということであある。ドナーが増えないと植え込み手術も回って来ないのである。植込み型補助人工心臓の施設認定に当たっては、その施設で移植医療の啓発活動、ドナーアクションへの理解と参加、を義務付ける(意思表明でいい)といったことも必要でないかと考える。こういうことで、ドナー不足は深刻であることの医療者としての理解と移植医療の啓発活動に参加するという目標を施設として掲げて欲しいと思う。

補助人工心臓の進歩を患者さんが享受する上で、移植医療の普及が必須条件であることを改めて知って欲しい。先月、日本経済新聞の日曜版の科学技術の過去を振り返る特集で心臓移植が取り上げられ、乞われて現状の課題(論点整理と課題解決)について述べさせてもらったが、日本社会は移植医療を今後どう考るのか、年末に当たって改めて問いたい心境である。

2015年12月22日火曜日

テルモ社、人工心臓事業から撤退か

昨日は東京で補助人工心臓の会議があった。関連する学会が集まって、種々の認定作業や今後の計画などを協議している。かって植込み型補助人工心臓を導入するにあたって、適応や施設認定、質の担保、などについて所管の厚労省はそれまでのスタンスから舵を大きく変えた。これからはアカデミア(学会)が仕切る時代であるからということで胸部外科学会を中心に協議会を立ち上げた経緯がある。その後、植込み型での普及では大きく貢献している。今の話題は、保険償還された小児用補助人工心臓(ドイツ製)の実施施設認定で、当初の出来るだけ広げるという計画からかなり異なって来た。というのは、デバイス本体と制御装置が高額で、病院のかなりの額の予算措置や費用負担が出てきて、認定しても実施できるのは治験三施設(東大、阪大、国立循環器)になってしまいそうである。手を上げた大学や小児病院などは殆どが予算的に不可能で、参加出来ない事態になった。治験担当企業もかなりの投資をしている中で、これからの販売で何とか採算ある営業をしたいというところが価格に反映される。健康保険でかなりの高額の値段を付けているのにこの事態である。これは我が国の先進的な医療機器を使った医療機器の抱える問題である。保険償還前の準備と治験費用は膨大で、そのために保険での価格は輸入先の国の値段の50%増しか2倍近くなる。販売数も増えず、維持する経費も高額で、よほど大きな企業でないと出来ない相談であるが、我が国では医療機器のトップランナーはこの領域には限られている。医療費の高騰で話題になっている新薬と違うところである。薬は一気に販売数が増えるし、在宅管理といった人やコストが掛かるアフターケアも特にない。

上記のことに関連するは、昨日の会議の中で補助人工心臓について衝撃的とも言える発表があった。それは、国産デバイスの一つ(海外で製造)で最初の保険償還で認可されたテルモ社のDuraHeart(デユラハート)が生産終了するというのである。医療機器のビッグカンパニーであるテルモ株式会社(補助人工心臓はテルモハートア社、米国、で扱っている)の製造するもので、2011年から100例近くの症例に使われている。ユニークな遠心型ポンプの開発は日本の科学者のアイデアを基に1991年から始まり、製品は欧州での発売が1007年に、そして今は日本でのみ販売されていた。撤退の理由は、電子部品の調達や製品の供給、保守、において対応が限界に近くなったとのこと。20173月までは供給し、装着患者さんへ対応は続けるが、2018年末で実質上撤退ということになる。質の高い国産のポンプが一つ消えていくことに寂しさを感じるが、これも我が国のこの領域の難しさが関係するのか。新たな機器の開発に日本政府もかなりの補助をしてきたが、製品化されてからの支援という点でどうだったのか。また症例も移植へのブリッジだけに限られて、さらに競合する米国の大型企業のデバイスが参入し、国産は経営的な面で厳しい環境に置かれている。

