2014年5月19日月曜日

A first ?


少しご無沙汰でした。5月大型連休は遠出もしないで、近場でのんびり。アウトドア-スポーツも冬モードから夏へと切り替えて、自転車乗りも再開です。さて、何かネタはないかと考えている中で、いろいろ来る学術雑誌、英文が多いですが、に何かネタになる話はないかと目を通していたら、面白いものがあったので、少し社会的にタイムリーなこともあるようで、紹介します。
雑誌は、米国胸部外科学会の機関誌Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgeryで、 胸部外科(呼吸器外科医、食道外科)と心臓血管外科の国際的に著明な専門誌です。この分野のトップジャーナルで、ここに採択されるのはかなり難しいのですが、日本からも結構の数の論文が掲載されています。この学会がAATSといって私が毎年出かけていたのですが、今年はトロントが開催地でしたがその前にサンデイゴに行ったので断念しました。
最新号で目についたのは、Editorial(特別寄稿)でした。タイトルは、気管は組織工学で最初に出来た臓器か?です。 Trachea: The First tissue Engineered organ? で,ベルギーのルーベン大学の耳鼻いんこう科のデレーレ(Delaere) 先生の投稿です。この雑誌は耳鼻科の先生はまず出てこないのですが、そこからも何かしら興味がそそられます。内容は、2012年の915日のニューヨークタイムズ紙に掲載された、「最初の自己の細胞からテイラーメイドされた臓器、 A First: Organs Tailor-Made with Body’s Own Cells, であす。Fountainというサイエンスライターの記事への意見です。組織工学は再生医療のなかでも注目されていて、動物や他人の臓器や組織を処理して細胞を除き、その空組織(スキャホ-ルド)に患者さんの自己細胞(幹細胞)を植えて、体外で臓器を作ってその後に移植すると言う先駆的技術です。素材には人工のものも沢山試みられています。
さて本論ですが、発端は2008年と2011年にLancet (Nature Scienceが基礎研究の最高峰なら、Lancetは臨床医学のトップジャーナル)に発表されたものです。スエーデンの有名な研究所、カロリンスカ研究所からの人工物(プラスチックのチューブなど)を素材としてこれに自分の幹細胞を植えて、患者さんに戻す移植手術が出来るようになった、という画期的な発表です。気道(気管)を新しい組織工学を使って世界で最初に作れた,というものです。最近、術後5年を経過して患者さんは問題なく生活している、という発表もあります。デレーレ先生は、世界初ということに拘っての意見投稿です。気管は人工的に作るのは大変難しく、それを軽々に世界初ということでニューヨークタイムズ紙が書いたことが気に入らなかったようです。再生医療とか先進医療へのメディアのスタンスに疑問を投げかけています。スエーデンとベルギーのバトルかもしれませんし、胸部外科医と耳鼻いんこう科医の先陣争いかもしれません。これは野次馬根状ですね。
デレーレ先生の論点は、その治療が本当に成功しているのか、植えた細胞は何処かに行って抜け殻だけではないのかということで、目に見えるように示さないで、成功とか世界初、というのは社会をミスリードする、という内容です。その中に、この分野の世界的先駆者のヴァカンティ教授の有名な耳介の再生(ラットの背中に大きな耳介が生えている写真で有名)のように目に見えるようになれば信頼できる、といことも言っています。ヴァカンティ教授といえば、STAP細胞で登場された方です。このスエーデンの気管再生には直接関わってはおられないと思うのですが、この分野では相変わらず大御所です。記事を見ると(Webで見れますが)、カロリンスカ研究所での種々の臓器への取り組みをかなり詳細に書いています。心臓や肝臓もあり、その内容は確かに今後の発展が期待される希望に満ちたものであり、良い記事と思います。ただ、新聞のA Firstという見出しは要注意でしょう。これはサイエンスの記事なので、ニュースではないので人目を引く見出し(日本の新聞では小見出しが人を惑わせていますが)が必要かどうかですが、これは議論が分かれるでしょう。
医学や科学で、最初、世界初、ということを公表することの難しさを感じますが、一方でマスメデイアの科学技術の発展へのスタンスにも問題が多いことも身近に感じます。新聞記者の先陣争いもあるでしょう。かって和田心臓移植への態度や最近では心臓移植の再開で移植医の先陣争いとマスコミが責め立てたことや、STAP細胞のこともあって、この論文が日本の社会にとっても何かタイムリーな気がしたので紹介しました。論点整理、あまり出来ていないままに書いてしまったようです。
論文は Delaere PR, Raemdonck DV. The trachea: The first tissue engineered organ ? J Thorac Cardiovasc Surg. 2014 ;147:1128-1132

