今日で1月も終わります、早いです。この1週間は心臓血管外科ウインターセミナーで安比尾高原へ出かけ、つかの間のマイナス10度の中でのスキーを楽しみ、次は天気が良くなっているのを見ながら後ろ髪ひかれる思いで東京の成人先天性心疾患学会へ。ここで、成人先天性心疾患専門医制度の立ち上げの大事なステップを済ませ、一旦帰った後、とんぼ返りで東京。今度は外科学会の専門医制度の会議。ついでに近くにある日本臓器移植ネットワークに寄って日本循環器学会での成人先天性心疾患への心臓移植の発表データーの確認、といったことで慌しい月末でした。ということで、今月のもう一件は専門医制度なりました。
12月の投稿の続編です。
新しい専門医制度がいよいよこの4月から医学部卒後3年目の方々を対象に始まります。世間の、といっても一部の専門医制度反対(改革反対?)の方々ですが、内科希望者が減ったとか大都市集中に拍車をかけたとか、ネガティブキャンペーンを張っているようです。意見の背景を見てみると、総数8300人の中の内科(基本領域)登録者がこれまでのいくつかの調査(卒後3-5年)に比べ減っていることが指摘され、それを踏まえて地域医療に問題が生じるといったことのようです。これは専門医機構も言っているように、比較対象が明確でなく、また卒後3年のこの一回のデーターのみで結論を出す(制度が悪と)ことは当然無理なことであります。地域の医師不足の背景にはもっと大きな我が国特有の医療供給の課題があるわけで、専門医制度がそれを浮かび上がらせたと考えるべきでしょう。
内科の問題{は本来、日本内科学会がきちんとメッセージを出すべきであって、外野が根拠の乏しい議論をしてもあまり意味がないのではと思います。後の外科もそうでしょう。そもそも内科・外科と言ったメジャー領域には医学部卒業生の関心が薄れてきている現状があります。サブスペシャルへの人気が高まっている傾向そのものがいまの学生の傾向とすれば話しは別になるわけです。加えて地域医療のことは、今回始まる総合診療医のことでもっと注目されるべきで、例えば総合診療医への優遇策でもって地域医療を維持する、と言ったことは厚労省が考えるべきではないでしょうか。
さて、一方の大きな柱の外科ですが、会議に出た資料はまだ公表段階ではないのですが、全国の外科系の教授の方々に配布されていてそのうち公表されるでしょうから、概要をここで紹介させてもらいます。外科専門医新規登録は今回の集計(一次と二次)で約800人(全体が約8300人ですから1割が外科へ)が登録し、この数はこれまでの外科専門医制度での数からいうと減っているというより現状維持と思います。何とかしのいでいるようです。問題の大学病院偏重については、市中病院と応募率(定員柄枠に対する登録者)は共に約39%と変わりなかったようで、世間の非難は当たらないという雰囲気でした。ただ、募集定員枠は母数が違っていて、大学病院は約1600人、市中病院では500人弱、計約2000人です。この約4割が埋まったわけですが、別の見方をすれば外科専門医プログラムは大きく定員割れをしているということです。外科の担当者はこれについては無関心で、現状維持と大学偏重でなかったことで結果オーライ、としていますがそうでしょうか。また、1県1プログラム(大学病院だけ)が14地区もあるのですが、約200名枠に35%の応募でこれも他と差は何ということです。この読み方ですが、私は、これは問題と捉えないといけない数と思います。1県1プログラムでは7-8割は埋まらないと実際は困るのではないでしょうか。外科の地域医療に問題が生じる兆しではないでしょうか。全体(204)で44プログラムが応募ゼロでその中には大学病院も幾つかあります。きめ細かい分析、それもピアレビューに耐えるものが要ります。自己防衛ではない分析と対応が求められているということです。
外科専門医と地域差のことは、実際どの地域で研修を始めるかを見ないと今の段階でものをいうのは早いのですが、問題点は結構明らかです。プログラムが多すぎる、募集枠を大きく広げている大都市大学講座がある、地域への対応が見た目には努力不足、が垣間見られます。そして執行部の方もおっしゃっていましたが、この中からサブスペシャルに分かれる中で外科の柱となる消化器外科が現実には大変厳しくなる、ということです。現時点ではこの先のことは議論されていませんが、本来サブサブスペシャルをまとめての議論が必要ですが、専門医機構はまだサブスペシャルには手が回らない状況ですので、困ったことです。
最後に、地域の医師確保については、専門医制度をうまく利用すべきですが、難しい背景には、大学医局の役割の二面性、専門分野の自由選択権、病院過多という我が国の医療の特徴、専門医制度の個人へのインセンティブ不足、等でしょう。大学医局は医師派遣で大きな役割を担っていてこの制度でもそこが期待されるわけですが、我が国では大学院教育{研究}という大きな役割を持っていて大学院生が来ないと運営交付金が減らされるし研究成果も出ないので、臨床医育成より研究が重きになります。これが引いては大きな大学{派遣病院が沢山ある}、研究面で魅力ある講座、都会志向、といったことで大学間の大きな較差が生じています。これが悪いとは言いませんが、地方への医師派遣、地域医療での若手医師の派遣、と研究活動維持、の両者をこなすことの難しさを乗り越えないといけないわけです。地方の大学が今回の新制度で更に医師不足{入局者}が減るようになればそれこそ医療{外科}崩壊に繋がりかねないわけです。これを横に置いて進めるのは問題でしょうし、ここでは地方の大学の声が聞きたいです。また、大学プログラムで大きな枠を設けている都市部の大学は{北海道とか東北は別です}、今回の応募率が50%前後ならそれに合わせた修正が求められるでしょう。
専門医制度をないがしろのにすれば医師の生涯教育のスタートが弱くなりますし、引いては将来に禍根を残しかねません。また、内科や外科と言っていますが、20年先にはこういった専門性は大きく変わるでしょうから、そういう視野で柔軟な対応もしないといけないでしょう。20年前の枠から出ていない現状も深刻な問題で、現実と将来のギャップも感じるわけです。敢えて言えば、サブスペシャル領域はそれこそ将来を見据えて柔軟に対応できる仕組みを今用意しないと現状の課題を後送りするだけで将来に禍根を残しかねません。
1月はこのようにばたばたしていましたが、2月以降は反動でのんびりできるでしょう。