移植ドナーが増えれば適応症例も増えるであろうし、周辺の支援体制(在宅も)整えばコストも下がってくるであろう。しかし、そこに辿り着くまでに企業はく疲弊してしまう。この事態は、単に一社が撤退したという話しでなく、日本を代表する医療機器企業が決断した、ということを重く考えるべきである。また、今米国から輸入し、世界でも国内でも最も多く使われている機器の米国会社が別のビッグカンパニーに吸収されたという。我が国では永久使用(Destination)の治験が始まろうとしているが、生命維持のデバイスの治験制度や保険償還の在り方が費用対効果も含め問われるであろう。海外で数千例もの実績があり、我が国でも200例にならんとする経験が蓄積され実績と信頼があるデバイスを、適応が少し変えるにあたって再び5例前後のわずかの症例での治験が何故必要なのか。永久使用ではデバイスの評価より終末医療や在宅医療としての周辺支援体制の準備が出来ているかの審査が大事ではないか、と思っているのは私だけではない。

ということで、テルモ社のDuraHeartの生産終了は、我が国のこの領域における課題が集約されていると思ってしまう。その背景の分析が今後必要である。

追伸:テルモ社の今回の発表に関係してもっと悲しいことがある。開発者である野尻知里先生(医師、テルモハート社社長兼CEO、テルモ社理事の後、東大バイオエンジニアリング上級研究員)が最近亡くなられた。著書に、「心臓外科医がキャリアを捨ててCEOになった理由、未来は何歳からでも変えられる」、がある。何とも言うことが出来ない寂しいタイミングである。野尻先生のご冥福をお祈りします。

雪不足

 今日は冬至ですが、北海道は別にして暖冬が続いています。TVのニュースでもスキー場が雪不足で困っている様子が報道されています。関西の学生達は北海道で合宿でしょうが、長野や新潟で計画している選手は困っているのではと心配します。これは全関西学生スキー連盟会長としての思いです。それとは別に国立10大学戦(今年は北大が抜けて9大学らしいですが)、年末から正月にかけて野沢温泉で開催していますが、何とかこの週末の寒波で雪が降って欲しいです。因み国立10大戦というのは私が現役のころに5大学戦(阪大、京大、名大、一橋、東工大)で始まっていますが、50年近くこれまで参加大学を増やしながら続いているものです。

  個人的にはもうそろそろスタンバイの時期なのですが、昨日も東京出張で傘持参でした。スキー場では近場(といっても鳥取や福井、岐阜、富山ですが)ではまだオープンもしていないところやオープンしていても人工雪装置があるところ位で、楽しめるどころか危険もあるので、今は様子見です。1月下旬から始まる例年の幾つかのイベントまで我慢でしょうか。それまでストレッチと筋トレに励まないといけません、整形外科に見てもらうことが多くなっていますので。

 先日は関西学連の方と忘年会でしたが、近く(梅田)のクリスマスイルミネーションが素晴らしかったです。写真掲載します。本番のクリスマスはこれからですが、皆様、お楽しみ下さい。


