昨日から神戸市ポートアイランドの兵庫医療大学キャンパスで、第5回日本タバコフリー学会が開かれていた。第1回は兵庫医療大学薬学部の東純一教授(故人)が2012年に会長をされた時に大学の学長として参加したが、あれからもう5年になる。今は顧問となっているが、久しぶりに参加してきた。改めて我が国のタバコ規制がほとんど進展していないことに愕然とした。
このタバコ規制の話は学長時代のブログで数回(2013年)紹介しているが、映画インサイダーのモデルのジェフリー・ワイガンド博士が来られ、日本のタバコ規制への強いメッセージが思い出される。今回はカナダのジェフリー・フォン博士と同じセカンドネームで何か通じるものがあるのかと思う。このタバコフリー学会は心臓外科や心臓移植で交流の深かった薗潤先生が創設者であり、「受動喫煙のない社会=タバコのない社会の実現」を目標としている。この会で私もWHOの枠組み規制のことを知るようになった経緯がある。もともとタバコ嫌いであるが、単に臭いやら煙たいといった嫌い感情ではなく、医療者として放置できないという思いになっている。当時、兵庫医療大学をタバコフリー大学に、という試みを行ったのが懐かしい。
さて、WHO主導でタバコ規制枠組み条約(FCTC)は2005年2月に発効、2004年3月に日本も批准している。この国際的な動きは、タバコの受動喫煙の健康への影響に科学的根拠でもって革新的な取り組みを指導している。しかし、日本は批准してもその後の取り組みや法規制は遅々として進んでいない。健康増進法が出来、受動喫煙に対しての条例での対応も神奈川県や兵庫県でも出来ているが、内容は分煙を認める本来の目標に逆行するものとなっている。つい先般、保健大臣サミットがこの神戸、ポートアイランドで行われたが、なんと神戸市は中央区(三宮中心)の道路上の喫煙場所をすべて一時的に閉鎖したということである。海外の健康担当の指導者に実態を見せないで済まそうという神戸市の姑息的な対応にはあきれかえる。せめてこの会議の後、公共道路での喫煙場所を段階的でもいいから閉鎖すべきではないでしょうか神戸市長さん、と言いたくなる。
FCTCの具体的提案は、タバコを単なる健康の問題ではないと捉え、包括的なタバコ規制を示している。それらは、写真(健康被害)警告表示、包括的禁煙法、消費抑制のための増税(タバコ値上げ)、等7項目があり、さらに大事なことは、タバコ産業のタバコ規制策や対策への働きかけを禁止、を掲げている。我が国では批准はしたが実効性のある取り組みや法規制は殆ど手つかずと言っても良い。逆に分煙でいい(喫煙場所を作る)ということが社会に浸透してきている。行政も弱腰であるが、その背景にはたばこ産業界の圧力があるのは明白である。
今回はカナダと韓国からの招請講演があった。カナダからはジェフリー・フォン博士(Geoffrey T. Fong, University of Waterloo and Ontario Institute for
Cancer Research)が来られ、国際タバコ規制(ITC)プロジェクトの紹介と共に、FCTCが如何にエビデンスをもとにタバコ規制を進めているか、パッケージの被害写真掲載の普及やタバコ産業が如何に裏の手を使って反対運動を行っているか、など熱演された。こういうお話は国の厚生労働委員会でやってほしいし、日本のWHO支部主催で周知を図ってほしい。
フォン博士の講演では、FCTC批准国(180か国)中43か国で完全禁煙法が出来、30か国ではタバコパッケージへの写真警告(健康被害の実際の患者や病理の写真を載せる)が実施されている。我が国では各項目を実施するための法整備が出来ていないどころか自治体は分煙方式で進んでいる。喫煙室を別に作ったらそれでおしまい、方式が広まってしまった。どうしたらいいか、を明らかにして完全禁煙を進める、これがタバコフリー学会のミッションである。大分過激であるが、そうでもしないと日本のタバコ産業有意に状況は変えられない、ということである。薗潤、薗はじめご夫妻が強力なリーダーシップで引っている。日本には未成年者喫煙禁止法があるが、選挙権年齢の引き上げで喫煙可能年齢も引き下げようという動きがある。選挙権行使と喫煙やアルコール許可は全く別の次元であり、若者の健康という点ではっきり区別すべきである。
