2020年1月24日金曜日

明けましておめでとうございます



 もう1月の後半に入っていますが, 遅まきながら2020年を迎えて皆様おめでとうございます. 今年も気ままなこのブログにお付き合いいただければと思います.
さて, 新年を迎えて, というか昨年末よりですが, 落ち着かない日が続いていました. それは117日から始まる日本成人先天性心疾患学会での宿題報告ともいえる講演を指名されていたからです. 最近はこの成人先天性心疾患領域への関心が個人的にも凝集しつつある中で, 今回の第22回(学会となって9回目)学術集会の会長である東京慈恵会医科大学心臓外科の森田紀代造教授から昨年秋ですが, 私に特別講演をしてみないかというお誘いがりました. 先天性心疾患を手掛ける心臓外科医が会長ということもあって, もうかなりシニアーである私に気を使って頂いた話でした. この学会の専門医制度立ち上げでの関わりもあったのでしょうが. さて, 特別講演といってもレジェンド・レクチャー(Legend Lecture)ですよ, といわれ大いに戸惑ったのですが, 大変ありがたいこととお引き受けしました. こんな名前の特別講演はこれまでこの学会で聞いたことがなかったのでびっくりでした訳です. 因みに2015年の学会では英国のこの分野の創始者で小児循環器医のJane Somerville先生が, 50 years with cardiac surgeons,という特別講演をされておられるのが後で分かりました. Somerville先生の50年と比べたら私ごときが大それたタイトルを付けたことが恐れ多くお許しを願いたいと思います.


成人先天性心疾患については心臓移植も大事なテーマで, 学会誌に総説などを書いてきたわけですが, タイトルは勝手ながら, 「先天性心疾患と共に50年」とさせてもらいました. 先天性心臓病への外科治療は私にとって移植より長いライフワークですから, この機会は私の心臓外科医としての締め括りのようなもので大変ありがたいことでした. 現場の第一線(手術室)での活動は10数年前に一応終わっているのですが, 昔手術をさせてもらった患者さんが成人になって, 今も外来で診させてもらっているので,50年とさせてもらいました. その講演も先週無事済みましたので, 一息ついて今回の学会を振り返っている状況です.

成人先天性心疾患疾患についてはこれまで触れたこともありますが, 小児期の手術成績が向上すると共に大人に成長した方が多くなってきますが, その中の少なくない数の患者さんは, 何度も再手術を要し, 肝臓や腎臓の機能不全や心臓自体の機能障害が出てきます. 難しい手術に成功してもその後は結構問題が生じることがだんだんわかってきています. 今回の学会で, 私にとって衝撃的でしたのは, フォンターン手術のことです. この手術は複雑な心臓の異常があり, 左室と右室の二つの心室が機能する2心室修復が出来な場合があり, 右室側(肺動脈に血液を送るポンプ)を無くしてしまって, 静脈圧だけで肺循環を維持させるという機能的根治術で, 1971年にFontan教授によって報告された右心バイパス手術といわれる画期的手術です. それまで根治的手術が出来なかった世界の多くの子供さん方に大きな福音をもたらしました. わが国でも(我々も)その手術の導入から手術術式の改良, 適応拡大, と小児心臓外科医にとって大きな目標でありチャレンジでもありました. その結果, 手術成績も飛躍的に向上し, 多くの子供さんがチアノーゼもなくなり, 普通の生活ができるようになってきました.
この手術は, 体全体の血液循環を一つの心室に委ねるという非生理的な面もあり, どれだけ長く維持できるか, 静脈圧が必然的に上がるのでうっ血する腎臓や肝臓は大丈夫か, という心配がありました. 手術数が増えてくると術後20年とか30年とか長くなると肝臓が痛んで肝硬変になる症例が出てきますし, その他のいろいろな併発症が発生し, フォンターン不全, failed Fontanという病態が最近は広く関係者に認識されるようになってきています. フォターンエピデミックが近づいている, tsunamiの如く, とも警告もされるようになってきました.
私の次の時代の心臓外科医が素晴らしい成績を上げてきたので, 私自身はこの遠隔期のフォンターン術後の問題は少なくなるのではと期待していたのです. ところが, 今回の学会での内外の発表はから, 少しオーバーですがその期待はかなり幻想的であったかと思うようになりました. フォンターン術後20年で隠れた肝硬変が多く見つかるようになり, 30年ではもう避けられない, ということが当然の如く議論されています. 肝硬変だけでなく多くの課題が出てきたフォンターン手術は, success or fail という質問を会場に投げた海外招請演者もおられました. 30年の術後生活をみたらsuccessと言われていましたが, 衝撃的な議論です.
Failed Fontanへの心臓移植や機械的補助循環の議論は4-5年前に学会で話をしてもあまり反応なかったようでしたが, 今回の学会ではかなりホットな議論がされるようになっています. もちろん, 心臓移植への道は険しく, まして心臓と肝臓の同時移植は非現実てきですが, 学会で真剣に議論がされるようになってきたことも衝撃的でした.
また, フォンターン手術以外の先天性心疾患でも高齢になって心不全となり心臓移植か補助人工心臓は, という議論が出てきている疾患があります. それは修正大血管転移症といわれるもので, 生まれつき右心室と左心室が入れ替わっているのですが, 出口の大血管も入れ替わっている(転位)ため, チアノーゼもなく普通の生活ができ, 病気として発見されることはなく, 成人になって心電図異常(房室ブロック)で発見されることが多い疾患です. しかし, 解剖学的右室の心筋は左室と比べもともとしっかりしたものではなく, また逆流防止弁も三尖弁であり漏れが生じ易い形態です. 40, 50, となって三尖弁閉鎖不全が出てきて心不全も進んできたので, こういった患者さんをどうするか, という議論が盛んになってきています. そして, 弁置換をしてもその先は解剖学的右室(左室の役割をしている)が体心室としてもたなくなることも分かってきたので, いつ補助人工心臓や移植の説明をするのか, という意見が普通に出てくるようになったことも驚きでした. この修正大血管転移症で補助人工心臓をつけて国内で心臓移植に至った症例ありますが, 私が修復術(他の心内異常合併)をさせてもらった方で, 移植登録し, 補助人工心臓をつけて待機していた女性は移植に辿り着けずに亡くなっています. こういった成人先天性心疾患で移植を必要とする方は少なくないのですが, 移植の優先度も低く, 長期待機がかなわない臓器不全もあり, 心臓移植での臓器配分システムにおいて成人先天性心疾患への配慮が強く求められるわけがここにあるのです.
といったことで, この成人先天性心疾患領域の難しい面を強調しましたが, 一方では移, 循環器系と移行医療の法律も出きたので, 移行医療をどうするか, 専門医制度の施行と共に地域でセンターをおいて連携施設共に診療体制, 医師の継続教育体制が進むことも明るいニュースでした. 私自身は, 長い心臓外科医の後でようやくこの領域にたどり着いた, という心境です. そういう意味からも, 今回の講演の機会を与えていただいた森田会長に深く感謝しております. 東京はお台場での学会で, 世の中は3連休でしたが東京は天候も落ち着かず, お陰で学会に集中した3日間でした.

今年も宜しくお願いいたします.

写真は、森田会長からいただいたCertificateです。