2017年9月26日火曜日

単回使用手術器具(SUD)の再使用

 
最近の医療関係で新聞沙汰、関西だけ、になっている一つに手術器具の再消毒による不法な再使用があります。整形外科や脳外科で使う骨に穴を開けるドリルの先につける金属製のバーです。私は整形外科医ではないので不勉強ですが、沢山の種類があって場所や使用目的で使い分けるのでしょうが、複雑な構造ではない金属製(と思います)の先端に刃の構造がある棒(バー)です。これらは国が製造販売認可した、単回使用医療機器(ほとんどは輸入品)、ですから、再消毒(滅菌)しても使ってはいけないものであります。他の患者さんに使ったものをいくら消毒しても感染症を完全に防ぐことは出来ないし、機能が劣化しては医療事故になりかねないからです。手術による感染といえば、以前(1980年代)にあったのは狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病、があります。脳外科手術で起こったことですが、日常の手術でも再使用は致死的な感染がないからといって許されるものではなく、広い意味での健康被害が生じる危険があるからです。手術傷のちょっとした感染でも入院期間が何倍にもなってしまいます。医療費がとんでもなく高くなります。

単回使用医療機器は、single use deviceSUD)、使い捨て機器、と言われていて、現在の手術用の機器や医療用カテーテルはすべてがそうなっています。このSUDの再使用問題はもう20年近く前に遡ります。内視鏡外科手術が導入されたころ、プラスチック製の簡単な器具、皮膚の貫通部に置く筒、でも高価であり、十分滅菌すれば完全であるといって、多くの施設で再滅菌・再使用がされていました。もったいない、手術経費減らそう、ということで各病院が自己判断と自前の方法で再滅菌していたのですが、感染症、器具の不具合の危険性があり、国が再使用を禁じるに至った経緯があります。今、整形外科の骨用バーでは病院長が謝罪の記者会見をしていて、マスコミは鬼の首を取ったかの如く扱っています。確かに再使用は健康被害が出かねないので禁止されていて法令違反になり、場合によっては医療費不正請求(不整脈用カテーテル器具でありましたが)になりますが、今回の骨用バーとはどういうものかは知らされず、単に再使用禁止品の不正使用と、としてニュースが流れています。ニュースも、単に悪い奴、ということではなく、そのバーというものがどういうものであるのか、きちんと紹介することも必要でしょう。何も再使用をサポートするものではないのですが、そこにある何故そうするのか、ということまでの突っ込みがあれば良いかと思うからです。

最近ではある有名私立医科大学病院が経営破綻か、といったことも報道されていますが、このSUDの違反使用の背景には、医療コスト、特に手術費用(手術の保険点数ですが)や病院経営に関係する医療事情があるからです。手術の保険点数は決して高くありません。何とか人件費を減らし、医療機器代を減らさないと、大きな手術をしても最終的には赤字になりかねない状況が起こりかねないのです。しかも使い捨て機器はほとんどが輸入機器であることも問題でしょう。整形外科で腰椎の手術をしても、手術自体の保険点数(技術料)より使った輸入品の医療機器(体内埋め込みですが)の方が高いのです。その医療機器代は海外に行くのですから、必然的に高く設定されています。しかし、何といっても今回の骨用バーもそうですが、骨に1cmの穴をあけただけで、後は捨てる、開封して手術台に載せても使わなかったものまで廃棄するわけです。まさに資源の浪費であります。少し乱暴ですが、そういった背景が絡むSUDなのです。でも、国もやっと重い腰?を上げました。

ニュースでは、平成29731日に、厚生労働省は、再製造単回使用医療機器に係る制度の導入に関する施行規則等の改正等及び通知等の発出を行いました、とあります。以下、厚労省の説明文です。
再製造単回使用医療機器は、単回使用医療機器(一回限り使用できることとされている医療機器)について、医療機関において使用された後、医療機器の製造販売業者がこれを収集し、検査・洗浄・滅菌等の処理(再製造)を行い、同一の使用用途の単回使用医療機器として再び製造販売するというものです。米国においては2000年代初頭より、EU諸国でも20175月に再製造に係る規制を含む医療機器規則(MDR)が施行されるなど、再製造単回使用医療機器に係る制度が既に導入されていることなどを踏まえ、本邦でも導入をはかることとなりました。PMDAとしても、再製造単回使用医療機器に係る制度への対応について、厚生労働省とともに取り組んでまいります。

ということで、医療機器の世界も変わってきます。ただ、これは再製造であり、分解して完全に滅菌して、新品と同じようにして販売するもので、院内で行うものはありません。コストはどうなるのか分かりませんが、安くなるというより資源の再利用の意味が大きいのかもしれません。米国では、腹腔鏡用血管シーリングデバイス ・トロッカー ・超音波診断用カテーテル ・電極(EP)カテーテルなどです。今、身近の話題では、人工心臓があります。補助人工心臓は機種によってはこれが対象となります。分解してごく一部の部品は取り換えるとして、殆どが再使用可能な金属性(チタン製)で出来ているからです。ただ、患者さんに使用したものを再使用できるかどうかはこれからです。

SUDに関係した最近のニュースの解説をコメント付きで書かせてもらいました。大学病院ともあろうものがトンデモないというだけでなく、その背景も知る必要があります。とはいえ、医療従事者こそコンプライアンスへの意識と実行が必要であることを改めて肝に銘じなければならないことは当然です。それにしても、心臓外科もそうですが、最新の医療機器、デバイス、に外科医が翻弄されていて、本来の外科手術とは何かを見失いそうな今日この頃です。