2017年2月16日木曜日

神戸で医療機器開発フォーラム;藤田浩之QED 社長の講演


先日、神戸はポートアイランドにある神戸商工会議所で医療機器開発に関する集まりがあった。大阪商工会議所が企画した、次世代医療システム産業化フォーラムというもので、第7回目の例会ということであった。大阪商工会議所は医療機器開発支援では先陣を切っていて、私も阪大時代にお世話になった。今は医療機器開発と産業化では京阪神連合の動きもあり、今回は神戸での開催となった。神戸で医療機器事業化促進プラットフォームなるものを担当していることもあり、参加してきた。阪大時代の仲間の阪大基礎工学研究科の三宅淳教授がモデレーターで来られていて久しぶりの再会であった。

さて、ここで取り上げたいのは特別講演のことである。招請講演者は藤田浩之氏で、日本人でありながら米国オハイオ州クリーブランドで医療機器産業分野で2006年に起業に成功し、オバマ前米国大統領の年頭教書の講演に際しては演台に上がる招待メンバーになったり、そのユニークな経歴と人物像で著明な方である。QED( Quality Electrodynamics)というMRI関連機器の開発で注目されている企業のCEOであるである。日本の大学を中退し米国に渡りクリーブランドのCase Western Reserve Universityで物理学博士号を取られて後、米国に留まって企業家として成功している。講演の演題は、「QEDのこれからの戦略、横のパートナーシップの構築」、であった。

藤田博士は物理学の研究者であるとともに医療機器関連でもの造りを進めていることから今回の招請となった。私はこれまで藤田博士のことは存じあげなかったが、講演は大変面白くブレーンストーミング的であった。MRI(核磁気共鳴)装置は今や体の多くの部位や臓器での機能診断と病的異常の検出で大きな発展を遂げているが、このQEDという会社は大きなMRIの装置の中に小児用や頭用、膝などの関節の診断用といった補助装置(マルチチャンネルRFコイルという)を作り出していて、世界のこの分野での高いシェアーを持っている。この会社は製品の8割を米国外に輸出していることからオバマ政権やオハイオ州で注目され、時の人的である。物理学者としてのバックに、GE(General Electronics)でのMRI機器開発で大きな仕事をされた後、自分で研究から製品製造、そして酷さ展開させる会社を立ち上げておられる。

オハイオ州クリーブランドは医療産業のメッカと言われ、中核にはCleveland Clinic (5万人の従業員) があってここは超有名と言っていい存在である。大学医学部や附属病院といった所ではない、プライベート病院でありながら、世界から患者さんが集まり、幅広い分野で医学・医療をリードしているが、博士はそこの理事にもなっておられる。心臓外科医で弁輪形成用リングを開発したコスグローブ博士がもうかなり以前からCEOを務めている。

さて、話を先に進めると、講演の後の質問で面白い答えがあったので、そのことを書かせてもらう。
日本の医療機器開発は国際的に見て依然として(あるいは更に)遅れていて、循環器系では輸入品ばかりで甘んじている。この状況を藤田CEOはどう思うか、とアドバイスを求めた。答えは、日本では医療はお医者さんが仕切っていて、それも日本では医師の世界はピラミッド方式で、かつそこは東大理3乗っかっている、という状況が問題ではないですか、という趣旨の回答であった。私も東大理3ではないけど大学人として、教授であった身として、そうですね、責任は我々にあるのですね、と言わされてしまった。痛いところを突かれたが、理3という言葉はこのような場で出て来る言葉ではなかったので驚いた。

藤田博士の紹介として、自身が書かれた本があるので読んで欲しいということであった。「道なき道を行け」で早速ネットで購入した。宣伝帯には、「オバマ大統領から米・生産業の未来を託された男」、とある。稲盛和夫氏の推薦文では、「彼の歩く道に、日本のそして世界の希望を見る」、とある。宣伝文では読む前から興奮するような本であるが、これは誇張ではなく本当にそうなのだ、ということが読んですぐわかった。

一気に読んでしまったが、詳細は省くとして、博士がなぜ理3に拘ったか、日本の医学部の教授をトップとするピラミッド体制がなぜ悪いかも、日本の医療機器の規制改革はダブルスタンダードで世界から取り残されていて改善どころか悪くなっている。世界から見て変な国で、言葉(英語)と規制でも孤立している、というメッセージが読み取れる。ご本人は高校生の時に外交官を目指したが、「理系では日本では外交官にはなれない」ということで物理学、そして医療に入っていった経緯も面白い。前例がない、道がないなら作ればいい、という信念でここまで来られた。本の中の面白いフレーズや話として紹介したいのは、大学理系出身では外交官にはなれない、手を付けていない仕事を残し休むことに対する罪悪感(仕事を先延ばしにしない)、米国と日本の大学教育の大きな違い(自由度)、8割を切れ(要点をとことん絞れ)、行政の規制では掛け声と実体の違うダブルスタンダード、人世を歩むときは、ドーナツの穴を見るのではなくドーナツを見ろ、多様性だ(日本にかけている)、常に100%を、など等である。まさに道を作るにはこういう信念と情熱、そして支える考え、がないとここまで来られなかった、と書かれている。まさに超人的な仕事ぶりである。と言っても単なるワーカホリックではなく、奥深い信念と目標がある。仕事前にジムで汗を流す余裕もある。

頭脳の海外流出、といった簡単な話ではなく、博士のメッセージ、特に今の時点での熱いもの、を我が国の関係者はしっかり受け止めないといけないのではないか。医療機器開発では我が国は後進国と言ってもいい、と思われている。博士も書いているが、日本では多くの医学関係や行政の人が、講演の後、それは良く分かっているがといって変えるのが難しい、で終わっている。安部政権は医療分野のアウトバーンを掲げているが、その施策は藤田博士からみて何点が付くのか興味がある。

ということで、藤田博士のこの本の的確な紹介には程遠いが、雰囲気は分かっていただけたかもしれない。そして、若い大学生、医学生には是非読んで欲しい本である。東大理3に拘っていては東大医学部出身の先生方に申し訳ないが、藤田博士は、医学界の課題的なことを表現する上で代表としてこういう引用をされたのでしょう。こ本を読めば背景が分かってくが、ここではネタばれになるので書かないでおく。デバイスラグで象徴される我が国の医療機器行政は世界から孤立していて、世界からも見放されている、もう期待されていない、というのが米国から見た日本の状況のように読み取れる。

以上、個人的な感想や考えを入混ぜてしまったので、博士がこれを読むと、君は分かっていない、と言われそうである。とに角、凄い方である。外交官や医師にならないで正解だったのでは、と言ったら失礼かもしれないが、物理学研究を基礎に産業界で国際的活躍されている姿は素晴らしい。本の中に、自分は外交官にはなれなかった、という言葉に奥様が、今あなたは外交官の仕事をしている、と言われたとある。


講演のハンドアウトの1枚目にロードバイク姿の写真があったが、今度お会いしたら自転車に乗る時間があるのか聞きたいところでもある。そして、MRIを見たら藤田博士を思い出せ、ということで締めくくらせてもらう。