写真は、 Timesの記事の写真です。Webから転載です。ラットの心臓や肺、腎臓が環流装置に繋がっていて、細胞が除かれて、新しい臓器への骨組みになります。



2014年5月2日金曜日

 混合診療拡大か


 混合診療が再び注目を集めている。安倍政権での経済再生戦略のなかの規制緩和策に混合診療の拡大が謳われている。そして、政府の規制改革会議が、患者と医師が合意すれば、医療機関を限定せず混合診療を認める「選択療養制度」(仮称)を提案している。新しい薬やデバイスを保険承認前や適応外で患者さんに使用することを、オフラベル使用と言うが、それを制度的にオーソライズしようという動きである。
振り返ってみると、これまで混合診療の拡大はドラッグラグやデバイスラグが背景にあって、臨床現場でのオフラベル使用をどうするか議論されてきた。それに対して、高度先進医療(現在は先進医療)での課題への対応がなされている上に、不公平医療の発生、予測されない副作用への危惧、そして国民皆保険制度が揺らぐ危険性、等の理由でこれまで拡大論は押しとどめられてきた。今回も厚労省や日本医師会は国民皆保険制度が崩れることや安全が担保されない、という理由で疑義や反対表明がされている。患者団体も例えば抗がん剤での予測されないリスクも懸念している。しかし反対論はいつもの定番で、新鮮味もない。医療保険財政が逼迫していることや、医療技術・医薬品・医療機器などの急速な進歩、そしてそれらを医療現場にスムースに還元する、患者さんの自由な選択、などへの配慮が欠けているのではないか。
国民皆保険は当然ながら我が国の医療制度の根幹ではあるが、それに固執していては医療の改革は進まない、という認識がどうしてないのか思う。医療保険制度が財務的に破たんしかけているなかで、社会保障の充実のための消費税増額へ社会は強い反対をしている。国民皆保険という温かい湯船にどっぷり浸かっているが、そのうちにお湯が出ないようになる、という危機感に乏しい。この際、混合診療の是非については広い視野で徹底した議論をして欲しい。お金持ちが利益を得る、といった表面的な反対論を展開しないで欲しいと思う。
私としても今の動きがいいのかは判断が難しい。というのは具体的な話で、これまでの先進医療(特別療養費制度)では実施施設を選んできたが、今回は医療機関を特定しない仕組みが提案されているからである。先進医療の発展的拡大と考えると、機関を限定しないことについては問題が大きいのではないかと、これまでの先進医療制度の貢献を考えると思ってしまう。
 今回この混合診療を取り上げたのは、先の国際心肺移植学会での海外での先進的医療機器のオフラベル使用が目についたからである。補助人工心臓の開発は目覚ましく、その認可(臨床使用承認)制度については米国のFDAが中核となっている。我が国では特にそうであるが、輸入機器の臨床治験をする上でもFDA認可によって対応が大きく異なってくる。一方、欧州では共通のCEマークがあって、これは比較的認可(承認)基準が緩くなっている。そこで、デバイスの開発は米国で行い、臨床試験はまず欧州で行ってCEマークをとる。その後にFDAの認可を申請する、という仕組みが定着している。テルモ社開発のDuraHeartという機種も日本と米国で開発し、まず欧州で臨床治験を行ってCEマークを取得してから日本での治験、承認となり、現在は米国での認可をFDAに申請中である。CEマークでは安全性がチェックされ、FDAは保険償還の審査を行う、という仕組みである。しかしこのFDAのバリアーが高いことから補助人工心臓の開発と応用が遅れていたと開発研究者からクレームが続いていた時代があった。
