2016年5月25日水曜日

医療事故調、その後

 本日の新聞やNHKのニュースで医療事故調査制度の見直しを厚労省が決めたことが報道されている。昨年10月に始まった新しい医療事故調査の制度が発足後半年程度で内容の見直しをするというものである。基準の見直しになるのか、説明を修正するのかは分からないが、その理由は、予想に反して医療機関からの届け出が少なかったことによる。この4月の報道では、医療事故調査・支援センター」を運営する日本医療安全調査機構は制度開始から半年で188件と発表した。当初の予想では年間2000件はあると言うことであったが、予想外の少なさは医療機関のこの制度への認識不足や施設内委員会構築などの準備不足もあるが、要は届け条件の「予期せぬ死亡事故」が曖昧で、医療機関側が判断に迷うことが多いと言うことである。厚労省は関係機関が集まって協議会を造り、統一の判断基準を検討するということである。また、調査を求める遺族からの相談を受け付ける新たな仕組みを設けることも検討するとしている。
医療事故調査についてはこのブログ(学長時代を含め)で既に何度も出てくる話ではあるが、色々問題を抱えながらのスタートでやはり予想された問題が浮き彫りになって来ている。まだ発足して半年であるからこの修正は予定路線のようではあるが、基本的な課題が残されたままであり、統一基準が出来れば一気気進むかは疑問である。問題は問題の多い「予期せぬ死亡」を医療事故としてしまっている前提にもある。
医療事故調の背景に医師法21条がある。医師へ異常死を見たら24時間以内に警察へ届ける義務を示したもので、明治時代に出来たまま現在も残っているものである。犯罪に関係ない診療経過の中での死亡にも当てはめられ、異常死とは何かはっきりしないまま警察が動くようなことがあり、現場で混乱が出てきた。そういう中で平成6年に出された日本法医学会の「異常死ガイドライン」が今もキーとなっている。それによると、「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」と定義した。またそのなかで、医療過誤の可能性のある場合については、診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもので、注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡や診療行為自体が関与している可能性のある死亡、診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合であって、診療行為の過誤や過失の有無を問わない、などとされている。
医師法21条のいう異常死が診療関連死や医療事故にも及んでいることで状況が複雑化しているが、医療界から見直しを求めている21条問題については今回も据え置きである。私の意見は以前から、医師法21条問題を脇に置いて医療事故調のことを議論することは問題解決を遅らせている、というものである。

論点で言うと、①今回の協議事項に予期せぬ死亡の統一基準を作る、ということである。一見前向きの様に聞こえるが、統一とは何を意味するのか不明瞭ではないか。法医学会のガイドラインにも踏み込むのか。そうなるとことは容易ではない。ダブルススタンダードになるのは本末転倒であろう。②医療事故と診療関連死亡は同じではないはずであるが、これが曖昧なまま同じ土俵に乗せられていることと、届け出が医療機関の判断に任されていることが悪いのか、である。③センターへの医療機関からの報告が医療訴訟に繋がるものではなく今後の医療安全に用いるというが、届ける側は医療訴訟へ心配が払拭できないのではないか(調査報告書の扱い)。医療側が安心して届けられる制度とは何かの議論がいるわけで、基準の標準化だけでは解決しないのではないか。

以下に、医療事故調査機構の説明です。
医療事故とは:
1.    医療事故とは、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたもの」と規定されています。
2.   本制度における「医療事故」の範囲は、「医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」であって、「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」です。この2つを満たす場合が報告の対象となります。
 このように中々分かりにくい内容です。予期せぬ、という客観性を担保し難い言葉を根底にしていることが問題を複雑にしていると思うのですが。それと、法医学会が言う異常死(体)について医学会全体でその扱いや妥当性を検討すべきではないかと前から思っています。
調査を求める遺族からの相談を受け付ける新たな仕組みを設けることも検討するとしているようです。これは制度構築上かなりリスクを伴うのではと心配されます。うまく進められればいいですが。

最後に、医療安全の確立を目指すことが第一義であり、そのためには医療関連死亡を網羅的に把握すべきである、とすれば、異常死や医療事故という切り口ではなく広く届ける制度が本来の姿であり、診療関連死が医療事故(ミスが絡む)かどうか判断する仕組みは別ではないかと思う。今の進め方は、二つの棲み分けが現実として明確でないように思う。