2015年12月28日月曜日

テルモ社、その後とまとめ


 テルモ社の補助人工心臓事業撤退というタイトルの前回の投稿は思いのほか多数の閲覧数で少々驚いている。撤退か、という新聞記事の見出しみたいな表現が影響したのか。会議で出されたプレスリリース用の内容としてはDuraHeartの生産終了、ということであり、このことは事業の撤退とは一致しないところもあり、このような疑問符付きとした。正確性に欠けていたとすれば謝りたいが、公的な会議での資料であり、翌日に会社に問い合わせて公表したという確認も取っての投稿であったことをお断りしておきたい。

さて、この補助人工心臓についての投稿は今年も多くなった。ここ数年の植込み型の実施は増え続き、年間100例を超えるようになった。この適応はすべて心臓移植への繋ぎ(bridge to transplant, BTT)であり、移植待機患者がさらに増えてきていることと移植までの待機期間がさらに長期になることは当然である。植込み型補助人工心臓の適応をBTT以外にDT(永久使用)が加わったとしても、65歳未満では両者にはっきり当てはめられない症例が少なくない。この中間の群(移植候補者への道とも言われている)を新たに加えると、その中の多くがBTTに移行するとすれば、移植待機患数はさらに増加し、異様な状態となる。待機期間が長くなると、感染や血栓塞栓症などの合併症も多くなり、移植に至らない長期入院患者が増えるという深刻な事態となる。ということで心臓移植関係の循環器医の方々中に適応拡大に慎重な意見が多い。ここで分かるは、植込み型の普及で移植待機期間が増えるか、という設問には心臓移植数が大きく関与してくる必然である。では今年の臓器提供はどうであったか。

昨日までの日本臓器移植ネットワーク発表によれば、脳死での臓器提供数は56例、心臓移植は42例である。臓器提供数は何とか年間50例を超えたが、昨年に比べたら数例の増加である。心臓移植も50例には届かなかった。こういうと臓器提供の現場の方々からは、人の苦労も知らないで、と言われるかもしれない。年間数例でも脳死での臓器提供が増えていく、ということにどれだけの多くの方々の努力があるかは、私は充分分かっているつもりである。まだこんな数字か、という積もりは全くない。

言いたいのはここからである。今、植込み型補助人工心臓は、BTTに限るとはいえ、実施施設は心臓移植認定施設以外に拡大され、全国で50施設にならんとしている。移植施設は9施設であるから、多くが心臓移植の実施という点では直接関与しない。しかし、適応症例はそれらの施設から出ていて、人工心臓の植込みや術後管理は行うことになる。この植込み型補助人工心臓実施認定施設の役割は、慢性心不全治療へのハートチームを構成しての参加であり、人工心臓治療を含めた包括的な心不全治療システム作りの普及に関わるという大事な役割がある。ここが大事である。

何を言いたいかというと、この植込み型実施認定施設は移植医療の啓発活動にも参加して欲しいということであある。ドナーが増えないと植え込み手術も回って来ないのである。植込み型補助人工心臓の施設認定に当たっては、その施設で移植医療の啓発活動、ドナーアクションへの理解と参加、を義務付ける(意思表明でいい)といったことも必要でないかと考える。こういうことで、ドナー不足は深刻であることの医療者としての理解と移植医療の啓発活動に参加するという目標を施設として掲げて欲しいと思う。

補助人工心臓の進歩を患者さんが享受する上で、移植医療の普及が必須条件であることを改めて知って欲しい。先月、日本経済新聞の日曜版の科学技術の過去を振り返る特集で心臓移植が取り上げられ、乞われて現状の課題(論点整理と課題解決)について述べさせてもらったが、日本社会は移植医療を今後どう考るのか、年末に当たって改めて問いたい心境である。

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