2013年11月28日木曜日

心臓移植研究会が大宮で開催されます


明日の土曜日は表記研究会の年次集会が大宮ソニックシティで開催されます。この研究会は今年で32回になりますが、心臓移植や他の脳死からの臓器移植についての社会的関心がまだまだ熟していない時期に始まっているわけです。当初は基礎研究や海外での移植の経験等が限られた施設から発表されていましたが、現在は年間30例を超えるようになり、実施施設も9施設に増え、また補助人工心臓の進歩もあって、活気ある研究会になってきています。

この研究会は、心不全を扱う内科の理解と協力が不可欠であることから、日本心不全学会のサテライトとして開催されるようになってもう何年も経ちます。今回は大宮で東京女子医大心臓外科の山崎健二教授が会長で開催されます。シンポジュームとして植込み型補助人工心臓の適応拡大が取り上げられ、さらに特別セッションで、明日へのメッセージ、小児心臓移植、が企画されています。

前日、明日の29日には研究会の幹事会が開かれますが、今年は大事な議題があり、代表幹事としても気の抜けいない会議です。というのは、研究会として熱い議論を続けている事項が幾つかあるからです。この研究会は学術面での発展だけでなく、心臓移植を医療として定着させるという社会的使命をもって誕生した背景があります。後者については、この研究会は今では関連する学会や研究会で構成する協議会の一メンバーではありますが、心臓移植を担当する大学や研究施設が集まり、代表幹事としてはまだまだその役割は大事と思っています。

最近の議論なかで大事なものは、テキストブックの編纂、心臓移植適応年齢の変更、小児の心臓移植施設追加認定、移植適応判定手順の簡素化、そして小児心臓移植の普及、などがあります。最初の既に3つは済んでいることで、小児施設では阪大、国循、東大について東京女子医大が加わっています。残る適応判定の簡素化と小児心臓移植の推進が残っています。前者は再開時から続いている適応判定の手順の改訂です。心臓移植は実施施設での適応判定の後は日本循環器学会の適応に関する委員会のお墨付きがないとネットワークには登録できない決まりになっています。しかし、もう総数が180例にもなって成長した時期なので、各施設の判断を尊重して循環器学会は事後検証の役割に移行して行こうというものです。その始めのステップとして、実績のあるハイボリュームセンターから、例えば心臓移植数が50例を超え他施設、適応判定はその施設に任してもいいのではないか、ということです。かなりの時間と議論を経て実施側は了解しているのですが、行政にどうオーソライズしてもらう、最後の詰の段階です。50例でいいとする理論武装が出来るかどうかです。

小児心臓移植の推進はこの研究会の大事な仕事として、関係する学会と連携して進めないといけない重要と考えています。どうしたらいいか、その方策等の議論が出来ればと思っています。小児心臓移植は大人も当然ですが、脳死のドナーでないと出来ない唯一の臓器移植ですから、この研究会が頑張らないといけないと思います。

もう一つは、研究会の学会への移行です。なんでも学会にすればいいというものではなく、また学会が多過ぎるなかで逆行する話であります。日本には別に肺移植の研究会もあります。日本肺および心肺移植研究会です。両者は胸部の臓器で共通することや、心肺同時移植は心臓も関わります。阪大では心臓と肺のグループが緊密に連携して成果を上げてきました。海外では国際心肺移植学会(ISHLT)があってレジストリーでも大きな役割を果たしています。日本は二つの別の研究会となってこれまで実績を上げてきましたが、そろそろ一緒になって活動することも大事な時期になってきたと思われます。今回、その方向性を議論したいと思っています。ということで、今日午後から大宮行きです。大分寒くなりそうですので、暖かくして行こうと思います。では、また報告します。
 

2013年11月24日日曜日

外科医の偏在

  昨日は名古屋で臨床外科学会というのがあり、座長もあったので一日だけ出かけてきました。朝8時前に新大阪に行ったら大変な混雑。普段の土曜とは随分違うと思ったら祭日でした。この学会は、幅広く外科の実際の臨床について発表するところで、大学主体ではなく最前線で日々外科の臨床で頑張っている若い人が多く集まります。私の出番は慈恵会医科大の大木教授(大動脈ステントの大家)の司会でした。会長は藤田保健衛生大学の前田耕一郎教授で、特別企画にいくつか面白いものがありました。その中の一つを紹介したいと思います。表題のものです。