2015年12月14日月曜日

再生医療の産業化、豪州のベンチャー企業は

 先週はストックホルムのノーベルウイークの様子が報道され、生理学・医学賞の大村教授と物理学賞の梶田教授の受賞式や晩餐会の様子は感銘深いものであった。また厳粛な式典の後の御二人の和やかな様子に日本中が楽しんでいた。山中伸弥教授がiPS細胞の発明で生理学・医学賞を受賞して3年になるが、その後はiPS細胞を使った再生医療が加速されている。神戸のポートアイランドは医療産業都市構想が進んでいるが、そのかなで理研の高橋政代先生の網膜iPS細胞移植も行われた。2例目が中々出来ないのでどうしたのかと心配されるが、次のiPS細胞移植は阪大で澤教授が心臓で実施と言われている。一方、iPS細胞の登場で再生医療の産業化は今や国際的にも急激に進んでいる。今回はオーストラリア(豪州)の話しとします。
先週になるが神戸は私の所属する神戸国際医療交流財団で、オーストラリア再生医療セミナー@神戸が開催された。主催はオーストラリア貿易促進庁(Austrade)とFIRM(再生医療イノベーションフォーラム、東京)で、協力として神戸の先端医療振興財団も含まれている。東京での開催に引きつづき関西は神戸で、ということである。セミナーと並列にビジネスマッチングの場も設けられていたように、豪州の再生医療ベンチャー企業5社が乗り込んで、ビジネス連携を進めようというものであった。日本の再生医療は臨床研究については法律を整備してスピード化を図り、また国も産業化への後押しをしている。そういうなかで、豪州の南端ビクトリア州のメルボルン・バイオハブが中心となっての日本企業との連携を探る、というものであった。セミナーに参加したが、在大阪豪州総領事のキャサリン・テイラーさん(女性)が流ちょうな日本語でイントロをされた後、5つのベンチャー企業がそれぞれの会社説明と再生医療のテクノロジーの開発とそれを基にしたビジネス計画を紹介された。
一つは臨床治験をもっぱら扱う企業で、専用の病院も持っていて、健康なボランテイアーを始め疾患では近隣の病院と連携した離床試験も引き受けている。時間やコストの面で海外からの参加もあるという。その他の4つの企業は主に幹細胞の大量作成技術を開発し、種々の医療への応用を始めている。細胞ソースとしては脂肪細胞とiPS細胞に分かれていたが、共に細胞分離から分化・増殖、そして大量生産を品質管理のもとで行い、臨床使用が出来る状態で配給出来るまで来ている。中でも驚いたのは、幹細胞研究自体が大変進んでいて(米国の大学とのコラボレーションもある)、それが産業化に繋がっているのである。この点では我が国はかなり遅れているのでは危惧する。その背景には、例えばビクトリア州(メルボルンが首都)ではメルボルンバイオハブを構築し、企業の研究開発費に対して43.5%の給付(税制上の優遇措置)を始め、ライフサイエンス企業が参集しやすいように州を上げて取り組んでいる。例えば阪大で何億円も国から資金をもらって臨床応用できる細胞内培養装置を作っているが、それをベンチャー企業が行っている、ということになる。日本では大学がベンチャー企業の代わりをしている、という訳である。
専門的になるが、再生医療の基となる幹細胞については、豪州企業では胎児から得られる胚性幹細胞ではなく、成人の体細胞(骨髄や脂肪)から得られる体性幹細胞のなかの間葉系幹細胞といわれるもので、操作によっていろいろな細胞に分化する能力を持った幹細胞が得られる。また、ある特定のホルモン(サイトカイン)を分泌するものも作成している。紹介された企業はこの技術を確立し、種々の臓器や組織の再生医療、さらに癌ワクチンまで作っていて、既に臨床応用が始まっているもののある。我が国では脂肪細胞の分離機器(輸入品)が売り出され、乳房再建やその他の疾患に応用されているが、企業化までは進んでいないし、再生医療の産業化はテルモ社の筋芽細胞シート位でまだまだ未熟である。
一番興味があったのは、CYNATA-Therapeutics 社のiPS細胞を使ったものであった。我が国ではある患者さんの皮膚などの細胞からiPS細胞を作って、目的とする細胞に変えてその患者さんに使うのが基本である。一方では、患者さんからの作成では制約があり、時間も掛かることから沢山の方から作っておいてバンクとして保存し、他人の細胞ではあるが患者さんの治療の使う方向に向いている。豪州ではそれに対して、一人の提供者(シングルドナー)からiPS細胞を作り、それからある意味逆の流れのようであるが種々の個別細胞となる間葉系幹細胞を作っている。今の日本で行われている技術とどう違うのか、私には理解で来ていないところもあるが、キーポイントは細胞提供者が一人で行える、ということである。シングルドナーとなる要件は分からなかったが、HLA(白血球型)を問わないとすれば画期的ではないか。勿論、その幹細胞は免疫的にはアロ(他人)であるが、この技術は産業化という点では強みと思われる。
再生医療の産業化はいろいろな国が進めているが、その先頭をきっているのが豪州ではないかと感じた。
以上、概要の紹介で、中途半端なことはお許し頂いたい。興味ある方は、それぞれの会社のHPをご覧になって下さい。
参加企業:Regeneus 社、 Cynata Therapuetics Ltd 社、CMAX (治験病院経営)

