2016年10月6日木曜日

ノーベル医学・生理学賞、オートファジーで大隅良典博士が受賞


今年もノーベル賞週間がやってきた。3年連続の日本人受賞者が出るか社会も大きな期待を持って見守っていたが、医学・生理学賞(正式には生理学・医学賞)は2年連続で日本人が獲得した。受賞者は御承知の様に東京工業大学栄誉教授の大隅良典博士である。昨年の大山智博士は薬学博士・理学博士であり、大隅博士も理学博士である。医学・生理学賞(日本では)は本当の名称分野は生理学or医学、となっているので、どちらでも良い訳で医師が良よく受賞するということでもなもなく、ノーベル賞となると基礎研究がやはり対象となることが多い。

大隅教授が今回の受賞された対象はオートファジーである。自食作用、と言われ、核を持つ細胞がその機能を維持し生存していく上で不可欠の機能の一つである。細胞がその構成因子の一つであるタンパク質を再利用する仕組みで、飢餓状態でも暫く細胞が生きていけるのはこの機能があるからとされている。博士のお仕事はその分子機構と生理学的機能の解明である。オートファジーという現象があることは古く1960年代に発見されているが、その後この現象は長らくあまり注目されなかった。しかし、大隅博士がそのメカニズムの解明の扉を開けたのである。 

東京大学教養学部を卒業され理学部で蛋白質の研究を始められた大隅博士は細胞生物学の研究のなかで、皆があまり関わっていないこの現象に興味を持たれ、米国留学の後に東京大学で酵母(イースト)での観察を始め、1988年にそれを証明した。その後1990年代に関連遺伝子をいくつも見つけ、この分野では独壇場の仕事をされている。その後、基礎生物学研究所(岡崎)では水島昇博士(医師)、吉森保博士(理学博士)も加わって、更に研究が発展させこの現象が哺乳動物の細胞でも生じていていることも突き止めて行った。人の受精から種々の疾患において関連することが見つかり、今やこの分野は医学研究で花を咲かせつつあるといっていい。

 糖尿病やアルツハイマー病、ガン、など調べていくと全てと言ってもいいがこの現象が基礎にあるというのである。米国では既にこのオートファジーを制御する薬剤の黒色腫における臨床治験が始まっている。このようなことで、今回の受賞も種々の難治性疾患の原因解明や治療に繋がるようになったことが大きなことである。新聞でも見出しに、ガンへの応用も、と書かれている。

面白いのはこの自食作用は見つかってからもう50年を越えている。19501960年代に米国のロックフェラー大学でde Duve博士等が哺乳動物の細胞で発見していたが、詳しいことは研究されずにいた。de Duve博士等は関連するリゾゾームの発見でノーベル賞を受賞している。もう亡くなられているが、大隅教授もロックフェラー大学に留学していたことは今回の受賞にもそこでのスタートがあったということである。

話しはオートファジーに戻るが、細胞が死んでいく過程には虚血などの障害で予期せず死んでいく壊死ではなく、もとも運命付けられた死(プログラム死、枯れ葉が落ちていくように)がある。このなかにオートファジーが関与するタイプがある。このプログラム死をコントロール出来れば臨床で疾患の治療に応用出来る、ということでさらに世界は広まった。オートファジーについては私の身近なところでも研究が進んでいた。阪大時代には臓器保存や虚血障害の研究で細胞死(アポトーシス)が脚光を浴びていて、教室の何人かはこれで学位を取っている。外科臨床で細胞死をオートファジーとして研究を始めたのは後になってからで、当時の外科の仲間の清水重臣先生が東京医科歯科大学教授になって(水島昇先生が東大の前におられた)、今はオートファジー研究に専念している。今回のノーベル賞に水島先生が加わらなかったことで残念に思っている一人でしょう。 

大隅教授の受賞の陰に二人の日本人がいる。一人は現在東京大学教授の水島昇博士(医師)で、岡崎時代からの共同研究者であり哺乳類での研究を発展させている。もう一人はやはり岡崎での共同研究者である吉森保博士である。現在大阪大学医学系研究科におられ、生命機能研究科教授として臨床と連携を進めるオートファジーセンターを既に昨年立ち上げている。吉森教授は阪大の細胞工学センターを立ち上げられた細胞融合で世界的に有名な岡田善雄先生のお弟子さんである。阪大も先見の明があり、既に臨床系とのコラボが始まっている訳である。このお二人は共同受賞とはならなかったが、素晴らしい仕事をされ、私が言うのはおこがましいが、大隅博士を支えてこられたことに最大の敬意を表したい。
 

最後は、今回は異例とも言える単独受賞のことである。3人枠があるのに一人、と言うことは大隅博士が如何に追随を許さない素晴らしい研究をされ、リーダーとしてこの分野を新しいパラダイムとして構築されてきたことにノーベル賞財団がお墨付きを与えたことになる。米国の科学通信(STAT)に記事が出ている(私のFB仲間が紹介したものの受け売りです)。ここでは、大隅博士は異論なく有力受賞候補であったとし、共同受賞トリオとすれば後の二人は米国のD.Klionsky教授(ミシガン大学)と水島昇東大教授という予想であった、と書かれている。しかし、大隅博士の業績は一人受賞を云々する意見が到底届かないくらい素晴らしいものであって異論を挟む余地はない、という趣旨が書かれていた。

 
大隅栄誉教授と共に日本のお二人のご貢献にも拍手を送ります。