 ここ10年近く医師の偏在が地域医療を破綻させ医療崩壊をもたらしていると言われていて、いつもいろんな学会で取り上げられます。ここは外科医の集まりなので、外科医の偏在で、それが是正できるか、という企画でした。まず厚労省から地域医療対策室の佐々木室長が行政の立場から現状分析とこれからの方針を述べられ、ついで国立病院機構の桐野理事長がご自分の脳外科の話を含めて、これからどうしたらいいかを話され、現場からは高知県、大分県、そして最後に岩手県から医師確保に頑張っておられる方々の苦労話が紹介されました。この3県とも若手医師確保でなんとか頑張っているが、限界もあることが述べられました。途中で、患者・国民目線での意見として、読売新聞の本田さんも登場しました。

 この医師の偏在は、外科ではそもそも大学の外科講座が其々の中域の外科医の配置(派遣)の大きな役割を果たしてきたのですが、2004年に始まった初期臨書研修制度でこの構図が崩れ、卒業した医師が大学に残らす、環境の良い都会に多く集まって行って今の姿になっていることは明らかです。行政の資料では、確かに医師の偏在は人口当たりの医師数や外科医数でかなりの差があり、これからどうしたいいのかが議論の焦点でした。

医師配置は欧州では国が強制(公的)しているが、米国は市場主義(私的)、日本は折中的なものでありますが、桐野先生はやるなら国が強制力でやらないと実現は無理、というちょっと過激な発言でした。医師会や医学会、大学に任せてもこれまで出来ていないし、初期研修制度で厚労省は半強制を目指したが、返って混乱を招いているのですから、思い切った施策がいることは皆さん了解の雰囲気でした。出来るか出来ないかは別ですが。ここで、議論に登場するのはやはり専門医制度でした。新しい制度では、各領域の専門医の定数をおき、専門医研修施設を病院郡プログラムで認定するので、地域性も配慮できるからです。ここで、本田さんは医師の計画配置、という言葉でその必要性を訴えられました。国民目線で専門医制度の進め方に期待し、注目する、という話でした。

フロアーからの意見の中で、私も本田さんの発表に発言しましたが、それは新しい専門医制度で基本設計で地域性を考慮しても、各学会がどう対応するかによるので、マスコミとして注目し評価して欲しいと言いました。専門医とは何か分かりにくいということもあり、これからは社会との対話が必要であることを再認識しました。

後で関係の方々と少し話をしましたが、私の感想は、今度の専門医制度改革を絵にかいた餅に終わらせないようにしないいけない、ということでした。それと、最初に戻って医師の偏在是正対策ですが、特に地域医療の破綻を食い止めるのは、桐野先生が言われた、思い切った国の措置がないと進まない、とも感じました。医師集団は国の管理は嫌がりますが、地域医療で困っている分野、いわゆる初期治療、救急医療、に限るとすれば皆さん賛成するのではないでしょうか。兵庫県もそうですが、都道府県という自治体任せには限界があることは明白なのですから。

というのが、このセッションの私のまとめでした。

以下は、厚労省調べ(2010)の標榜している医師の専門科別推移。平成6年を基準にした%推移。最上段の麻酔科が急に増えているが、もともと少なかったので、実数はこれほど増えていない。外科と産婦人科が最下位を競っている。共に最近少しは増えているが。

 

2013年11月8日金曜日

 米国医療保険制度改革  オバマケアと患者第一

今日は再び抄読会で、米国の医療保険事情です。読んだものは New England Journal of Medicine の直近号、11月7日号にあった、Perspective (展望)コーナーのもの。ウエブで送られてくる最新版を表紙を見ていて目に留まったものです。これは最近始まったオバマ大統領の医療保険改革政策についての二人の意見です。原著論文というより寄稿と言ったほうが良いでしょう。拾い読み見たいですが、面白かったので紹介します。

     ご承知のように米国では政府管掌の医療保険として、高齢者(65歳以上)対象のMedicareメディケア、と低所得者対象のMedicaidメディケイド、の二つがあり、それ以外は全て個人や雇用者が加入する私的保険であります。米国は国民皆保険ではなく、自由意思でどれかに加入するのですが、公的な二つも自己負担があり、全てが入れるわけではなく、まして一般保険は高額の保険料がかります。ということで、低所得者の多く、5,000万人(最近は8,000万人を超えている)が何ら医療保険を持っていないという、長らく米国の深刻な社会的問題であるわけです。また65歳以下でみると保険未加入者は低所得者の40%を超えるという状況だそうです。

