2017年6月22日木曜日

徒然なるままにー2


 

私が臨床医学を通じて医学関連の社会的な制度作りに関わったのは、移植医療の普及と医師の卒後教育です。共に現役引退後の現在も続いているものです。長いです。前者は法律が出来て20年の節目を迎えまだ多くの、かつ基本的な課題が残っている状況ですが、後者の専門医制度は新制度への移行の最後の詰めになって暗礁に乗り上げています。因みに私は、専門医制度(卒後3年目から)の前段階である初期研修制度(義務化)の導入時(2004年頃)は付属病院長として厚生省の会議に出て2年は不要で1年で充分と、厚生省の意向に反対した過去があります。また、それ以前では、私の医学部卒業時はインターン制度反対で医師国家試験ボイコットをしたクラスでした。幸い、半年遅れましたが免許はもらえました。これまで3つの医師卒後研修問題に関わって来たわけで、もう何か因縁的です。

現在の専門医制度改革は、今になって無理に漕ぎ出そうとしてさらに混沌としています。理想が高すぎた、厳しすぎた、と言われるプグラム制の提案に主に関わったものとして、最後の詰めの理事会には入っていませんが、現在の状況には大変失望しています。新制度は、卒後3年目からのこれまでの専門別研修制度の不備を直して、各分野の認定される専門医の質の担保と認定制度の標準化を目指し、国民的にも信頼できる研修制度を作ろうとするものです。この制度の運用を、学会主導ではなく、公平公正に進める新たな第三者機関(専門医制度機構)に任せる、としたのですが、この新しい機構の信頼が無くなっている状況で、困ったことになっています。


今交わされている議論ではその本質が見失われて、政治や組織・団体の縄張り争いに若い医師が翻弄されています。我が国の医師生涯教育(卒後教育)のシステム作りで言うと10年も20年も後退りしてしまうのではと危惧しています。行政は初期研修制度導入で生じた混乱への反省もなく、文科省と厚労省の縄張り争いが反ってひどくなっているようです。そのなかで地域医療が壊れないように、という錦の御旗のもとで、行政や大学外の医療機関の方々の声が大きくなり本来の方向を変えてしまっている状況であります(大いに私見です)。これまで専門医制度には傍観的であった日本医師会が、若手医師の確保で苦労している地方医療行政や病院団体と手を握っての方向転換でしょう。初期研修の導入時の議論の再来ですが、今度も大学医学部の医局講座制度への反旗が翻っているという構図です。

また、医師のネットの世界では、専門医不要論、機構は悪、学会は資金集めに奔走、一部の学会や大学のボスのやっていること、など批判が多いようです。現在の学会で作っている専門医制度(広告できる制度で厚労省承認)はある程度広まってきた段階で、何故変える必要があるかの説明不足になったのは、大学・学会主導で行ったことでもあり、反省点でしょう。丁寧な説明が不足していた、という安倍首相の答弁のようですが。

さて、大学医学部(医局)に任せていれば医師の配置に行政が口を挟めなくなり、地方病院の医師不足はさらに深刻になる、という意見が地方自治体病院の方々から出ています。しかし、全国医学部長会議も言っているように、大学医局の役割なしでは地域医療体制維持が出来ないことも理解すべきです。大学医学部は、近隣や遠隔地の病院への医師派遣で地域医療の確保もしないといけないのでその役割は大変です。2004年に始まった初期研修制度以来、大学に残る若手医師が減って、地域医療機関への人の派遣が出来なくなり地域医療の崩壊に繋がったのです。そこで今回は(地方)大学医学部にも人が集まるように修練基幹施設条件で大学医局優先としたのですが、これが裏目に出たのは、大学側が張り切り過ぎて、過度に人集めをする気配が出て反対ムードを作ったようです。大学側にも反省点はあるでしょうが、結果的に大学優先度がかなり緩和された制度に変わっています。ついでにプログラム制も骨抜きになったようです。これは一種のポピュリズムでしょう、本質を忘れて目先のことを優先しているので、冒頭の10年―20年後退、の意味はここにあります。

米国の様にレジデント(卒後5年間)の給与はその病院からではなく、保険機構(保険支払い側)、医師会、製薬企業、が集まった機構から出ます。医師の研修制度をしっかり作ることは国の保健制度の根幹であり、そのためにはお金は出すが、研修施設や指導体制(プログラム)のチェックは厳しくなっています。第三者機関によってその病院主導のプログラム(外科プログラムとか産婦人科プログラム)が認めたもらえることで若い人が来ます。指導体制の担保をしないと研修医も来てくれません。来なかったラ認定取り消しで、若いレジデントなしで診療しないといけません。受ける側はレジデント終了して専門医資格が取れないと病院就職はなくなります。厳しいですが頑張れば道があります。給与も良くなります。これをそっくり真似ることは出来ないのですが、何が大事かを知る上では無視できません。

日本は、専門医研修医の給与はその勤務先病院が出します。専門医資格があっても給与は変りません。これでは確かにお金払って資格取りに励む気が薄れます。給与に返ってくるようなインセンテイブがない制度には魅力を感じないのは当然ですし、新しい制度始まっても個人の処遇が良くなる訳ではないでしょう。しかし、こういった制度改革がないと個人へのフィードバックというインセンテイブンの道もなくなることも若手医師の方々は理解すべきでしょう。医師にとって生涯教育、継続教育は不可欠で、これなしでは信頼される医療は出来ないわけで、そのためにはまず専門医制度がスタートである、という共通認識に戻って考えることが大事なのではないでしょか。

長くなりましたが、それ程この問題は複雑である、ということでしょう。