韓国は2015年にWHOの枠組み規制に則り、独自のタバコ規制法を制定している。そして今や禁煙活動は国を挙げて先進的に進めている。これは我が国でも認識すべきである。臓器移植でも韓国は法整備が進んで移植先進国である。両分野とも我が国は今からでも遅くない、隣国を見習うべきである。我が国のタバコ規制が進まない原因の共通認識は、財務省、JT、たばこ事業法(財務省管轄で厚労省ではない)であることも共通の認識である。昨年の第4回は愛媛大学で行われ塩崎厚労大臣が出席され、マスコミの関心も高かったが、今回は残念ながらメデイア関係者はあまり来られていなかった。学会宣言を含めどこかの新聞で紹介記事が出ることを願っている。
タバコ産業と言えば我が国ではJTである。今やJTはWHOの進める国際的なタバコ規制の動きを抑えるのに躍起である。CSR活動と言って広告業界(TV広告)と組んで国民をタバコは悪くないと色んな場面で洗脳している。分煙でみんな幸せといったことや、マナー改善でごまかそうとしている。そういう目で広告を見るとその魂胆が分かってくる。TV広告は本当に要注意である。民放だけでなく、NHKも怪しいところがある。NHKの経営委員会のメンバーに日本たばこ産業(株)顧問の方が委員長職務代行として名前を連ねている。委員の選任にあたりCOIはどうなっているのか疑わしいし、NHKも推して知るべしである。
乳がんとタバコ、という特別講演が乳腺外科医の先田功先生(西宮のさきたクリニック)によって行われた。総論としてがんの原因の3分の一は喫煙であり、中でも乳がんは30歳前後から急速に罹患率が上がっているという。芸能人の乳がん発病の話題で検診率が上がっているが、喫煙が原因の中で大きな位置を占めることを社会は知るべきであろうし、マスコミも芸能人のがんの話題で検診のことは触れるがタバコとの関係はタブー視しているようだ。民放はスポンサーが目を光らしているし、TVでは先に触れたがタバコを擁護する広告が堂々とまかり通っている。匂い消しの広告に出て来る売れっ子のSM氏は、その広告が将来どう評価されるか、健康被害を助長させた典型的広告、と書かれるかもしれないことを知ってほしい。
近頃の町で見かけるのは若い夫婦がバギーに子供さんを乗せてその両側で二人ともタバコを吸っている光景を目にする。受動喫煙の健康障害の恐ろしさを若い人々、特に女性は知るべきであろう。この学会は感情的なタバコ100%嫌い、の集団ではなく、フォン博士の講演でも分かるように科学的エビデンスに基づいたタバコ規制を進める団体である。国際的に進められているFCTCの示す項目に従っての法規制の重要性を関係者に理解してもらうべく活動している。いつも禁煙というとお医者さんがうるさく言うので、とか医師もタバコすっている人が多い、といったことで流されていることが多い。日本禁煙学会も日本学術会議もタバコ規制に大きくぶれるところはないと思われる。ただ、このタバコフリー学会はその強い意志と決意でもって、我が国からタバコを無くしていこうを頑張っている。
くどいようだが、兵庫県はタバコの受動喫煙の防止を先取りした感じではあるが、神奈川県と共に分煙を正当化してしまったことではWHOの意図するところから逆行している。飲食店やホテルが困るといっても、国民にがんの発生を助長させるタバコを野放しにすることに加担している訳で、完全禁煙は今や先進国やアジアでも常識なっている。日本は鎖国政策から抜け出せていないと言っていい状態である。
臓器移植が日本ではなかなか進まないが、タバコ規制と相通じるところがあると感じる。大事なことは分かるが、個人の自由も尊重しないと、といったことで国の態度は共に軟弱である。担当役所は、前者は厚労省、後者は財務省、である。数年前に国会で元神奈川県知事の松沢成文議員がタバコ規制の強化を訴えたら、麻生財務大臣は、3兆円だかタバコによる税収があるからこれは大事にしないと、という趣旨で答弁された。国民の健康や命を犠牲にしても財務収入が大事、ということである。タバコ規制のバリアーに財務省があることが良く分かるが、せめて増税で一箱1000円に力を入れて欲しい。
大分タバコ嫌いの性分が出た内容になったが、今回の学会で、生半可な対応ではタバコ規制の目標(この学会ではタバコは博物館へ、というタイトル)達成は程遠い現実を改めて知った。フォン博士によると、日本で1年間のタバコ関連死が約13万人であり、「日本における予防可能な死因の第一位は喫煙(受動喫煙を含む)関連死」である、を最後に私からのTake Home Message とさせてもらいたい。