心臓血管外科で世界をリードする米国胸部外科学会の雑誌に興味ある論文があったので紹介させてもらう。最近はじっくり目を通すことが少なくなっているが、やはり重要な論文が多いので目を離せない。今日は小児の心臓移植で米国の考え方を紹介する。
Journal of Thoracic and Cardiovascular
Surgery Volume 150, Number 6.
主たる論文(p.1455)はエモリー大学からの先天性心疾患患児の心臓移植の報告である。一施設の分析であって、1988年から2013年までに290例の小児心臓移植を行っている。因みに最近の統計では、小児の心臓移植は世界で年間約500例に行われている。エモリー大学での290例では心筋症が半数以上で、主題の先天性心疾患(先天性心奇形とも言われる)患児への移植が124例である。特徴はそのうち87%が先に心内手術や姑息手術などを受けている。心臓の修復的手術後や根治的手術が出来ないで一時しのぎの手術後であっても、遠隔期に心不全が進行し、移植でしか救命出来なくなった状況である。3分の2は心室が二つ(左と右)無い一心室疾患(単心室や三尖弁閉鎖)で、その多くはフォンターン手術やノルウッド手術(左室低形成)である。
移植時の年齢は平均で3.8歳で、30%は10歳以上である。待機期間は平均で39日と短かいのが特徴でもある。また、同じ時期に移植に辿り着かず無くなった患者は21%という。さて、生存率でみた成績であるが、全体では15年で41%である。拒絶反応や感染、心機能不全、その他の合併症で亡くなっている模様だ。遠隔成績に影響しているのは年齢で、1歳未満は早期成績が悪いが10年で見ると差はなくなっている。興味あるのは、人種の影響である。アフリカ系米国人と非アフリカ系米国人(白人)の組み合わせである。人種でのミスマッチ(そう記載されている)がある場合はそうでない組み合わせより劣っているのである。免疫的な問題が生じている可能性がある。
結論的には、先天性心疾患患児で移植に至ることは一心室病態で多くなり、遠隔成績も10年で半分が死亡しており、一般の成人の移植より劣っていることから、更なる検討が必要としている。また心筋症との比較では、1年の死亡率は11%対1%以下、15年生存率は57%と41%と先天性疾患群が不良である。言い換えれば心筋症での成績は大変良好であると言うことである。
この論文に対して、二つのコメント(論評)が掲載されている。最近のこの雑誌の特徴はこの論評の多さでもある。一つは、デユーク大学のジャキス先生のもので、成績はそう悪くないが、といって満足は出来ない、という趣旨でコメントしている。その中に、全体の成績で、前半の期間と後半で成績に差が出なかったことと補助人工心臓からのブリッジが1例もないことに触れている。一方、フォンターン手術後の移植では成績が向上していて勇気づけられるとしている。
もう一つの論評はシアトル小児病院のジョナサン・チェン先生(我が国でもよく知られた先生)の、小児心臓移植の危機もう迫っている、というものである。こちらが私として最も興味があったものである。国際心肺移植学会の集計では、小児心臓移植の成績は年年向上する中で、先天性心疾患群の成績もかっての悪いグループからの変化してきているという。また、補助人工心臓のブリッジも25%と増加している。しかし、ドナー不足によって恩恵を受けられない子供さんも多いのも現実である。フォンターン手術など小児手術成績は格段に改善したが、その将来には心不全が進行し移植適応となる患者も増えて、さらにドナー不足に拍車をかけるというジレンマが生じている。そういうなかで小児心臓移植は小児の心不全治療のゴールなのか、という疑問が出てくる。
チェン先生は、小児心臓移植は入り口は狭き門であるが、出口でも問題が多いと指摘している。出口としては長期生存が望ましいが、種々の理由で退席する患者も多い。小児でのこ問題は、ノンコンプライアンス、にもあるという。発達期の子供達が心臓移植という現実を精神的に受け入れ難くなり、免疫抑制剤の適切な服用がなされず、拒絶反応や感染で失う数は少なくない。このような問題を抱えた中で、臓器移植ネットワークは実施施設の成績によってドナー心臓の提供を止めるようなアクションもとられているという。貴重なドナー心を遠隔期まで大事にする仕組み作りがドーネーションの増加にも繋がるという趣旨のようだ。一方では小児用の長期使用可能な補助人工心臓の開発も待たれる。最後に、小児心不全へのベストの治療法である心臓移植を提供する上で、臓器提供を増やす施策が移植適応や移植後の改善への努力と共に必要であることが強調されている。
以上、専門的になったが、小児の心臓移植について米国でもドナー不足と戦いながら多方面の努力がなされているということがよく理解でき、我が国の今後の活動にも参考にしたい。
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