さて、新しいデバイス(補助心臓などの機器)が保険適応されていない段階での使用(オフラベル)が欧米では頻繁に行われている。学会発表でも、これはOff-Label使用と断って成果を出している。施設や外科医の責任で臨床試験を行っていて、その積み重ねが保険適応につながっているようだ。英国では保険制度が厳しくこういうことは出来ないようだが、他の国の外科医にオフラベル使用についての費用負担を聞いてみた。答えは、その施設が保険者との契約で(患者の入っている保険)、ある手術(治療)について一括して幾らということが決まっているので、その範囲で自由度がある、ということであった。日本でいうマルメ、DPC、方式と言えるが、その中身は詮索しないというのが欧米方式のようだ。勿論、全く実験的なものは当然出来ないようになっているであろうし、それなりの学術データーの基準があると思われる。新しい機種に企業が付けている価格がマルメの医療費内で賄われれば、また企業や施設が許可すれば、混合診療というややこし話ではなくオフラベル使用が保険制度下に行われる、という仕組みと理解される。こういう保険制度の採用は我が国では無理なのであろうか、今回の混合診療拡大の議論の中に入れて欲しいと思う。
さて、これまでの先進医療は将来の保険適応を前提にしていることと、施設は申請時にすでに保険外で5例(多くは)の使用実績が求められていた。後者については病院が高額の機器、設備を購入し、病院負担(研究費)で(患者負担は恐らくしていない)実施するので、大学病院やナショナルセンター的な大規模病院でないと出来ない仕組みである。ということは、それ自体がかなり制限的な仕組みである。今回、その規制も緩和するということであるが、中身はどうなのか、要フォローである。
別の視点で大事なことは、我が国では保険適応になった後での検証を行う仕組みがないから、いったん保険承認された高額な治療やデバイスが、医学的に効果が少ないことが分かって来ても(効かない患者さんも結構いることが分かって来ても)、大きな括りの適応基準のもとで、また医師の個人的(学会ガイドライン)な裁量で使われる。結果的に医療費の無駄が生じている可能性がある。こういたところの調査、あるいは医療側の自主規制、といった制度も同時に検討すべきであろう。その治療や薬が医療経済、患者の予後やQOLから見て、適切かどうかフォローするシステムの構築が求められるということである。植込み型補助心臓での市販後レジストリ制度(J-Macs)がいい見本である。これまで先進医療(最初は高度先進医療)で始まって後に保険償還されたデバイス治療についてフォローアップ調査の検討を始めることが、混合診療の拡大と共に大事ではないかと思う。本来は、その導入に関わってきた学会等が自主的に調査するべきではないか。お役所から言われる前に自らを律する、というスタンスも大事である。そういう学会主体の予後調査への補助金も国は考えたらいいのではないかと思う。