  一方、医療費高騰で州や国の財政状況も悪化し、このままでは公的保険はそのうち崩壊するであろうと危惧されるなかで、オバマ大統領は国民皆保険目指す新たな法律を作ったのです。ヘルスケア改革法(オバマケア法)と言われるものです。実際は二つのパートからなり、その一つが、Affordable Care Actと言われるものです。何のことかと言いますと、医療を受けられ易くする、というもので、手ごろな価格の医療保険を提供する、という趣旨の様です。面白い表現の法律ですが、問題点の解決を端的に表していると感心します。その具体的な方法は、Medicaidのカバーする範囲を拡大するというものであり、同時にエクスチェンジという州単位での医療保険取引制度ができています。これは分かり難いのですが、公的及び私的保険を含め何らかの保険に入れるよう斡旋する機関ではないかと思います。こういう施策でもって、州でかなり違うようですが、例えばMedicaid対象者を増やそう、医療保険拡張、をスローガンとしています。 その法律は来年から実行されるのですが、既にMedicaidカバーは7,300万人(国民の五分の一)に達し、新法によってさらに何百万人が増加すると見込まれています。そうなると、これまで私的保険患者しか見ていなかった開業医は、Medicaidの患者さんもある程度診なくてはならなくなるようです。しかし、支払いの制約があるMedicaidでは十分な医療が出来ないケースも出てくるし、最善の治療を提供すれば赤字診療になる、ということのようです。こういうことは日本から見ると信じられないような、差別医療が存在するということです。

     このようななかで、Ayanian 博士はミシガン州方式を解説し、もう一つのCasalino 博士はMedicaid患者さんへの開業医のジレンマをプロフェッショナルとしてどう対応するか、を述べています。後者論文についてもう少し紹介しますと、何と開業医の30%は新たなMedicaid患者は受けつけないと言っています。専門分野別での非受け入れ医師の率は、整形外科40%、総合内科で44%、皮膚科45%、そして精神科56%となっているとのことです。また、高収入の医師は受け入れをしたくない傾向にあるということです。しかし一方では、受け入れるとしても何とかその数を減らそうと、予約してから診察までが長くするようなことも考えられているようです。要するに、かかる患者を新たに受け入れれば、保険点数が低くコストが見合わないとか、十分な医療が提供できないとか、IT面での煩雑さや費用負担、などが挙げられています。一方、このような患者さんは病気自体が複雑で手間も費用もかかるという背景もあり、新たなMedicaid 診療に参加しない医師が多いようです。再度、日本では考えられない状況です。

    投稿のタイトルがプロフェッショナリズム、であります。医師は学生の時から医師のあるべき倫理指針(かってはヒポクラテス、今はWHOのジュネーブ宣言)を教えられ、患者の経済的背景や疾病やもろもろの背景で診療を差別しない、病める人を平等に診療する、というのが基本であるプロフェッションとしての基本倫理はどうなるのか、という問いかけでもあります。そして、その対応策の一つとして、5%コミットメントキャンペーンが紹介されています。タイトルにもありますが、これは各開業医は自分の診療活動(患者さんの数)の少なくとも5%はMedicaid患者に充てようではないか、というものです。実際5%というと、せいぜい一日一人という予想であるとのことです。一日20人程度を見ている勘定になります。日本と違って一人の診察時間は長く、密度の濃い診療なのでしょうか。 この投稿者の言いたいことは、医師のプロフェッションとしての対応をこの際にしっかり考えるべきではないか、経済的な市場支配的な医療を行うのは本来の姿ではない、という風に捉えられます。

   そして最後に、Patients First、 患者が第一、ということばで締めくくられています。米国でもやっとこういう言葉が出てくること、しかも世界をリードするトップジャーナルであることに驚きを覚えてしましました。補足ですが、この米国の医療保険制度改革は州単位で違うというか、州に任されていて、その対応にはかなりの温度差があるようです。もう一つのミシガン州の取り組み紹介は、我々の参考にして下さい、という趣旨ですが、詳細は複雑なのでタイトルだけの紹介にさせて貰いました。

   読み終わって、日本の健康保険制度も経済的に破綻しつつありますが、国民皆保険という点では素晴らしいことを改めて実感しました。そして、米国の医療が経済優先で患者は後回しになっていたことがオバマ大統領の新法でどう変わるか、対岸の火事(?)ではなく、わが身と思って参考にすべきと思います。最後までお付き合い下さり有難うございました。 なお、私の誤解や認識不足もあると思いますが、ご容赦下されば有難いです。
  11月に入り、関西も大分寒くなって来ました。今度の日曜から一泊で札幌行です。スキーではないですが雪見になりそうです。

  JZ Ayanian. Michigan’s Approach to Medicaid Expansion and Reform. NEJM 2013: 369; 19 ( November 7), 1773-5
    LP Casalino. Professionalism and Care for Medicaid patients – The 5% Commitment? NEJM 2013: 369; 19 (November 7,) 1775—7
    参考資料:日本貿易振興機構(ジェトロ)。 医療保険制度(ヘルスケア)改革法が産業界に与える影響 (2011年10月)