Clinical Stem Cells 社、そしてCell Therapies Pty Ltd 社でした。







下は、CYNATA社のHPから。




2015年12月9日水曜日

渡航心臓移植

 先日の産経新聞に、「海外心臓移植―高額化」、という記事があった(12月8日朝刊)。1歳女児の父、募金呼びかけ、とある。小さな子供さんの心臓移植は国内で小児のドナーが極端に少なく、海外に渡っての移植に望みを掛ける状況が長らく続いている。このことは法律が改正されてもあまり改善せず、さらに小児用の補助人工心臓(体外型)が保険償還されてからは待機患者さんが増えてこの問題はより深刻になりつつある。
米国での受け入れが決まっているのは1歳の心臓病の女児で、必要な費用が3億円を越え、募金集めが大変苦しくなっている、と報じている。家族は、可能なら日本で手術を受けたいが時間がない、と訴え、厚労省で記者会見をされたようである。補助人工心臓を装着して8ヶ月であり、これ以上の待機は血栓症や感染症で移植にたどり着けなくなる危険が高まる。ということで、産経の記者も募金先の電話番号を紹介している。臓器移植の国際ルールからは自国で完結すべき話しであり、しかも高額の費用が掛かる。いかんせん国内での小児のドナー少なく、渡航移植の話しは心臓移植の普及に関わってきたものとして大変心苦しいことである。そこには、筋論より現実論(人命救助)、が優先されるからでもある。
なぜそんなに高額なのか。そこには渡航航費(チャータージェット機)、入院費、検査・手術費、諸々があって全て自費扱いであるし、米国の医療費は日本の比ではなく大変な金額になる。最初にデポジットも要求される。受け入れ施設は海外の方への慈善事業とは全く考えない。頼れる施設はかってドイツもあったが、移植は自国でという国際会議での声明もあり、欧州は自国の患者さんだけに限るようになり、今は米国のみが受け入れてくれている。米国では5%ルール、というのがあってその施設の年間心臓移植の5%までは海外からの方を受け入れていい、というものである。しかし、傾向としては海外からの患者さんが移植を受ける道は狭くなってきている。記事でも、受け入れ国減少とあるが、国としては減っていると言うより米国のみであり、その中でも受け入れ施設が減っている、というのが正しいであろう。
ここからはマスメディアへのお願い、というかコメントである。募金をされている御家族の立場は十分理解し、お気持ちに配慮した上での話である。こういう募金がらみの時の報道、差し出がましいが、についての私見(お願いか)である。なお、これまでもこのような報道で、移植医療が進まない現状を訴えていることはよく理解している上での話しである。
まず、国内の小児を含めた臓器提供の現状を併せて解説して欲しい。そして国内の脳死ドナーが何故少ないか、特に小児での課題は何か(虐待、手続き、家族支援)の解説。できれば国内で心臓移植を受けた子供さんのプライバシー保護の上で、その後の経過や元気な姿、家族のコメント等紹介。こういうことがひいては、募金で対応することより国内での移植、につながると思うからである。
  産経新聞はこれまで明美ちゃん基金等で子供さんの心臓手術(海外からの子供さんも)への支援を長らくされていて感謝しているが、心臓移植では募金の支援に併せて上記のことを継続して(ここが大事)対応して欲しいと思う。それは臓器移植ネットワークや学会・研究会などの貴方達の仕事でしょう、と逆に言われそうであるが、新聞の力は大きいのです。脳死は人の死か、という前に脳死臓器移植は法律も出来、保険診療になっていることへの理解が大事と思います。

目の前の患者さんの命を救うのが医師の使命、という自分自身の生き方はどうなったのか、自問自答しないといけない課題でもあります。それにしても、「渡航移植・募金」、は我が国の臓器移植にとって重い課題としていつまで続くのか、移植関係者も頑張らないと解決しないと思います。

補足です。記事には、こういったことは国際問題になりかねない、という趣旨の警告の言葉もあることを追加しておきます。


2015年12月7日月曜日

医師偏在と新しい専門医制度


      先日は外科系の専門医制度の会合が東京であった。日本外科学会が中心となって関連する学会の専門医制度の関係者が招集される委員会で、年2回ほど開かれる。私はかって認定制度から今の専門医制度に切り替える時に制度設計で、今度の改革ではプログラム制の基本案作りに関わったことから、この委員会では顧問という格好で参加させてもらっている。新専門医機構(もう辞めているが)の上から目線ではなく、かといって現場の勝手にならないよう調整役、といったところである。また、問題点があれば機構へしっかり意見が出せるよう、後押ししている。