少し長くなりました。また内容的に正確かどか、疑問の所もあるでしょうが、ご容赦ください。
PS
写真は兵庫県三田市永沢寺の芝桜と牡丹です。

 

2014年4月28日月曜日

 ドナー不足対策

 ISHLT国際心肺移植学会報告からもう2週間近くになり、4月も終わろうとしています。もう連休も一部始まっていますが、皆様如何お過ごしですか。
 さて、前回の続きとして、臓器移植でのドナー不足対策について海外の状況を紹介したいと思います。米国では年間死体(殆どが脳死)からの臓器提供(組織提供も含む)は約8,000例もありますが、心臓移植は約2,300例になります。これは、心機能が悪かったり高齢であったり、種々の理由で心臓移植には提供されなかった心臓が7割近くあることになります。我が国では脳死での提供数は昨年で47件になり、8割近くで心臓の提供(37件)が実現しています。その理由は脳死判定が限定されていることや、脳死まで、あるいは脳死になってからの管理がしっかりしていることによります。海外に目を向けますと、臓器提供数は何とか維持されていますが、待機患者は増え続けていて、待期期間も長くなり、移植至らずなくなっていく患者さんは増えて行っている状況です。
脳死ドナーからの臓器提供率が低い肺や心臓(腎臓や肝臓は78割)にどう対応するかが欧米での大きな課題です。そこで登場しているのが体外での臓器保存装置です。一つの装置はポータブルで飛行機に乗せて遠方まで心臓や肺を運ぶもので(写真)、もう一つはポータブルでない体外での灌流装置ExVivo Perfusion)です。後者は、移植病院まで肺を従来通りのクーラーボックスで搬送し、移植病院で肺の灌流を行って機能を調べてから移植の判断をするものもあります。ポータブルのものは、小型人工肺と血液ポンプを組み込んだ回路をドナーの血液で満たし、心臓や肺を無菌のままで潅流させるものです。肺では人工肺ではなく人工呼吸器でその肺に呼吸をさせます。心臓はこの装置に着けて温度を戻していくと拍動を始めます。空打ち状態です。肺や心臓ではその機能を具体的にモニターすることができるのが特徴で、言い換えれば移植に耐えるかどうかを移植病院で判定できるわけです。また遠方への搬送も可能となってきます。今回の学会でも、この体外灌流装置を使った肺移植は欧州やカナダから臨床例での報告があり、成績も普通の脳死からの移植と遜色ないものでした。このポータブルの肺の保存装置については岡山大学で試験的に使用が始まっています。
今の話は脳死で臓器摘出されるケースですが、もう一つの使い方は心臓死(脳死判定が出来ないケース、心臓死)での活用です。我が国でも以前から腎移植で行われています。心停止前に腎臓の潅流用カテーテルを体内に入れておいて、心停止(死亡診断)の後に体内で低温の保存液で潅流した後に摘出して、移植をするというものです。体内灌流です。体外灌流装置では、心臓死で臓器を摘出させてもらい、その後で酸素を加えた血液で潅流させ、肺や心臓を蘇えさせるものであります。肺は血液が回ってこなくても期間内チューブで人工呼吸させることで、肺の虚血の進行を遅くすることが分かっていて、心停止後での移植が可能となるのです。しかし、心臓についてはまだまだ実験段階です。それは心臓の酸素不足での障害が進んでいて機能回復は十分ではないかもしれないことと、そういう不安な心臓を受けるレシピエントが納得するかどうか、などの倫理的な問題が出てくるからです。また、心停止で死亡判定がされたのに、心臓は生き返っている,という何か不思議なことになります。このことは、ドナー家族への十分な説明と、オーソライズされたガイドラインに則って行われないといけないでしょう。因みに、英国の心停止ドナーからの移植のガイドラインが出ています(写真)。それによると、肺では脳死移植と同等に扱っていて、リスクの高いマージナルドナー扱いではないのが興味を引きます。心停止ドナーからの心臓移植はオーストラリアから大型犬を使った実験結果が発表されていましたが、結構きついコメントがされていました。
こういう装置が出てきている背景に深刻なドナー不足があるわけですが、ドナー不足対策として臓器提供へのキャンペーンが徹底して行われている国と違って我が国では提供そのものが極端に少ない中でこういう装置の応用をどう考えるか、悩ましいところです。やはり、まずは脳死での提供を少なくとも今の2倍、心臓では年間100例の移植達成が求められます。
先日も10歳の小児が米国に心臓移植のために出発しました。米国は、臓器のドーネーションキャンペーンが積極的に行われています。また今回紹介したように、何とか善意の臓器提供を活かそうと、科学技術の進歩も目覚ましいものです。この国際学会でも知りましたが、日本の若手や中堅(外科)医師が海外の移植医療の現場で素晴らしい活躍をしています。日本ではその活躍の場があまりないのが現実です。今回の国際学会に出席して、何故我が国では臓器移植が定着しないのか、改めて考えてしまいます。文化が違う,で良いのでしょうか。



