昨日は東京で補助人工心臓の会議があった。関連する学会が集まって、種々の認定作業や今後の計画などを協議している。かって植込み型補助人工心臓を導入するにあたって、適応や施設認定、質の担保、などについて所管の厚労省はそれまでのスタンスから舵を大きく変えた。これからはアカデミア(学会)が仕切る時代であるからということで胸部外科学会を中心に協議会を立ち上げた経緯がある。その後、植込み型での普及では大きく貢献している。今の話題は、保険償還された小児用補助人工心臓(ドイツ製)の実施施設認定で、当初の出来るだけ広げるという計画からかなり異なって来た。というのは、デバイス本体と制御装置が高額で、病院のかなりの額の予算措置や費用負担が出てきて、認定しても実施できるのは治験三施設(東大、阪大、国立循環器)になってしまいそうである。手を上げた大学や小児病院などは殆どが予算的に不可能で、参加出来ない事態になった。治験担当企業もかなりの投資をしている中で、これからの販売で何とか採算ある営業をしたいというところが価格に反映される。健康保険でかなりの高額の値段を付けているのにこの事態である。これは我が国の先進的な医療機器を使った医療機器の抱える問題である。保険償還前の準備と治験費用は膨大で、そのために保険での価格は輸入先の国の値段の50%増しか2倍近くなる。販売数も増えず、維持する経費も高額で、よほど大きな企業でないと出来ない相談であるが、我が国では医療機器のトップランナーはこの領域には限られている。医療費の高騰で話題になっている新薬と違うところである。薬は一気に販売数が増えるし、在宅管理といった人やコストが掛かるアフターケアも特にない。
上記のことに関連するは、昨日の会議の中で補助人工心臓について衝撃的とも言える発表があった。それは、国産デバイスの一つ(海外で製造)で最初の保険償還で認可されたテルモ社のDuraHeart(デユラハート)が生産終了するというのである。医療機器のビッグカンパニーであるテルモ株式会社(補助人工心臓はテルモハートア社、米国、で扱っている)の製造するもので、2011年から100例近くの症例に使われている。ユニークな遠心型ポンプの開発は日本の科学者のアイデアを基に1991年から始まり、製品は欧州での発売が1007年に、そして今は日本でのみ販売されていた。撤退の理由は、電子部品の調達や製品の供給、保守、において対応が限界に近くなったとのこと。2017年3月までは供給し、装着患者さんへ対応は続けるが、2018年末で実質上撤退ということになる。質の高い国産のポンプが一つ消えていくことに寂しさを感じるが、これも我が国のこの領域の難しさが関係するのか。新たな機器の開発に日本政府もかなりの補助をしてきたが、製品化されてからの支援という点でどうだったのか。また症例も移植へのブリッジだけに限られて、さらに競合する米国の大型企業のデバイスが参入し、国産は経営的な面で厳しい環境に置かれている。
移植ドナーが増えれば適応症例も増えるであろうし、周辺の支援体制(在宅も)整えばコストも下がってくるであろう。しかし、そこに辿り着くまでに企業はく疲弊してしまう。この事態は、単に一社が撤退したという話しでなく、日本を代表する医療機器企業が決断した、ということを重く考えるべきである。また、今米国から輸入し、世界でも国内でも最も多く使われている機器の米国会社が別のビッグカンパニーに吸収されたという。我が国では永久使用(Destination)の治験が始まろうとしているが、生命維持のデバイスの治験制度や保険償還の在り方が費用対効果も含め問われるであろう。海外で数千例もの実績があり、我が国でも200例にならんとする経験が蓄積され実績と信頼があるデバイスを、適応が少し変えるにあたって再び5例前後のわずかの症例での治験が何故必要なのか。永久使用ではデバイスの評価より終末医療や在宅医療としての周辺支援体制の準備が出来ているかの審査が大事ではないか、と思っているのは私だけではない。
ということで、テルモ社のDuraHeartの生産終了は、我が国のこの領域における課題が集約されていると思ってしまう。その背景の分析が今後必要である。
追伸:テルモ社の今回の発表に関係してもっと悲しいことがある。開発者である野尻知里先生(医師、テルモハート社社長兼CEO、テルモ社理事の後、東大バイオエンジニアリング上級研究員)が最近亡くなられた。著書に、「心臓外科医がキャリアを捨ててCEOになった理由、未来は何歳からでも変えられる」、がある。何とも言うことが出来ない寂しいタイミングである。野尻先生のご冥福をお祈りします。
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