外科専門医制度を含め基本領域と言われる18の1階に位置する専門医制度(学会ではない)では新たなプログラム認定基準作りに追われている。それは今年卒業した1年目の医師が2年間の初期臨床研修が終了し3年目からの後期研修(専門医性の修練)が始まるのが20174月であり、それに合わせて2016年秋には公募での募集が開始しなければならない。外科専門医は進んでいるが全体の大本でもある内科専門医制度はどうも遅れていて、種々批判が出ているようである。

さて、基本領域とは初期研修を済ませた3年目の医師が必ず一つの領域での後期の修練を選ぶもので、内科、外科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、眼科、泌尿器科、小児科、産婦人科、放射線科、精神科、形成外科、救急科、麻酔科、皮膚科、病理、臨床検査、リハビリテーション、そして新たに作られる総合診療専門医を合わせて18ある。これにサブスペシャルと言われる2階に位置するものが今の所29制度がある。外科の中の消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、は1階の外科専門医(所謂一般外科に相当するとも言える)をとった後の2階に位置づけされている。整形外科や脳神経外科が1階で基本領域として認められ、卒後(初期修練2年の後)ストレートにその分野に進めるのと大きな違いである。内科の2階には、循環器、糖尿病、消化器、呼吸器、糖尿病、血液、神経内科、など13領域がある。ことらもサブスペシャルと言いながら、臨床現場では基本領域扱いである。内科も外科もこの2階建て構造の持つ課題を持ちながらここまで来てしまった。

1階、2階の話はこれ位にして、今回は医師偏在に関係する大事な話にしたい。各専門医制度で修練施設病院群(プログラム)を作る際に、大都会の大学講座が関連病院を出来るだけ集めて何十人も修練医を集めてしまえば、地方の大学や病院は修練医がいなくなる。ひいては地域の病院のその分野の医師不足になる。勿論、たくさん集めた大学が地方への医師派遣をしっかりやってくれればいいが、そうはいかない。ここは機構も危惧するところで、この度出された注意点でも、地域医療体制について指針を出している。プグラムの申請状況をみて地域別に大きな偏在がないか検証することと、募集しても専攻医(後期修練医)がゼロというプログラムが出ないようにすること、そして地域全体で専門医を育成するよう配慮する、という内容である。厚労省への配慮であろうが、どこまで機構に強制力があるか、また専門医修練医師の分布に激変が生じないように、ということも書かれているので、対応は複雑である。いずれにせよ、この問題で社会的批判が出ないように各学会(制度)の自主的な配慮が求められる。

ここで新制度は大学医局の復権であると批判する見方もある。復権という表現は好ましくないが、初期研修導入前のように(地方)各大学が医師派遣において社会的貢献が出来るように戻す、という趣旨は大事と思っている。大都会の大学講座が復権といってさらにヒエラルキー(教授を頂点とする支配構造)を強くするのは時代に逆行するので、大講座の教授先生方はパワーで人集めするのは自重すべきである。

もう一点、外科専門医のプログラム認定を医師偏在是正(増悪)という視点から見ると面白い。今の所、基幹施設としてプログラムを申請する施設は200程という。ほぼ想定内で、大学が全国で80幾つかあって一大学で複数のプログラムを作るところもあるので、大学以外で基幹施設として手を上げるところも結構あることになる。大学医局復権という訳でもなさそうである。ところが初年度の想定募集枠は3,000近いという。アンケートでの3年間の数字と1年度の数字が混在しているようであるが、その3分の1ではないようだ。ここで最近の外科専門医制度修練に入ってくる医師は年間600800名である。以前2千人近くもいた時代があったが今はまだ減りつつある。希望は千人かもしれないが、毎年の卒業生は全国でせいぜい9千人であるから、外科に1割も来るのかである。昔、阪大で卒業生の3割もが一つの外科教室に来た時代があったが、外科が敬遠される今の時代にはそんなことは望めない。もし800人の予想人数に2千もの枠を作ると、要らぬ競争が起こり空席のプログラムが多数出来てきて、それこそ大混乱となる恐れがある。実数とあまり解離しない募集枠をもける努力をして欲しいとお願いしておいた。新制度で外科医の地域偏在が増悪か、などという新聞の見出しが出ないことを願っている。

ということで、新しい制度の実態が徐々に明らかになっていくが、医師の地域性偏在、専門分野別偏在の解消になるのか、注目したい。

 
 添付は、新たな制度の仕組みを表している。(専門医制度機構の資料から)