2014年4月14日月曜日

国際心肺移植学会 サンディエゴにて


今週は月曜から米国カリフォルニア州サンディエゴに来ています。国際心肺移植学会(ISHLT)への参加で、学会自体は11日の木曜からですが、その前の3日間は教育セッション(アカデミー)があり、今年は補助人工心臓に集約されていたので月曜から来ています。サンディエゴには成田から直行便があり、伊丹で最終地までのチェックインができるのでかなり楽に来れました。この学会は1981年に始まっている歴史の長い心臓・肺・心肺移植の最大の学会で、2000年には大阪で開催されています。開催地は米国とカナダで2年やって3年目はヨーロッパに行くというパターンです。現役時代は毎年という感じでしたが、今でも2-3年に一回は参加しています。サンディエゴは2011年にも開催されていて参加していますが、当時のことは兵庫医療大学長ブログで紹介したと思います。他の学会でもサンディエゴには何度か来ている所で、カリフォルニアの青空のもと今回も学会の合間にアウトドアーも楽しんでいます。

以下は途中までの印象です。参加者は年々多くなっていて今年は異常なくらいの数で2800人と紹介されています。演題も1500を超える応募があって76%の採択です。会場も6つに分かれ、ポスター演題も多く、幅広く聞くということが難しく、しかも補助人工心臓のオンパレードで何か人工臓器学会に来ている感じです。何故か? それはドナー不足が世界も深刻で、日本もそうですが補助人工心臓などの機械的補助がないと心不全患者が心臓移植に到達できないことや、もっと大きなことは心不全の最終治療は補助人工心臓で、という傾向が強くなっていることです。そこには沢山のデバイス企業が参入して小型で耐久性のある植込み型補助人工心臓を登場させています。かっては免疫抑制剤の製薬企業が幅を利かせていたのが、今は人工心臓関係の企業が大きな顔をしています。こういった企業の隆盛が学会を経済面で支えているという感じです。人工心臓だけでなく、肺移植では、脳死ないしは心停止後の肺を体外で灌流させて臓器を無駄にしない工夫が進んでいます。

ドナー不足と言いながら、世界では昨年度には心臓移植が3800肺移植が3500例も行われていて、米国では年間7000件近くの臓器提供が有り、心臓移植は2000例くらい、肺移植もほぼ1700例と大変な勢いです。かっては心臓移植での補助人工心臓のからのブリッジは20%程度だったと思いますが、今は40%を超えてきていることから、補助心臓のマーケットは拡大している訳です。日本では移植へのブリッジしか植込み型補助心臓は認可されていませんが、米国や欧州では(英国以外)永久使用(Destination Therapy, DT)が盛んで、5年を超えて移植なしで生存して社会復帰している方も多くなっています。今回の出席は、日本でのDTについての議論おすすめ方について、自分なりにまとめておくという目的がありました。ドイツからのDTの紹介では、80歳を超えた方が補助人工心臓のおかげで人生を満喫している姿の紹介がありました。日本ではまず心臓移植の適応年齢の上限を超える65歳以上が検討されるでしょうが、上限をどうするかは全く議論されていません。例えばここで70歳までするようなことがあれば、それは年齢差別age discriminationになる訳です。ドナーの臓器を頂くからには年齢制限があってもいいでしょうが(海外ではあまり厳しくはありません)、DTの場合は医学的なある程度の標準はあってもテクノロジーの進歩を享受できる権利で年齢制限を付けることはできないでしょう。健康保険の治療で年齢制限があるものはないはずですし。

今年から日本で採用になった小型の植込み型補助心臓のJarvik2000というユニークなデバイスがありますが、展示ブースに行くとジャービック先生(人工心臓のパイオニアー)がおられました。その横におられるのが何と7年でしたか長期に補助されているフランスの方でした。この機種は体外に出すケーブル(バッテリーとコントローラーに繋ぐ)をお腹ではなく耳の後ろの骨を通して出していて、普通にお風呂も入れるし、プールで泳ぐことも出来る素晴らしいものです。日本ではまだこの耳の後ろに出す方法は取られていませんが、今回は直接その患者さんとお会いして、まさに実物を拝見しました。写真はジャービック先生と時差ボケ顔の私の間におられるのがその方です。ベルトのところにバッテリーとコントロ-ラーが見えると思います。テクノロジーの進歩には圧倒されます。

