2016年9月15日木曜日

新専門医制度の準備再開、新理事会の考えは


 東北、北海道では台風10号で甚大な被害を受けられています。早く皆様の生活がもとに戻っていきますよう願っています。16号も不気味に近づいています。


 さて、新しい専門医制度の開始が1年先送り(2018年)になっているが、今後の具体的な方向が先の専門医機構の理事会(97)で決定し当日の記者会見で発表されたので紹介する。

要点として、専門医制度が学会メーンの体制になったと書かれている。
当初は、これからの医療を担う若い医師の修練制度や専門医認定はこれまでの学会主導ではなく、質の担保と制度の標準化のため第三者の認証機構が関与して行う、という根幹の旗印が下ろされてしまった。

新たな制度の根幹は修練プログラムの認定から始まる。従来は個人の臨床経験の積み重ねが幾つか自由に選べる認定施設(基準が甘い)を渡り歩いて得たものであったが、新た制度ではしっかりした指導体制(プログラム責任者の役割が大きい)のある病院群での修練と経験を基本とする、即ち「プログラム制」の導入であった。この制度の根幹となるプログラム認定基準については新たな機構に移行する過渡期に策定され、これには私も関与したが、既に多くの学会がそれに合わせて制度を再構築していた。ところが、いざスタートする間際になって一度立ち止まることになった。それはこの基準が大学病院中心で地域医療を担っている病院が基幹施設から外れ、これでは地域医療が崩壊するという医師会や地方行政側からの強いクレームが生じた。この結果、旧理事会がほぼ解散状態となり、先般新たな陣容で機構が再出発したところである。

さて、争点のこのプログラム認定基準の見直しが争点となるが、今のところ明確な内容は発表されるに至っていない。修練基幹施設の基準を実情に合ったものにする程度で、地域医療崩壊の危惧が払拭されれば、基本的には大きな変更はないものと想像される。これまで10年に近い関係者の努力(労力)を無駄にしてはいけないし、根幹から変える理由はないはずである。新理事会も、再検討はするがコンセプトを変えて白紙に戻すのではなく、これまで検討してきた成果の上に見直す、としている。 プログラム認定プロセスについても、新理事長はリセットではなくこれまで積み上げてきたものは十分生かす、とコメントしている。これで個人的には少し安心した。

では何が変わるかというと、プログラムの認定作業についてである。これまでは機構が各制度からの認定基準(修練計画と施設認定基準)をまず審査した上で承認し、ついでこれの基づいて出された個々のプログラムも機構で最終的に認定するものであったが、新たな仕組みでは具体的な認定はほぼ各学会に任せる、という変更である。これは各学会の自主性と自律性を尊重した上での話しであり、また機構が膨大な作業をこなせるかという危惧も背景にある。結果的にプロフェッショナルオートノミーに任せる、ということであり、逆に各学会はそれなりの責任が出てくるということになる。現実的な対応であるが、ピアーレビューという新制度の根幹に関わることからいうと、各学会の責任は大きいことを自覚して欲しい。あくまで専門医制度は学会のためではなく患者さんのためであり、日本の医療を良くするためである。

今回の理事会のメッセージには、サブスペシャリテーについて具体的にしている。内科と外科では基本領域の内科専門医と外科専門医の2階にそれぞれ13と4つのサブスペシャルティーがある。その他にも12領域の専門医制度が何らかの基本領域(18ある)の2階に位置されている。内科と外科では主な診療実態から言うとサブスペシャル領域(外科で消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科)が主体となることから、一階の壁を高くすると2階の資格を取るまでに期間が長くなる(卒後3年目以降、3-4年x2=6-8年)という不満が出ていた。ここでこの壁を低くして柔軟に対応するよう、1階と2階をオーバーラップさせることを認めるということである。これは外科系が既に行っているもので、今頃になって内科が追いついてきた、ということである。しかし、このことはそもそも内科専門医とか外科専門医とは何か、ということになる。これが進むとその価値を下げるものであり、今後も議論になるところである。因みに米国では長らくこの2階建てが厳しく設定され、内科専門医、一般外科専門医に社会的評価は高かったが、最近は外科系でこの1階を省略して2階のストレート方式(6年ではあるが)も並列で動き出している。ある意味社会実験であるが、日本はこんな柔軟な対応は想定出来ない。何故なのか。グルーバルスタンダードという目標を新たな制度で入れるべきと理事の時に意見を述べたが、完全無視であった。

最後に、サイトビジットのことも触れられていて。サイトビジットとは、認定されたプログラムが果たして計画通り運用され、レベルを維持しているか、専攻医は計画通り来ているか、ということを第三者を交えたチームが実地調査をすることである。これまで幾つか学会は自主的に行っていたが、新制度の一つの柱として導入すべく準備して来た。これについては、手間の問題やその評価基準を今後検討するとのことである。これはある程度制度が進まないと出来ない話ではあるが、私が旧機構の理事の時に担当した課題である。新制度への移行に当たって現状調査と試運転をすると言うことで基本領域について学会から推薦された施設を各学会からノミネートされた調査員で試行した経緯がある。調査員になって頂いた先生方は大学教授も多く、多忙のなかで参加してもらった。中には、こんな無意味なことをやらせるな、時間がない、とお叱りを受けた先生もあられたが、その結果はきちんと纏めてあるので是非参考にして欲しい。評価指標案も策定してあるが、まだ残っていることを願う。

ということが理事会で決まった、議論された内容である。専門外の方には面白くもない話しで、最後まで付き合って頂いたことに感謝。

論点としてまとめと補足をすると、

  専門医機構が新たな体制になったことで、これまで残されていた課題が明白になって、その現実的な対応で前に進み出している。
  ある意味逆戻りして学会メーンとなるが、担当学会にはプロフェッショナルオートノミーを堅持して社会が期待する制度を作る義務がある。専門医制度は学会のためではなく患者さんのためである。
  大学医学部も若手医師をどう育てるかよく考えることと、グローバルスタンダードも大事であり、日本の医師の生涯教育に関わる責任は大きい。医局員集めのために制度を使うのは本末転倒。
  ピアーレビューの制度導入に期待、
  これからの課題は、新たな制度への厚労省の役割は何か、日本医師会の役割は何か、卒後臨床研修制度との一体的生涯教育制度はどうするのか。
  厚労省は広告できる制度は続けるのか。法規制はそのままか。
  地域医療を守るのは専門医制度ばかりではないことを共通の理解とすべき。

参考文献

黒田達夫.専門制度改革の主役. 日本外科学会誌 2016; 117(5): 349
   小児外科専門医の日米の違いなど

Matsuda H. Gen Thorac Cardiovasc Surg. Where does the new regime of medical specialty certification go?  2013; 61(10): 547-50.
日本の胸部外科学会英文誌に書いたレビューです。もう3年経ちました。