ドナー不足の問題が深刻ななかでの人工心臓の役割はどんどん広がっていますが、といって海外では脳死からの移植が基本でありドナーを増やす努力が続けられています。今回は、従来の米国、カナダ、欧州以外に、中東、東欧州(ロシアも)、アジア(インド)などの国の成果も発表されていました。結構の数の臓器提供が進んでいて、日本が一層取り残されているという感じです。ロシアの発表を見に行ったのですが、ポスターは貼ってなく、誰もいませんでした。

植込み型は日本でもう4種類も認可され、また新しいものの治験が始まるようです。どういう補助人工心臓を使うのか、各施設は頭を悩ますのではと思われます。日本発のエヴァハートについて、まとまった発表がされてました。治験後はもう100例にも達していて、合併症も少なく、その利点を海外の方が再認識したようです。同じ日本人として誇りに思いました。

ということで、第一報にします。アウトドアーはバス釣りとサイクリンでした。






2014年4月4日金曜日

桜満開の京都で 


今週、京都は宝ヶ池の京都国際会議場で第114回に日本外科学会が開催されていて、初日の3日だけですが参加してきました。毎年6千人くらいの外科医が参加する日本では2番目に大きな学会(内科学会に次いで)で、一般外科から,消化器、心血管、呼吸器、乳腺内分泌、小児、移植、と多彩な分野の若手から私のようなシニア-まで集まるすごい学会です。今回は京都大学で肝臓や膵臓の外科を専門にしている上本教授が会長(正確には会頭)でした。因みに10年前の第104回は阪大の旧第一外科が担当で、私が会長でした。もう10年経ったのかと感慨深いものがあります。

学会での仕事としてはもう特にないのですが、開会前に急に会長から電話があって、米国からの招請演者が交代になって、心臓外科領域だから司会をしてくれないかと,と言うことでした。丁度都合が良く、引き受けた次第です。演者はBrown 大学のSellke教授で、内容は心筋の再生医療(細胞治療とか増殖因子の投与)は期待したほどの効果がなく、その背景には何があるのか,という内容でした。我々も阪大でやっていたことであり、また脚の血行障害への幹細胞治療が結構日本でも行われているので、面白い議論が出来たと思います。全体に少し悲観的なメッセージであったのですが、午前中の特別講演でノーベル賞受賞者の山中教授の講演があった後でしたので、大きな夢と小さな現実の両者が見えたという感じでした。

その山中教授の講演ですが、国際会議場のメイン会場は超満員でした。途中からしか聞けなかったのですが、米国留学から帰ったあと精神的にまいっていた時期があったそうで、PAD(post America disease)と言われていいました。別に言うと、うつ、ということだそうです。そして、もう基礎研究は止めて臨床に戻ろうとしていた時に、奈良先端科学技術大学院大学の研究ポストの公募あり、これでだめなら臨床へ、とまずダメだろと応募したら採用になってその後の人生が変わったそうです。そこで最初の院生募集作戦の話も大変面白かったです。

山中教授のお話をここで紹介するのはおこがましい限りですから、4つの掲げた目標を10年で達成すべく努力しているということでした。後6年、東京オリンピックの年がその年ということでした。大変大きな目標ですが、着々と研究や事業が進んでいて、後6年も掛らないで大半が達成されるのでは思います。緻密、かつ大胆、素晴らしい方でした。

せっかく桜がほぼ満開の京都に来ましたから、ホテルから会場までの途中の鴨川沿いの桜並木や夜のライトアップした花見小路は素晴らしかったです。さすが桜の京都と今さらながら感心し、桜に酔いながら?の学会でした。


南禅寺近く、蹴上げで。
医療大バスケットの応援に来て以来。

山中教授の講演。



桜小路?での桜のライトアップ。

2014年3月31日月曜日

循環器学会 その2


 前回の宿題であります、循環器学会心臓移植セミナーについて少し紹介しておきます。なお、詳細は日経メディカルの最近のウエブ版に、「日本人の心臓移植、2013年の実績は41人と過去最高に補助人工心臓の位置づけを見直す議論も必要」と紹介されています。http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/gakkai/jcs2014/201403/535581.html
このセミナーは日本循環器学会が我が国の心臓移植のレシピエントの元締めの機関で、特に適応判定において公的な審査機関になっていることから、毎年実態の紹介がセミナーでまとめて行われている。また、普及啓発の役割も大きい。今年はもう10回目であるが、法律が変わって脳死での臓器提供が実質的に増えた昨年度のまとめであり、また植込み型補助人工心臓の保険適応(心臓移植へのブリッジのみ)も始まったことで、新たしいステージになったことから、注目されている。会場はやや狭いところではあったが、会場に入れない方もおられるくらい盛況であり、関心の高さを示していた。
上記の紹介にあるように、心臓移植はもうすぐ50例に届きそうな勢いであるが、その一方で待機登録も増えて300例に達している。待機期間は減少する傾向にはなく、依然として3年近く、殆どが補助人工心臓からの移植である。また、登録患者さんの年齢層が上がってきて、ピークは50歳代というのも特徴である。それは、幹事の岐阜大西垣先生によれば、まず補助人工心臓装着のための登録が増えているためではないかという。発表の中でも、サブタイトルのように補助人工心臓についてのリーダー施設である、東京大学、国立循環器、大阪大、そして東京女子医大から現状の紹介があった。植込み型の管理も良くなって、成績は向上してきて、永久使用に匹敵するという見方もあるが、一方では年齢が高くなって合併症への反応が弱るのかどうか、植込み早期に合併症も多い傾向にあるともいえる。私は、フロアーから、移植適応年齢が上がっていることや将来の永久使用を考えると、高年齢層への植込み型の課題もあるのでは、と指摘させてもらった。
最後に、日循の心臓移委員会の委員長である、磯部東京医科歯科大教授から特別発言があった。その要旨は、ドナー不足についてであり、先の日経メディカルによると、2009年の国民100万人当たりの年間心臓提供数ではオーストラリアが8.6人、米国が7.3人、ベルギーが6.1人などという中で、日本は0.37人と極端に少ないのが現実だ、と紹介されています。下記の心臓移植研究会HP資料参照。 一方、臓器提供全体の数の方がインパクトがあるかと思いますが、その数では2004年には米国は人口100万あたり年間約25人で、欧州は殆どが10を超えています。日本は1以下でです。欧州移植機構の資料も添付します(http://www.eurotransplant.org/   2012)
いずれにせと、ドナー不足をなんとか改善しないと我が国の心臓移植には限界があることを訴えておられ、6月には学会としては異例ではあるが、ドナーアクションの公開セミナーも企画されている。
最後に、自分なりの感想をフロアーからの一般循環器内科医の意見を聞いてまとめる。心臓移植は確かに尊いドナーの善意に依存し、その臓器を誰に移植するかは倫理的にまた社会的に疎かにできないことであり、それを所掌している学会関係者や選ばれた移植実施施設は大きな責任がる。しかし、学会や施設側と一般の循環器関連の医師との間になにかしら壁が存在しているように感じられる。言い換えると、まだまだ一般の循環器診療と心臓移植の現場のギャップが大きいということではないかと感じる。学会関係者は大変苦労をしているが何かしら上から下への目線になっていないか、気になるところがある。このギャップを埋める上でも植込み型補助人工心臓がもっと普及されていくべきと感じた。

ということで、25年度も最後になりました。4月から心機一転、医療事情の紹介に努めますので今後ともお付き合いください。

見にくいですが,欧州の国別臓器提供数です。下の数字は人口100万当たりの年間提供数で、クロアチアが34.3,ベルギーが29.0,ドイツは12.5(2012年)です。なお、ここにはフランスとかスペインは入っていません。スペインは30以上を維持してこれまで世界のトップでした。この集計全体では人口総数1億3千万で提供総数は約2000です。日本の人口は幾らでしたか? 日本の臓器提供数は年約50です。人口はあまり変わらないのに欧州は提供数が40倍です。


2014年3月25日火曜日

 日本循環器学会

 先週の後半は東京で第78回日本循環器学会が開催されました。東京大学循環器内科教授から現在は自治医科大の学長の永井良三先生が会長です。有楽町の国際フォーラムが主な会場でしたが、何しろ世の中は春休みの3連休であり、新幹線や東京駅はごった返してました。学会での発表や司会などの役割は何もないのですが、会議を一つ入れたのと、専門医資格の更新のための学会出席登録が主な目的でした。   
  専門医は、外科、心臓血管外科、そして循環期内科、の3つを持っていたのですが、外科専門医と心臓血管外科専門医は連動していて過去5年間の手術参加症例が100例を満たさないと更新できなくなり、昨年に両者は終わりました。ただ、循環器専門医は維持したいので、学会出席単位取得のために参加したと言っても良いくらいです。勿論、いくつか興味ある講演やデイべートセッションは参加してきました。何しろ内科の学会ですから心臓血管外科のセッションもあるにあるのですが、限られています。心臓外科医も沢山来ていましたが,多くは専門医更新のための出席では、と思われました。学会出席といてもお金を払って参加証をもらい、専門医受付のところで手続きをすれば単位(全部ではありません)をもらえるのですから、ある意味形式だけのものです。新しい制度での更新要件についても何らかの踏み込んだ内容を伴う単位認定が求められるのではと思います。
    海外からの沢山の招請講演がありましたが、マルファン症候群の話に興味があったので聞いてきました。マルファン症候群は血管壁の構成成分(結合織)を作る遺伝子の異常によるもので、遺伝性で、大動脈瘤,特に解離性大動脈瘤を来しやすい特徴があります。長身で手足が長いなどの特徴ある外見と血管異常があり、リンカーン大統領がこの病気であったのでは言われています。大分以前ですが、米国から来ていた有名なバレーボールの女子選手(背が高い)が試合中の倒れて死亡しました。米国で遺体を解剖したら解離性大動脈瘤の破裂であったということで、同選手はマルファン症候群であったのではと想像されます。
    マルファン症候群は遺伝性ですが、原因遺伝子の異常(フィブリリンやある種の癌抑制遺伝子)も明らかになり、血管作動ホルモン受容体の拮抗薬(ロサルタン)や癌抑制遺伝子異常(TGF-β)のタイプではその蛋白異常をターゲットにした薬物治療(予防)も進んでいます。今回の演者は、マルファン症候群の亜型とも言われているLoeys Dietz(ロイス・ディーズ)症候群の発見者であるDietz博士でした。マルファン症候群について基礎から臨床へと大変わかりやすいまた最新の知見を示した素晴らしい講演でした。異常蛋白を標的にした予防的治療の進歩も目覚ましいことが分かりました。大動脈瘤外科に関与する心臓血管外科医として一つ勉強になったことがあります。この症候群の女性が妊娠出産した時には血圧が上がったり下がったり変動するので、破裂の危険が知られています。博士の講演では、マルファン症候群マウス(ちゃんと出来ているのです)の実験で、出産した後に子供に授乳させる群とさせない群に分けると、授乳群で高率に解離が起こって死亡するというのです。授乳に関するオキシトシンというホルモンが関与するということも突き止められていました。臨床では実際に出産後に解離が生じて死亡することも分かってきたそうです。マルファン症候群の患者さんで出産がすんで安心したらいけない訳ですが、赤ちゃんを乳母さんに預けることも出来ませんから、オキシトシンの分泌を抑えながら注意深く経過を見る,ということが求められるようです。講演の内容を全て正確に聞けたか怪しい所もあるかもしれませんが、その場合はお許し下さい。  

  学会中にあったセッションで紹介したいのは、同学会心臓移植委員会主催の第10回心臓臓移植セミナーです。今回は、「ネットワーク登録と補助人工心臓使用の現状と問題点」、でした。この話は次回にします。